2つのハリケーンを生き残ったトカゲは、嵐の前より指先が大きく後ろ足が短かった

島のトカゲを測った直後に2つのハリケーンが来た。嵐のあとに残ったトカゲは、指先のパッドが大きく、後ろ足が短かった。

No.205 8分で読めるえっ度 論文 2026年
強い風で木々が大きくしなる中、緑がかった茶色の小さなアノールトカゲが、細い枝に指先のパッドでしっかりしがみついている。体を枝の風下側に寄せ、後ろ足が風にあおられている。

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  1. 嵐の前と後で、島のトカゲの体つきが変わっていた
  2. 生き残ったのは、指先のパッドが大きく後ろ足が短いトカゲ
  3. 嵐のあとに生まれたとみられる子どもも、大きな指先だった

人に話すなら

カリブ海の島でトカゲを測り終えた直後に、巨大ハリケーンが2つ来たんだって。測り直したら、生き残りは指先が大きくて後ろ足が短かったらしいよ。

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ハリケーンのあと、島のトカゲは後ろ足が長いものが多くなった

2017年9月4日、カリブ海の小さな2つの島で、トカゲの調査が終わりました。研究者たちは、捕まえたトカゲの指先や足の長さを1匹ずつ測り、島をあとにしました。その4日後、巨大なハリケーン「イルマ」が島を直撃しました。2週間後には、ハリケーン「マリア」も島をかすめていきました。

研究チームは嵐のあとに島へもどり、同じ方法でトカゲを測り直しました。最初の調査から、およそ6週間後のことです。すると、嵐を生きのびたトカゲたちは、嵐の前のトカゲたちより、指先のパッドが大きく、後ろ足が短めでした。

ハリケーンで多くの動物が死ぬことは、前から知られていました。けれども、嵐が「どんな体の動物を生き残らせるか」を選んでいる証拠は、それまでありませんでした。嵐の直前の記録がそろっている場所など、ほとんどないからです。この島には、たまたまその記録がありました。

01調査を終えた数日後、2つのハリケーンが島を直撃した

舞台は、カリブ海のタークス・カイコス諸島にある、パイン島とウォーター島です。どちらも広さ数百ヘクタールの平らな島で、高さ1〜3mほどの低い木やしげみにおおわれています。

この島には、アノールトカゲの一種がたくさんすんでいます。大人でも、頭から胴の長さが4〜6.5cmほどの小さなトカゲです。ふだんは、地面から1.5mより低い細い枝にとまっています。

2017年、この2つの島では、外来のネズミを取り除く計画が立てられていました。アメリカのハーバード大学のコリン・ドナヒュー(Colin Donihue)さんたちは、ネズミがいなくなる前のトカゲの様子を記録するために島を訪れました。8月28日から9月4日まで、2つの島でトカゲを捕まえて体を測りました。

そして9月8日、イルマが島を直撃しました。9月22日には、マリアが島をかすめました。

026週間後、生き残ったトカゲは嵐の前より指先が大きく、後ろ足が短かった

チームは10月16日から20日にかけて、2つの島にもどりました。嵐の前と同じ道を歩き、同じ方法でトカゲを捕まえて測りました。

アノールトカゲの指の裏には、枝や葉に貼りつくためのパッドがあります。チームは、右の前足と後ろ足をカメラで大きく写し、いちばん長い指のパッドの面積を測りました。足の骨の長さは、同じ研究者がノギスという道具で測りました。

嵐の前と後のトカゲを比べると、はっきりした違いが出ました。嵐のあとのトカゲは、前足でも後ろ足でも、指先のパッドが体の大きさのわりに大きくなっていました。前足は長く、後ろ足は短くなっていました。体の大きさにも違いがありました。

パッドと前足の変化は、2つの島で同じ向きに起きていました。チームは、パッドが大きいトカゲほど、つかむ力が強いことも確かめました。そうしたトカゲが、嵐の中で枝にしがみついて生きのびやすかったと考えたのです。

03送風機の風を当てると、トカゲは後ろ足から吹き飛ばされた

では、なぜ後ろ足が短いほうがよいのでしょうか。それを確かめるため、チームは強力な電動の送風機を島に持ちこみました。枝の代わりの細い棒にトカゲをとまらせ、ハリケーン並みの強い風を当てて撮影したのです。下には網を張り、吹き飛ばされたトカゲをけがなく受け止めました。

風を当てても、トカゲは飛びおりて逃げようとはしませんでした。ほとんどが、棒のまわりを回って風下の側へ移り、しがみつき続けました。そして最後に棒から離れるときは、多くのトカゲが後ろ足から先に離れました。

撮影した映像を見ると、トカゲは前足を体に引き寄せていました。一方、後ろ足は体から突き出ていて、まともに風を受けていました。後ろ足が長いほど、風を受ける面積は大きくなります。チームは、そのせいで長い後ろ足のトカゲが吹き飛ばされやすかったと考えています。

細い木の棒にとまった小さなトカゲが、横から吹きつける強い風を受けている。前足は体に引き寄せ、後ろ足は体から突き出て、棒から離れかけている。下には受け止めるための網が張ってある。

041年半後、嵐のあとに生まれたとみられる子も大きな指先を持っていた

生き残ったトカゲの体つきが、子どもに受けつがれなければ、進化とは言えません。そこでチームは、2019年4月に同じ2つの島をもう一度訪れました。同じ研究者が同じ道を歩き、117匹のトカゲを捕まえて測りました。

2019年のトカゲの指先のパッドは、嵐の直後に生き残ったトカゲと同じくらい大きいままでした。嵐の前のトカゲと比べると、はっきり大きかったのです。

チームはさらに、体の小ささから、嵐のあとに生まれたと考えられるトカゲだけを選んで比べました。親は、嵐を生きのびたトカゲのはずです。この子どもたちの指先も、嵐の前より大きいままでした。2つの島のどちらでも同じ結果でした。遺伝子はまだ調べていませんでしたが、大きな指先は次の世代にも見られたのです。

052026年、指の長さにかかわる遺伝子が見つかった

2026年、アメリカのプリンストン大学のプリンストン・ヴォーン(Princeton L. Vaughn)さんたちは、この島のトカゲのDNAを調べた結果を発表しました。ドナヒューさんも加わった研究です。

チームは、2つの島の両方で、嵐による自然選択の跡がありそうなDNAの場所を探しました。見つかったのは5か所で、どれも骨や筋肉の発達や働きにかかわることが知られている場所でした。中でも hs6st1 という遺伝子が、後ろ足のいちばん長い指の長さと最も強く結びついていました。

この遺伝子を、CRISPR(クリスパー)という方法で働かなくする実験もしました。CRISPRは、DNAの決まった場所を切って書きかえる技術です。すると、指が短くなったり、指がまったくできなかったりしました。

さらに、強い風を当てる実験では、後ろ足の指が短いトカゲほど、しっかりしがみついていました。2018年の「後ろ足が短いトカゲが残った」という結果と、同じ向きの結果です。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ハリケーンの多い場所ほど、指先が大きい

2020年、ドナヒューさんたちは、島の外まで調べる範囲を広げました。まず、カリブ海の12の島にすむブラウンアノールの集団を比べました。すると、過去70年間にハリケーンが多く通った島ほど、指先のパッドが大きいことが分かりました。

次に、中南米にすむアノールトカゲ188種の指先を比べました。ここでも、ハリケーンを多く受けてきた種ほど、パッドが大きくなっていました。木の高さや気温、雨の量では、パッドの大きさは説明できませんでした。嵐による選択が、何千年から何百万年という長い時間の中でも、跡を残しているらしいのです。

トカゲは嵐の中で本当にしがみついているのか

この研究には、反対の意見もあります。アメリカのワシントン大学のレイモンド・ヒューイ(Raymond Huey)さんたちは、2020年の解説記事で疑問を書きました。ほかの種のトカゲは、嵐が強まる前に、安全なかくれ場所へ逃げこむらしいからです。嵐の中では、なかなか姿が見つかりません。

ただし、ヒューイさんたちは、しがみつく力が役に立つ場面も挙げています。地面のかくれ場所に海水が入ってくる島や、夜のあいだに嵐が来た場合です。アノールトカゲは、むき出しの枝の上で眠ります。暗い中で逃げ場所を探すのは、かえって危ないかもしれません。

もう1つの説明もあります。嵐で倒れた木や枝が積み重なった場所を動き回るのに、大きなパッドが役立ったのかもしれない、というものです。ドナヒューさんたちは、ハリケーンの多い場所ほど木が低いことを挙げて、この説明には否定的です。それでも、この研究では、嵐の最中のトカゲの様子は観察できていません。

偶然を生かした研究方法と、その限界

嵐の「直前」と「直後」を比べた研究は、それまでほとんどありませんでした。ハリケーンが来る場所が分かるのは、早くても数日から数週間前だからです。ヒューイさんたちは、嵐の予報が出たらすぐに研究者が現地へ行き、嵐の前の記録をとる仕組みを作るべきだ、と提案しています。

一方で、限界もあります。トカゲには1匹ずつの印をつけていなかったので、嵐の前に測ったトカゲが生き残ったかどうかは分かりません。ほかの島からトカゲが流れ着いた可能性も、ゼロとは言えません。ドナヒューさんは、その可能性はとても低いと書いています。

1回の嵐が残す変化は消えないのか

ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチという鳥では、ひどい雨の年と日照りの年が交互に来ると、選ばれる体つきが入れかわりました。その結果、何十年かのうちに変化が打ち消されていました。一方、トカゲの指先は、嵐のあとも大きいままでした。コルブさんたちは、ハリケーンのない年にも、大きな指先は不利にならず、同じ向きに選ばれるからではないかと考えています。ただし、まだ確かめられてはいません。

06まとめ

カリブ海の島のトカゲは、2つのハリケーンのあと、指先のパッドが大きく、前足が長く、後ろ足が短くなっていました。送風機で風を当てると、トカゲは後ろ足から先に吹き飛ばされました。

1年半後に生まれた子どもたちも、大きな指先を受けついでいました。2026年には、後ろ足の指の長さにかかわる遺伝子 hs6st1 も見つかりました。2つの嵐のあとに変わった島のトカゲの体つきは、次の世代にも残っていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

タークス・カイコス諸島(パイン島)

研究チーム
アメリカのハーバード大学のコリン・ドナヒュー(Colin Donihue)らのチーム
調べた場所
カリブ海のタークス・カイコス諸島のパイン島とウォーター島
調べた動物
アノールトカゲの一種(学名 Anolis scriptus)。大人で頭から胴の長さ4〜6.5cm
調べ方
嵐の前に測った体の記録と、嵐の約6週間後に捕まえたトカゲの体を比べた
分かったこと
嵐のあとのトカゲは、指先のパッドが大きく、前足が長く、後ろ足が短かった
まだ分からないこと
嵐の最中にトカゲが本当に枝にしがみついているのかは、まだ確かめられていない
論文
Nature(2018年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Lizards That Survived Two Hurricanes

In 2017, scientists measured small lizards on two islands in the Caribbean Sea. Four days after they finished, a huge hurricane hit the islands. Two weeks later, another hurricane came.

The team went back and measured the lizards again. The lizards after the storms had bigger toe pads. Their front legs were longer, and their back legs were shorter.

Why were short back legs better? The scientists used a strong leaf blower to test lizards on a thin stick. The lizards held on, but many lost grip with their back feet first. Their back legs caught the wind.

In 2019, the team found that young lizards also had big toe pads. These young lizards were probably born after the storms. In 2026, scientists found a gene linked to the length of the toes. Two storms changed the bodies of these island lizards.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What happened four days after the scientists finished their work?研究者が調査を終えた4日後に何が起きましたか。

Q2. Which part of the lizards became shorter after the storms?嵐のあと、トカゲのどの部分が短くなっていましたか。

Q3. What did the scientists use to test the lizards?研究者たちはトカゲを試すために何を使いましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Donihue, C. M. et al. (2018) Hurricane-induced selection on the morphology of an island lizard. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/s41586-018-0352-3
  2. 2Donihue, C. M. et al. (2020) Hurricane effects on Neotropical lizards span geographic and phylogenetic scales. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2000801117
  3. 3Huey, R. B. & Grant, P. R. (2020) Lizards, toepads, and the ghost of hurricanes past. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2006297117
  4. 4Vaughn, P. L. et al. (2026) Genomic targets of hurricane-induced selection on clinging performance in an island lizard. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2026.07.022
  5. 5Kolbe, J. J. et al. (2025) Morphological and genomic responses to hurricanes arise and persist during a biological invasion. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2517322122
  6. 6ネイチャー・ジャパン(2018)注目のハイライト:ハリケーンを生き延びたトカゲnatureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/12615

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい