イエネコがヨーロッパに来たのは約2000年前。それより古い「ネコの骨」はヤマネコだった
遺跡のネコの骨のDNAを調べると、イエネコがヨーロッパに広がったのは約2000年前だった。それより古い骨は、野生のヤマネコだった。

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- イエネコがヨーロッパに広がったのは、約2000年前だった
- 農業の時代のネコの骨は、野生のヨーロッパヤマネコだった
- イエネコは、北アフリカから運ばれてきたらしい
人に話すなら
飼いネコって、農業が始まったころに人と一緒にヨーロッパに来たという説があったんだけど、骨のDNAを調べたら約2000年前、ローマ時代ごろだったんだって。もっと古い骨は野生のヤマネコだったらしいよ。
読む前に予想しよう
イエネコは、農業が始まったころに農民と一緒にヨーロッパへ広がった
古代のDNAを調べると、イエネコが広がったのは約2000年前だった。
世界には、野良ネコまで含めると、10億匹近いネコがいるとされています。遠い島にまで、人と一緒に広がりました。けれど、ネコがいつ、どうやってヨーロッパにやって来たのかは、はっきりしていませんでした。
イタリアなどの研究チームが、ヨーロッパと今のトルコの遺跡から出たネコの骨を、DNAで調べ直しました。すると、イエネコの血すじがヨーロッパに現れるのは、約2000年前からでした。紀元前3世紀より古いネコの骨は、調べた22匹すべてが野生のヨーロッパヤマネコでした。
これまで、イエネコは6000年以上前に、農業を始めた人々と一緒にヨーロッパへ広がったという説がありました。その説の根拠と同じ、中東の型のDNAを持つトルコとブルガリアの古い骨も、ゲノムを読むとヤマネコでした。イエネコがヨーロッパに来たのは、考えられていたより数千年も後だったのです。
01骨の形だけでは、イエネコとヤマネコを見分けられない
イエネコの祖先は、北アフリカから中東にすむリビアヤマネコです。一方、ヨーロッパには、昔から別の種類のヨーロッパヤマネコがすんでいます。
困ったことに、イエネコとヤマネコは、骨の大きさや形がよく似ています。遺跡からネコの骨が出ても、骨を見ただけでは決められません。人に飼われていたネコなのか、野生のヤマネコなのか、分からないのです。しかも、遺跡から出るネコの骨はもともと少ないのです。
ネコが人のそばでくらし始めた場所にも、2つの説があります。1つは中東です。地中海のキプロス島では、紀元前7500年ごろの人の骨と一緒に、ネコが埋められていました。もう1つは古代エジプトです。エジプトには、紀元前2200年ごろからネコの絵や、ネコを葬ったあとが残っています。
02母から子へ伝わるDNAだけを見ると、まちがえることがあった
2017年、クラウディオ・オットーニ(Claudio Ottoni)さんたちのチームは、遺跡のネコのDNAを調べました。調べたのは、ミトコンドリアDNAです。ミトコンドリアDNAは、母親からだけ子に伝わるDNAです。そして、ネコが広がり始めたのは中東の農業の時代で、その後エジプトのネコが広がった、と発表しました。
2018年には、別の研究チームが中央ヨーロッパのネコの骨を調べました。ローマ時代より2000年以上前の骨から、中東のヤマネコと同じ型のミトコンドリアDNAが見つかりました。その研究チームは、ネコが最初の農民と一緒に広がったという考えを支持しました。ただし、ヤマネコどうしがまざった結果である可能性も、完全には否定できないと書いていました。
けれど、ミトコンドリアDNAには弱点があります。母方の1本の血すじしか分からないのです。はるか昔に、ヨーロッパヤマネコのオスと中東のヤマネコのメスの間に、子が生まれたとします。すると、その子孫のヨーロッパヤマネコは、中東の型のミトコンドリアDNAを持つことになります。
03225点の骨を集め、ゲノム全体を読んで調べ直した
そこで、ローマ・トル・ヴェルガータ大学のオットーニさんたちは、新しい方法をとりました。親から受け継ぐDNAの全体、つまりゲノムを読むのです。ゲノムなら、父方と母方の両方の祖先が分かります。
チームは、ヨーロッパとアナトリア(今のトルコのあたり)の97か所の遺跡から、ネコの骨225点を集めました。そのうち70匹分について、古代のゲノムを読み取りました。いちばん古いものは1万年以上前、新しいものは19世紀のネコです。さらに、イタリア、ブルガリア、北アフリカのヤマネコ17匹のゲノムも読みました。今のヤマネコや、博物館の標本です。
古いDNAは、外から入りこんだ今のDNAとまざると、正しく読めません。作業は、古いDNAのための専用の部屋で行いました。中に入る人は、作業服、2重の手袋、マスク、プラスチックのめがねを身につけます。骨は表面を約1ミリけずってから粉にして、DNAを取り出しました。37点の骨は、骨そのものの年代も測りました。
04紀元前3世紀より古いネコは、すべてヨーロッパヤマネコだった
結果ははっきりしていました。1万年以上前から紀元前3世紀までのネコ22匹は、ゲノムで見ると、すべてヨーロッパヤマネコでした。
その中には、トルコとブルガリアの農業の時代のネコ8匹が含まれていました。どれも、中東の型のミトコンドリアDNAを持つネコです。この型のDNAが、「農民がイエネコを運んだ」という説の根拠でした。ゲノムを読むと、これらもヨーロッパヤマネコでした。
チームの計算では、2種類のヤマネコの間に子が生まれたのは、遅くとも1万年以上前の、最後の氷河時代のころです。そのときに入った中東の型のミトコンドリアDNAが、ヨーロッパヤマネコの中に残り続けたと考えられます。農業の時代に、人がイエネコを運んだわけではなかったのです。

05イエネコは、ローマの時代に北アフリカから広がったらしい
イエネコの血すじを持つネコで、いちばん古いものは、オーストリアの遺跡から出ました。年代は紀元前50年から紀元80年の間です。その後、イタリアや、ドナウ川沿いのローマ軍の基地の遺跡でも、イエネコが見つかりました。イギリスでも、紀元1〜2世紀のイエネコが見つかっています。
ローマ軍とその周りの人々がネコを運んだ、という考えがあります。チームは、今回の結果がその考えに合うとしています。その後の時代の遺跡から出たイエネコも、今のイエネコと同じ血すじを受け継いでいました。
では、イエネコはどこから来たのでしょうか。ゲノムを比べると、イエネコは中東のヤマネコより、北アフリカのヤマネコに近いことが分かりました。今のイエネコは、とくにチュニジアのヤマネコに近い結果でした。
地中海のサルデーニャ島では、別の発見もありました。紀元前2世紀のネコの骨が、今のサルデーニャ島の野生のヤマネコと同じ血すじだったのです。その血すじは、北アフリカの北西部、モロッコのヤマネコに近いものでした。今の島のヤマネコは、このネコが属していた群れの子孫らしいのです。イエネコとは別に、北アフリカのヤマネコが、それより前に島へ運ばれていたと考えられます。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜ人はネコを海の向こうへ運んだのか
チームは、いくつかの理由を考えています。古代エジプトには、ネコと結びついたバステトという女神への信仰がありました。この信仰が、フェニキア人、ギリシャ人、ローマ人にも影響したかもしれません。ニワトリやダマジカのように、宗教がきっかけで運ばれた動物の例もあります。
もう1つは、船の上でネズミを退治する役目です。北アフリカのカルタゴは、地中海に広い交易の網を持っていました。エジプトは、ローマ帝国に大量の穀物を送っていました。ネコは穀物を運ぶ船に乗り、港から港へ広がったのかもしれません。どちらの理由も、まだ確かめられたわけではありません。
「エジプト説」と「チュニジア説」
昔から、ネコを最初に飼いならしたのはエジプトだと考えられてきました。今回の研究でも、ローマ時代のネコ10匹のうち8匹が、エジプトのネコのミイラと同じ型のミトコンドリアDNAを持っていました。
一方でゲノムでは、イエネコはチュニジアのヤマネコに近いという結果でした。チームは、エジプトのほかに、またはエジプトのかわりに、地中海沿いの北アフリカの西や中央のあたりもふるさとだった可能性を挙げています。決め手になるエジプトのネコのゲノムは、まだ1つもありません。比べた北アフリカと中東の今のヤマネコも、合わせて5匹だけです。
ヤマネコとイエネコは、あまりまざらなかった
イエネコがヨーロッパに来てからも、ヤマネコとはあまりまざりませんでした。2023年の別の研究では、2000年以上同じ土地でくらしてきたのに、今のイエネコの多くは、ヨーロッパヤマネコの血すじが10%もありませんでした。
今回の研究でも、ローマ時代のイエネコでヤマネコの血すじが見つかったのは、10匹のうち2匹だけでした。中世になると、ヤマネコの血すじは最大で15%ほどに増えました。チームは、森が切り開かれて畑が広がり、ヤマネコとイエネコのすみかが重なっていったためではないかと考えています。
人とヤマネコの古いつき合い
イエネコが来る前にも、ヨーロッパの人はヤマネコとかかわっていました。今回ゲノムを読んだヤマネコの多くは、人の住んでいた遺跡や、人が使った洞窟から出ています。毛皮や肉に使われたらしい骨もあります。イタリアのシチリア島では、青銅器時代のヤマネコの骨が、つり鐘の形のつぼに入った状態で見つかっています。
06まとめ
遺跡のネコの骨のゲノムを読むと、紀元前3世紀より古いネコ22匹は、すべて野生のヨーロッパヤマネコでした。イエネコの血すじがヨーロッパに現れるのは、約2000年前、ローマの時代からでした。
イエネコは、中東より北アフリカのヤマネコに近く、北アフリカから運ばれてきたらしいことも分かりました。ただし、ふるさとがエジプトなのか、チュニジアのあたりなのかは、まだ決まっていません。
ヨーロッパで「農業とともに来たイエネコ」と考えられてきた古い骨は、母方の祖先だけが中東から来た、ヨーロッパヤマネコでした。
研究カルテ
イタリア・ローマ
- 研究チーム
- イタリアのローマ・トル・ヴェルガータ大学などのチーム(責任著者クラウディオ・オットーニ)
- 調べた場所
- ヨーロッパとアナトリア(今のトルコ)の97か所の遺跡、北アフリカなどの今のヤマネコ
- 調べた動物
- イエネコと、リビアヤマネコ・ヨーロッパヤマネコ(学名 Felis catus など)
- 調べ方
- 遺跡のネコの骨225点を調べ、古代のネコ70匹分のゲノムを読んだ。37点は骨そのものの年代を測った
- 分かったこと
- 紀元前3世紀より古い骨は、すべてヨーロッパヤマネコだった。イエネコの血すじは約2000年前から現れた
- まだ分からないこと
- イエネコのふるさとが北アフリカのどこなのか。エジプトのネコのゲノムがまだない
- 論文
- Science(2025年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
When did pet cats first come to Europe? Some scientists thought they came with the first farmers. That was more than 6,000 years ago.
A team in Italy studied old cat bones from 97 places. They read the DNA inside the bones. Wildcat bones and pet cat bones look very similar. But DNA can tell them apart.
All 22 cats from before the third century BC were European wildcats. The oldest pet cat in the study was found in Austria. It lived about 2,000 years ago, in Roman times. Pet cats also lived at Roman army camps.
The DNA shows that pet cats probably came from North Africa. But we still do not know the exact place. Scientists need DNA from cats in Egypt.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many places did the cat bones come from?ネコの骨は何か所から出ましたか。
チームは、97か所から出た古いネコの骨を調べました。
Q2. What were the cats from before the third century BC?紀元前3世紀より前のネコは何でしたか。
紀元前3世紀より前のネコ22匹は、すべてヨーロッパヤマネコでした。
Q3. Where did pet cats probably come from?飼いネコは、どこから来たらしいですか。
DNAから、飼いネコは北アフリカから来たらしいと分かりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1De Martino, M. et al. (2025) The dispersal of domestic cats from North Africa to Europe around 2000 years ago. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adt2642
- 2Ottoni, C. et al. (2017) The palaeogenetics of cat dispersal in the ancient world. Nature Ecology & Evolution 論文確認済みdoi:10.1038/s41559-017-0139
- 3Baca, M. et al. (2018) Human-mediated dispersal of cats in the Neolithic Central Europe. Heredity 論文確認済みdoi:10.1038/s41437-018-0071-4
- 4Jamieson, A. et al. (2023) Limited historical admixture between European wildcats and domestic cats. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.08.031
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