最長18分もぐるトカゲは、鼻先の空気の泡を吸い直して息をしていた

川辺のアノールトカゲは、もぐると鼻先に泡をふくらませ、吸い直していた。泡ができないようにすると、もぐれる時間が約3割短くなった。

No.209 7分で読めるえっ度 論文 2025年
澄んだ川の底の石に、茶色の小さなトカゲが水中でしがみついている。鼻先の上に、銀色に光る丸い空気の泡がふくらんでいる。

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  1. 水辺のトカゲは、もぐると鼻先に空気の泡をふくらませる
  2. 泡は吸ったり吐いたりされ、中の酸素は時間とともに減った
  3. 泡を作れなくすると、もぐれる時間が約3割短くなった

人に話すなら

川にすむトカゲって、水にもぐると鼻の上に空気の泡を作って、それを吸ったり吐いたりするんだって。泡を作れなくすると、もぐっていられる時間が3割くらい短くなるらしいよ。

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読む前に予想しよう

水にもぐったトカゲは、鼻先の泡を吸ったり吐いたりしている

中南米の森を流れる小川のそばで、小さなトカゲが危険を感じると、水に飛びこみます。トカゲは水中の石にしがみつき、じっと動きません。よく見ると、鼻先の上に空気の泡がふくらんでいます。泡はふくらんでは小さくなり、またふくらみます。トカゲは、この泡の空気を吸ったり吐いたりしているのです。

このトカゲは、アノールトカゲの仲間です。水辺にすむ種は、長いと18分も水にもぐっていられます。2024年、アメリカのビンガムトン大学の研究者が、泡ができないようにする実験の結果を発表しました。すると、トカゲがもぐっていられる時間は、平均で約3割短くなりました。

水中で泡の空気を使って息をする動物は、虫やクモなどでは前から知られていました。けれども、背骨のある動物が泡を息に使う例は、見つかっていませんでした。背骨のある動物は虫より体が大きく、必要な酸素の量も多いからです。

01水辺のトカゲは、もぐると鼻先に泡をふくらませる

アノールトカゲは、中南米の熱帯にすむトカゲの仲間です。その中には、小川のそばで暮らし、危ないときやえさをとるときに水へもぐる種がいます。

研究者のルーク・メイラー(Luke Mahler)さんたちは2009年、カリブ海のハイチで、もぐったアノールトカゲが泡を吸い直す様子を見ていました。2019年には、ビンガムトン大学のリンジー・スウィアーク(Lindsey Swierk)さんが、コスタリカの種で同じ行動を報告しました。

その後、カナダのトロント大学でメイラーさんのもとにいた大学院生、クリストファー・ボッチャ(Christopher Boccia)さんたちが、この行動をくわしく調べました。コスタリカやコロンビア、メキシコなどで、水辺にすむ6種のアノールトカゲを観察しました。2021年に発表された研究です。

もぐったトカゲは、鼻から息を吐いて、泡を頭の上や横にくっつけます。そして、決まった間隔で、その泡を鼻から吸いもどします。チームは、スキューバダイビングの装置にちなんで、これを「再呼吸」と呼びました。6種はどれも、この再呼吸をしていました。6種の多くは、互いに遠い親せきどうしでした。

02泡の中の酸素は、時間とともに減っていた

泡の空気は、本当に息に使われているのでしょうか。チームは、泡の中の酸素の量を測りました。

生きたトカゲの泡では、もぐっている時間が長くなるほど、泡の中の酸素が減っていきました。一方、トカゲの代わりに置いた、比べるための装置では、酸素は減りませんでした。トカゲが、泡の中の酸素を体に取りこんでいたのです。

泡が顔にくっつくのは、トカゲの皮ふが水をはじくためだと考えられています。もぐると、皮ふのでこぼこした表面に、空気のうすい層ができます。この空気の層が、泡を支えていると考えられています。

水辺にすまないアノールトカゲも、水に入れると、ときどき小さな泡を吸い直すことがありました。ただし、水辺の種と比べると、ずっと単純なやり方でした。チームは、種どうしの親せき関係(系統)をもとにした分析から、水辺の種が再呼吸をくり返し別々に発達させてきたと考えています。

03顔に保湿クリームをぬると、泡がくっつかなくなった

泡で酸素を取りこめることは分かりました。では、泡のおかげで長くもぐれるのでしょうか。これを確かめたのが、スウィアークさんの2024年の実験です。

調べたのは、コスタリカ南西部からパナマ西部の、岩の多い小川のそばにすむアノールトカゲの一種です。大人でも、頭から胴の長さが7cmほどまでの小さなトカゲで、鳥やヘビに食べられます。危ないときは、体の色で目立たないようにしたり、水にもぐったりして身を守ります。

スウィアークさんは、2021年と2022年に、コスタリカのラス・クルセス生物観察所の近くを流れる川で、30匹のトカゲを捕まえました。そして、川岸の水の中に透明な水そうを置き、川の水を約30cmの深さまで入れました。水そうの中には川の石を入れ、水中カメラを置きました。

トカゲは、2つのグループに分けられました。1つのグループには、市販の保湿クリームを、筆で鼻先の上と頭の両側にうすくぬりました。鼻の穴と目にはぬりません。クリームは水になじむ成分を含み、空気が皮ふにくっつかなくなります。もう1つのグループには、クリームの代わりに水をぬりました。

水中の石にとまったトカゲの頭を横から見た場面。鼻の穴の上の泡が、ふくらんだり小さくなったりをくり返している。

04泡を作れないトカゲは、早く水面にもどってきた

ぬり終えると、トカゲをすぐに水そうの水に入れました。トカゲは自分で水中の石にしがみつきます。研究者は3mほど離れたかくれ場所に下がり、トカゲが水面に上がってくるまでの時間をストップウォッチで測りました。

最後まで実験できたのは、28匹でした。水をぬったグループは、全員が大きな泡を作って吸い直していました。1分あたり、平均で約6回です。クリームをぬったグループは、泡を吸い直す回数が1分あたり約1.8回に減りました。クリームのグループで泡ができたトカゲも、鼻の穴の上にだけできる1mmほどの小さな泡で、皮ふにはくっつきませんでした。

もぐっていた時間を比べると、水をぬったグループのほうが、平均で67.5秒長くもぐっていました。割合にすると、約32%長い時間です。泡を吸い直すことで、トカゲはより長く水の中にいられたのです。

一方、のどをふくらませて空気を肺に送る「のどのポンプ」という動きの回数は、2つのグループで変わりませんでした。どちらも1分に3.5回ほどでした。実験のあと、クリームはめん棒でふき取りました。同じトカゲを二度使わないよう、しっぽの付け根にマニキュアで印をつけてから、捕まえた場所に放しました。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

泡は「えら」の役目もしているのか

虫やクモの中には、体のまわりにくっつけた泡を、空気のタンクとして使うものがいます。さらに、泡とまわりの水のあいだで気体が行き来し、水にとけている酸素を取りこめる場合もあります。泡が「えら」の役目をするので、これを「物理えら」と呼びます。

トカゲの泡にも、この働きがあるのでしょうか。スウィアークさんの研究室の大学院生、アレクサンドラ・マーティン(Alexandra Martin)さんたちは、2025年に結果を発表しました。水そうの水にとけている酸素の量を変えると、酸素が最も多い水で、トカゲは長くもぐっていました。また、水の流れが遅いほど、長くもぐっていました。著者たちは、背骨のある動物が泡を物理えらとして使っているかもしれないことを示す、初めの手がかりだと書いています。まだ確かめる途中の段階です。

ほかの説明もある

泡の働きについては、ほかの考えもあります。1つは、口やのどにたまっている空気を泡にして外に出し、それを肺に送りこむことで、体の中の空気をむだなく使っているという考えです。もう1つは、二酸化炭素を泡から水へ逃がしているという考えです。どれがどのくらい効いているのかは、分かっていません。

2024年の実験では、泡を作れないトカゲも、のどのポンプを続けながら、短いながらももぐっていました。スウィアークさんは、のどのポンプにも、空気を体の中で行き渡らせる役目があるかもしれないと書いています。

研究方法の工夫と限界

2024年の実験の工夫は、鼻の穴をふさがずに、泡がくっつく皮ふだけを変えたことです。こうすれば、トカゲはふつうに息をしたり、水面にもどったりできます。

ただし、限界もあります。実験は水そうの中で行われました。本物の川で敵におそわれたときは、もっと長くもぐることが多く、差はさらに大きいかもしれないとスウィアークさんは書いています。また、川の流れの速さや水にとけた酸素の量で、泡の働きは変わる可能性があります。

道具のヒントにも

水をはじく表面に空気の層を作るしくみは、水中で使う道具の開発にも役立つかもしれません。トロント大学のボッチャさんは、人の発明につながるかどうかは、まだ分からないと話しています。

05まとめ

水辺にすむアノールトカゲは、水にもぐると鼻先に空気の泡をふくらませ、それを何度も吸い直していました。泡の中の酸素は時間とともに減り、本当に息に使われていました。

顔に保湿クリームをぬって泡がくっつかないようにすると、もぐっていられる時間は約3割短くなりました。泡を使って水中で息をする背骨のある動物として報告されたのは、このトカゲの仲間が初めてです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

コスタリカ(ラス・クルセス生物観察所)

研究チーム
アメリカのビンガムトン大学のリンジー・スウィアーク(Lindsey Swierk)
調べた場所
コスタリカのラス・クルセス生物観察所の近くを流れる川
調べた動物
川辺にすむアノールトカゲの一種(学名 Anolis aquaticus)
調べ方
顔に保湿クリームをぬって泡がくっつかないようにしたトカゲと、水をぬったトカゲで、もぐる時間を比べた
分かったこと
泡を作れたトカゲは、作れなかったトカゲより、平均で約3割長くもぐっていた
まだ分からないこと
泡が水から酸素を取りこむ「えら」の役目までしているのか
論文
Biology Letters(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Lizards That Breathe Bubbles Underwater

Some small lizards live by streams in the forests of Central and South America. When they are in danger, they jump into the water. They can stay under the water for up to 18 minutes.

Under the water, the lizard makes an air bubble on its nose. Then it breathes the air in the bubble again and again. Scientists found that the oxygen in the bubble goes down over time. So the lizard really uses the bubble to breathe.

In 2024, a scientist in the United States reported a test in Costa Rica. She put skin cream on the heads of some lizards. With the cream, the bubbles did not stay on their skin. These lizards came up to the surface sooner.

Lizards with normal bubbles stayed under the water about 32 percent longer. Some insects and spiders use bubbles like this. But these lizards are the first animals with a backbone found to do it.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How long can these lizards stay under the water?このトカゲは水の中にどれくらいいられますか。

Q2. What happens to the oxygen in the bubble?泡の中の酸素はどうなりますか。

Q3. What did the scientist put on the lizards' heads?研究者はトカゲの頭に何をぬりましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Swierk, L. (2024) Novel rebreathing adaptation extends dive time in a semi-aquatic lizard. Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2024.0371
  2. 2Boccia, C. K. et al. (2021) Repeated evolution of underwater rebreathing in diving Anolis lizards. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2021.04.040
  3. 3Martin, A. M. et al. (2025) High dissolved oxygen extends dive duration and suggests physical gill use in a vertebrate. Journal of Experimental Biology 論文確認済みdoi:10.1242/jeb.250627
  4. 4Baeckens, S. et al. (2021) Convergent evolution of skin surface microarchitecture and increased skin hydrophobicity in semi-aquatic anole lizards. Journal of Experimental Biology 論文確認済みdoi:10.1242/jeb.242939
  5. 5University of Toronto(2021)Nature's scuba tanks? Researchers discover how Anolis lizard breathes underwaterutoronto.ca/news/nature-s-scuba-tanks-researchers-discover-h

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

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