冬眠中のクマは動かなくても血管がつまりにくい。血小板のあるタンパク質が夏の55分の1だった

冬眠中のヒグマの血小板では、HSP47というタンパク質が夏の55分の1に減っていた。体を長く動かせない人やブタでも、同じタンパク質が減っていた。

No.224 8分で読めるえっ度 論文 2023年
雪の積もった森の土の中の巣穴で、大きなヒグマが体を丸めて眠っている。巣穴の入り口は雪でふさがれかけている。

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  1. 人は長く動かないと、足の静脈に血のかたまりができやすい
  2. 冬眠中のクマは、何か月も動かないのに血のかたまりができにくい
  3. 血小板の中のあるタンパク質が、夏の55分の1に減っていた

人に話すなら

人は長く動かないと足の血管に血のかたまりができやすいのに、冬眠中のクマはできにくいんだって。血小板の中のあるタンパク質が、夏の55分の1に減ってたらしいよ。

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読む前に予想しよう

冬眠中のヒグマの血小板では、HSP47というタンパク質が夏より大きく減っていた

長い時間、足を動かさずに同じ姿勢でいると、足の奥の静脈に血のかたまりができることがあります。そのかたまりが流れて肺の血管をふさぐと、とても危険です。エコノミークラス症候群とも呼ばれる病気です。ところがヒグマは、冬眠中に巣穴の中で何か月もほとんど動きません。それでも、足の静脈に血のかたまりはできにくいことが知られています。

ドイツのミュンヘン大学病院などの国際チームは、その理由を血液の中に探しました。スウェーデンの野生のヒグマから、夏と冬に血をとって比べたのです。すると冬眠中のクマの血小板では、HSP47というタンパク質が夏の55分の1に減っていました。同じタンパク質は、体を長く動かせない人やブタでも減っていました。

血のかたまりができにくい動物は、人の病気を防ぐヒントになります。けれども、クマの血をかためるしくみのどこが人と違うのかは、はっきりしていませんでした。チームは、調べる相手を決めずに、血小板の中のタンパク質を一度にまとめて調べました。その方法で、大きな手がかりを見つけたのです。

01何か月も動かないクマや、長くまひが続く人には、血のかたまりができにくい

人は、短い期間でも動けないと、足の奥の静脈に血のかたまり(血栓)ができやすくなります。厚生労働省は、最近手術を受けた人や、けがや骨折の治療中の人などを、特に注意が必要な人にあげています。論文によると、この病気は、体をこわしたり命を落としたりする大きな原因の1つです。

ところが、逆の例があります。野生のヒグマは、冬眠中に長いあいだ動きません。スウェーデンのヒグマでは、巣穴に入るのは10月から11月で、出てくるのは3月の終わりから5月の初めでした。それでも、ヒグマには静脈の血栓ができにくいのです。論文によると、脊髄のけがで体がまひし、長いあいだ動けない人も、静脈の血栓から守られているといいます。ミュンヘン大学の発表によると、けがの直後の時期を過ぎれば、血栓の危険は高くならないそうです。短く動けないと危ないのに、長く動けないと守られる。論文はこれを、矛盾した現象だと書いています。ただし厚生労働省は、足にまひのある人も、血栓に特に注意が必要な人にあげています。まひのある人がみんな守られているわけではありません。

この謎には、前から手がかりがありました。2018年には、スウェーデンのエーレブルー大学のチームが、野生のヒグマ13頭の血を冬眠中と夏に調べました。チームの中心は、心臓の医師のオーレ・フレーベルト(Ole Fröbert)さんです。すると冬眠中は、血小板が集まって固まる力が、夏の半分ほどになっていました。チームは、頭を少し下げたベッドで21日間寝たままでいる実験に参加した、健康な男性9人の血も調べました。こちらでは、血小板の働きにはっきりした変化はありませんでした。

02夏と冬に、スウェーデンの森で同じクマの群れから血をとった

研究を率いたのは、トビアス・ペッツォルト(Tobias Petzold)さんです。ミュンヘン大学病院の心臓の医師です。論文の第一著者の1人は、同じ病院の心臓の部門のマヌエラ・ティーネル(Manuela Thienel)さんです。チームは、スウェーデン中部の森に2回出かけました。1回は夏、もう1回は冬です。

相手は、フレーベルトさんたちが10年以上調べ続けているヒグマの群れです。クマにはGPSの発信機がついていて、居場所が分かります。チームはクマを薬で眠らせて血をとり、すぐに森へ帰しました。血は、移動式の実験室で、3〜4時間のうちに調べました。

まず調べたのは、血液の液体の部分にある、血を固める物質のしくみです。人の静脈の血栓は、ふつうこのしくみで起きます。ところが、冬眠中と夏とで、大きな違いは見つかりませんでした。そこでチームは、血液の一部をドイツに持ち帰り、血小板をくわしく調べることにしました。

冬の雪の森で、薬で眠らされたヒグマが雪の上に横たわり、そのそばで後ろ姿の人が、小さな容器を手に血をとる準備をしている。

03約2,700種のタンパク質の中で、HSP47がいちばん大きく減っていた

タンパク質を調べたのは、マティアス・マン(Matthias Mann)さんたちです。ドイツのマックス・プランク生化学研究所の研究者です。重さのわずかな違いでタンパク質を見分ける装置を使い、血小板の中のタンパク質をまとめて調べました。どのタンパク質があやしいかを、前もって決めずに調べるやり方です。

見つかったタンパク質は、約2,700種でした。夏と比べると、冬眠中は71種が増え、80種が減っていました。その中で、いちばん大きく変わっていたのがHSP47です。HSP47は「熱ショックタンパク質47」の略で、冬眠中は夏の55分の1に減っていました。

血小板は、血を止めるだけでなく、炎症にかかわる白血球などの免疫の細胞とも結びつきます。冬眠中のクマでは、血小板と免疫の細胞の結びつきがゆっくりになっていました。ペッツォルトさんによると、HSP47はそれだけで炎症にかかわる細胞を活発にする力があります。チームは、HSP47が減ると、血小板と免疫の細胞が結びつきにくくなり、血栓ができにくくなると考えています。

論文によると、HSP47が減ると、白血球の一種である好中球が「好中球細胞外トラップ」を作りにくくなりました。これは、好中球がDNAとタンパク質でできた網のような繊維を外に出すものです。本来は細菌をとらえるしくみですが、血を固めるきっかけにもなります。

04体を長く動かせない人やブタでも、HSP47は減っていた

チームは、同じことが人にもあてはまるかを調べました。対象は、脊髄のけがで体がまひした人と、健康なボランティアです。ボランティアは、ドイツ航空宇宙センターとアメリカ航空宇宙局(NASA)の実験で、3週間ベッドで寝たまま過ごしました。どちらでも、クマと同じように、血小板と免疫の細胞の結びつきが弱まるしくみが見つかりました。

HSP47が減る変化は、長く動けない状態にあるブタでも見られました。さらにチームは、HSP47を減らしたり、なくしたりしたマウスでも、血栓ができにくくなることを確かめました。クマから人、ブタ、マウスまで、ちがう種の哺乳類に共通するしくみがあるらしいのです。

この発見から、チームは新しい薬の可能性を考えています。けがや病気で急に動けなくなった人で、HSP47の働きをおさえれば、血栓を防げるかもしれません。HSP47の働きを止める小さな物質は、実験用にはすでにあります。でも、人に使えるものではありません。チームは、人に使える物質を探していくとしています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

冬眠する動物は、血を固めるしくみを全体にゆるめている

2023年、オランダのフローニンゲン大学医療センターのエドウィン・デ・フライ(Edwin de Vrij)さんたちは、冬眠と血の固まり方の研究をまとめました。冬眠する動物では、血小板の数や、血を固める物質の量が一時的に減ることが、何種類もの動物で知られています。血小板を血管の壁にくっつける物質(フォン・ヴィレブランド因子)も、クマやジリス、ハムスターの冬眠中に減っています。ただし、すべてが同じ向きではありません。冬眠中のクマでは、血が固まるのをおさえる物質の1つ(アンチトロンビン)も減っていて、その理由はまだ分かっていません。血のかたまりがとけるときにできる物質も、クマやハムスター、ジリスの冬眠中には増えていません。これは、冬眠中に血のかたまりがあまりできていないことと合う結果です。冬眠からさめると、血の固まり方は元にもどります。

ジリスでは、HSP47は減っていなかった

デ・フライさんたちは、気になる違いも紹介しています。冬眠するジリスの一種(ジュウサンセンジリス)の血小板を調べた研究では、HSP47の量は冬眠のどの時期でも変わっていませんでした。クマの冬眠では、体温は37℃から32℃ほどにしか下がりません。小さなジリスは、もっと深く冬眠します。クマは体が大きく、血小板の数もあまり減りません。そのためクマには、血栓を防ぐしくみがもう1つ必要なのかもしれない、とデ・フライさんたちは考えています。HSP47の減り方が、冬眠する動物すべてに共通するわけではないのです。

