お尻から酸素を入れたら、酸素不足のマウスやブタの血の酸素が増えた。手本はドジョウ
腸でも呼吸するドジョウにならい、酸素不足のマウスやブタの肛門から酸素を入れると、血の酸素が増えた。人では、酸素なしの液体で安全性を調べる試験が行われた。

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- ドジョウは、腸の終わりの部分で空気から酸素を取りこむ
- 酸素不足のマウスやブタの肛門から酸素を入れると、血の酸素が増えた
- 人では、まず安全性を調べる試験が27人で行われた
人に話すなら
ドジョウって腸でも呼吸するんだって。それをまねて、酸素が足りないマウスやブタのお尻から酸素を入れたら、血の中の酸素が増えたらしいよ。人でも安全かどうか調べる試験が行われたんだって。
読む前に予想しよう
哺乳類のブタでも、肛門から酸素をとかした液体を入れると血の中の酸素が増えた
酸素不足のブタで、動脈の血の酸素が増えた。ただし人での効果はまだ確かめられていない。
息をするのは、肺の仕事です。人もネズミもブタも、鼻や口から吸った空気の酸素を、肺で血の中に取りこみます。ところが、ドジョウは違います。ドジョウは、えらのほかに腸でも呼吸ができます。水の酸素が少なくなると、空気の酸素を、腸の終わりの部分から血に取りこむのです。
2021年、日本の研究チームが、このドジョウのしくみを哺乳類で試しました。酸素が足りない状態にしたマウスやブタの肛門から、酸素や、酸素をたっぷりとかした液体を入れたのです。すると、血の中の酸素が増えました。マウスでは、生きのびる時間ものびました。
哺乳類が腸で呼吸できるのかどうかは、それまで意見が大きく分かれていました。この研究は2024年、人を笑わせ、考えさせる研究に贈られる「イグノーベル賞」の生理学賞に選ばれました。けれども、話は笑いで終わりませんでした。2025年には、健康な男性27人で安全性を調べる、人での最初の試験が報告されたのです。
01ドジョウは、腸の終わりの部分で空気から酸素を取りこむ
生き物の呼吸のしかたはさまざまです。ドジョウやナマズのなかまのコリドラス、ナマコなどは、水の酸素が少ないときに、腸で酸素を取りこみます。
ドジョウの腸は、前、中ほど、後ろの3つの部分に分かれます。呼吸に使われるのは、後ろの部分です。1960年代に日本で行われた研究で、この部分の特徴が分かってきました。腸の内側の表面の細胞の層がほかの部分より薄く、そのすぐ下に細い血管が多く通っていたのです。酸素は、この薄い層を通りぬけて血管に入ります。
チームを率いたのは、東京医科歯科大学(いまの東京科学大学)の武部貴則(たけべ・たかのり)さんです。武部さんたちは、マウスの腸の終わり、つまり直腸の肛門に近い部分を調べました。すると、ドジョウの腸の後ろの部分と似たところがありました。肛門に近いところで表面の層が急に薄くなり、血管がたくさん集まっていたのです。
もともと直腸の表面のすぐ下には、細い血管がたくさん通っています。そのため、おしりから入れる薬は、血の中に吸収されやすいのです。第一著者のオカベ・リョウ(Ryo Okabe)さんは、それなら酸素も同じように血に入れられるのではないかと考えたと、大学の発表で話しています。
02方法1:腸の内側をこすって薄くし、酸素の気体を送りこむ
チームはまず、酸素の気体を直腸に送りこむ方法を試しました。マウスには、人工呼吸器で酸素が8%しかない空気を吸わせました。ふつうの空気の酸素は約21%です。そのままでは、マウスは命を落とす状態になります。
ドジョウの腸に近づけるため、チームは直腸の肛門から4cmまでの表面をこすって薄くしました。こすると、血管をつくることに関わる遺伝子などが、一時的によく働くようになりました。その上で、純粋な酸素の気体を送りこみました。
すると、動脈の血の酸素がはっきり増えました。マウスの動きもよくなり、生き残る割合も上がりました。酸素8%の空気は、そのままでは命を落とす条件です。それでも、腸に酸素を送ったマウスは50分を超えて生きのびました。

03方法2:酸素をとかした液体を、おしりから入れる
けれども、腸の表面をこすって薄くする方法は、人の患者さんには使えません。そこでチームは、もう1つの方法を考えました。酸素をたっぷりとかしこむことのできる液体を、浣腸(かんちょう)のように入れる方法です。
使ったのは、「パーフルオロカーボン」という液体のなかまです。炭素とフッ素でできた液体で、酸素や二酸化炭素をとてもよくとかします。今回使ったパーフルオロデカリンは、すでに一部の医療で人の体に使われています。
この方法では、腸の表面をこする必要がありませんでした。酸素不足のマウスでは、液体を入れたマウスの心臓の中の血の酸素の濃さが、入れないマウスの約1.6倍になりました。体の大きなブタでも試しました。重い酸素不足にしたブタに液体を入れると、動脈の血の酸素の濃さが、入れる前の約1.2倍になりました。液体をくり返し入れると、酸素不足が約60分のあいだよくなりました。
安全性は、ラットでも確かめました。吸収された液体はごくわずかで、害は見られませんでした。腸の細菌のバランスも乱れませんでした。
04ブタでの続きの実験:肺の働きを変えずに、腸だけで酸素が増えた
2021年の結果には、1つ気になる点がありました。弱ってはいても、動物の肺はまだ働いています。増えた酸素は、本当に腸から入ったのでしょうか。
2023年、名古屋大学や東京医科歯科大学などのチームが、ブタ9頭でこの点を確かめました。ブタには麻酔をかけ、筋肉を動かなくする薬を使いました。自分では息ができないので、呼吸は人工呼吸器だけで行います。その設定は、実験のあいだずっと変えませんでした。酸素の割合は11〜15%にして、酸素不足の状態を作りました。
このブタの肛門から管を入れ、酸素をとかした液体を体重1kgあたり20mL入れました。すると2〜4分で、血の酸素が増え始めました。動脈の血の酸素の濃さを表す値は、平均54.5から61.1に上がりました(単位はmmHg)。逆に、血の中の二酸化炭素は減りました。液体を30分後に取り出すと、こうした変化は元に戻りました。肺の条件は同じなので、腸から酸素が入ったと考えられます。
05人での最初の試験:27人で、液体を入れても安全かを調べた
2025年、名古屋大学や東京科学大学、大阪大学などのチームが、人での最初の試験を報告しました。参加したのは、20〜45歳の健康な男性27人です。
この試験で使ったのは、酸素をとかしていない液体です。目的は、効き目ではなく、安全かどうかを確かめることでした。液体の量は25mLから始め、少しずつ増やして、最大1500mLまで試しました。参加者は、液体を60分間おなかの中にとどめました。
重い副作用は起きませんでした。おなかの張りや痛みなどの軽い症状はありましたが、入れる量が多いほど出やすく、どれも手当てなしで治まりました。血液検査の値も、すべて正常の範囲でした。血の中から、液体の成分は見つかりませんでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
腸から酸素を入れる考えは、昔からあった
腸から酸素を体に入れようとする試みは、実は昔からありました。18世紀のヨーロッパには、おぼれた人や息がつまった人の直腸に、たばこの煙を入れたという記録があります。1950年代には、生まれたばかりで息ができない赤ちゃんに、胃や直腸から酸素を入れる方法が報告されました。けれども、当時は医学的な裏付けが弱く、気体を入れることには危険もありました。その後、続きの研究は行われませんでした。武部さんたちは、ドジョウの体のつくりを手がかりに、この古い考えを新しい方法で見直したのです。
なぜ、まずは酸素なしの液体で試したのか
人で新しい方法を試すときは、まず安全かどうかを、少ない人数で慎重に調べます。今回の液体も、人の腸に入れたときにどうなるかは分かっていませんでした。そこで、酸素をとかさない液体で、量を少しずつ増やしながら調べたのです。チームは、体の中の液体の動きを計算するモデルで、酸素をとかした液体なら量に応じて酸素が増えると予測しています。多い量を入れたグループで血の酸素の割合が少し上がったことも、この予測に合っていました。
まだ分からないこと、気をつけて見るべきこと
ここまでの結果には、いくつも限りがあります。2023年のブタの実験は、麻酔をかけた状態で、30分だけ調べたものでした。酸素をとかした液体を長く使ったときに何が起きるかは、まだ分かりません。人の試験も、参加者は健康な男性だけで、効き目は調べていません。本当に呼吸が苦しい患者さんで、どれだけ役に立つのかは、これからの試験で確かめることになります。
また、2025年の試験は、この技術を開発する会社のお金で行われました。武部さんはこの会社を作った人で、ほかの著者の何人かもこの会社に協力しています。論文はそのことをはっきり書いています。こうした研究では、ほかの研究グループが同じ結果を出せるかどうかも大切になります。
人工呼吸器とどう違うのか
重い呼吸不全では、人工呼吸器や、体の外の機械で血に酸素を入れる「人工肺(ECMO)」が使われます。ただ、どちらも高度な医療の設備が必要で、体への負担も大きい方法です。チームは、腸からの呼吸は肺にたよらずに酸素を補う方法になりうると考えています。肺を休ませるあいだの手助けとしての利用を目指しています。
06まとめ
ドジョウは、腸の終わりの部分で空気から酸素を取りこみます。日本の研究チームはこれにならい、酸素不足のマウスやブタの肛門から酸素や酸素をとかした液体を入れました。すると血の中の酸素が増え、マウスは長く生きのびました。ブタで肺の働きを変えずに試しても、腸から酸素が入っていました。
2025年には、人で安全性を調べる最初の試験も報告されました。ただし、人で本当に息を助けられるかは、まだ確かめられていません。ドジョウの腸のしくみが、人の命を救う方法になるのか。答えは、これからの試験で出ることになります。
研究カルテ
日本・東京
- 研究チーム
- 東京医科歯科大学(いまの東京科学大学)、京都大学、名古屋大学などのチーム(第一著者 Ryo Okabe)
- 調べた場所
- 日本の大学などの研究室
- 調べた動物
- マウス、ブタ、ラット(安全性を調べた)
- 調べ方
- 酸素が足りない状態にした動物の肛門から、酸素の気体か、酸素をよくとかす液体を入れて、血の酸素や生き残りを比べた
- 分かったこと
- 肛門から入れた酸素で血の酸素が増え、マウスは長く生き、動きもよくなった
- まだ分からないこと
- 人で本当に効果があるか。どれくらいの時間、どれだけの酸素を送れるか
- 論文
- Med(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Many animals take in oxygen with their lungs or gills. But a fish called the loach can also use its gut. When the water has little oxygen, the end of its gut takes in oxygen.
Scientists in Japan tried this idea with mice and pigs. The animals did not have enough oxygen. The scientists put oxygen into their bodies through the anus. They also used a special liquid with a lot of oxygen in it.
After that, the oxygen in the animals' blood went up. The mice also lived longer. This study won a funny science prize in 2024.
In the first test with people, reported in 2025, 27 healthy men took part. The liquid had no oxygen in it, and the test only checked safety. There were no serious problems. We still do not know if it can help sick people breathe.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Which fish can take in oxygen with its gut?腸で酸素を取りこめる魚はどれですか。
ドジョウは、水の酸素が少ないとき、腸の終わりの部分で酸素を取りこみます。
Q2. What happened to the animals' blood?動物の血はどうなりましたか。
肛門から酸素や酸素をとかした液体を入れると、血の中の酸素が増えました。
Q3. What did the 2025 test with people check?2025年の人での試験では、何を調べましたか。
酸素の入っていない液体を使い、安全かどうかだけを調べました。効き目はまだ分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Okabe, R. et al. (2021) Mammalian enteral ventilation ameliorates respiratory failure. Med 論文確認済みdoi:10.1016/j.medj.2021.04.004
- 2Yoneyama, Y. et al. (2021) Enteral ventilation technology to combat severe respiratory failure. Translational and Regulatory Sciences 論文確認済みdoi:10.33611/trs.2021-015
- 3Fujii, T. et al. (2023) Enteral liquid ventilation oxygenates a hypoxic pig model. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2023.106142
- 4Fujii, T. et al. (2025) Safety and tolerability of intrarectal perfluorodecalin for enteral ventilation in a first-in-human trial. Med 論文確認済みdoi:10.1016/j.medj.2025.100887
- 5名古屋大学(2021)News Release: Ventilating the rectum to support respirationmed.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Med_210514en.pdf
- 6Improbable Research:Ig Nobel Prize Winners(2024年 生理学賞)improbable.com/ig/winners/
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