ザトウクジラはシャチの狩りをじゃましに来る。獲物の89%はアシカなど別の動物だった

目撃記録115回を集めると、ザトウクジラは狩りの最中のシャチに自分から近づいていた。ザトウクジラがいた狩りの獲物は、89%がザトウクジラ以外の動物だった。

No.069 7分で読めるえっ度 論文 2017年
青い海面で、大きなザトウクジラが長い白い胸びれを持ち上げ、尾びれを海面にたたきつけている。そのすぐそばを、白黒の模様で背びれの高いシャチが泳いでいる。

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  1. ザトウクジラは、狩りの最中のシャチに自分から近づいていた
  2. ザトウクジラがいた狩りの獲物の89%は、ほかの種類の動物だった
  3. なぜほかの動物まで守るように見えるのかは、まだ分からない

人に話すなら

ザトウクジラって、シャチがアシカやアザラシを狩ってると、ときには何キロも泳いできてじゃまするんだって。しかも襲われてる獲物の9割近くは、ザトウクジラじゃない別の動物らしいよ。

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ザトウクジラがいるシャチの狩りで、襲われているのはほとんどがザトウクジラの子どもだ

目撃記録には、こんな場面がくり返し出てきます。シャチの群れが、1頭のアシカを追いつめています。そこへ、遠くから大きなクジラが大きな息の音を立てて近づいてきます。ザトウクジラです。ザトウクジラは尾びれを海面にたたきつけます。長い胸びれをふり回し、シャチの群れの中に入っていきます。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)のロバート・ピットマン(Robert Pitman)さんたちは、こうした場面の記録を世界中から集めました。ザトウクジラとシャチの出会い115回を調べると、ザトウクジラは狩りの最中のシャチに自分から近づいていました。ザトウクジラがいた狩りで、襲われていた獲物を調べると、ザトウクジラは11%だけで、89%はアシカやアザラシなどほかの動物でした。

自分の子どもや仲間を守るためなら分かります。でも、ザトウクジラにとってアシカやアザラシは、助けても得があるとは思えない相手です。なぜザトウクジラは、わざわざ他人の、それも別の種類の動物の争いに入っていくのでしょうか。

01シャチは、ザトウクジラの子どもをねらう天敵でもある

ザトウクジラは、大人になると体長が最大で約18メートル、体重は最大で約40トンにもなります。オキアミ(エビに似た小さな生き物)や小魚を、口でこし取って食べます。

シャチにはいくつかのタイプがいて、魚を食べるシャチと、アザラシやクジラなどの哺乳類を食べるシャチがいます。哺乳類を食べるシャチは、ザトウクジラの子どもを襲います。今回の記録でも、哺乳類を食べるシャチがザトウクジラに近づいた27回のうち、少なくとも17回は子どもが一緒でした。そのうち16回で、シャチは攻撃をしかけていました。

一方、元気な大人のザトウクジラは、シャチにとってほぼ手が出せない相手です。今回の記録では、大人のザトウクジラが殺されたり、大けがをしたりした例は1つもありませんでした。大人の体の大きさと強い胸びれが、身を守る武器になっていると考えられています。

0262年分、115回の目撃記録を集めて分類した

この研究は、実験ではありません。1951年から2012年までの62年間に、54人以上の人が残した目撃記録を集めたものです。記録したのは研究者だけでなく、ホエールウオッチングの船の乗客やガイドも多くいました。

研究チームは、記録を1つずつ分類しました。どちらが先に近づいたか。シャチはどのタイプか。何が襲われていたか。記録の多くは、北太平洋の東側で集まりました。アメリカのカリフォルニア州モントレー湾が48回(42%)、アラスカ南東部が27回(23%)です。

チームは、ザトウクジラの次のような行動を「モビング」と呼びました。シャチに向かって突進したり追いかけたりする。大きな息の音を立てる。胸びれや尾びれを海面にたたきつけたり、横にふり回したりする。モビングとは、もともと小鳥たちが集まって天敵をさわぎ立てる行動の名前です。

03ザトウクジラが向かうのは、狩りをしている「哺乳類を食べるシャチ」だった

ザトウクジラが自分からシャチに近づいた場面では、相手のタイプが分かった41回のうち93%が、哺乳類を食べるシャチでした。しかもその87%以上で、シャチは獲物を襲っているか、食べている最中でした。魚を食べるシャチに近づいたときは、大きな争いにならずに終わっていました。

ザトウクジラは、かなり遠くから来ることもありました。ある記録では、シャチの群れの中にザトウクジラがいました。そのクジラは6時間ほど前、7.6キロ離れた場所でえさを食べている写真がとられていました。ほかにも、1.6キロ以上、3.2キロといった距離を泳いで来た記録があります。

ザトウクジラが関わった狩りで、獲物の種類が分かったのは56回です。そのうちザトウクジラは11%で、残りの89%は10種類のほかの動物でした。特に多いのはトドとカリフォルニアアシカです。ほかにゼニガタアザラシ、キタゾウアザラシ、コククジラ、ミンククジラ、イシイルカがいました。南極のウェッデルアザラシやカニクイアザラシもいました。魚のマンボウまで含まれていました。

海面から見下ろした場面。中央で小さなアザラシが泳ぎ、そのまわりを数頭のシャチが回り、外から大きなザトウクジラが近づいてくる。

04獲物が逃げられたこともあった。でも多くは助からなかった

ザトウクジラのおかげで獲物が逃げられた、と報告された例もあります。少なくともザトウクジラ2頭、コククジラ2頭、たぶんウェッデルアザラシ1頭です。数は記録されていませんが、アシカもいました。

ある観察者は、コククジラの母子がシャチに襲われていた場面を書き残しています。それまで1頭も見かけなかったのに、ザトウクジラが大きな息の音を立ててやって来ました。次々に加わって、5頭以上になりました。結果として、コククジラの母子は逃げることができました。

ただし、助かった例ばかりではありません。ザトウクジラ以外の獲物が襲われた場面で、結果が記録されていたのは44回です。そのうち36回(82%)で、獲物は殺されていました。逃げたのは少なくとも8回(18%)でした。ザトウクジラが来ても、獲物の多くは助からなかったのです。

アラスカのアイシー海峡では、同じオスのザトウクジラが、1988年と2003年の2回、トドを襲うシャチの場面に現れていました。15年をへだてた記録です。同じ個体が、長い間をあけて同じ行動をくり返すことがあるのです。

05仲間の子を守るための行動が、ほかの動物が襲われたときにも出ているのかもしれない

ザトウクジラは、どうやって遠くの狩りに気づくのでしょうか。チームは、シャチの声だと考えています。哺乳類を食べるシャチは、獲物に気づかれないよう、狩りの前はほとんど声を出しません。ところが襲いかかると、声を出すことが多くなります。実際に2回、ザトウクジラが着く前に、水中マイクでシャチの声が記録されていました。

もしそうなら、ザトウクジラは何が襲われているかを知らないまま、シャチの声に向かって来ていることになります。着いてみるまで、獲物が自分の仲間なのか、アシカなのか分からないのです。

チームは、この行動はもともと、仲間、特にザトウクジラの子どもを守るためのものだと考えています。ザトウクジラは毎年同じえさ場に戻ることが多い動物です。そのため、近くにいる個体は親類や長いつき合いの相手かもしれません。そうした相手を守ることは、自分の得にもなりえます。その行動が、ほかの動物が襲われている場面でも出てしまうのではないか、というのです。

それでもチームは、種をこえた「利他行動」の可能性も、完全には否定できないとしています。利他行動とは、自分が損をして相手を得させる行動のことです。ザトウクジラにそのつもりがなくても、結果としてほかの動物が助かる場合があるからです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

記録を集める方法の強さと弱さ

シャチがアシカを襲う場面に、たまたま出会うことはめったにありません。だから、62年分の目撃記録を集めるという方法がとられました。ただし記録は、研究者、ガイド、観光客と、書いた人によって正確さも細かさもばらばらです。著者たち自身もそう認めています。ある動画では、ザトウクジラが尾びれでトドをたたこうとしていたのか、シャチをたたこうとしていたのかで、著者の間でも意見が分かれました。観察した人の見方が、記録に入りこんでしまうのです。

大きな体の動物が、小さな天敵をモビングする

モビングは、ふつう小さな動物が大きな天敵に対して行います。けれども大きな動物が、小さな天敵に向かう例もあります。アフリカゾウの大人は、ライオンに襲われることはほとんどありません。でも子どもはねらわれるので、群れでライオンに向かっていきます。ザトウクジラも同じように、大人は安全で子どもだけが危ない動物です。論文は、ザトウクジラの行動をこのゾウの例と並べて紹介しています。

ザトウクジラの胸びれは、クジラの中でいちばん大きい

ザトウクジラの胸びれは、長さ最大5メートル、体長の3分の1にもなります。重さは1トンを超えることもあります。クジラの胸びれとしては、大きさでも体との割合でも最大です。しかも、ふちにはこぶがあり、するどいフジツボがついていることも多く、相手の皮ふを傷つけます。シャチはふつう、ザトウクジラの胸びれが届かない距離をとって動きます。チームは、この胸びれがあることで、ザトウクジラはシャチに立ち向かえるのかもしれないと考えています。

06まとめ

ザトウクジラは、狩りをしている哺乳類食のシャチに自分から近づき、尾びれや胸びれをふり回して追い立てていました。ザトウクジラがいた狩りで襲われていた獲物の89%は、アシカやアザラシなど、ザトウクジラ以外の動物でした。7キロ以上離れた場所から来た例もあります。

ただし、獲物の多くは結局助からず、ザトウクジラがなぜ来るのかも、はっきりとは分かっていません。仲間の子どもを守る行動が、ほかの動物が襲われたときにも出ているのかもしれない、というのが論文の著者たちの考えです。南極では、氷の上のカニクイアザラシをシャチが襲う場面で、手前でザトウクジラが大きな息の音を立てている写真も残されています。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・カリフォルニア州モントレー湾

研究チーム
アメリカ海洋大気庁(NOAA)のロバート・ピットマンさんら14人
調べた場所
世界の海。記録の多くはアメリカのモントレー湾とアラスカ南東部
調べた動物
ザトウクジラ(学名 Megaptera novaeangliae)とシャチ(学名 Orcinus orca)
調べ方
1951〜2012年の62年間に、54人以上が残した目撃記録115回を集めて分類した
分かったこと
ザトウクジラは哺乳類を食べるシャチの狩りに近づき、追い立てていた。獲物の89%はほかの動物だった
まだ分からないこと
ほかの動物まで守るように見える理由。偶然の結果なのか、意味があるのか
論文
Marine Mammal Science(2017年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Humpback Whales Rush to Killer Whale Hunts

Some killer whales hunt seals, sea lions, and the babies of large whales. Adult humpback whales are too big for them, but their babies are in danger.

Scientists collected 115 reports of meetings between humpbacks and killer whales. Many reports came from people on whale-watching boats. The humpbacks often swam toward killer whales that were hunting. They hit the water with their tails and long flippers.

But in 89 percent of the hunts with humpbacks, the animal under attack was not a humpback. It was often a sea lion or a seal. Some of these animals escaped, but most of them died.

The scientists think humpbacks hear the sounds of hunting killer whales. They may come without knowing which animal is in trouble. Why they come when other animals are attacked is still a mystery.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many reports did the scientists collect?研究者たちは何回分の記録を集めましたか。

Q2. What was often under attack when humpbacks came?ザトウクジラが来たとき、襲われていたのは多くの場合何でしたか。

Q3. How may humpbacks find hunting killer whales?ザトウクジラは、狩りをするシャチをどうやって見つけている可能性がありますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Pitman, R. L. et al. (2017) Humpback whales interfering when mammal-eating killer whales attack other species: Mobbing behavior and interspecific altruism? Marine Mammal Science 論文確認済みdoi:10.1111/mms.12343
  2. 2NOAA Institutional Repository:上の論文の公開版repository.library.noaa.gov/view/noaa/54369
  3. 3NOAA Fisheries: Humpback Whalefisheries.noaa.gov/species/humpback-whale

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい