「最強」のクマムシを銃で砂に撃ちこむ実験。秒速900mでは1匹も生き残らなかった
イギリスの研究者が、凍らせたクマムシをガス銃で砂に撃ちこんだ。秒速825mまでは生き残りが出たが、秒速901mでは1匹も生きのびなかった。

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- 凍らせたクマムシを、実験用の銃で砂の的に撃ちこんだ
- 秒速825mまでは生き残りが出て、秒速901mでは全部死んだ
- 隕石に乗って星から星へ移るのは、クマムシでも難しそう
人に話すなら
クマムシって最強の生き物って言われるけど、イギリスの研究者が銃で撃ちこんで限界を測ったんだって。秒速900mくらいで砂にぶつけると、さすがに1匹も生き残らなかったらしいよ。
読む前に予想しよう
クマムシは、秒速900mで砂にぶつかっても生きのびる
秒速901mと秒速1000mで撃ちこんだクマムシは、1匹も動き出さなかった。
体の長さが1mmに満たない小さな動物が、宇宙空間の真空にさらされても生きて帰ってきました。クマムシです。とても強い圧力にも、とても低い温度にもたえることから、「最強の生き物」と呼ばれることもあります。では、そのクマムシを銃で撃ちこんだら、どうなるのでしょうか。
イギリスのケント大学の研究者は、この実験を本当に行いました。凍らせたクマムシを実験用のガス銃に入れ、砂の的に撃ちこんだのです。秒速825mまでは、生きのびて動き出すクマムシがいました。ところが、秒速901mでは1匹も生き残りませんでした。
この実験には、はっきりした目的がありました。「生き物が隕石に乗って、星から星へ運ばれることはあるのか」という、宇宙の大きな謎を確かめるためでした。隕石が星にぶつかるときの速さは、ふつう秒速数kmになります。クマムシにとっても、それは生きのびられない速さだったのです。
01クマムシは、宇宙の真空にも強い圧力にもたえてきた
クマムシは、8本の脚で歩く小さな動物です。今回の実験に使われたクマムシは、ミネラルウォーターとコケで飼われていました。体の長さは0.15〜0.85mmほどでした。クマムシは、休眠すると「樽(たる)」と呼ばれる姿になります。論文の説明によると、樽になったクマムシは体の水の9割以上を外に出します。体の中の働きは、ふだんの0.01%まで落ちます。
クマムシは、とても強い圧力にもたえます。2008年、岡山大学などのチームは、7.5ギガパスカルの圧力をかけても生きのびたと報告しました。ギガパスカルは圧力の単位で、1ギガパスカルはおよそ1万気圧です。
2007年には、スウェーデンのクリスチャンスタッド大学などのチームが、クマムシを宇宙へ送りました。人工衛星「フォトンM3」の外側に出し、宇宙の真空にさらしたのです。結果は2008年に発表されました。クマムシは真空にはたえました。ただし、太陽からの紫外線などが加わると、生き残る割合は大きく下がりました。
こうした強さから、クマムシは「隕石に乗って星の間を旅できるかもしれない生き物」の候補になりました。ところが、ある力にどこまでたえられるかは、まだよく分かっていませんでした。高い速さでぶつかったときの、一瞬の衝撃です。
02凍らせたクマムシを、ガス銃で砂の的に撃ちこんだ
実験をしたのは、ケント大学のアレハンドラ・トラスパス(Alejandra Traspas)さんと、マーク・バーチェル(Mark Burchell)さんです。2人は、「2段式ガス銃」という装置を使いました。弾をとても速く撃ち出せる、研究用の銃です。
まず、ナイロンでできた小さな入れ物の穴に水を入れ、クマムシを2〜3匹ずつ入れました。それを48時間凍らせて、クマムシを樽の姿にしました。この入れ物ごと銃に込めて、真空にした部屋の中の砂の的へ、まっすぐ撃ちこみました。
速さは、毎回くわしく測りました。弾の通り道に、レーザーの光を2本、49.9cm離して当てておきます。弾が2本の光を横切る時間の差から、速さを計算しました。誤差は1%より小さかったそうです。
撃ったあとは、的の砂を、水を入れた背の高い筒に流しこみ、砂とほかの物を分けました。そこからクマムシを取り出して、また動き出すかどうか、時間をかけて見守りました。
比べるために、撃たないクマムシも用意しました。20匹を凍らせて、そのまま溶かしたのです。20匹すべてが、8〜9時間で動き出しました。凍らせること自体では死なないことを、先に確かめたわけです。
これには理由があります。バーチェルさんも加わった2014年の実験では、クマムシを氷の的の中に入れて撃っていました。ところが、撃たずに凍らせただけのクマムシでも、約3分の2が死んでいたのです。今回は扱い方を変えて、凍らせただけで死ぬことをなくしました。
03秒速728mまでは全部が動き出し、秒速901mでは1匹も生き残らなかった
撃った回数は6回です。速さは、秒速556mから秒速1000mまででした。結果は、ある速さを境に、はっきり分かれました。
秒速556m、695m、728mで撃ったクマムシは、すべて生きのびました。秒速825mでは、生き残ったのはおよそ3分の2でした。そして、秒速901mと秒速1000mでは、1匹も生き残りませんでした。
砂から見つかったクマムシの姿も違いました。秒速825mまでは、体がそのまま残っていました。それより速いと、ばらばらになったかけらしか見つかりませんでした。生きのびられなくなる速さを少しこえただけで、体そのものが壊れていたのです。

チームは、ぶつかった瞬間に生まれる圧力も計算しました。秒速728mでは約0.86ギガパスカル、秒速901mでは約1.14ギガパスカルです。この結果から、クマムシが生きのびられる衝撃の限界を、約1ギガパスカルと見積もりました。
04ゆっくり押す圧力より、一瞬の衝撃のほうがずっと危なかった
生き残ったクマムシにも、変化がありました。動き出すまでに、16〜36時間ほどかかったのです。凍らせて溶かしただけのクマムシは、8〜9時間で動き出しました。撃たれて生き残ったクマムシは、どれもそれより長くかかりました。チームは、死なない速さでも体の中が傷ついていたのだろうと考えています。
ここで、2つの数字を比べてみます。ゆっくり押す圧力なら、クマムシは7.5ギガパスカルにたえました。ところが、一瞬の衝撃では、約1.14ギガパスカルで死にました。論文は、衝撃で生きのびられる限界が、ゆっくりかかる圧力での限界よりずっと低いと書いています。
植物の種で行われた実験とも、結果がそろいました。論文によると、種は秒速1km前後、つまり約1ギガパスカルの衝撃で、中が壊れはじめます。一方、細菌やその胞子は、もっと速い秒速5kmほどの衝突でも、ごく一部が生き残ることがあります。ただし、生き残るのは1万個に1個から100万個に1個ほどです。体が大きくて複雑な生き物ほど、衝撃の波で体の中が壊れやすいらしいのです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「生き物は隕石に乗って運ばれる」という説
生き物が宇宙を通って、ある星から別の星へ移るという考えを、「パンスペルミア説」といいます。その一つに、岩に入った生き物が運ばれるという考えがあります。大きな隕石が星にぶつかると、地面の岩が宇宙へはじき飛ばされます。その岩が別の星に落ちれば、中の生き物も一緒に移るかもしれません。
この考えには、2つの関門があります。1つは、はじき飛ばされるときの衝撃です。もう1つは、別の星に落ちるときの衝撃です。論文によると、落ちるときの速さはふつう秒速数kmで、圧力は数十ギガパスカル以上になります。クマムシの限界の約1ギガパスカルを、はるかにこえます。チームは、隕石に乗ったクマムシが地球に生きて着くことは、まず考えにくいと結論しました。
月や火星の衛星なら、生きて着ける場合もありうる
ただし、チームは「どこでも無理」とは言っていません。たとえば、地球からはじき飛ばされた岩が月に落ちる場合です。論文が引用した別の計算では、そうした岩の43%は、秒速1kmより遅い速さで月に落ちます。その一部なら、クマムシが生きのびられる程度の衝撃ですむかもしれません。
ただし、ここにも条件があります。地球からはじき飛ばされるときの衝撃と、ぶつかったときの熱も、生き物には危ないのです。火星の岩が、火星の衛星フォボスに落ちる場合も考えられました。こちらは、ふつうの速さでぶつかると、限界を少しこえる衝撃になると見積もられました。
この実験の弱いところ
論文自身も、限界を正直に書いています。撃った回数は6回で、1回のクマムシは2〜3匹です。数がとても少ないので、もっと多くの数で確かめる必要があると書いています。また、生き残ったクマムシが卵を産んで子を残せるかは、確かめられていません。「生きて動いた」ことと、「その星で増えられる」ことは別です。
調べた種も1つだけです。クマムシの仲間は、およそ1400種が報告されています。ほかの種でも同じ結果になるかは、まだ分かりません。チームは、卵を弾に入れて撃つ実験も提案しています。
05氷の衛星を調べる宇宙船にとっても、大事な目安になった
この研究には、もう一つの使いみちがあります。土星の衛星エンケラドスと、木星の衛星エウロパです。どちらも氷の下に海があり、そこから水が宇宙へ噴き出しています。宇宙船がこの噴き出しの中を通れば、海の中身を集められるかもしれません。チームは、もし小さな動物が入っていたら、生きたまま集められるかを考えました。
けれども、宇宙船はとても速く飛びます。土星探査機カッシーニは、秒速5kmより速くエンケラドスの噴き出しを通りました。そのまま金属の板で受け止めれば、衝撃は1ギガパスカルを大きくこえます。
チームは、条件を変えて計算しました。エンケラドスのまわりを回る宇宙船なら、ぶつかる速さは秒速0.1〜0.16kmほどに下がります。金属の板で受けても、衝撃はクマムシの限界より小さくなりました。エウロパでは、回る宇宙船でも限界をこえました。ただ、とても軽くてすき間の多い素材で受け止めれば、衝撃は1ギガパスカルより小さくなりうるとしています。
06まとめ
ケント大学の研究者は、凍らせて樽の姿にしたクマムシを、ガス銃で砂の的に撃ちこみました。秒速728mまでは全部が生き残り、秒速825mでも一部が動き出しました。けれども秒速901mでは1匹も生き残らず、体はばらばらになっていました。ゆっくり押せば7.5ギガパスカルにたえる動物も、一瞬の衝撃では約1.14ギガパスカルが限界でした。「最強」のクマムシでも、時速3000kmをこえる速さで砂にぶつかると、生きのびられないのです。
研究カルテ
イギリス ケント州カンタベリー
- 研究チーム
- イギリスのケント大学のアレハンドラ・トラスパスとマーク・バーチェル
- 調べた場所
- イギリスのケント大学の実験室(真空の部屋の中に砂の的を置いた)
- 調べた動物
- クマムシの一種(論文での学名 Hypsibius dujardini)。1回に2〜3匹
- 調べ方
- 水と一緒に凍らせたクマムシを2段式のガス銃で砂に撃ちこみ、動き出すかを見た
- 分かったこと
- 秒速728mまでは全部が生き残り、秒速901m以上では1匹も生き残らなかった
- まだ分からないこと
- 生き残ったクマムシが子を残せるか。数を増やしても同じ結果になるか
- 論文
- Astrobiology(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Tardigrades are tiny animals with eight legs. They can live through the vacuum of space. Some people call them the toughest animals on Earth.
Two scientists in the UK froze some tardigrades in water. Then they shot them out of a special gun into sand. They did this six times at different speeds.
At 728 meters per second, all of the tardigrades lived. At 901 meters per second, none of them lived. The scientists found only small pieces of their bodies.
Rocks from space usually hit a planet much faster than this. So it is hard for tardigrades to travel between planets on rocks. But they say some rocks from Earth may hit the Moon slowly enough. They also want to know if the animals can have babies after the shot.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the scientists do before the shot?研究者は撃つ前に何をしましたか。
クマムシは水と一緒に凍らせて、休眠の姿にしてから撃ちました。
Q2. What happened at 901 meters per second?秒速901mでは何が起きましたか。
秒速901mでは1匹も生き残らず、体のかけらしか見つかりませんでした。
Q3. How many times did the scientists shoot the gun?研究者は何回銃を撃ちましたか。
速さを変えて6回撃ちました。1回に入れたクマムシは2〜3匹です。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Traspas, A. & Burchell, M. J. (2021) Tardigrade Survival Limits in High-Speed Impacts—Implications for Panspermia and Collection of Samples from Plumes Emitted by Ice Worlds. Astrobiology 論文確認済みdoi:10.1089/ast.2020.2405
- 2Erdmann, W. & Kaczmarek, Ł. (2016) Tardigrades in Space Research - Past and Future. Origins of Life and Evolution of Biospheres 論文確認済みdoi:10.1007/s11084-016-9522-1
- 3Jönsson, K. I. et al. (2008) Tardigrades survive exposure to space in low Earth orbit. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2008.06.048
- 4Sadowska-Bartosz, I. & Bartosz, G. (2024) Antioxidant Defense in the Toughest Animals on the Earth: Its Contribution to the Extreme Resistance of Tardigrades. International Journal of Molecular Sciences 論文確認済みdoi:10.3390/ijms25158393
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