デンキウナギの電気を浴びせると、水にとかした遺伝子が別の魚の稚魚の約5%に入った

光る遺伝子をとかした水に稚魚を入れ、デンキウナギの放電を浴びせた。すると生きのびた稚魚の約5%で、体の表面の細胞が緑に光った。

No.223 8分で読めるえっ度 論文 2024年
暗い水槽の中で、細長い体のデンキウナギ(背びれはなく、おなか側に長いひれが1本ある)が大きく口を開けて、エサの金魚にかみつこうとしている。そのすぐそばに、小さな透明の容器が沈めてある。

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  1. デンキウナギが獲物をおそうときの電気を、稚魚に浴びせた
  2. 生きのびた稚魚の約5%で、遺伝子が細胞に入って光った
  3. 自然の川でも起きているのかは、まだ分からない

人に話すなら

デンキウナギの電気を浴びせたら、水にとかした遺伝子が近くの魚の稚魚の細胞に入ったんだって。研究室で使う遺伝子の入れ方と同じことが、魚の電気でも起きたらしいよ。

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デンキウナギの電気を浴びせた実験で、遺伝子が入った稚魚は半分以上だった

生物の研究室には、電気で細胞に遺伝子を入れる機械があります。細胞に短く強い電気をかけると、細胞の膜に小さな穴があきます。そのすきに、まわりの液にとかしたDNAが細胞の中に入りこむのです。この方法は、実験室の中だけのものだと考えられてきました。

では、自然の中にも、同じくらい強い電気を出すものがいたらどうでしょう。名古屋大学のチームは、デンキウナギに目をつけました。光る遺伝子をとかした水に魚の稚魚を入れ、デンキウナギの放電を浴びせたのです。すると、生きのびた稚魚の約5%で、体の表面の細胞が緑色に光りました。遺伝子が細胞の中に入って働いたしるしだと、チームは考えています。

デンキウナギは、南アメリカのアマゾン川などにすむ、電気を出す魚です。強い電気は、獲物をとらえたり、身を守ったりするための武器だと考えられてきました。その電気が、まわりの生き物の細胞に遺伝子を運ぶかもしれない。名古屋大学の発表によると、その力があることを実験で示したのは、これが初めてです。

01新幹線の中で思いついた考えを、研究室の水槽で試した

研究を率いたのは、名古屋大学の飯田敦夫さんです。名古屋大学の発表によると、始まりは2020年6月19日でした。飯田さんは、新幹線で家に帰る途中に、このアイデアを思いつきました。すぐに研究室の教授にメールで伝えると、「面白そうだから、やってみればいい」という返事がきたそうです。

飯田さんの考えはこうです。ゼブラフィッシュという魚の胚に機械で遺伝子を入れるときの電圧は、5〜20ボルトほどです。デンキウナギは、それよりずっと高い電圧を出します。アマゾン川の水には、生き物から出たDNAのかけらがただよっています。そしてデンキウナギのまわりには、たくさんの生き物がいます。電源・DNA・受け取る細胞の3つが、川の中にそろっているのです。

本当なら、アマゾン川で調べたいところです。でも、当時はコロナ禍で、海外での調査の計画は立てにくい時期でした。そこでチームは、研究室でデンキウナギを飼って確かめることにしました。2021年に、当時学部生だった榊晋太郎さんの卒業研究として実験が始まりました。

02金魚をおそうときの電気を、稚魚の入った容器に浴びせた

チームが用意したのは、全長60cmほどのデンキウナギ1匹です。実験では、約50Lの水を入れた水槽にデンキウナギを移しました。デンキウナギは、獲物をおそうときに強い電気を出します。そこで、金魚をクリップで電極の先に固定し、エサとして食べさせました。こうすると、デンキウナギの頭が毎回、電極のすぐ近くにきます。

電気を浴びせる相手には、ゼブラフィッシュの稚魚を選びました。大人でも全長5cmほどの、研究によく使われる淡水魚です。入れる遺伝子には、GFPを選びました。GFPは、緑色に光るタンパク質です。この遺伝子が細胞に入って働けば、細胞が緑色に光ります。

稚魚は、まず遺伝子をとかした液に一晩つけておきました。次に、電気を通す小さな容器に、同じ液と稚魚を最大10匹入れました。この容器を電極の先につけて、デンキウナギのいる水槽に沈めます。そして金魚を与え、デンキウナギが食べ終わるまでの約30秒間、放電を浴びせました。

デンキウナギの電気も記録しました。447回分の電気を調べると、1回の電圧は平均184.6ボルトでした。1回1回は、1000分の1秒ほどの、とても短い電気です。かみつくたびに、この短い電気が何百回も続きます。30秒の間に浴びせた回数は、平均で1,000〜1,500回ほどでした。形も機械とは違いました。機械の電気は四角い形の波ですが、デンキウナギの電気はつりがねのような形の波でした。

顕微鏡でのぞいた、体のすき通ったゼブラフィッシュの稚魚。背中の皮ふや目のまわりに、緑色に光る細胞がいくつか点々と集まっている。

03生きのびた稚魚468匹のうち25匹で、細胞が緑色に光った

最初は、受精して間もない卵や、受精後1〜2日の胚を使おうとしました。ところが、電気を浴びるなどすると、栄養をためた黄身の袋が破れ、生きのびられませんでした。そこで、受精後7日たち、体のしっかりした稚魚に切りかえました。

実験は15回くり返し、1回に20〜49匹の稚魚を使いました。1日後、すべての稚魚を顕微鏡で調べました。調べる人には、どの稚魚がどの条件だったかを知らせませんでした。思いこみで光の数え方が変わらないようにするためです。

電気とDNAの両方を与えた稚魚は、532匹のうち468匹(88%)が1日後も生きていました。そのうち25匹(5.3%)で、緑色に光る細胞のかたまりが見つかりました。光っていたのは、背中の皮ふや、黄身の表面、目や頭のまわりなど、体の表面の細胞でした。

チームは、比べるための条件も用意しました。電気もDNAもない稚魚では、光る稚魚は0%でした。DNAだけの稚魚では平均0.5%、電気だけの稚魚では平均2.3%で、光るものが数えられました。何もしない稚魚とのあいだで、統計ではっきりした差が出たのは、電気とDNAの両方を与えた稚魚(平均4.8%)だけでした。

04自然の川でも同じことが起きているのかは、まだ分からない

この結果から、自然の川で遺伝子が生き物の間を移っている、とまでは言えません。チームも、論文の題名に「実験室の条件で」と書き、自然の中での意味は直接は示していないとしています。

まず、遺伝子が入ったのは体の表面のごく一部の細胞でした。卵や精子のもとになる細胞に入ったかは、調べていません。名古屋大学の発表によると、細胞に入ったDNAは、時間がたつと消えてしまうことが多いそうです。子どもに受けつがれるには、染色体のDNAに組みこまれる必要があります。

チームは、大腸菌やゾウリムシでも試しました。どちらも1つの細胞で生き、分裂してふえます。そのため、入った遺伝子が次の世代に伝わるかを確かめやすいのです。けれども、どちらでも遺伝子が入った結果は得られませんでした。機械で大腸菌に遺伝子を入れるときは、約2,000ボルトの電気を使うのがふつうです。チームは、大腸菌にはデンキウナギの電気では力が足りなかったのだろうと考えています。

ほかにも限りがあります。デンキウナギの動き方によって、容器までの距離や電気の当たり方は毎回少しずつ違いました。また、電気だけ、DNAだけの稚魚でも、光る細胞がまれに数えられています。電気で傷ついた細胞が自分で光った可能性や、電気がなくてもDNAが自然に入った可能性が考えられています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

デンキウナギの電気は、もともと獲物の筋肉を動かす武器

アメリカのバンダービルト大学のケネス・カタニア(Kenneth Catania)さんは、2014年にデンキウナギの狩りのしかたを調べました。デンキウナギの強い電気は、獲物の神経を外から動かし、筋肉を勝手に縮ませます。逃げる魚には、電気を速く連続で浴びせて全身の筋肉をこわばらせ、動けなくします。かくれた獲物には2〜3回の電気を出し、獲物の体をぴくっと動かして居場所をさぐります。今回の実験の電気も、この狩りのときの電気です。

860ボルトの記録と、3種に分かれたデンキウナギ

デンキウナギは、18世紀に名前がついてから約250年のあいだ、1種だと考えられてきました。2019年、アメリカのスミソニアン協会国立自然史博物館のデイビッド・デ・サンタナ(C. David de Santana)さんたちは、体の形とDNAを調べ、デンキウナギを3種に分けました。そして、新しく名づけた種の1つ(学名 Electrophorus voltai)の全長約1.2mの個体で、860ボルトの放電を記録しました。それまで知られていた650ボルトを大きくこえる値です。今回の実験に使ったデンキウナギは、3種のどれかまでは分かっていません。

自然の中でも、遺伝子は生き物の間を移ってきた

本来、遺伝子は親から子へ受けつがれます。ところが、ちがう個体やちがう種の間で遺伝子が移ることもあります。これを「遺伝子の水平伝播」と呼びます。細菌から背骨のある動物まで、多くの生き物のDNAに、そのあとが残っています。飯田さんは2024年の解説で、カマキリに寄生するハリガネムシが、カマキリの遺伝子を取りこんでいたという例を紹介しています。ただ、DNAが移る場面そのものを見た例はなく、何が原因かも分かっていません。電気が原因になるという考えは、前からありました。2001年、フランスのリヨン第1大学のチームは、実験室で人工のかみなりを土に流しました。すると、土に混ぜておいた大腸菌に、遺伝子が入りました。2013年には、かみなりが自然の中で遺伝子を移しているかもしれない、という考えもまとめられました。でも、自然の中で本当に起きているところは、確かめられていません。

「起こりうる」と「起きている」は違う

飯田さんは、自然の中で同じことが起きるかどうかは、デンキウナギの大きさ(電気の強さ)、水の中のDNAの濃さ、相手が浴びる電気の強さ、相手の生き物の性質に大きく左右されると書いています。アマゾン川の水からも、魚などのDNAが取り出されています。ただ、川の水にとけているDNAの量が、今回の実験の液と比べてどのくらいなのかは、この研究では調べていません。飯田さんは、広い自然の中で長い時間をかければ、たまに起こることはあるかもしれないと書いています。そのうえで、生き物の進化や自然にどれほど影響するかを知るには、もっといろいろな面から確かめる必要があるとしています。

05「思いつき」を試してみることから始まった

飯田さんは2024年の解説で、自分は遺伝子の水平伝播の専門家ではなく、どちらかと言えば魚好きの目で思いついたと書いています。新幹線の中のひらめきが、教授の一言で実験になり、学生の卒業研究として形になりました。電気を出す生き物と遺伝子という、これまで結びつけられてこなかった2つをつないだ研究です。

06まとめ

名古屋大学のチームは、デンキウナギが金魚をおそうときの電気を、光る遺伝子をとかした水の中の稚魚に浴びせました。生きのびた稚魚の約5%で、体の表面の細胞が緑色に光りました。実験室で使う遺伝子の入れ方と同じことが、魚の電気でも起こりうると示した研究です。ただし、自然の川で起きているかは分かっていません。実験のデンキウナギは、金魚1匹を食べる30秒ほどの間に、1,000回をこえる電気を出していました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

日本 愛知県 名古屋市

研究チーム
名古屋大学の飯田敦夫さん、榊晋太郎さんたちと京都大学のチーム
調べた場所
名古屋大学の研究室の水槽
調べた動物
研究室で飼ったデンキウナギ(Electrophorus 属の1匹)と、ゼブラフィッシュの稚魚
調べ方
光る遺伝子をとかした水に稚魚を入れ、デンキウナギが金魚をおそうときの放電を浴びせた
分かったこと
生きのびた稚魚468匹のうち25匹(約5%)で、体の表面の細胞が緑に光った
まだ分からないこと
自然の川で同じことが起きるのか。入った遺伝子が子に受けつがれるのか
論文
PeerJ(2023年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

An Electric Eel Helped Put Genes into Baby Fish

In a lab, scientists can put genes into cells with electricity. A short, strong shock makes tiny holes in the cells. Then DNA in the water can go inside.

Electric eels live in rivers in South America. They use strong electricity to catch food. Scientists at Nagoya University had a new idea. Maybe an eel can do the same thing as the machine.

They put baby zebrafish in water with a gene that makes cells glow. Then they gave a goldfish to the eel. The eel attacked it with electricity for about 30 seconds. After one day, 25 of 468 baby fish had green cells.

This was only a lab test. The gene went into a few cells on the skin and other parts of the body surface. We do not know if this happens in real rivers.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where do electric eels live?デンキウナギはどこにすんでいますか。

Q2. How many baby fish had green cells?緑色に光る細胞があった稚魚は何匹でしたか。

Q3. What do we still not know?まだ分かっていないことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Sakaki, S. et al. (2023) Electric organ discharge from electric eel facilitates DNA transformation into teleost larvae in laboratory conditions. PeerJ 論文確認済みdoi:10.7717/peerj.16596
  2. 2名古屋大学(2023)プレスリリース「デンキウナギの放電が細胞への遺伝子導入を促進する」nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/12/post-594.html
  3. 3Iida, A. (2024) DNA Transformation Driven by Electric Organ Discharge from Electric Eel(デンキウナギ放電は遺伝子の伝播を起こすか). Seibutsu Butsuri 論文確認済みdoi:10.2142/biophys.64.266
  4. 4de Santana, C. D. et al. (2019) Unexpected species diversity in electric eels with a description of the strongest living bioelectricity generator. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-019-11690-z
  5. 5Catania, K. (2014) The shocking predatory strike of the electric eel. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1260807
  6. 6Demanèche, S. et al. (2001) Laboratory-scale evidence for lightning-mediated gene transfer in soil. Applied and Environmental Microbiology 論文確認済みdoi:10.1128/AEM.67.8.3440-3444.2001

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい