ヒヒの群れは、強いボスより「多数派」についていった。25頭にGPS首輪をつけて分かった

野生のヒヒ25頭の動きを1秒ごとに記録した。ヒヒは強いボスではなく、同じ向きに動き出した仲間が多いほうについていった。

No.140 8分で読めるえっ度 論文 2021年
アフリカのサバンナで、首輪をつけたアヌビスヒヒ(オリーブ色がかった灰色の毛、犬のように長い鼻先、根元で折れ曲がって垂れる尾)の群れが、同じ方向へ歩き出している。先頭の数頭のあとに、ほかのヒヒたちが続いている。

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  1. 群れで一番強いオスが、一番ついてこられるわけではなかった
  2. 同じ向きに動き出した仲間が多いほど、ほかのヒヒはついていった
  3. 行き先が大きく分かれると片方を選び、少しの違いなら間をとった

人に話すなら

ヒヒの群れって、強いボスが行き先を決めてると思うでしょ。GPSで調べたら、同じ方向に歩き出した仲間が多いほうについていくんだって。行き先が少しだけ違うと、間をとって歩くらしいよ。

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読む前に予想しよう

ヒヒの群れでは、一番強いオスが歩き出すと必ずみんながついていく

ヒヒの群れには、はっきりした上下関係があります。論文によると、オスはメスより強い立場にいます。そう聞くと、群れがどこへ行くかも、一番強いボスが決めていそうです。

ところが、ケニアの野生のアヌビスヒヒを調べた研究は、違う答えを出しました。群れの25頭にGPS首輪をつけ、1秒ごとの位置を記録したのです。ヒヒたちは、強いボスについていくのではありませんでした。同じ方向に歩き出した仲間が多いほうへ、ついていっていました。

群れの動物がどうやって行き先を決めるのかは、昔からの謎でした。何十頭もの動きを、人の目で同時に追うことはできないからです。GPSで全員の動きを同時に記録したことで、この謎に数字で答えられるようになりました。

01群れのヒヒたちは、毎日まとまって長い道のりを歩く

アヌビスヒヒは、アフリカにすむサルのなかまです。論文によると、ヒヒは大人のオスとメスが何頭もいる群れで暮らします。群れは最大で100頭ほどになります。

群れのヒヒたちは、必要なものも、体の力も、えさの探し方も違います。それでも群れはまとまって、毎日長い道のりを一緒に歩きます。だれかが「あっちへ行きたい」と思っても、ほかのヒヒが別の方向へ行きたいこともあるはずです。

それまでにも、群れのリーダーを探す研究はありました。朝、寝場所からだれが最初に出発するか。歩く列の先頭にだれがいるか。けれども、研究によって結果がばらばらでした。リーダーがいるのか、いないのかも、はっきりしませんでした。

02研究チームは、群れの25頭に1秒ごとに位置を記録する首輪をつけた

調べたのは、アメリカのプリンストン大学のアリアナ・ストランドバーグ=ペシュキン(Ariana Strandburg-Peshkin)さんたちです。カリフォルニア大学デービス校のマーガレット・クロフット(Margaret Crofoot)さんたちも加わりました。舞台は、ケニアのライキピア地方にあるムパラ研究センターです。

同じ首輪のデータを使った2017年の論文に、首輪をつけた手順がくわしく書かれています。2012年7月、チームは46頭の群れのうち33頭を、トウモロコシを入れたわなで捕まえました。7頭は小さすぎて首輪をつけられず、すぐに放しました。残る26頭には、麻酔をかけてGPS首輪をつけました。首輪の重さは、そのヒヒの体重の5%より軽くしました。

首輪は、昼間の朝6時から夕方6時まで、1秒に1回、位置を記録しました。1つの首輪はすぐに壊れたので、使えたのは25頭分です。25頭のうち23頭は大人と若者で、群れの大人と若者29頭の約8割にあたります。残る2頭は子どもでした。記録は、2012年8月1日から9月2日まで続きました。

低い木がまばらに生えた草原で、ヒヒの小さな群れが2つの方向に分かれかけ、真ん中のヒヒが仲間の多いほうへ向き直っている。

次に、チームは25頭の位置データから、「歩き出し」の場面をコンピューターで取り出しました。2頭のヒヒのきょりに注目します。片方が相手から離れていき、相手がついてきたら「引っぱり成功」です。相手がついてこず、離れたほうが戻ってきたら「失敗」です。この方法なら、ヒヒの気持ちを想像しなくても、動きだけで数えられます。

03歩き出した仲間が多く、向きがそろうほど、ヒヒはついていった

結果を見ると、ついていくかどうかは2つのことで決まっていました。何頭が同時に歩き出したか。そして、その向きがどれだけそろっていたか、です。

たくさんのヒヒが同じ向きに歩き出したときは、ほかのヒヒもよくついていきました。ところが、歩き出したヒヒたちの向きがばらばらなときは違いました。歩き出す仲間が増えるほど、だれにもついていかなくなりました。意見が割れると、決めるのが先のばしになっていたのです。

では、強いヒヒにはついていきやすいのでしょうか。チームは、1頭だけが歩き出した場面で比べました。強い個体の力が一番はっきり出るはずの場面です。

結果は、ボスの勝ちではありませんでした。群れで一番強いオスが、一番ついてこられたわけではありませんでした。上下関係の順位と、ついてこられやすさには、関係が見られませんでした。オスはメスより強いのに、オスとメスでも差はありませんでした。ついてこられやすかったのは、迷わずまっすぐ歩いていくヒヒでした。

04行き先が大きく分かれると片方を選び、少しの違いなら間をとった

2頭が同時に、違う方向へ歩き出したらどうなるでしょうか。群れの動きを計算で再現する研究から、ある予想がありました。向きの差が大きいときは、どちらか片方を選ぶ。差が小さいときは、2つの真ん中あたりへ進む、という予想です。

ヒヒのデータは、この予想どおりでした。2頭の向きの差がおよそ90度より大きいとき、ついていく側はどちらか片方を選びました。90度より小さいときは、2つの方向の間をとって歩きました。歩き出したヒヒが2つのグループに分かれた場面でも、同じ形が見られました。

片方を選ぶときは、どちらを選ぶのでしょう。ヒヒは、歩き出した仲間が多いグループのほうへ行きやすくなっていました。2つのグループの頭数の差が大きいほど、多いほうを選ぶ傾向は強まりました。

そのあと群れ全体も、うまくいったグループの方向へ進んでいました。仲間を集められなかったヒヒは、自分が歩き出した向きをあきらめ、多数派の方向へ移りました。こうして群れはばらばらにならずにすんでいました。

05でも、ボスが行き先を決める場面もある

この結果は「ヒヒの群れでは、いつでも多数派が勝つ」という意味ではありません。別の研究が、逆の場面を報告しているからです。

イギリスのロンドン動物学会のアンドリュー・キング(Andrew King)さんたちは、2008年に別の種類のヒヒ、チャクマヒヒで実験をしました。えさを使って、群れがどう動くかを調べたのです。すると群れは、そのえさで一番得をする強いオスについていきました。下の立場のヒヒは、自分は損をしてもついていきました。ボスとのつながりが弱いところでは、群れが2つに分かれやすくなりました。

ストランドバーグ=ペシュキンさんたちの論文も、この研究を紹介しています。強いヒヒがどうしてもそこへ行きたいときは、群れを動かせるのかもしれません。それでも、毎日のふだんの移動は、みんなで決めている。論文はそう結論しています。

また、「みんなで決める」は「みんな平等」とは限りません。同じ群れのデータを使った2021年の研究があります。群れのヒヒはみな、歩く速さや休み方を変えて、群れに合わせていました。ただし、その負担は体の小さいヒヒに多くかかっていました。行き先は分け合って決めても、ついていく苦労は平等ではなかったのです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

みんなで決めると、なぜ得なのか

論文の前書きは、理論の研究をもとにこう説明しています。1頭が知っていることには限りがあります。多くの仲間が持つ情報を合わせると、決めたことが正しくなりやすいのです。だから理論の上では、みんなで決めるやり方は自然の中に広くあるはずだと考えられてきました。

ただし、群れで暮らすことには損もあります。自分が行きたい場所をあきらめて、群れに合わせることで失うものです。2008年のキングさんたちの論文は、この損を「合意のコスト」と呼んでいます。理論では、ボスが1頭で決めるより、みんなで決めるほうが、群れ全体の合意のコストは小さくなると予想されています。

「100頭の動きを同時に見る」ことの難しさ

群れの決め方を調べるには、群れの多くの個体を同時に見なければなりません。ストランドバーグ=ペシュキンさんたちは、これを昔の研究者の言葉を借りて「気の遠くなるような観察の仕事」と書いています。これまでは、朝の出発や列の先頭を人が見て記録してきました。しかし、その結果は研究によって食い違っていました。1秒ごとのGPSで25頭を同時に追ったことで、たくさんの「歩き出し」を機械的に数えられるようになりました。

ほかの動物ではどうか

論文は、ハトの群れの研究も引いています。ハトでは、群れの中に「だれがだれを引っぱるか」の順位があると報告されています。一方、魚の群れでは、多くの個体の情報を合わせると決め方が正確になる、という研究があります。ヒヒのように強い上下関係がある動物で、多数派についていく形が見つかったことが、この研究の新しさでした。論文は、単純なルールから生まれる「みんなで決める」動きは、動物に広くあるのかもしれないと書いています。

この研究方法の限界

「引っぱり成功」の数え方は、動きだけを見ています。論文自身が書いているように、1つ1つの場面で、本当に片方が相手を動かしたのかは分かりません。たまたま同じ方向へ歩いただけの場面も含まれているかもしれません。たくさんの場面をまとめて見ることで、全体の傾向を読み取っているのです。また、調べたのは1つの群れの、2012年夏の記録です。ほかの群れやほかの季節でも同じなのかは、まだ確かめられていません。

06まとめ

ケニアの野生のアヌビスヒヒ25頭に、1秒ごとに位置を記録するGPS首輪をつけた研究がありました。ヒヒは、群れで一番強いオスに特についていくわけではありませんでした。同じ方向に歩き出した仲間が多いほど、ついていきました。

歩き出した向きの差がおよそ90度より大きいと、ヒヒは仲間の多いほうを選びました。差が小さいと、間をとって歩きました。ただし、えさで大きな得がある場面では、強いオスが群れを動かした研究もあります。

動物園でヒヒやニホンザルの群れを見る機会があれば、1頭が歩き出したあとを見てみてください。すぐについていくのか、何頭かそろうまで待つのか、群れによって違いが見えるかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ケニア・ライキピア

研究チーム
アメリカのプリンストン大学とカリフォルニア大学デービス校などのチーム(第一著者アリアナ・ストランドバーグ=ペシュキン)
調べた場所
ケニアのムパラ研究センター
調べた動物
野生のアヌビスヒヒ1つの群れ(学名 Papio anubis)
調べ方
群れの25頭にGPS首輪をつけ、昼間の位置を1秒ごとに記録した。だれが歩き出し、だれがついていったかを計算で取り出した
分かったこと
ヒヒは強い個体ではなく、同じ向きに動き出した仲間が多いほうについていった
まだ分からないこと
えさ場が限られる場面など、ボスに強い動機があるときも同じなのか
論文
Science(2015年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Baboons Follow the Many, Not the Boss

Baboons live in groups with strong and weak members. So who decides where the group goes? Many people think the strongest male decides.

Scientists in Kenya put GPS collars on 25 wild baboons. The collars recorded where each baboon was every second. Then a computer found the moments when one baboon started to walk away.

The strongest male was not followed more than the others. Baboons followed when many group members walked in the same direction. When two baboons went in very different directions, the others chose one side. When the difference was small, they walked between the two.

But the boss can still win sometimes. In another study with food, a group of baboons followed the strongest male. Also, keeping up with the group was harder for small baboons. So the group decides together, but life in the group is not always fair.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many baboons had GPS collars that worked?GPS首輪のデータが使えたヒヒは何頭でしたか。

Q2. When did baboons follow most often?ヒヒが一番よくついていったのはどんなときですか。

Q3. What did baboons do when the two directions were only a little different?2つの方向の違いが小さいとき、ヒヒはどうしましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Strandburg-Peshkin, A. et al. (2015) Shared decision-making drives collective movement in wild baboons. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aaa5099
  2. 2同論文の著者版全文(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4801504/
  3. 3Strandburg-Peshkin, A. et al. (2017) Habitat and social factors shape individual decisions and emergent group structure during baboon collective movement. eLife 論文確認済みdoi:10.7554/eLife.19505
  4. 4King, A. J. et al. (2008) Dominance and affiliation mediate despotism in a social primate. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2008.10.048
  5. 5Harel, R. et al. (2021) Locomotor compromises maintain group cohesion in baboon troops on the move. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2021.0839

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい