眠るマウスの目の動きは、でたらめではなかった。脳が感じている向きの変化とそろっていた

レム睡眠中のマウスの目の動きは、脳の中で表されている頭の向きの変化と、向きも大きさもそろっていた。眠りの中で視線を動かしているらしい。

No.198 7分で読めるえっ度 論文 2022年
暗い飼育箱の中で、1匹のマウスが体を丸めて眠っている。目は少し開いていて、黒い瞳が横に動いた瞬間をとらえている。

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  1. レム睡眠中、マウスの目は左右にすばやく動いていた
  2. 目が動く向きは、脳の中の「頭の向き」が変わる向きとそろっていた
  3. 目を大きく動かすほど、脳の中の頭の向きも大きく変わっていた

人に話すなら

眠ってるときに目がキョロキョロ動くのって、意味がないと思われてたこともあるんだって。マウスで調べたら、脳の中で頭の向きが変わるのと同じ方向に目が動いてたらしいよ。

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レム睡眠中のマウスの目の動きは、でたらめで、脳の働きとは関係がない

眠っている人のまぶたをよく見ると、その下で目がすばやく動いていることがあります。この眠りを「レム睡眠」と呼びます。レム(REM)は、英語で「速い目の動き」の頭文字です。レム睡眠中に起こされた人は、ほかの眠りのときより、はっきりした夢を見ていたと答えることが多いと知られています。

では、そのとき目はなぜ動くのでしょうか。夢の中の景色を見回しているのでしょうか。それとも、脳の奥から出るでたらめな信号で動いているだけなのでしょうか。2022年、アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校のチームが、マウスを使ってこの問いに1つの答えを出しました。眠っているマウスの目は、脳の中で「頭の向き」が変わるのと同じ方向に動いていたのです。

レム睡眠中の目の動きは、1953年に眠る人で報告されました。それから70年近く、この目の動きの意味ははっきりしませんでした。夢の中身は、本人に聞くしか確かめようがなかったからです。チームは、夢を聞くかわりに、脳の細胞の活動を直接読み取る方法を考えました。

01目の動きと夢の関係は、人に夢を聞くだけでは確かめられなかった

目の動きと夢の関係は、昔から調べられてきました。初めのころの研究では、眠る人の目の向きと、起こしたときに聞いた夢の中身が合っていたという報告がありました。ところが、ほかの研究では同じ結果が出ませんでした。

反対の証拠もありました。生まれつき目が見えず、夢で景色を見ないという人たちにも、レム睡眠中の目の動きがあったのです。そのため、目の動きは夢とは関係なく、脳の奥の「脳幹」という部分のでたらめな活動から来ているだけだ、という考えも出されました。カリフォルニア大学の記事によると、多くの研究者は目の動きを意味のない動きと考えていました。まぶたをうるおすための動きかもしれない、という見方もあったそうです。

問題は、どの研究も、夢の中身を本人の言葉に頼っていたことです。起きてから話す夢の中身は、正確とはかぎりません。そこでチームは、眠っている脳の中で起きていることを、外から客観的に測る方法を探しました。

02脳には、動物が向いている方向を表す細胞がある

研究を進めたのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究員だったセンザイ・ユウタ(Yuta Senzai)さんと、マッシモ・スカンツィアーニ(Massimo Scanziani)さんです。2人が目をつけたのは、「頭方位細胞(とうほういさいぼう)」と呼ばれる脳の細胞でした。

頭方位細胞は、動物の頭がどの方向を向いているかに応じて活動する細胞です。ある細胞は北を向いたときに、別の細胞は東を向いたときに、というように、それぞれ得意な向きがあります。たくさんの細胞の活動をまとめて見ると、マウスが今どちらを向いているかが分かります。

これらの細胞はレム睡眠中にも、起きて歩き回っているときとよく似た活動をします。マウスの体はじっとしているのに、脳の中では頭の向きが動いているのです。チームはこれを、眠っている脳の中の「頭の向き」として扱いました。

もう1つの手がかりは、起きているマウスの目の動きです。マウスが頭の向きを変えるとき、目も同じ方向にすばやく動きます。これは以前から知られていました。もし眠っているマウスでも同じ関係が見られれば、目の動きは、脳の中で頭の向きが変わったことを表していると言えます。

明るい円形の囲いの中を、マウスが頭を左に向けながら歩いている。マウスの頭の上には、小さな2台のカメラが左右の目に向けて付いている。

03起きているマウスでは、目の動きと脳の中の頭の向きがぴったり合った

チームは、6匹のマウスの脳に細い電極を入れ、頭方位細胞の活動を記録しました。記録できた頭方位細胞は、1匹あたり30〜72個です。同時に、マウスの頭に小さなカメラを2台付けて、左右の目の動きを撮影しました。マウスは丸い囲いの中を自由に歩き回り、上からもカメラで向きを記録しました。

まずチームは、起きているマウスで、頭方位細胞の活動から頭の向きを当てるプログラムを作りました。実際の向きと細胞の活動を組み合わせて、プログラムに覚えさせたのです。このプログラムは、覚えさせていない時間の活動からも、頭の向きを平均約10度のずれで当てられました。

次に、目がすばやく動いた瞬間を調べました。その前後0.2秒で、細胞の活動から読み取った頭の向きがどちらに変わったかを見たのです。すると、目の動きの95%以上が、頭の向きが変わる方向と同じでした。起きているマウスでは、目の動きと脳の中の頭の向きは、強く結びついていました。

04眠っているマウスでも、最初に動く目は脳の中の頭の向きの変化とそろっていた

次は、眠っているマウスです。マウスは眠っていても、いつも目を閉じるわけではありません。そのおかげで、眠っているあいだも目の動きを撮影できました。脳の電気の活動と筋肉の活動から、眠りがレム睡眠かどうかを見分けました。

6匹で合わせて68分のレム睡眠を調べると、目はおもに左右にすばやく動いていました。左右の目は、だいたい同じ方向に動きました。起きているときと比べると、動きは小さく、回数は多くなっていました。

チームは、起きているときに作ったプログラムを、レム睡眠中の頭方位細胞の活動に使いました。こうして、眠っているマウスの脳の中の「頭の向き」を読み取ったのです。

そして、目の動きの中でも、0.4秒以上止まったあとに最初に動いたものに注目しました。この最初の目の動きの向きは、脳の中の頭の向きが変わる方向と合っていました。目が左へ動けば、脳の中の頭の向きも左へ変わっていたのです。さらに、目が大きく動くほど、脳の中の頭の向きも大きく変わっていました。

最初の動きのすぐあとに続く目の動きは、平均すると逆向きでした。目を元のまん中の位置に戻す動きだったのです。一方、脳の中の頭の向きは、元に戻りませんでした。チームは、この「戻す動き」は起きているときには見られない、眠っているときならではの動きだと考えています。

これらの結果から、チームはこう結論づけました。レム睡眠中の目の動きは、眠っている脳がえがく世界の中で、視線を動かしていることを表している。眠っている脳の中で起きていることを、目の動きからのぞけるということです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:レム睡眠は目の動きから見つかった

レム睡眠は、その名前のとおり、目の動きから見つかった眠りです。1953年、ユージン・アセリンスキー(Eugene Aserinsky)さんとナサニエル・クライトマン(Nathaniel Kleitman)さんが、眠っている人の目が周期的に動くことを報告しました。その後、この時期に夢を見ていることが多いと分かりました。目の動きが夢の中の景色を追っているという考えは「走査仮説」と呼ばれ、長く議論されてきました。

反対意見:目が動かなくても夢は見る

人の研究には、走査仮説に合わない事実もあります。2015年の研究では、こうした事実がまとめられています。生まれつき目が見えない人や、おなかの中の赤ちゃんにも、レム睡眠中の目の動きがあります。また、景色の夢は、レム睡眠ではない眠りでも見られます。レム睡眠の時間の約8割は、目が動いていない時間です。目の動きがなくても、夢は見られるのです。

人の脳でも、目の動きのあとに「見たとき」に似た活動

一方、2015年にイスラエルのテルアビブ大学やアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校などのチームは、人の脳の細胞を調べました。協力したのは、てんかんの治療のために脳に電極を入れていた19人の患者さんです。レム睡眠中に目が動いた直後、記憶にかかわる脳の部分の細胞が活発になりました。その活動は、起きているときに写真を見せたときの活動とよく似ていました。チームは、眠りの中の目の動きのたびに、見ることに似た処理が新しく始まるのではないかと考えています。

この研究の限界

マウスは、夢の中身を話すことができません。今回分かったのは、目の動きと脳の中の頭の向きがそろっていたことです。マウスが夢の中で景色を「見ている」と確かめたわけではありません。また、人で同じことが起きているのかも、まだ分かりません。チームの代表のスカンツィアーニさんは、眠っている脳が、ないものを組み立てるしくみに関心を持っています。夢の研究は、想像する力の研究にもつながっていくかもしれません。

05まとめ

レム睡眠中の目の動きが何を意味するのかは、70年近く答えが出ていませんでした。アメリカの研究チームは、頭の向きを表す脳の細胞を使って、この問いに迫りました。眠っているマウスの目は、脳の中で頭の向きが変わるのと同じ方向に動き、大きく動くほど向きも大きく変わっていました。

眠っているマウスの脳の中では、体が止まっていても、頭の向きが変わり続けているようです。眠っている家族の目がまぶたの下で動いていたら、脳の中で視線を動かしているところなのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・サンフランシスコ

研究チーム
アメリカのカリフォルニア大学サンフランシスコ校とハワード・ヒューズ医学研究所(第一著者センザイ・ユウタ)
調べた場所
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究室
調べた動物
マウス6匹
調べ方
頭の向きを表す脳の細胞の活動を記録しながら、頭に付けたカメラで左右の目を撮影し、起きているときとレム睡眠中を比べた
分かったこと
レム睡眠中に最初に動く目の向きと大きさが、脳の中の頭の向きの変化とそろっていた
まだ分からないこと
マウスが夢として何かを見ているのか。人でも同じことが言えるのか
論文
Science(2022年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Sleeping Mice Move Their Eyes the Way Their Brains Turn

When we dream, our eyes often move fast under our eyelids. This kind of sleep is called REM sleep. For a long time, nobody knew why the eyes move.

Scientists in the United States studied six mice. Some cells in a mouse's brain show which way its head is facing. The scientists recorded these cells and filmed the eyes with tiny cameras.

When a mouse is awake, its eyes move the same way as its head turns. During REM sleep, the mouse did not move its body. But in its brain, the head direction kept changing. And the eyes moved the same way as this change.

So the mouse may be looking around inside its sleeping brain. Mice cannot tell us their dreams, so we still need more studies.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many mice did the scientists study?研究者は何匹のマウスを調べましたか。

Q2. What do some brain cells show?脳のある細胞は、何を示しますか。

Q3. During REM sleep, how did the eyes move?レム睡眠中、目はどのように動きましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Senzai, Y. & Scanziani, M. (2022) A cognitive process occurring during sleep is revealed by rapid eye movements. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abp8852
  2. 2University of California(2022)How our eye movements during sleep correspond to what we look at in our dreamsuniversityofcalifornia.edu/news/how-our-eye-movements-during
  3. 3Aserinsky, E. & Kleitman, N. (1953) Regularly Occurring Periods of Eye Motility, and Concomitant Phenomena, During Sleep. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.118.3062.273
  4. 4Andrillon, T. et al. (2015) Single-neuron activity and eye movements during human REM sleep and awake vision. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/ncomms8884

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい