アカボウクジラはふつう1時間も息を止めてもぐる。限界と考えられていた33分の倍近く
アカボウクジラ23頭の潜水3,680回を調べると、ふつうは1時間ほどもぐっていた。いちばん長い5%の潜水でも、そのあとの休みは延びなかった。

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- アカボウクジラは、ふつう1回の息で1時間ほどもぐる
- 半分の潜水が、限界とされた33分の倍近い59分をこえていた
- いちばん長い潜水のあとでも、休む時間は延びなかった
人に話すなら
アカボウクジラって、エサをとる潜水がふつう1時間くらいなんだって。それまでの計算だと33分が限界のはずだったのに。しかも、いちばん長くもぐったあとでも、休む時間は延びなかったらしいよ。
読む前に予想しよう
アカボウクジラは、いちばん長くもぐったあとほど、長く休んでから次にもぐる
いちばん長い5%の潜水では、もぐった時間とそのあとの休みの長さに関係が見られなかった。
1回息を吸って、そのまま1時間。アカボウクジラは、それがふつうです。深い海でエサをとるときには、1時間ほど息を止めてもぐります。息を止めていられる時間には、本当は限りがあるはずです。体にためた酸素を使い切れば、それ以上はもたないからです。
アメリカのデューク大学などのチームは、野生のアカボウクジラ23頭に記録装置をつけ、エサをとる潜水3,680回を調べました。もぐった時間の中央値(短い順に並べたときにちょうど真ん中の値)は59分でした。5%の潜水は77.7分をこえていました。それまでの計算では、このクジラが酸素を使い切らずにもぐれるのは33分ほどとされていました。
アカボウクジラのなかまは、ほかのどの哺乳類よりも深く、長くもぐります。でも、陸から離れた深い海にすむため、行動をくわしく調べるのがとても難しい動物でした。だから、どのくらい息を止められるのかは、ほかの動物の数字から計算で見積もるしかなかったのです。
0126頭のクジラに、人工衛星にデータを送る装置を取りつけた
研究を率いたのは、デューク大学海洋研究所のニコラ・クイック(Nicola Quick)さんです。舞台はアメリカ東海岸、ノースカロライナ州のハッテラス岬の沖です。チームは2014年から2018年にかけて、長さ9mの小さなボートでクジラに近づきました。
取りつけたのは、人工衛星にデータを送る小型の記録装置です。空気の力で装置を撃ち出す道具を使い、離れた場所からクジラの体に取りつけました。装置は、クジラがもぐり始めた時刻と浮かび上がった時刻を記録します。合わせて26頭に取りつけ、そのうち23頭から十分なデータが取れました。
26頭のうち18頭は、大人のオスでした。写真で、下あごの先から歯が出ているか、体に傷あとが多いかを見て判断しました。残りの8頭は、オスかメスか、何歳かが分かりませんでした。子どもには取りつけていません。
チームは、33分以上の潜水を「エサをとるための深い潜水」と見なしました。2017〜2018年の装置は、33分以上の潜水だけを記録するように設定しました。この2年は、海軍のソナー(水中で音を出して周りを探る装置)の音をクジラに聞かせる実験も行われていました。そこで、音を聞かせる前までの記録だけを使いました。
02潜水の中央値は59分、いちばん長い潜水は132分だった
集まった潜水は3,680回です。中央値は59.0分で、いちばん長いものは132分でした。長い順に並べたとき、上位5%の潜水は77.7分をこえていました。
チームは、この77.7分を、行動から見た「息止めの目安」と考えました。上位5%以外の95%の潜水は、この時間より短いからです。前に計算で見積もられていた33分の2倍以上です。エサをとる潜水の半分は、計算上の限界の倍近い59分より長く続いていたのです。

03長い潜水のあとでも、休む時間は延びなかった
次に、チームは潜水のあとの休みを調べました。深い潜水から次の深い潜水までの時間です。その間、クジラは海面で息をしたり、浅くもぐったりしています。もし酸素を使い切っていたら、長くもぐったあとほど、回復に長い時間がかかるはずです。
すべての潜水で見ると、もぐった時間が1分長いと、次の深い潜水までの時間は平均0.79分長くなっていました。ところが、上位5%のいちばん長い潜水だけを見ると、もぐった時間と、そのあとの休みの長さに関係は見られませんでした。浮かぶ前後に海面で息をしていた時間も、潜水の長さとは関係がありませんでした。
上位5%の潜水をしたのは、23頭のうち17頭でした。一部のクジラだけが特別に長くもぐっていたのではありません。オスかメスか分からなかった8頭のうち5頭も、上位5%の潜水をしていました。
04222分の潜水は、ソナーの音を聞いた24日後に記録されていた
この研究では、もっと長い潜水も記録されていました。1頭のクジラが、173分と222分の潜水をしていたのです。222分は3時間42分です。
ただし、この2回は、そのクジラが海軍のソナーの音を1時間聞いた17日後と24日後のものでした。そのため、チームはこの2回を分析から外しました。この2回のあとは、次の深い潜水までに、236分と268分かかっていました。この2回だけを見ると、とても長い潜水のあとには長い休みがあったことになります。
チームは、この2回の潜水は、このクジラが本当にもぐれる限界に近いのかもしれないと書いています。ふつうの潜水の上位5%の77.7分は、あくまで「ふだんの行動から見た目安」です。体の限界そのものではありません。
なお、アカボウクジラの深さの記録は、別のチームが出しています。2014年、アメリカの研究団体カスケーディア・リサーチ・コレクティブのグレゴリー・ショア(Gregory Schorr)さんたちは、カリフォルニア州の沖で8頭を追いました。いちばん深い潜水は2,992mに達し、いちばん長い潜水は137.5分続きました。この2つは別のクジラの別の潜水です。どちらも、その時点での哺乳類の潜水の新記録でした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「息止めの限界」は、アザラシの血液から考えられた
息止めの限界という考え方は、1980年に、クーイマン(Kooyman)さんたちがウェッデルアザラシで示しました。酸素が足りなくなると、筋肉には乳酸という物質がたまります。クーイマンさんたちは、血液の乳酸が増えずにすむ、最も長い息止めの時間を「限界」としました。ウェッデルアザラシでは、潜水の92〜96%がこの限界より短いことが分かりました。限界をこえた潜水のあとは、海面での休みが長くなることも報告されています。
アカボウクジラの33分は、アザラシから計算した数字だった
野生のクジラの血液を、もぐった直後にとるのはほぼ不可能です。そこで2006年の研究は、体重330kgのウェッデルアザラシの数字をもとに、アカボウクジラの限界を33分と見積もりました。そのアザラシの計算上の限界は21分でした。今回の77.7分は、33分の2倍以上です。チームは、アカボウクジラの体重を2,000kgと仮定しました。そして、体にためられる酸素で77.7分もぐるには、1分あたりどれだけの酸素で足りるかを計算しました。答えは、体重2,000kgの陸の哺乳類がじっと休んでいるときに使うと予想される量より、約25%少ない量でした。アカボウクジラのなかまの泳ぐための筋肉には、酸素をためるタンパク質(ミオグロビン)が多いことが知られています。アカボウクジラの筋肉は、乳酸がたまっても酸性にかたむきにくいという報告もあります。その力は、クジラの中でもとても強い部類です。チームは、エネルギーの使い方をおさえ、酸素を多くため、酸性にかたむきにくいことが、長い潜水を支えていると考えています。
ほかの動物にも「休まない潜水」はある
長い潜水のあとに長く休まない動物は、ほかにもいます。ゾウアザラシは、計算上の限界をこえる潜水を何回もしますが、そのあと海面で長く休みません。チームは、もぐるたびに体のエネルギーの使い方を変えているからではないかと紹介しています。アカボウクジラも、たまった乳酸を何回かの潜水のあとの浅い潜水や海面の時間にまとめて片づけている可能性がある、と論文は書いています。
この研究の限界
クジラの体重や年齢は、測れていません。33分以上の潜水をすべて「エサをとる潜水」とみなしたのも、前の研究にならった仮定です。次の潜水までの時間が長くなるのは、回復のためではなく、食べた物の消化や、群れの仲間と動きを合わせるためかもしれません。また、装置の記録のしかたが年によって違ったため、すべての年で同じ分析ができたわけではありません。チームは、クジラの体に取りこむ酸素の量や、血液の流れを直接測る研究が必要だとしています。
05アカボウクジラは深い海でイカを食べ、ソナーの影響も心配されている
アカボウクジラは、体長4.6〜7mほどのクジラです。アカボウクジラのなかまの中で、いちばん広い範囲の海にすんでいます。ふつうは水深1,000mをこえる深い海を好みます。食べ物は、おもにイカやタコのなかまです。オスは下あごの先に2本の小さな歯があり、けんかによく使います。体には線のような引っかき傷や、だ円形の傷あとが多く見られます。だ円形の傷は、ダルマザメやヤツメウナギにかまれたあとと考えられています。
アカボウクジラは、海軍のソナーとの関係も心配されています。アメリカ海洋大気庁によると、バハマやカナリア諸島、地中海などで起きたアカボウクジラの打ち上げが、海軍のソナーと結びつけられています。今回の222分の潜水も、ソナーの音を聞いた24日後に記録されていました。ただし、ソナーの音が原因だったのかは分かっていません。音がクジラの潜水をどう変えるのかも、まだはっきりしていません。
06まとめ
ハッテラス岬の沖で、アカボウクジラ23頭の潜水3,680回を調べると、中央値は59分でした。計算で見積もられていた限界は33分なので、その倍近くです。いちばん長い5%の潜水のあとでも、休む時間は延びていませんでした。それを支える体のしくみは、まだはっきりとは分かっていません。ふつう1時間もぐるこのクジラには、1頭だけとはいえ、3時間42分も息つぎせずにもぐった記録があるのです。
研究カルテ
アメリカ ノースカロライナ州 ハッテラス岬の沖
- 研究チーム
- アメリカのデューク大学海洋研究所などのチーム(第一著者ニコラ・クイック)
- 調べた場所
- アメリカ・ノースカロライナ州のハッテラス岬の沖
- 調べた動物
- 野生のアカボウクジラ(学名 Ziphius cavirostris)23頭
- 調べ方
- 2014〜2018年に、人工衛星にデータを送る記録装置を26頭に取りつけ、潜水の長さと間かくを記録した
- 分かったこと
- エサをとる潜水は中央値59分、5%は77.7分をこえた。長い潜水のあとも休みは延びなかった
- まだ分からないこと
- 体の中で酸素をどう使い、たまった物質をいつ片づけているのか。体重は測れていない
- 論文
- Journal of Experimental Biology(2020年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Cuvier's beaked whales live in deep parts of the ocean. They dive deep to eat squid and octopus. They are very hard to study because they live far from land.
Scientists in the United States put small tags on 26 whales. The tags sent data to satellites. The scientists got good data from 23 whales. They studied 3,680 deep dives.
A normal dive was about one hour long. Some dives were longer than 77 minutes. Before this study, people thought the limit was about 33 minutes. After the longest dives, the whales did not rest longer.
One whale dived for 222 minutes. That is three hours and 42 minutes. But this dive came after the whale heard navy sonar, a loud sound under the water. Scientists still do not know how these whales use oxygen so well.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How long was a normal dive?ふつうの潜水はどのくらいの長さでしたか。
潜水の中央値は59分で、ふつうの潜水は1時間ほどでした。33分は、それまでの計算上の限界です。
Q2. What did the whales do after the longest dives?いちばん長い潜水のあと、クジラはどうしましたか。
いちばん長い5%の潜水のあとでも、次の深い潜水までの時間は長くなりませんでした。
Q3. What happened before the 222-minute dive?222分の潜水の前に、何がありましたか。
222分の潜水は、そのクジラが海軍のソナーの音を聞いた24日後に記録されました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Quick, N. J. et al. (2020) Extreme diving in mammals: first estimates of behavioural aerobic dive limits in Cuvier's beaked whales. Journal of Experimental Biology 論文確認済みdoi:10.1242/jeb.222109
- 2Schorr, G. S. et al. (2014) First long-term behavioral records from Cuvier's beaked whales (Ziphius cavirostris) reveal record-breaking dives. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0092633
- 3NOAA Fisheries「Cuvier's Beaked Whale」fisheries.noaa.gov/species/cuviers-beaked-whale
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





