トナカイは、食べた草をかみ直しながら眠っているらしい。4頭の脳波から見えてきた

トナカイが食べた草をかみ直す「反すう」の間、脳波には眠りと同じ特徴が出て、眠気もへっていた。反すうが長い日ほど、ノンレム睡眠は短かった。

No.202 7分で読めるえっ度 論文 2024年
夏の明るい夜、北極圏の草地で、大人のメスのトナカイ(メスにも枝分かれした角がある)が脚を折って座り、静かに口をもぐもぐ動かしている。

30秒で読む

  1. トナカイが草をかみ直す間、脳波には眠りと同じ特徴が出ていた
  2. かみ直す間にも、眠っているときと同じように眠気がへっていた
  3. かみ直す時間が長い日ほど、ふつうの眠りは短かった

人に話すなら

トナカイって、食べた草を口にもどしてかみ直すでしょ。そのかみ直しの間、脳は眠ってるのに近い状態らしいよ。かむ時間が長い日ほど、ふつうの眠りは短かったんだって。

ポストLINE

読む前に予想しよう

トナカイは、食べた草をかみ直している間にも、眠気をへらすことができるらしい

トナカイやウシは、一度飲みこんだ草を口にもどし、もう一度かみ直します。これを「反すう」と言います。草を細かくして、中の栄養を取り出しやすくするためです。トナカイは、このかみ直しの間、眠っているときに近い状態になっているらしいのです。

スイスのチューリッヒ大学とノルウェー北極大学などのチームは、ノルウェー北部で、メスのトナカイ4頭の脳波を夏・秋・冬に測りました。すると、反すうしている間の脳波に、眠りと同じ特徴が出ていました。反すうの間にも、眠っているときと同じように眠気がへっていきました。そして、1日の反すうの時間が長いほど、ふつうの眠りの時間は短くなっていました。

北極圏の夏は短く、トナカイはその間にたくさん食べて、長い冬に備えます。けれども、食べる時間を増やせば、眠る時間がへってしまいます。反すうしながら眠りの役目も果たせるなら、食べることと眠ることを同時に進められます。チームは、これが夏にほとんど休まず食べ続けるのに役立っているのではないかと考えています。

01毛をそり、おでこに電極を貼って、麻酔なしで脳波を測った

研究の中心になったのは、チューリッヒ大学のメラニー・フラー(Melanie Furrer)さんと、レト・フーバー(Reto Huber)さん、ノルウェーのガブリエラ・ワーグナー(Gabriela Wagner)さんたちです。調べたのは、北緯69度のトロムソにある、ノルウェー北極大学の動物施設で飼われているトナカイです。4頭とも大人のメスで、研究の始めに3歳、終わりに4歳でした。4頭は以前から研究用に人に慣らされていて、試しの研究で脳波の測り方にも慣れていました。

脳波を測る2日前に、電極を貼る場所の毛をそり、残った毛を脱毛クリームで取りました。そして、おでこに脳波用の電極を2つ、首か耳の筋肉の上に筋肉の動きを測る電極を2つ貼りました。電極は皮ふに貼るだけで、手術も麻酔もしていません。記録する小さな装置は、くっつく性質のある伸びる包帯で作ったベルトで、背中に固定しました。トナカイの脳波を測った研究は、これが初めてだとチームは書いています。

測定は、7月・9月・12月に行いました。トロムソの7月は、1日中明るい季節です。12月は窓をアルミホイルでおおい、1日中暗い状態にしました。9月は、およそ9時間の夜がある季節です。それぞれの季節で約4日間、トナカイを小屋に入れて記録しました。春も測る予定でしたが、新型コロナの流行で測れませんでした。

023つの季節とも、1日の眠りの量はほぼ同じだった

脳波と、小屋に置いたカメラの映像から、トナカイの状態を「起きている」「ノンレム睡眠」「レム睡眠」「反すう」に分けました。ノンレム睡眠は、脳がゆっくりした大きな波を出す眠りです。レム睡眠は、脳は活発なのに、体の筋肉から力が抜ける眠りです。

24時間の記録では、トナカイは平均で、ノンレム睡眠に5.4時間、レム睡眠に0.9時間、反すうに2.9時間を使っていました。これらの時間は、季節によって大きな差がありませんでした。夏は冬より活発に動くのに、眠りの量はへっていなかったのです。