ベッドで寝ていた人の結果は、研究によって見え方が違う

2018年のフレーベルトさんたちの研究では、21日間寝たままでいた男性9人の血小板の働きに、はっきりした変化は見られませんでした。一方、今回の研究では、3週間寝たままでいた人で、血小板と免疫の細胞の結びつきが弱まるしくみが見つかりました。2つの研究は、測ったものが違います。前の研究は血小板が集まる力を、今回の研究は血小板の中のタンパク質や免疫の細胞との結びつきを調べました。同じ「寝たきり」でも、どこを見るかで違う答えが出ることがあります。

研究方法の工夫と限界

今回の方法の強みは、調べる相手を前もって決めなかったことです。血を固める物質の量だけを調べていたら、HSP47にはたどりつけなかったかもしれません。一方で、今回クマの血をとったのは、夏と冬の2回の調査だけです。HSP47を減らすと本当に人の血栓が防げるのか、ほかの体の働きに影響はないのかは、これから確かめる必要があります。

05まとめ

冬眠中のヒグマは、何か月もほとんど動かないのに、血栓ができにくいことが知られています。スウェーデンの野生のヒグマの血小板を夏と冬で比べると、HSP47というタンパク質が冬眠中に55分の1に減っていました。同じ変化は、長く体を動かせない人やブタでも見られました。ただ、薬になるのはまだ先の話です。厚生労働省は、長く同じ姿勢でいるときは、1時間に1度、かかとの上げ下げを20〜30回ほどするようすすめています。

RESEARCH FILE

研究カルテ

スウェーデン 中部

研究チーム
ドイツのミュンヘン大学病院(トビアス・ペッツォルト)やマックス・プランク生化学研究所などの国際チーム
調べた場所
スウェーデン中部の森の野生のヒグマ、ドイツの研究室
調べた動物
野生のヒグマ(学名 Ursus arctos)。人やブタ、マウスでも確かめた
調べ方
同じクマの群れから夏と冬に血をとり、血小板の中のタンパク質を一度に約2,700種調べた
分かったこと
冬眠中はHSP47が夏の55分の1に減り、血小板と免疫の細胞が結びつきにくくなっていた
まだ分からないこと
HSP47をおさえる薬で、人の血栓を安全に防げるか。ほかの冬眠する動物でも同じか
論文
Science(2023年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Why Sleeping Bears Rarely Get Blood Clots

When people sit still for a long time, blood clots can form in their legs. This can be very dangerous. Brown bears sleep in their dens for months in winter. They hardly move, but they rarely get blood clots.

Scientists from Germany went to a forest in Sweden. They took blood from wild bears in summer and in winter. They studied about 2,700 proteins in platelets, a part of the blood.

One protein was very different. Its name is HSP47. In winter, the bears had only one fifty-fifth of the summer amount. The scientists found the same change in some people who could not move for a long time. They also found it in pigs that could not move much.

Someday, this may help doctors stop blood clots in sick people. But there is no medicine for people yet. Until then, move your feet often on a long trip.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the scientists take blood from bears?研究者たちはどこでクマの血をとりましたか。

Q2. What happened to HSP47 in winter?冬になると、HSP47はどうなりましたか。

Q3. Which animal also showed the same change?同じ変化が見られた動物はどれですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Thienel, M. et al. (2023) Immobility-associated thromboprotection is conserved across mammalian species from bear to human. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.abo5044
  2. 2LMU Munich(2023)プレスリリース「Hibernation of brown bears: clues to protect against thrombosis」lmu.de/en/about-lmu/structure/central-university-administrat
  3. 3Arinell, K. et al. (2018) Physical inactivity and platelet function in humans and brown bears: A comparative study. Platelets 論文確認済みdoi:10.1080/09537104.2017.1336530
  4. 4de Vrij, E. L. et al. (2023) Hibernation and hemostasis. Frontiers in Physiology 論文確認済みdoi:10.3389/fphys.2023.1207003
  5. 5Evans, A. L. et al. (2016) Drivers of hibernation in the brown bear. Frontiers in Zoology 論文確認済みdoi:10.1186/s12983-016-0140-6
  6. 6厚生労働省「深部静脈血栓症/肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の予防Q&A」mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/dl/disaster-02.pdf

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい