海底を6本の「脚」で歩く魚シーロビン。一部の種は脚の先で、砂の中のエサを味見していた
海底を6本の脚で歩く魚シーロビン。一部の種は脚の先の突起に味の受容体を持ち、砂にうまった貝を脚で探り当てた。突起のない種は掘らなかった。

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- シーロビンは、胸びれが分かれてできた6本の脚で海底を歩く
- 一部の種は、脚の先の突起で、砂にうまったエサの味を感じていた
- 突起は、近い仲間の小さなグループにしかない新しい器官だった
人に話すなら
シーロビンっていう魚、胸びれが分かれた6本の脚で海の底を歩くんだって。しかも一部の種は、その脚の先で砂の中のエサの味がわかって、掘り当てて食べるらしいよ。舌と同じ種類の味のセンサーが脚にあるんだって。
読む前に予想しよう
シーロビンという魚の一部の種は、脚の先で砂の中のエサの味を感じ取れる
脚の先の突起に味の受容体があり、砂にうめた貝を脚で探して掘り当てた。
海の底を、6本の細い脚でちょこちょこと歩く魚がいます。ホウボウ科のシーロビンという魚です。その脚は、胸びれの一部が分かれてできたものです。シーロビンの一部の種は、この脚の先で、砂の中にうまったエサの「味」を感じ取っていました。
アメリカのハーバード大学とスタンフォード大学などのチームは、2024年に2本の論文を発表しました。1本目の論文は、ノーザン・シーロビンという種の脚の先にびっしり並ぶ、小さな突起を調べたものです。突起には、触れたものを感じる神経が集まり、口の中で味を感じるときと同じ種類の受容体がありました。この種の脚は、突起のない近い種の脚より、アミノ酸に約100倍敏感でした。
動物の体に、まったく新しい器官がどうやって生まれるのかは、生物学の大きななぞの一つです。シーロビンは、近い種の間で、突起がある種とない種に分かれています。チームはそこに目をつけ、新しい感覚の器官ができるしくみを、行動から遺伝子まで調べました。
01砂にうめた貝を、シーロビンは脚で探り当てた
研究の中心になったのは、ハーバード大学のコーリー・アラード(Corey Allard)さんとニコラス・ベローノ(Nicholas Bellono)さん、スタンフォード大学のデビッド・キングスリー(David Kingsley)さんたちです。使ったのは、アメリカのウッズホールにある海洋生物学研究所などから届いた、野生のシーロビンです。
シーロビンが砂の中のエサを見つけるという話は、釣りをする人の間でよく語られていました。けれども、実験で確かめた人はいませんでした。そこでチームは、水そうの砂の中に、ムール貝などをうめました。目では見えないようにしてあります。
ノーザン・シーロビンは、泳ぐことと歩くことを短くくり返しました。歩きながら、脚で砂の表面を引っかくような動きを見せました。そして、うめた貝をきちんと見つけて掘り出しました。貝をすりつぶした汁を入れたカプセルも見つけましたが、海水だけを入れたカプセルは掘りませんでした。目で見ているのではなく、水にとけ出した物質を手がかりにしていたのです。
次に、脚につながる神経の電気の信号を測りました。脚の先は、触れられることによく反応しました。また、貝の汁や、魚がよく感じ取るアミノ酸にも反応しました。アミノ酸は、たんぱく質のもとになる物質です。脚が反応した物質を1種類だけ入れたカプセルも、シーロビンは砂の中から見つけ出しました。ただし、貝を深くうめるほど、見つける割合は大きく下がりました。
02たまたま捕まえた別の種は、目の前のエサしか食べなかった
実験の途中で、チームは思いがけず、別の種のシーロビンを捕まえました。ストライプド・シーロビンという種で、こちらにも脚があります。ところが、この種は、砂にうめた貝やイカ、カニを一つも見つけられませんでした。同じエサでも、目に見えるところに置けば食べました。脚は、歩くことと、見えているエサをつつくことに使っていたのです。
2つの種の脚を比べると、形がはっきり違いました。よく掘るノーザン・シーロビンの脚の先は、シャベルのように平たく、小さな突起でおおわれていました。この突起は、舌や腸の表面に見られる突起と似たつくりです。掘らない種の脚は棒のような形で、突起はなく、かわりに幅の広い、低い盛り上がりがありました。
脚の感じ方も違いました。強く押したときは、どちらの種の脚も反応しました。けれども、軽く触れたときに反応したのは、突起のあるノーザン・シーロビンだけでした。味の違いはもっと大きく、ノーザン・シーロビンの脚は、アミノ酸に約100倍敏感でした。掘らない種の脚は、ほとんどのアミノ酸に反応しませんでした。
03脚の先の突起に、舌と同じ「味の受容体」があった
では、脚はどのしくみで味を感じているのでしょうか。チームは、脚の付け根と先の部分で、どんな遺伝子が働いているかを比べました。すると、付け根に比べて脚の先の表面で働きが最も大きく増えていた受容体の遺伝子は、「T1R3」という味の受容体でした。T1R3は、ふつうは口の中の味を感じる細胞で、T1R1やT1R2と組になって働きます。
T1R3の遺伝子は、突起の先の表面の細胞で働いていました。T1R2も、少ない量ですが働いていました。一方、掘らない種の脚では、味の受容体は見つかりませんでした。さらに、人の培養細胞にノーザン・シーロビンのT1R2とT1R3を作らせると、掘る種の脚が感じ取るアミノ酸に反応しました。
触れたものを感じるのは、脚の神経そのものでした。脚の神経の細胞を取り出して調べると、押されることや刺激の強い物質には反応しました。けれども、アミノ酸には反応しませんでした。触る感覚は神経が、味の感覚は突起の表面の細胞が受け持っていたのです。チームは、味を感じる新しい種類の細胞が、脚の表面に生まれたのだと考えています。

04突起ができる時期と、掘り始める時期が重なっていた
チームは、突起が本当に掘る行動に必要なのかを、3つの方法で確かめました。1つめは、子どもの成長を見ることです。シーロビンは卵からかえったとき、脚がありません。水中をただよって暮らし、海底に下りるころ、胸びれから脚が分かれます。研究室で育てると、ノーザン・シーロビンの脚には、受精から5週間ほどは突起がありませんでした。そして、突起ができるころに、砂の中のエサを掘り始めました。
2つめは、2つの種のかけ合わせです。掘るノーザン・シーロビンのオスと、掘らないストライプド・シーロビンのメスから、子どもが生まれました。その子どもの脚には、掘る親とよく似た突起がありました。子どもはアミノ酸によく反応し、砂の中のエサもよく掘り当てました。
3つめは、世界のシーロビンの比較です。博物館の標本で、たくさんの種の脚を調べました。突起があったのは、ノーザン・シーロビンに最も近い、小さなグループの種だけでした。多くの種の脚は、ひれのすじに近い棒のような形でした。さらに、突起のある種とない種を1種ずつ取り寄せて調べました。突起のある種だけが、アミノ酸に反応し、砂の中のエサを掘り当てました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
脚をつくる遺伝子は、人の腕の骨にもかかわる古い遺伝子だった
同じチームの2本目の論文は、脚ができるしくみを遺伝子から調べました。チームは、脚ができる時期の胸びれで強く働く遺伝子を探し、「tbx3a」という遺伝子に目をつけました。tbx3aは、体の形を決める、古くからある遺伝子の一つです。人でも、この仲間の遺伝子に変化があると、腕の小指側の骨などに変化が出ることが知られています。
チームは、ゲノム編集という、遺伝子を狙って書きかえる方法でtbx3aを働かなくしました。すると、脚の数が減ったり増えたりしたほか、短い脚ができました。その短い脚は、ふつうのひれのすじに近い形でした。脚の遺伝子の働き方も、胸びれの働き方に近くなっていました。tbx3aを働かなくした魚では、突起や、脚とつながる脊髄のふくらみもうまくできず、大人になってからの掘る行動にも影響が出ました。新しい器官は、まったく新しい遺伝子から生まれたのではなく、古い遺伝子の使い方が変わって生まれたと考えられます。
「脚」は、魚の中で何度も別々に生まれた
シーロビンは、オコゼの仲間などを含む大きなグループに入ります。このグループの中では、胸びれが分かれた脚が、少なくとも3回別々に生まれたと考えられています。シーロビンのほかに、ハチという魚や、オニオコゼの仲間にも、似た脚があります。
脚はどんな順番で進化したのか
チームは、次のような順番を考えています。最初に、ひれのすじが分かれて、歩くための脚になった。次に、脚が少しずつ感覚を持ち、見えているエサを探るのに使われた。最後に、一部の種で突起ができ、砂の中のエサを探れるようになった。ただし、これはチームの考えで、今後確かめる必要があります。
この研究の限界
実験の多くは、研究室の水そうで行われました。野生の海で、シーロビンがどれだけ脚の味覚を使っているかは、まだ分かっていません。また、成長の観察で分かったのは、突起ができる時期と掘り始める時期が重なることです。突起だけが掘る行動を生んでいるとは、この観察だけでは言い切れません。チームも、突起が掘る行動に必要だという考えを「支持する結果」という言い方にとどめています。
05まとめ
シーロビンは、胸びれが分かれてできた6本の脚で海底を歩く魚です。ノーザン・シーロビンの脚の先の突起には、口の中と同じ種類の味の受容体があり、砂にうまった貝を脚で探り当てていました。突起があるのは近い仲間の小さなグループだけで、突起のない種は砂の中のエサを掘りませんでした。この魚は、歩くための脚で、足元の砂の中の味まで感じ取っていたのです。
研究カルテ
アメリカ マサチューセッツ州ケンブリッジ
- 研究チーム
- アメリカのハーバード大学とスタンフォード大学などのチーム(第一著者コーリー・アラード)
- 調べた場所
- アメリカの大学の研究室など(魚はウッズホールの海洋生物学研究所などから入手)
- 調べた動物
- ノーザン・シーロビンなど、ホウボウ科のシーロビン4種と博物館の標本(学名 Prionotus carolinus ほか)
- 調べ方
- 砂にエサをうめて掘るかを見て、脚の神経の反応や、突起にある受容体を調べた。種どうしのかけ合わせも行った
- 分かったこと
- 掘る種の脚の先の突起には味の受容体があり、砂の中のエサを脚で探り当てていた
- まだ分からないこと
- 突起がどのような順番で進化したのか。野生の海で、脚の味覚をどれだけ使っているのか
- 論文
- Current Biology(2024年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Sea robins are fish that walk on the sea floor. They have six thin legs under their bodies. The legs grew from parts of their side fins.
Scientists hid mussels under the sand in a tank. One kind of sea robin scratched the sand with its legs. Then it dug up the mussels and ate them. Another kind did not find the hidden food.
The scientists looked closely at the legs. The digging fish had many small bumps on the ends of their legs. The bumps had taste receptors, like the ones in a mouth. So these fish can taste food in the sand with their legs.
Only a small group of sea robins have these bumps. The study helps us learn how a new body part can appear in evolution.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many legs does a sea robin have?シーロビンには脚が何本ありますか。
シーロビンには、左右3本ずつ、合わせて6本の脚があります。
Q2. What did the scientists hide under the sand?研究者たちは、砂の下に何をかくしましたか。
水そうの砂の下にムール貝をかくし、シーロビンが見つけられるかを調べました。
Q3. What was on the small bumps of the legs?脚の小さな突起には、何がありましたか。
突起には、口の中にあるものと同じ種類の味の受容体がありました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Allard, C. A. H. et al. (2024) Evolution of novel sensory organs in fish with legs. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.08.014
- 2Herbert, A. L. et al. (2024) Ancient developmental genes underlie evolutionary novelties in walking fish. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.08.042
- 3Country, M. W. (2024) Northern sea robins evolved legs with a sense of taste. Journal of Experimental Biology 論文確認済みdoi:10.1242/jeb.246634
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