黒毛和牛に白いペンキでシマウマのしまをかくと、体にとまる吸血バエが半分以下に減った
黒毛和牛に白黒のしまをかくと、体にとまる吸血バエは半分以下に減った。黒いしまでは減らなかった。牛がハエを追い払う動きも少なくなった。

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- 白黒のしまをかいた牛は、体にとまる吸血バエが半分以下になった
- 黒いペンキでしまをかいた牛では、ハエは減らなかった
- なぜハエが白黒のしまを避けるのかは、まだ分かっていない
人に話すなら
黒い牛に白いペンキでシマウマみたいなしまをかいたら、体にとまる血を吸うハエが半分以下に減ったんだって。日本の研究で、イグノーベル賞までもらったらしいよ。
読む前に予想しよう
黒い牛に黒いペンキでしまをかいても、ハエは減る
黒いしまの牛は、何もぬらない牛とハエの数がほとんど変わらなかった。白黒のしまだけが効いた。
夏の牧場では、牛のまわりにハエが集まります。中には、牛の血を吸うハエもいます。牛は首を振り、しっぽを振り、足をふみ鳴らして、一日中ハエを追い払います。
愛知県の試験場のチームは、黒毛和牛に白いペンキで、シマウマのようなしまをかきました。すると、体にとまる吸血バエの数は、何もぬらない牛の半分以下に減りました。牛がハエを追い払う動きも少なくなりました。この研究は2025年、イグノーベル賞の生物学賞を受けました。「まず人を笑わせ、それから考えさせる」研究に贈られる賞です。
シマウマに、なぜしまがあるのか。この問いは、19世紀から議論されてきました。今は「血を吸う虫を避けるため」という考えが最も有力です。日本の牛での実験は、その考えを、アフリカから遠く離れた場所で、別の動物を使って確かめたものでした。
01血を吸うハエは、牛にとって大きな問題だった
研究のきっかけを作ったのは、論文の第一著者の兒嶋朋貴さんです。兒嶋さんは以前、農家に技術を伝える仕事をしていました。そのとき、牛につくサシバエという吸血バエの対策に取り組みました。ねばねばした板で捕まえたり、殺虫剤を使ったりしたそうです。それでも、牛にハエが寄りつかない方法はないかと考え続けていました。そんなときに、シマウマのしまの研究を知ったと、兒嶋さんたちは2026年の解説記事に書いています。
吸血バエの害は大きなものです。牛はハエを追い払うことに忙しくなり、草を食べる時間や休む時間が減ります。ハエを避けて牛どうしが押し合えば、暑さで弱ったり、けがをしたりします。論文によると、アメリカでは吸血バエによる牛の損害が年に22億ドルをこえるという試算があります。
それでも殺虫剤に頼りすぎると、問題が起きます。論文によると、虫は新しい殺虫剤が使われ始めてから10年ほどで、効きにくくなることが多いのです。薬を使わない方法が求められていました。
026頭の牛に、3種類のぬり方を順番に試した
実験の舞台は、愛知県長久手市にある愛知県農業総合試験場の放牧地です。広さは1ヘクタールで、使ったのは妊娠中の黒毛和種のメス牛6頭です。2017年の8〜9月に3頭、2018年の10月に別の3頭で調べました。京都大学の研究者も分析に加わりました。
ぬり方は3種類です。
- 白黒のしま:黒い体に、白いペンキで幅4〜5センチのしまをかく
- 黒いしま:黒い体に、黒いペンキで同じようにしまをかく
- 何もぬらない
黒いしまの牛を用意したのには理由があります。ペンキのにおいがハエを遠ざけた、という可能性を消すためです。もし黒いしまでもハエが減れば、効いているのは模様ではなく、ペンキだということになります。
ペンキは水性で、数日で落ちてしまいます。そこで研究チームは、観察する日の朝ごとに、手でしまをかき直しました。1頭にかかる時間は、約5分でした。1つのぬり方を3日続け、次のぬり方に変えます。9日間で、どの牛も3種類すべてを経験するように組みました。同じ時期に、ほかの2頭とは別のぬり方になるようにもしました。
牛は横に並べ、地面のくいにロープでつなぎました。首は自由に動かせる長さです。1日2回、30分ずつ観察し、1分ごとに牛の動きを記録しました。観察が終わるたびに、牛の右側をデジタルカメラで撮りました。その写真で、脚と胴体にとまっているハエを数えました。

03白黒のしまの牛だけ、とまったハエが半分以下になった
結果は、はっきりしていました。写真1枚あたりのハエの数は、平均で次のとおりです。
白黒のしまの牛は、何もぬらない牛にくらべて、とまったハエが半分以下になりました。脚でも胴体でも減っていました。一方、黒いしまの牛は、何もぬらない牛とはっきりした差がありませんでした。ペンキのにおいは、ハエの数に影響していなかったと考えられます。
ハエを追い払う動きも減りました。首を振る、耳を振る、足をふみ鳴らす、しっぽを振る、の4つは、白黒のしまの牛で少なくなりました。5つの動きを合わせると、30分あたり53.0回から39.8回へと、約4分の1減りました。
ただ1つ、皮ふをぴくぴくふるわせる動きだけは、白黒のしまの牛で増えました。これは、エネルギーをあまり使わない動きです。ハエが少ないときに出やすいとされています。研究チームは、ハエが少なくなったぶん、大きな動きのかわりに皮ふをふるわせる動きが増えたと考えています。
近くの地面には、ねばねばした板を置いてハエを捕まえ、種類を調べました。いちばん多かったのはサシバエで、約78%でした。次がノサシバエの約22%で、アブはわずか0.5%でした。
04なぜハエは白黒のしまを避けるのか。答えはまだない
では、ハエはなぜ白黒のしまにとまらないのでしょうか。実は、このしくみはまだ分かっていません。
アメリカやイギリスなどのチームは2019年、イギリスの牧場で、シマウマとウマのまわりのアブを観察しました。アブはシマウマにもウマにも、同じように近づいてきました。違いは、最後の着地のところで出ました。シマウマに向かうアブは、速度を落とせないまま体にぶつかり、うまくとまれないことが多かったのです。つまりしまは、遠くからハエを遠ざけるのではなく、近くで着地をじゃまするらしいのです。
アフリカのケニアでも、2022年に実験が行われました。おなかをすかせたサシバエを囲いに放すと、シマウマの毛皮より、インパラの無地の毛皮に好んでとまりました。しまの幅が広い種類のシマウマと、細い種類のシマウマの毛皮では、差がありませんでした。
近づいたハエを、しまがどうまどわせるのか。目の錯覚、光の反射のしかた、日なたで生まれる温度のむらなど、いくつもの考えが出ています。兒嶋さんたちの解説によると、2023年にイギリスで行われた研究では、白黒の差が強いしまほど、アブがとまりにくいことが分かりました。大きな黒い部分ほどアブが集まりやすいこともわかりました。しまは、細くくっきりした模様にすることで、アブの好む大きな黒い部分をなくしているのかもしれない、という考えです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
シマウマのしまには、18もの説があった
兒嶋さんたちの解説によると、しまの役目については、およそ18の説が出されてきました。大きく分けると4つです。敵に見つかりにくくする、仲間どうしのつき合いを助ける、体を冷やす、血を吸う虫を避ける、の4つです。
このうち「虫を避ける」説は、意外に古いものです。1930年には、吸血バエは単色より白黒のしまにとまりにくい、という報告が出ています。この説が最も有力とされるようになったのは、2014年の研究がきっかけでした。ウマの仲間の多くの種類を調べると、しまの強さは、敵の分布や気温よりも、吸血バエのいる場所とよく重なっていたのです。
「体を冷やす」説への反論
しまが体を冷やすという説には、実験による反論があります。ハンガリーなどのチームは2018年、水を入れた金属のたるに、いろいろな毛皮をかぶせて屋外に置きました。4か月間、たるの中の温度を測り続けました。シマウマのしま模様のたると、灰色のたるの温度に、はっきりした差は出ませんでした。
それでも解けない謎
2025年に出た、シマウマのしまの研究をまとめ直した論文は、残る疑問をいくつも挙げています。兒嶋さんたちの解説が、その中身を紹介しています。アフリカには、ほかにもウマの仲間や牛などの大きな草食動物がいます。なのに、なぜシマウマだけがしまを持つのか。サシバエは腹や脚によくとまるのに、シマウマの腹にはしまがほとんどない。逆に、血を吸われる心配の少ないたてがみには、しまがある。こうした点を、虫を避ける説だけでは説明しきれません。
兒嶋さんたちは、日本の牛での実験は、この説の確かさを強く示した、と書いています。同時に、なぜシマウマのようなしまを持つ牛の品種がいないのかも、これからの謎だとしています。
この実験の限界
調べた牛は6頭で、1回の実験は9日間です。ペンキは数日で落ちるため、ハエの多い3〜4か月の間、しまを保つ方法が必要だと、論文自身が書いています。数えたハエの多くはサシバエとノサシバエで、アブはごくわずかでした。ほかの種類のハエや、ほかの地域でも同じ効果があるかは、これから確かめる必要があります。
05まとめ
愛知県の試験場で、黒毛和牛6頭に白いペンキでしまをかくと、体にとまる吸血バエは何もぬらない牛の半分以下に減りました。黒いペンキでしまをかいても減らなかったので、効いたのは白黒の模様だと考えられます。牛がハエを追い払う動きも、約4分の1減りました。
シマウマのしまが虫よけになるという説は、遠く離れた日本の牛でも確かめられました。それでも、ハエがしまを避けるしくみや、なぜシマウマだけがしまを持つのかは、まだ解けていません。夏に牧場へ行ったら、黒い牛と白っぽい牛で、とまっているハエの数を比べてみてください。
研究カルテ
愛知県長久手市
- 研究チーム
- 愛知県農業総合試験場と京都大学のチーム(第一著者 兒嶋朋貴)
- 調べた場所
- 愛知県長久手市の愛知県農業総合試験場の放牧地(1ヘクタール)
- 調べた動物
- 妊娠中の黒毛和種のメス牛6頭(学名 Bos taurus)
- 調べ方
- 白黒のしま・黒いしま・何もぬらない、の3つを全頭で順に試し、とまったハエと追い払う動きを数えた
- 分かったこと
- 白黒のしまの牛は、とまったハエが半分以下に減り、首振りや尾振りも減った
- まだ分からないこと
- ハエが白黒のしまを避けるしくみ。ペンキは数日で落ちるので、長くもたせる方法
- 論文
- PLOS ONE(2019年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
In summer, flies bite cows and drink their blood. The cows shake their heads and tails all day to keep the flies away.
Scientists in Aichi, Japan, painted white stripes on black cows. The stripes looked like the stripes of a zebra. They also painted black stripes on some cows, and some cows had no paint. They took photos and counted the flies on each cow.
Cows with white stripes had less than half as many flies. Black stripes did not work. The cows with white stripes also shook their heads and tails less. In 2025, this study won an Ig Nobel Prize.
Why do flies avoid stripes? Flies seem to have trouble landing on stripes. But nobody knows exactly why yet.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What color were the stripes that worked?効果があったのは、何色のしまでしたか。
黒い牛に白いペンキでかいたしまだけが、ハエを減らしました。
Q2. How many flies were on the cows with white stripes?白いしまの牛にとまったハエは、どのくらいでしたか。
何もぬらない牛の半分以下に減りました。
Q3. What prize did this study win in 2025?この研究は2025年に何の賞を受けましたか。
2025年のイグノーベル賞(生物学賞)を受けました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Kojima, T. et al. (2019) Cows painted with zebra-like striping can avoid biting fly attack. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0223447
- 2兒嶋朋貴・大石風人・広岡博之(2026)シマウマのシマ模様の機能と畜産への応用. 日本畜産学会報 97(1)jstage.jst.go.jp/article/chikusan/97/1/97_1/_article/-char/j
- 3Caro, T. et al. (2019) Benefits of zebra stripes: Behaviour of tabanid flies around zebras and horses. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0210831
- 4Tombak, K. J. et al. (2022) Zebras of all stripes repel biting flies at close range. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-022-22333-7
- 5Horváth, G. et al. (2018) Experimental evidence that stripes do not cool zebras. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-018-27637-1
- 6Improbable Research「Winners of the Ig Nobel Prize」improbable.com/ig/winners/
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