1日のリズムにも特徴がありました。1日中明るい夏と、1日中暗い冬には、休む時間が1日の決まった時間に集まる様子は見られませんでした。昼と夜がある秋だけ、暗い時間に多く休んでいました。

032時間起こしておくと、眠りが深くなった

次にチームは、トナカイを2時間起こしておく試しをしました。昼の12時から2時と、夜中の12時から2時です。研究者2人が小屋にいて、話したり、歩き回ったり、トナカイをなでたりしました。始めに新しいエサもあげて、食べるようにうながしました。

眠気がたまっているかどうかは、ノンレム睡眠のときに出る「徐波」で分かります。徐波は、ゆっくりした大きな脳波です。長く起きているほど強くなり、眠るにつれて弱まります。2時間起きていたあとのノンレム睡眠では、3つの季節とも徐波が強くなりました。たった2時間でも、眠気ははっきりたまっていたのです。徐波が強くなる度合いは、夏と秋より冬のほうが大きいものでした。

ここで、チームは疑問をもちました。トナカイがノンレム睡眠に使っているのは、1日の約23%だけです。2時間起きているだけで眠気がたまるのに、それで足りているのでしょうか。そこで目をつけたのが反すうでした。反すう中のトナカイは、ノンレム睡眠のときと同じように、静かに座ったり立ったりしています。

小屋の中で、トナカイが脚を折って座り、口を動かして草をかみ直している。おでこには小さな電極が貼られ、細い線が背中の小さな記録装置につながっている。

04反すうの間にも、眠りと同じように眠気がへっていた

まず、反すう中のトナカイが、まわりの音にどれだけ反応するかを調べました。となりのトナカイが座ったり立ち上がったりすると、音がします。その音に向けた反応が見られた割合は、起きているときに45%、ノンレム睡眠のときに5%、反すうのときに25%でした。反すう中は、起きているときと眠っているときの、ちょうど間くらいでした。

次に、反すう中の脳波を調べました。そこには、ノンレム睡眠に特有の徐波や、「睡眠紡錘波」という短い波の連なりが出ていました。2つの波が組み合わさって出るタイミングも、ノンレム睡眠のときと似ていました。

さらに、眠気がへっていくかを確かめました。反すうをはさむ前と後でノンレム睡眠の徐波を比べると、反すうの後のほうが弱くなっていました。反すうが長いほど、徐波はより弱くなりました。30分をこえる長い反すうでは、反すう中の徐波そのものが、いったん強まってから少しずつ弱まりました。長いノンレム睡眠のときと同じ変わり方です。かむ動きが脳波にまじる影響を取り除いても、この弱まり方は残りました。

チームは、計算でも確かめました。「反すうは眠りと同じように眠気をへらす」と考えた場合と、「反すうは起きているのと同じで眠気をためる」と考えた場合です。実際の脳波の変化によく合ったのは、前の考え方でした。そして、1日の反すうが長いトナカイの記録ほど、ノンレム睡眠は短くなっていました。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

夏の北極で、食べることと眠ることを両立させる

トナカイは、1年に食べる量の多くを、エサが豊富な夏の間に食べます。囲いの中で好きなだけ食べられるトナカイでも、食べる量は季節で変わり、8月に一番多くなります。反すうは、草を細かくして栄養を取り出すために欠かせません。冬に備えて夏から秋に体重を増やすには、反すうに十分な時間を使う必要があります。反すうの間に眠りの役目も果たせれば、眠りを削らずにすみます。チームは、トナカイは眠りと消化を同時に進めているのだろうと考えています。

反すう中の脳波が眠りに似ることは、前から知られていた

1970年代から、ヒツジやヤギ、ウシなどの家畜で、反すう中の脳波にノンレム睡眠と似た波が出ることが報告されてきました。2022年には、ロシアとアメリカのチームが、ベトナムの国立公園で、体重2.2kgに満たない小さなマメジカ4頭の眠りを調べています。マメジカの反すうのおよそ68%は、ノンレム睡眠の間に起きていました。けれども、チームの知るかぎり、反すうが眠気を本当にへらしているのかを、きちんと調べた研究はありませんでした。反すうが眠りと同じように眠気をへらすと示したのは、今回が初めてだとチームは書いています。

ほかの草食動物は、季節で眠りを削っていた

トナカイと違い、季節によって眠りを大きく削る草食動物もいます。2018年、南アフリカのウィットウォーターズランド大学などのチームが、サウジアラビアの保護区で野生のアラビアオリックスの眠りを測りました。1日の眠りは、冬の6.69時間に対して、夏は3.77時間でした。チームは、夏の暑さの中で体温を調節するために、眠り方を変えていると考えています。トナカイは、眠りの量を変えずに、反すうで眠りを補っているのかもしれません。

この研究の限界

調べたトナカイは4頭だけで、冬は1頭の記録が使えず3頭でした。実験は小屋の中で行い、エサは好きなだけ食べられ、室温は約10℃に保たれていました。野生のトナカイほど厳しい条件ではないことを、チームも認めています。春のデータもありません。また、ノンレム睡眠は脳波で判定しましたが、反すうとレム睡眠は、脳波で判断しきれないときにカメラの映像も使いました。「反すう中に眠っている」と言い切るには、野生の群れや、ほかの反すうする動物でも確かめる必要があります。

05まとめ

ノルウェー北部でメスのトナカイ4頭の脳波を測ると、食べた草をかみ直す反すうの間にも、ノンレム睡眠と同じ特徴の脳波が出ていました。反すうの間に眠気がへり、反すうが長いトナカイほど、ノンレム睡眠は短くなっていました。トナカイは、1日の約23%しかノンレム睡眠をとりません。そのかわり、1日に3時間近く、草をかみ直しながら眠りの役目の一部を果たしているらしいのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ノルウェー トロムソ

研究チーム
スイスのチューリッヒ大学とノルウェー北極大学などのチーム(第一著者メラニー・フラー)
調べた場所
ノルウェー北部トロムソにある、ノルウェー北極大学の動物施設
調べた動物
3〜4歳のメスのトナカイ4頭(学名 Rangifer tarandus tarandus)
調べ方
夏・秋・冬に、麻酔なしで頭の皮ふに電極を貼り、約4日ずつ脳波を測った。2時間起こしておく試しも行った
分かったこと
反すう中にも眠気がへり、反すうが長いほどノンレム睡眠は短かった
まだ分からないこと
野生のトナカイや、ほかの反すうする動物でも同じことが起きているのか
論文
Current Biology(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Reindeer May Sleep While They Chew

Reindeer bring grass back up from the stomach and chew it again. Cows do this, too. This is called rumination.

Scientists studied four female reindeer in the north of Norway. They put small sensors on the reindeer's heads. The sensors recorded brain waves in summer, fall, and winter. The scientists also kept the reindeer awake for two hours. After that, the reindeer slept more deeply.

During rumination, the brain waves looked like sleep. Also, the reindeer became less sleepy while they chewed. When a reindeer chewed for a longer time, it had less normal sleep.

Arctic summers are short, so reindeer must eat a lot before winter. In July, the sun does not go down there. If they can rest their brains while they chew, they can eat for more hours. The study used only four animals, so more research is needed.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many reindeer did the scientists study?研究者たちは何頭のトナカイを調べましたか。

Q2. What happened while the reindeer chewed again?トナカイがかみ直している間に、何が起きましたか。

Q3. Why do reindeer need to eat a lot in summer?トナカイが夏にたくさん食べる必要があるのはなぜですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Furrer, M. et al. (2024) Reindeer in the Arctic reduce sleep need during rumination. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.12.012
  2. 2Lyamin, O. I. et al. (2022) Sleep in the lesser mouse-deer (Tragulus kanchil). Sleep 論文確認済みdoi:10.1093/sleep/zsab199
  3. 3van Oort, B. E. H. et al. (2005) Circadian organization in reindeer. Nature 論文確認済みdoi:10.1038/4381095a
  4. 4Davimes, J. G. et al. (2018) Seasonal variations in sleep of free-ranging Arabian oryx (Oryx leucoryx) under natural hyperarid conditions. Sleep 論文確認済みdoi:10.1093/sleep/zsy038

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい