野生のオオヤマネは夏の初めに冬眠に入り、11か月以上も眠り続けることがある
ブナの実がならない年、野生のオオヤマネ17匹のうち8匹が6〜7月に冬眠に入った。5匹は11か月以上眠り、最長は346日だった。

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- ブナの実がならない年、夏の初めに冬眠に入るヤマネがいた
- 5匹は11か月以上眠り続け、いちばん長い子は346日だった
- 冬眠は寒さよりも天敵から隠れるためという説がある
人に話すなら
オオヤマネっていうヨーロッパのヤマネは、ブナの実がならない年だと、夏の初めにもう冬眠に入っちゃうんだって。長い子は11か月以上、ほぼ1年ずっと眠ってたらしいよ。
読む前に予想しよう
野生のオオヤマネの中には、11か月以上冬眠し続けるものがいる
ブナの実がならない年に測ると、17匹のうち5匹が11か月以上眠っていた。最長は346日。
7月の森は、緑の葉でいっぱいです。葉や虫などの食べ物があり、動物にとってはエサに困らない季節です。ところがその森の土の中で、体を丸めて冬眠に入っているけものがいました。ヨーロッパの森にすむオオヤマネです。
オーストリアのウィーン獣医科大学のチームは、野生のオオヤマネ17匹のおなかに小さな体温計を入れ、1年間の体温を記録しました。すると、8匹が6〜7月に冬眠に入っていました。そのうち5匹は、そのまま11か月以上眠り続けました。いちばん長い1匹は、346日も冬眠していました。
冬眠は「寒くてエサがない冬を乗りこえるためのもの」と考えられがちです。けれども、夏に始まって次の年の春まで続く冬眠は、その考えでは説明しにくいものです。飼育下や囲いの中では似た例が知られていましたが、自然のエサだけで暮らす野生の動物で、11か月をこえる冬眠を確かめたのはこの研究が初めてでした。
01ブナの実がならない年に、野生のヤマネ17匹の体温を1年測った
オオヤマネは、体重100gほどのネズミの仲間です。木の上で暮らし、夜に活動します。ブナの実をよく食べ、ブナの実が少ない年には、ふつう子どもを産みません。ブナは、たくさん実をつける年と、ほとんど実をつけない年をくり返す木です。実がならない年、オオヤマネは子育てをしません。
研究の中心になったのは、フランツ・ヘルツル(Franz Hoelzl)さんとクラウディア・ビーバー(Claudia Bieber)さんです。チームは、あえてブナの実がならない2012年を選んで調べ始めました。子育てをしない年なら、夏から眠る個体が見つかりやすいと考えたからです。
舞台は、ウィーンの近くにある「ウィーンの森」です。木の6割ほどがブナの森に、130個の巣箱がかけてありました。チームは2週間ごとに巣箱を見て回り、中にいたオオヤマネをつかまえました。体重80gをこえる43匹を研究所へ運び、麻酔をかけて、おなかの中に小さな体温計を入れました。体温計は約64分ごとに体温を記録し、1年分をためておけます。手術から7日たって元気を取りもどしたヤマネは、つかまえた巣箱にもどされました。
1年ほどたってから、チームはもう一度ヤマネを探しました。見つかって体温計を取り出せたのは、43匹のうち17匹です。この17匹の体温の記録から、それぞれのヤマネがいつ眠り、いつ起きたのかを読み取りました。チームは、体温が25℃より下がって24時間以上続いたときを「冬眠に入った」と決めました。
0217匹のうち8匹が、6〜7月に冬眠に入っていた
記録を読むと、17匹の冬眠の長さは、平均で9.4か月でした。いちばん短い個体で7.8か月、いちばん長い個体で11.4か月です。同じ森の同じ年なのに、眠る長さは個体によって大きく違っていました。
17匹のうち8匹は、6月か7月に冬眠に入っていました。春に冬眠から目覚めて、まだ間もない時期です。この8匹のうち5匹は、11.0〜11.4か月眠り続けました。いちばん長かったのは大人のメスで、冬眠は346日続きました。1年365日のうち、起きていたのは3週間ほどです。
冬眠中の体温は、地面の下の土の温度とほぼ同じでした。チームは、夏の体温が深さ60cmの土の温度よりも低くなることがあった点から、ヤマネは少なくともその深さの涼しい穴で眠っていたと考えています。ただし、冬眠中もずっと眠りっぱなしではありません。1匹あたり10〜28回、体温を元にもどして数時間起きる時間がありました。起きる時間は平均5.3時間で、そのあとまた体温を下げて眠りにもどりました。
どのヤマネが早く眠ったのでしょうか。カギは春の体重でした。春に体重が重かったヤマネほど、早く冬眠に入り、長く眠りました。体重の差は、ほぼそのまま体の脂肪の量の差を表します。冬眠中のオオヤマネは何も食べないので、ためた脂肪だけで夏と冬を越さなければなりません。

03夏も起きていた組は、昼に体温を下げ、夜は40℃をこえるまで上げていた
おかしな点が1つありました。冬眠に入る日は、夏から秋にかけてばらばらに散らばってはいませんでした。7月28日までに入る組と、8月30日以降に入る組の、2つにはっきり分かれていたのです。その間の約1か月には、冬眠に入ったヤマネが1匹もいませんでした。
秋まで起きていた組も、ずっと元気に動いていたわけではありません。多くのヤマネが、昼の休んでいる時間に体温を32℃より下げていました。この短い体温低下は、平均で7時間半ほど続きました。朝8時ごろに体温が下がり始め、午後3時前に元にもどるのがふつうでした。チームは、昼間に巣箱の中で冷たくなっているヤマネを、よく見つけています。
寒くて雨の多い7月には、3匹が何日も続けて体温を下げていました。体温の記録から、地面の下にこもっていたと見られます。最も長いもので161時間、約6.7日です。エサを探しに出られない天気のとき、一時的に地下へ逃げこんでいたとチームは考えています。
8月の半ばを過ぎると、様子が変わりました。昼の体温低下が減り、夜の最高体温が約40.5℃まで上がったのです。暑い場所でもない温帯の森で、活動中の体温が40℃をこえる記録は、チームの知るかぎり初めてでした。木の上を動き回るのに多くのエネルギーを使うことや、冬眠の前に脂肪をためる必要があることと関係しているかもしれないと、チームは考えています。
04「手術のせいで早く眠ったのでは」という疑いも確かめた
この結果には、すぐに浮かぶ疑問があります。おなかに体温計を入れる手術のせいで、体が弱って早く眠ってしまったのではないか、という疑いです。チームは論文の中で、この可能性をはっきり取り上げました。
そのうえで、3つの理由から手術のせいではないと考えました。1つ目に、体温計を入れていないヤマネでも、囲いの中で夏の冬眠が以前に観察されていました。2つ目に、どのヤマネも元気を取りもどしてから森に放していました。3つ目に、早く眠ったのは体重の重い、体調のよいヤマネでした。手術で弱ったのなら、この結びつきは説明できません。
1年後にもう一度見つかった割合も比べました。体温計を入れたヤマネは43匹中17匹で、約40%です。同じ時期の、体温計を入れていないヤマネは163匹中52匹で、約32%でした。体温計を入れたヤマネのほうが、むしろ少し高い割合で生き残っていました。
それでも、この研究には限りがあります。調べたのは1つの森の、ブナの実がならない1年だけです。17匹という数も多くはありません。冬眠に入る時期が2つの組に分かれた理由も、体重だけでは説明しきれませんでした。2つの組の体重には重なりがあり、ほかの何かが関わっているはずだとチームは書いています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
寒さとエサ不足だけでは、夏の冬眠は説明できない
冬眠のいちばんの役目は、寒くエサの少ない季節にエネルギーを節約することだと考えられてきました。ところが、オオヤマネが冬眠に入る6〜7月は、森にエサがある季節です。ヘルツルさんたちのチームのトーマス・ルフ(Thomas Ruf)さんとビーバーさんは、2022年にこの問題を論文にまとめました。2人の考えでは、オオヤマネが長く眠るおもな理由は、天敵から隠れることです。オオヤマネのおもな天敵は、夜に狩りをするフクロウの仲間です。
天敵説には、いくつかの根拠があります。ヨーロッパ5か国のオオヤマネを比べた研究では、冬眠中に生き残る割合はほぼ100%でした。一方、初夏には1か月で生き残る割合が80%かそれ以下まで下がりました。初夏は、フクロウなどの天敵が子育てをして、さかんに狩りをする時期です。体温を下げてじっとしている動物は、においもほとんど出しません。1970年の古い実験では、冬眠中のネズミの仲間がいる部屋にお腹をすかせたイタチを放しても、イタチは見つけられなかったと報告されています。
野生で「ほぼ1年」を確かめた意味
オオヤマネが夏から眠れることは、以前から知られていました。2009年には同じ研究グループが、屋外の囲いの中で飼ったオオヤマネの夏の冬眠を報告しています。小さな有袋類のピグミーポッサムの仲間が、実験室で1年以上冬眠した例もあります。けれども、どちらもエサを好きなだけ食べられる条件でした。そのため、「エサが多すぎて太ったから眠っただけでは」という疑問が残っていました。今回の研究は、自然のエサだけで暮らす野生のヤマネでも11か月をこえる冬眠が起きることを示しました。北極のような厳しい場所にすむ動物でも、ここまで長い冬眠は知られていないと論文は書いています。
ほかの動物と比べると
ルフさんとビーバーさんによると、エサの実り方と冬眠がこれほど強く結びついた例は、ほかにはほとんど知られていません。北アメリカのトウブシマリスでは、木の実がない年に、地上に出てこない期間が9〜11か月に及んだという報告があります。ただしシマリスは巣穴に食べ物をたくさんためるので、その間ずっと眠っていたとは限りません。また、アメリカのアイダホ州のジリスを調べた2023年の研究は、冬眠の長さの個体差を説明する4つの説を比べました。天敵を避ける説と、オスが繁殖に有利になるよう早く起きる説がよく当てはまり、気温やエサの量の説は一部しか当てはまりませんでした。
反対の見方と、残る問い
ただし、天敵説だけですべてが決まるわけではありません。夏から長く眠れるのは、脂肪をたくさんためた個体だけでした。夏の土はまだ温かく、温かい場所での冬眠は体温をもどす回数が増えるため、エネルギーをより多く使うと考えられています。つまり、エネルギーの事情も眠り方を強くしばっています。また、ルフさんたちによると、このような極端な冬眠は、実りの多いブナが森の中心にならない地域では見られません。どこまでがヤマネ全体の性質で、どこからがブナの森という環境の結果なのかは、まだはっきりしていません。
05まとめ
ブナの実がならない年に、ウィーンの森の野生のオオヤマネ17匹の体温を1年間記録すると、8匹が6〜7月に冬眠に入っていました。そのうち5匹は11か月以上眠り続け、いちばん長いメスの冬眠は346日でした。野生の動物が自然のエサだけで暮らしながら、これほど長く冬眠すると確かめられたのは初めてです。夏の森で姿を見かけないオオヤマネは、地面の下で、もう次の春まで眠っているのかもしれません。
