チンパンジーが木の根をたたくリズムは、アフリカの西と東で違っていた。371回の記録を分析

野生のチンパンジーが木の根をたたく音を、24年分集めて調べた。西アフリカでは等間隔、東アフリカでは短い間と長い間を交互にたたいていた。

No.162 7分で読めるえっ度 論文 2025年
西アフリカの熱帯の森で、大人のオスのチンパンジーが、大木の根もとから板のように張り出した根を、両手でたたいている。口をとがらせて声を上げている。

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  1. チンパンジーは、木の根もとの板のような根を手足でたたいて鳴らす
  2. 西アフリカのチンパンジーは、等間隔にたたいていた
  3. 東アフリカのチンパンジーは、短い間と長い間を交互にたたいた

人に話すなら

チンパンジーって、木の根っこを手足でたたいて太鼓みたいに鳴らすんだって。西アフリカの群れは等間隔でたたいて、東アフリカの群れは短い間と長い間を交互にたたくらしいよ。

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読む前に予想しよう

チンパンジーの太鼓のリズムは、すんでいる森や草原の違いで決まっていた

アフリカの森の大木には、根もとから薄い板のような根が張り出しているものがあります。野生のチンパンジーは、この根を手や足でたたいて、低い音を響かせます。その音は、1キロメートル以上先まで届くことがあります。

ヨーロッパやアメリカ、アフリカの研究者が集まった大きなチームが、この「太鼓」を調べました。アフリカの5か国、11の群れで集めた371回の太鼓です。すると、たたく間隔はでたらめではありませんでした。しかも、西アフリカのチンパンジーは等間隔に、東アフリカのチンパンジーは短い間と長い間を交互にたたいていました。

人の音楽では、たたく間隔をそろえるリズムが、多くの文化に共通して見られます。一方で、リズムには地域ごとの違いもあります。では、人に一番近い動物であるチンパンジーの太鼓はどうなのか。たたく間隔がそろっているのか、地域ごとの違いがあるのかは、野生のチンパンジーではまだ分かっていませんでした。

01チンパンジーは、遠くの仲間に向けて木の根をたたく

太鼓に使われるのは、板根と呼ばれる根です。板根は、大木の幹を支えるように、根もとから板のように広がった根です。チンパンジーは、よく響く板根を選んでたたくことが分かっています。

チンパンジーが太鼓をたたくのは、主に森を移動しているときと、休んでいるときです。そのとき、パント・フートと呼ばれる大きな声と組み合わせることがよくあります。パント・フートは、遠くにいる仲間と連絡を取り合うための、チンパンジー特有の呼び声です。ほかに、毛を逆立てて力を見せつける「誇示」のときにもたたきます。

チンパンジーの群れの仲間は、いつも一緒にいるわけではありません。小さなグループに分かれたり、また集まったりします。2022年の研究では、ウガンダの1つの群れのオス7頭を調べると、移動中の太鼓のたたき方に1頭ずつ違う特徴がありました。太鼓は、自分が誰で、どこにいるのかを、離れた仲間に知らせているのではないかと考えられています。

0224年分、11の群れで、木の根をたたく音を集めた

研究の中心になったのは、オーストリアのウィーン大学とイギリスのセントアンドルーズ大学のヴェスタ・エレウテリ(Vesta Eleuteri)です。イギリスのセントアンドルーズ大学のキャサリン・ホベイター(Catherine Hobaiter)、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学のアンドレア・ラヴィニャーニ(Andrea Ravignani)らも加わりました。データは、1999年から2023年までの24年間に、各地の研究者が集めたものです。

チンパンジーは、すむ地域によっていくつかの亜種に分けられます。亜種は、同じ種の中で、地域ごとに少し違う特徴を持つグループです。今回調べたのは、東アフリカにすむ「東の亜種」と、西アフリカにすむ「西の亜種」です。東の亜種は、ウガンダの2つの調査地と、タンザニアのゴンベ国立公園の群れです。西の亜種は、コートジボワールのタイ国立公園、ギニアのニンバ山地、セネガルのフォンゴリの群れです。ニンバ山地の太鼓は、動物が通ると自動で撮影するカメラで記録したものです。

録音や動画から、チームはたたいた音の1つ1つの時刻を読み取りました。使ったのは、移動中か休んでいるときの、大人のオスの太鼓だけです。メスの太鼓は、記録が少なすぎたからです。3回以上たたいた太鼓を選び、全部で47頭の371回を分析しました。

調べ方は、たたく音と音の間の時間を、となりどうしで比べることでした。2つの間が同じ長さなら「等間隔」です。片方が短く片方が長ければ、「長短」になります。チームはこの比べ方を全部の太鼓で行い、間隔がでたらめなときに出る結果と比べました。

大木の根もとから、薄い板のような根が何枚も地面に広がっている。チンパンジーが片足をその根にかけ、手を振り上げている。

03西は等間隔に、東は短い間と長い間を交互にたたいた

結果は、東でも西でも、たたく間隔はでたらめではありませんでした。そのうえで、2つの亜種は違うリズムを持っていました。西のチンパンジーは、偶然より多く等間隔でたたいていました。東のチンパンジーは、等間隔が偶然より少なく、短い間と長い間を交互にくり返していました。

たたく回数にも違いがありました。1回の太鼓でたたく数は、西が中央値で7回、東が4回でした。けれども、1回の太鼓の長さは、東と西で変わりませんでした。つまり、西のチンパンジーは、同じ時間により多く、速いテンポでたたいていたのです。

声との組み合わせ方も違いました。パント・フートは、低い「ホー」で始まり、息を吸ったり吐いたりする声で盛り上がり、悲鳴のような高い声で最高潮になります。西のチンパンジーは、声の早い段階、盛り上がりの途中でたたき始めることが多くありました。盛り上がりの声も、等間隔に近いリズムを持っています。チームは、等間隔の声に、等間隔の太鼓を合わせやすいのかもしれないと考えています。

チームは、環境の違いも確かめました。調査地には、深い森もあれば、サバンナに近い林もあります。けれども、同じ亜種の中では、すむ場所が違っても、太鼓に差は見つかりませんでした。また、24年の間に、太鼓のたたき方が変わった様子もありませんでした。

04ただし、人の音楽とはまだ違いがある

チンパンジーの太鼓は、人の音楽とそっくりというわけではありません。人の音楽では、「1対2」や「1対3」のように、間隔が簡単な整数の比になるリズムがよく使われます。チンパンジーの太鼓には、こうしたリズムは見つかりませんでした。1回にたたく数も、人の太鼓より少なくなっています。

東の亜種の「長短」のリズムには、注意も必要です。このリズムが見られたのは、3回か4回だけたたいた短い太鼓でした。5回以上たたいた太鼓だけで分析し直すと、東のチンパンジーの間隔は、でたらめと区別できませんでした。チームは、分析できるデータが減ったせいかもしれないと書いています。

前の研究とも食い違いがあります。2004年の研究は、タイとウガンダのキバレの群れの太鼓を比べました。そして、たたく数や長さ、間隔の平均に、地域の違いを見つけられませんでした。今回のチームは、前の研究ではどんな場面の太鼓かが記録されておらず、数も少なかったことが原因かもしれないと考えています。

また、タンザニアのゴンベで、誇示のときの太鼓が、木に向かって走る足どりのリズムとそろっていたという研究もあります。足の運びが、太鼓のリズムを決めているのかもしれないのです。今回のチームは、場面や亜種でリズムが変わることから、足どりだけでは説明しきれないだろうと考えています。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

なぜ亜種でリズムが違うのか:まだ仮説の段階

チームは、群れの暮らし方の違いに注目しています。西のチンパンジーのメスは、東よりも仲間と一緒にいることが多いとされます。また、ほかの群れとの殺し合いは、東では何度も記録されていますが、西ではまれです。

西のチンパンジーは、仲間とよく顔を合わせ、まとまりが強いのかもしれません。人では、等間隔のリズムは、みんなで声や動きをそろえることと結びついていると考えられています。東のチンパンジーは、仲間と離れていることが多いのかもしれません。間隔に変化をつけるリズムは、等間隔より多くの情報をのせられる可能性があります。ただし、これらはまだ確かめられていない仮説です。チームは、リズムの違いが、特に役に立つわけではない「文化」の違いである可能性も挙げています。

チンパンジーの太鼓を調べてきた歴史

1998年には、野生のチンパンジーについて、太鼓のたたく間隔や、声との組み合わせ方を調べた研究が出ています。今回の研究も、1回の太鼓の数え方を、この研究にならって決めました。2015年には、飼育されている1頭のチンパンジーが、特にきっかけもなく、いつもよりずっと長くたたき続けた例が報告されました。リズムは変化しながらも、間隔がそろっていました。今回の研究は、野生の群れをまとめて比べた、これまでで最大のデータです。

ほかの動物との比較:道具で木をたたくヤシオウム

リズムを刻む動物は、サルの仲間だけではありません。オウムの仲間のヤシオウムのオスは、道具を作り、それで木をたたいて音を出します。2017年の研究では、18羽のオスの131回のたたき方を調べました。たたく間隔はでたらめではなく規則正しく、オスごとに違う「くせ」もありました。

研究方法の工夫と限界

たたく音の間隔を、となりどうしの比で表すと、テンポが速いか遅いかに関係なく、リズムの形だけを比べられます。違う調査地の、違う機材で録った音でも、同じ方法で比べられるのです。一方で、分析できたのは大人のオスだけで、メスの太鼓は分かっていません。たたく木の種類や形がリズムにどう関わるのかも、これから調べる課題です。

05まとめ

野生のチンパンジーは、大木の板根を手足でたたいて音を出します。24年分、11の群れの371回を調べると、たたく間隔はでたらめではありませんでした。西の亜種は等間隔に、東の亜種は短い間と長い間を交互にたたいていました。

チームは、リズムよくたたく行動が、人とチンパンジーの共通の祖先にすでにあった可能性があると考えています。人とチンパンジーの祖先が分かれたのは、約700万〜900万年前とされています。

RESEARCH FILE

研究カルテ

コートジボワール(タイ国立公園)

研究チーム
オーストリアのウィーン大学、イギリスのセントアンドルーズ大学などのチーム(第一著者ヴェスタ・エレウテリ)
調べた場所
ウガンダ、タンザニア、コートジボワール、ギニア、セネガルの6つの調査地
調べた動物
野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes)の東と西の亜種。大人のオス47頭
調べ方
1999〜2023年に11の群れで録った太鼓371回について、たたく音と音の間隔を測り、でたらめな間隔と比べた
分かったこと
間隔はでたらめではなく、西の亜種は等間隔、東の亜種は短い間と長い間を交互にたたいていた
まだ分からないこと
なぜ亜種でリズムが違うのか。群れで受けつがれる「文化」の違いなのか
論文
Current Biology(2025年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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Chimpanzee Drumming Has Local Rhythms

Some big trees in Africa have wide, flat roots. Wild chimpanzees hit these roots with their hands and feet. The low sound can travel more than one kilometer.

A team of scientists studied 371 of these drum sounds. The sounds came from 11 chimpanzee groups in five African countries. The data covered 24 years. The team measured the time between each hit.

The timing was not random. Chimpanzees in West Africa often hit the roots with even gaps between hits. Chimpanzees in East Africa often used a short gap and then a long gap. Western chimpanzees also hit the roots more times and faster.

The places where they lived did not seem to change the rhythm. The scientists think drumming with a rhythm may be very old. It may go back to the time before humans and chimpanzees split.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What do the chimpanzees hit?チンパンジーは何をたたきますか。

Q2. How do chimpanzees in West Africa often hit the roots?西アフリカのチンパンジーは、どのようにたたくことが多いですか。

Q3. How many years of data did the team use?チームは何年分のデータを使いましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Eleuteri, V. et al. (2025) Chimpanzee drumming shows rhythmicity and subspecies variation. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2025.04.019
  2. 2Eleuteri, V. et al. (2022) The form and function of chimpanzee buttress drumming. Animal Behaviour 論文確認済みdoi:10.1016/j.anbehav.2022.07.013
  3. 3Heinsohn, R. et al. (2017) Tool-assisted rhythmic drumming in palm cockatoos shares key elements of human instrumental music. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.1602399
  4. 4Dufour, V. et al. (2015) Chimpanzee drumming: a spontaneous performance with characteristics of human musical drumming. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep11320

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい