ザトウクジラの歌を8年分調べると、人の言葉と同じ「よく出る部分ほど短い」法則があった
クジラの歌を、赤ちゃんが言葉の切れ目を見つける方法で区切った。すると、人の言葉と同じ、出る回数の法則と長さの法則が現れた。

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- 赤ちゃんの方法でクジラの歌を区切ると、まとまりが見つかった
- まとまりの出る回数は、人の言葉の単語と同じ法則に従っていた
- よく出るまとまりほど短い、という点も人の言葉と同じだった
人に話すなら
ザトウクジラの歌を、赤ちゃんが言葉を区切るやり方で分けてみたら、人の言葉と同じ法則が出てきたんだって。よく出るかたまりほど短いところまで同じ。ただ、意味があるかは分からないらしい。
読む前に予想しよう
ザトウクジラの歌のまとまりには、人の単語と同じように意味があると分かった
研究チームは、歌のまとまりに意味があるとは言っていない。似ていたのは、出る回数と長さの法則だった。
人の話し声は、単語ごとに区切られて聞こえてくるわけではありません。それでも赤ちゃんは、流れるように話される音から、単語を切り出していきます。
イスラエルとイギリスなどの研究チームが、この赤ちゃんのやり方を、ザトウクジラの歌に使ってみました。8年分の歌を区切ると、歌の中に「まとまり」が見つかりました。そして、まとまりの出る回数は、人の言葉の単語と同じ法則に従っていました。よく出るまとまりほど短い、という点も同じでした。
人の言葉と同じ法則が、人と遠く離れた動物の歌に現れたのです。チームは、その理由を「まねして覚え、ほかの個体へ伝えられること」に求めています。クジラの歌も人の言葉も、そうやって受けつがれていくものだからです。
01ザトウクジラの歌は、まねして覚え、海をこえて広がる
ザトウクジラの歌は、動物の出す音の中でも、とても複雑なものの1つです。歌うのはオスだけです。歌は、短い音のつぶ(音の要素)が決まった順に並んで1つの「フレーズ」になり、フレーズをくり返して「テーマ」になります。いくつかのテーマを決まった順に歌うと、1曲の歌になります。
同じ海域のオスは、ほとんどがその時の同じ歌を歌います。けれど歌は、1つの季節の中でも少しずつ変わっていきます。数年たつと、別の歌になっています。
ときには、となりの海域から来た歌が、それまでの歌をまるごと置きかえることもあります。2011年の研究では、南太平洋の西から東へ、いくつもの歌が次々と伝わっていく様子が、11年分の記録から明らかにされました。クジラの歌は、まねして覚え、伝えられていく「文化」なのです。
02人の言葉には、単語の出る回数と長さに決まった法則がある
人の言葉には、どの言語にも共通する性質があります。その1つが、単語の出る回数です。ごく少しの単語がとてもよく使われ、ほとんどの単語はたまにしか使われません。そして、何番目によく使われるかと使われる回数の間に、決まった数式の関係があります。これを、研究者ジップの名前から「ジップの法則」と呼びます。
もう1つは、よく使われる単語ほど短い、という性質です。これも、どの言語にも見られます。
チームは、こうした性質は、言葉が世代から世代へ伝わるうちに生まれると考えています。2024年、アルノンさんとカービーさんは、人を使った実験をしました。参加者は、前の参加者が作った意味のない記号の並びを覚えて写し、それを次の参加者に渡します。くり返すうちに、並びの中にまとまりが生まれ、その出る回数はジップの法則に近づいていきました。まとまりができると、並びは覚えやすくなりました。
それなら、同じように伝えられていくクジラの歌にも、同じ法則が現れるはずです。チームはそう予想しました。
038年分の歌を、赤ちゃんが単語を見つける手がかりで区切った
研究をしたのは、イスラエルのヘブライ大学のインバル・アルノン(Inbal Arnon)さん、イギリスのエディンバラ大学のサイモン・カービー(Simon Kirby)さん、セント・アンドルーズ大学のエレン・ガーランド(Ellen Garland)さんたちです。
使った歌は、南太平洋のニューカレドニアで、2010年から2017年までの8年間に録音したものです。ボートから水中マイクをおろしたり、海に置いた録音機を使ったりして録りました。録音は、それぞれ別の日のものです。雑音の多い録音を除くと、55本、合わせて31時間の歌が残りました。研究者は、これを1つ1つの音の要素の並びに書き起こしました。
区切り方の手がかりは、1996年に分かった赤ちゃんの力です。生後8か月の赤ちゃんは、続けて話される音を2分間聞いただけで、となり合う音のつながり方から単語を切り出せました。1つの単語の中では、次に来る音がだいたい決まっています。単語と単語の切れ目では、次に来る音が予想しにくくなります。
チームは、クジラの歌でも、ある音のあとに次の音が来る確率を、年ごとに計算しました。そして、その確率が直前と比べて半分以下に下がった所で、歌を区切りました。人の決めたフレーズやテーマの区切りは、使っていません。1年分の歌につき、平均で1562か所が区切られました。
04区切ったまとまりは、ジップの法則にぴったり合った
区切ったまとまりを、よく出る順に並べて、出た回数を数えました。すると、ごく少しのまとまりがとてもよく出て、ほとんどのまとまりはたまにしか出ませんでした。その並び方は、ジップの法則によく合っていました。合い方を表す値は0.93で、1に近いほどよく合うことを示します。
この結果は、たまたまかもしれません。そこでチームは、2つの方法で確かめました。
1つ目は、それぞれの歌の中で、音の要素の順番をでたらめに並べかえる方法です。音の要素の数は変わりませんが、並び方の決まりはこわれます。これを1000通り作って同じように区切りましたが、本物の歌ほど法則に合うものは1つもありませんでした。
2つ目は、区切る位置だけをずらす方法です。音の順番も、まとまりの長さもそのままにして、切れ目の位置をずらしました。これも1000通り作りましたが、法則への合い方は本物の歌のほうがはっきり上でした。区切りの基準を変えたり、別の赤ちゃん流の区切り方を使ったりしても、同じ結果になりました。

05よく出るまとまりほど短い、という点も人の言葉と同じだった
チームは、もう1つの法則も調べました。よく使われる単語ほど短い、という法則です。
区切ったまとまりの長さと、出た回数を比べると、よく出るまとまりほど短い、というはっきりした関係がありました。でたらめに並べかえた歌や、区切る位置をずらした歌と比べても、本物の歌のほうがずっとよく合っていました。
この法則は、人の言葉だけでなく、サルなどほかの動物の声でも見つかっています。むだな手間をはぶく、効率のよい伝え方から生まれると考えられています。チームは、赤ちゃんの方法で見つけたまとまりがこの法則にも合ったことから、クジラにとっても意味のある区切りをとらえている可能性があると考えています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜ伝えられる歌に、言葉と同じ形が生まれるのか
人の言葉でジップの法則が生まれる理由には、いくつもの説があります。単語の意味の付け方から説明する説、伝えるときの手間を減らす効率から説明する説、覚えやすさから説明する説です。クジラの歌のまとまりに意味があるとは考えにくいので、チームは、残りの2つ、効率と覚えやすさが関係していると見ています。
人の実験では、まとまりがあり、その出る回数が法則に合うほど、記号の並びは覚えやすくなりました。何度も伝えられるうちに、覚えやすい形が残っていく。チームは、クジラの歌にも同じことが起きたのではないかと考えています。
鳥の歌でも、同じ形が見つかった
チームは「複雑な並びが伝えられる所なら、どこでも同じ形が見つかるはずだ」と予想しました。2026年、カービーさんたちは、日本の研究者の岡ノ谷一夫(Kazuo Okanoya)さんらと一緒に、ジュウシマツの歌を同じ方法で調べました。ジュウシマツの歌も、まねして覚え、伝えられていく歌です。
すると、ジュウシマツの歌にも、まとまりがあり、その出る回数は同じ法則に従っていました。まとまりは、ひなが育つにつれて、よりはっきりしていきました。法則に合う形は、育つ途中のどの時期にも見られました。
反対の見方と、研究の限界
これまでにも、動物の声にジップの法則を探す研究はありました。けれど多くは、少し形を変えた、合わせやすい式にしか合いませんでした。このことは、人の言葉と動物の声の大きな違いだと考えられてきました。今回のチームは、その違いは「何を1つと数えるか」から来たのかもしれないと考えています。実際に、クジラの歌の音の要素を1つずつ数えると、区切ったまとまりほどきれいには法則に合いませんでした。
「よく出るものほど短い」という法則も、どの動物でもはっきり出るわけではありません。2025年に11の鳥の集団の歌を調べた研究では、1つ1つの集団でははっきりした証拠が見つかりませんでした。全部をまとめると証拠が出ましたが、人の書き言葉と比べると、関係はずっと弱いものでした。
そして、今回見つかったまとまりが、クジラ自身にとっても1つのまとまりなのかは、まだ分かっていません。チーム自身も、この点を残された問いとしています。
06まとめ
ニューカレドニアで録音した8年分のザトウクジラの歌を、赤ちゃんが単語を切り出す手がかりで区切りました。すると、歌の中にまとまりが見つかり、その出る回数は人の言葉の単語と同じジップの法則に従っていました。よく出るまとまりほど短い、という点も同じでした。
ただし、クジラの歌のまとまりに意味があるわけではありません。似ていたのは、出る回数と長さの形です。チームは、クジラの歌も人の言葉も「まねして覚え、伝えられていく」ことが、この共通点を生んだと考えています。
人とクジラの祖先は、はるか昔に分かれました。それでも、生後8か月の赤ちゃんが使う手がかりで、クジラの歌に切れ目が見つかったのです。
研究カルテ
ニューカレドニア
- 研究チーム
- イスラエルのヘブライ大学、イギリスのエディンバラ大学とセント・アンドルーズ大学などのチーム(インバル・アルノン、サイモン・カービー、エレン・ガーランド)
- 調べた場所
- 南太平洋のニューカレドニアの南のラグーン(さんご礁に囲まれた海。2010〜2017年に録音)
- 調べた動物
- ザトウクジラ(学名 Megaptera novaeangliae)のオスの歌
- 調べ方
- 8年分・55本・31時間の歌を音の並びに書き起こし、次に来る音の予想しやすさが急に下がる所で区切った
- 分かったこと
- 区切ったまとまりの出る回数は人の単語と同じ法則に従い、よく出るまとまりほど短かった
- まだ分からないこと
- 見つかったまとまりが、クジラにとっても意味のある区切りなのか。歌のまとまりに意味があるのか
- 論文
- Science(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Male humpback whales sing long songs. They learn the songs from other whales. The songs change and spread across the sea.
Scientists used eight years of whale songs from New Caledonia. The recordings were 31 hours long in total. Babies find words by listening to which sounds usually come together. The scientists used the same idea to cut the songs into parts.
A few parts appeared very often. Most parts appeared only a few times. Words in human languages follow the same pattern. The scientists also mixed up the order of the sounds many times. The mixed songs did not show the pattern so clearly. Also, the common parts were shorter, just like common words.
This does not mean that whales use words. We do not know if the parts have any meaning. Music also shows a similar pattern. But learning from others may shape both songs and languages.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many years of songs did the scientists use?科学者たちは何年分の歌を使いましたか。
ニューカレドニアで録音した8年分の歌を使いました。
Q2. Whose way of finding words did the scientists use?科学者たちは、誰の単語の見つけ方を使いましたか。
赤ちゃんが音のつながり方から単語を見つける方法を使いました。
Q3. Do we know that the song parts have meaning?歌の部分に意味があると分かっていますか。
歌の部分に意味があるかは、まだ分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Arnon, I. et al. (2025) Whale song shows language-like statistical structure. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adq7055
- 2Arnon, I. & Kirby, S. (2024) Cultural evolution creates the statistical structure of language. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-024-56152-9
- 3Saffran, J. R. et al. (1996) Statistical learning by 8-month-old infants. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.274.5294.1926
- 4Garland, E. C. et al. (2011) Dynamic horizontal cultural transmission of humpback whale song at the ocean basin scale. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2011.03.019
- 5Kirby, S. et al. (2026) Language-like statistical structure arises in learned signaling: evidence from birdsong. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.aea3015
- 6Gilman, R. T. et al. (2025) Does Zipf's law of abbreviation shape birdsong? PLOS Computational Biology 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pcbi.1013228
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