研究カルテ
オーストリア ウィーンの森
- 研究チーム
- オーストリアのウィーン獣医科大学のチーム(第一著者フランツ・ヘルツル)
- 調べた場所
- オーストリア・ウィーン近くの「ウィーンの森」のブナの多い森
- 調べた動物
- 野生のオオヤマネ17匹(学名 Glis glis)
- 調べ方
- おなかに小さな体温計を入れて森に放し、約1年後に回収して体温の記録を読んだ
- 分かったこと
- 8匹が6〜7月に冬眠に入り、5匹は11か月以上眠った。体重の重い個体ほど早く長く眠った
- まだ分からないこと
- 冬眠に入る時期が「7月まで」と「8月末から」の2つに分かれるしくみ
- 論文
- Journal of Comparative Physiology B(2015年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The edible dormouse is a small animal in the forests of Europe. It lives in trees and eats beech seeds. In some years, beech trees make almost no seeds.
Scientists in Austria studied wild dormice in one of those years. They put a tiny thermometer inside each animal. One year later, they got data from 17 dormice.
Eight of them started to hibernate in June or July. That is early summer, when the forest still has food. Five dormice slept for eleven months or more. One female slept for 346 days. Heavier dormice went to sleep earlier.
Why sleep in summer? Some scientists think the dormice are hiding from owls. Under the ground, they are much safer than in the trees. But only dormice with a lot of fat can do this.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. When did eight dormice start to hibernate?8匹のヤマネは、いつ冬眠を始めましたか。
8匹は、森にまだ食べ物がある6月か7月に冬眠を始めました。
Q2. How long did one female sleep?あるメスは、どのくらい眠りましたか。
いちばん長いメスは346日眠りました。
Q3. What may the dormice be hiding from?ヤマネは何から隠れているのかもしれませんか。
おもな天敵であるフクロウから隠れるためだという説があります。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Hoelzl, F. et al. (2015) How to spend the summer? Free-living dormice (Glis glis) can hibernate for 11 months in non-reproductive years. Journal of Comparative Physiology B 論文確認済みdoi:10.1007/s00360-015-0929-1
- 2Ruf, T. & Bieber, C. (2022) Why hibernate? Predator avoidance in the edible dormouse. Mammal Research 論文確認済みdoi:10.1007/s13364-022-00652-4
- 3Ruf, T. & Bieber, C. (2020) Physiological, Behavioral, and Life-History Adaptations to Environmental Fluctuations in the Edible Dormouse. Frontiers in Physiology 論文確認済みdoi:10.3389/fphys.2020.00423
- 4Allison, A. Z. T. et al. (2023) Why hibernate? Tests of four hypotheses to explain intraspecific variation in hibernation phenology. Functional Ecology 論文確認済みdoi:10.1111/1365-2435.14322
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