80年以上記録がなかったアフリカのキンモグラは生きていた。トンネルの砂のDNAで分かった

1937年から記録がなかった南アフリカのキンモグラ。トンネルの砂を集めてDNAを調べると、海岸の6つの地域すべてから、その種のDNAが見つかった。

No.163 7分で読めるえっ度 論文 2024年
海辺の白い砂丘に、細いもり上がりの線がくねくねと続いている。その線の先で、小さなキンモグラが、砂から鼻先を少しだけ出している。キンモグラは、つやのある毛で、目は皮ふにおおわれて見えず、外から見える尾はない。

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  1. 1937年から記録がなく、絶滅したかもしれないとされていた
  2. トンネルの砂を集めてDNAを調べると、その種のDNAが見つかった
  3. 生き残りは確かめられたが、数がどれくらいかはまだ分からない

人に話すなら

南アフリカで80年以上も見つかってなかったモグラみたいな動物が、まだ生きてたんだって。トンネルの砂をすくってDNAを調べたら、その種類のDNAが出てきたらしいよ。

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キンモグラは、日本のモグラと近い親戚だ

南アフリカの西の海岸に、ポート・ノロスという小さな町があります。この町の周りでしか記録のない、小さな動物がいます。デウィントンキンモグラです。最後に記録されたのは1937年で、それから80年以上、記録は1つもありませんでした。

南アフリカの大学と自然保護団体のチームは、2021年に、この動物を探しに出かけました。使ったのは、においで探す訓練を受けた犬と、トンネルの砂です。砂にまじったDNAを調べると、デウィントンキンモグラのDNAが、調べた6つの地域すべてから見つかりました。

キンモグラは、一生のほとんどを地面の下で過ごします。やわらかい砂の中では、トンネルがすぐにくずれ、通った跡も見つけにくくなります。わなで捕まえるのも難しく、見た目が似た別の種類と区別するのも簡単ではありません。「いない」のか、「見つけられないだけ」なのかが、長く分からなかったのです。

01キンモグラは、砂の中で暮らすアフリカの小さな哺乳類

キンモグラは、アフリカのサハラ砂漠より南にすむ、小さな哺乳類のグループです。今は21種が知られていて、そのうち10種が絶滅のおそれがある種に指定されています。土の中で虫などを食べます。掘りやすいやわらかい土や砂がないと暮らせません。そのため、鉱山の開発や町づくり、畑づくりで、すむ場所が失われやすいのです。

デウィントンキンモグラは、ポート・ノロスで見つかった記録しかありません。国際自然保護連合(IUCN)は、この種を、絶滅の危険が最も高い段階に分けていました。そのうえで、「絶滅したかもしれない」という注記もつけていました。ポート・ノロスの周りでは、砂の中からダイヤモンドを掘り出す鉱山の開発が進み、海岸の地形が大きく変わっています。

同じ西の海岸には、ほかに3種のキンモグラがいます。そのうち2種は、比べると数が多く、広くすんでいると考えられています。もう1種は、デウィントンキンモグラにとてもよく似た近い仲間です。キンモグラは、種どうしの見た目の違いが小さく、外から見ただけでは種を見分けにくいことがあります。

02犬がトンネルを見つけ、研究者がトンネルの内側の砂を集めた

中心になったのは、南アフリカのステレンボッシュ大学とプレトリア大学のサマンサ・マインハート(Samantha Mynhardt)です。自然保護団体「絶滅危惧野生生物トラスト」のコバス・セロン(Cobus Theron)が、野外の調査を率いました。

チームは、2021年に西の海岸を回りました。まず、地面のすぐ下を通るトンネルの跡を探し、土地の持ち主に調査の許可をもらいました。トンネル探しを手伝ったのは、ボーダーコリーのジェシーです。ジェシーは、この地域に多い2種のキンモグラのにおいで訓練されていました。

キンモグラが活動している場所が見つかると、研究者は手袋をはめ、消毒した道具で砂を集めました。集めたのは、トンネルの内側の壁や、トンネルの中、その周りの深さの違う所の砂です。量は1か所あたり最大15ミリリットルでした。こうして、南のランバーツ湾から北のポート・ノロスの先まで、49か所の砂を集めました。

砂の中には、動物の毛や皮ふ、ふん、尿などから出たDNAがまじっています。こうしたDNAを「環境DNA」と呼びます。チームは、砂から取り出したDNAの中から、種ごとに少しずつ違う短い部分を読み取りました。そして、読み取った配列を、種の分かっている標本のDNAと比べました。

砂丘の断面。砂の中を走るトンネルの内側に、手袋をした手が小さなスプーンを差しこんで、砂をすくっている。そばに犬がふせている。

036つの地域すべてで、デウィントンキンモグラのDNAが見つかった

チームは、49か所の砂を、場所ごとに6つの地域にまとめて調べました。すると、デウィントンキンモグラのDNAが、6つの地域すべてで見つかりました。最初の記録があったポート・ノロスだけでなく、南のランバーツ湾から、北のポート・ノロスの先までです。

DNAだけではありません。チームは、南のランバーツ湾と、ポート・ノロスの砂浜に、落とし穴のわなを1つずつ仕かけました。どちらのわなにも、1匹ずつキンモグラがかかりました。体を傷つけないよう、口とおしりを綿棒でぬぐってDNAを取りました。ポート・ノロスの1匹のDNAは、デウィントンキンモグラとして登録されていた配列と、98.88%一致しました。

一方で、数が多いとは言えません。見つかったデウィントンキンモグラのDNAの型は、ほんの数種類だけでした。また、鉱山のある地域では、キンモグラが活動している跡そのものが少なくなっていました。そのため、ほかの地域よりずっと広い範囲を回って、砂を集める必要がありました。

論文は、デウィントンキンモグラは西の海岸に広くすんでいるかもしれないが、数が多いとは限らず、鉱山の地域では特に少ない、とまとめています。

04ただし、砂のDNAには弱点もある

この結果には、注意すべき点もあります。まず、ごく近い仲間との区別です。デウィントンキンモグラと近い仲間の種は、DNAがとてもよく似ています。今回読み取った短いDNAでは、2種を見分けられない場合がありました。そのため、近い仲間がDNAにまじっていたかどうかは、確かめられていません。論文は、この2種が実は1つの種である可能性もある、と書いています。

次に、ほかの研究からのまぎれこみです。DNAの中には、ニタリクジラやエランドなど、キンモグラのトンネルにいるはずのない動物の配列もありました。これらは、同じ研究室で同じころに進んでいた、別の研究の動物でした。チームは環境DNA専用の実験室を使えませんでした。そこで、作業の場所と時間を分けて対策していました。論文は、DNAの検索結果は慎重に読む必要があると書いています。

そして、場所の細かさです。砂は地域ごとにまとめてから調べたので、どの地点に何がいたのかまでは分かりません。何匹いるのかも、まだ分かっていません。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

キンモグラは、モグラの親戚ではない

キンモグラは、小さな体で土を掘り、モグラによく似た暮らしをしています。けれども、ヨーロッパや日本のモグラとは、近い親戚ではありません。キンモグラは「アフリカ獣類」というグループに入ります。このグループには、ゾウ、ハイラックス、ジュゴンやマナティー、ツチブタ、ハネジネズミ、テンレックが含まれます。中でも、キンモグラに一番近いのはテンレックだと考えられています。

モグラに似た姿は、地面の下の暮らしに合わせて、別々に進化した結果です。同じような暮らしをすると、親戚でなくても似た体つきになることがあります。

環境DNAの研究の歩み

環境DNAは、生き物の毛、皮ふ、尿、ふん、だ液などから出て、水や土に残ったDNAです。残る時間は場所によって違います。温帯の水の中では数時間で消えることもあります。一方、こおったまま乾いた土の中では、数百年から数千年も残ることがあります。

これまでの動物の環境DNA研究の多くは、魚やカエルなど水の生き物が対象でした。陸の動物を土で調べた研究は、まだ少数です。2011年に発表された研究は、どんな動物がいるか分かっている場所の土を調べました。サファリパークや動物園、牧場です。その結果、地面の土のDNAから、そこにいる動物の種類やおおよその量が読み取れました。ただし、最近連れてこられたばかりの1種は、見つかりませんでした。DNAが見つからないことは、その動物が「いない」ことの証明にはならないのです。

再発見のあとに必要なこと

論文は、これからの課題を4つ挙げています。近い仲間との関係をはっきりさせること、すむ範囲と数を調べること、保護区にいるかどうかを確かめること、そして小さな集団どうしがつながって生き残れるかを調べることです。ダイヤモンドの鉱山の開発は今も続いていて、すむ場所を守ることが急がれています。

研究方法の工夫と限界

においで探す犬が活動中のトンネルを探し、人が砂を集め、実験室でDNAを読む。この組み合わせで、捕まえにくい動物の手がかりを効率よく集めました。一方で、チームが使った3つのDNAの目印のうち1つは、種を見分ける力が弱く、分析から外されました。別の目印では、4種のうち1種のDNAが一度も見つかりませんでした。どの目印を使うかで、見つかる種が変わりうるのです。

05まとめ

デウィントンキンモグラは、1937年を最後に80年以上記録がありませんでした。2021年、チームはトンネルの砂49か所分を集め、DNAを調べました。すると、デウィントンキンモグラのDNAが、西の海岸の6つの地域すべてから見つかりました。

ただし、何匹いるのかは、まだ分かっていません。それでも、80年以上見つからなかった動物の手がかりは、トンネルからすくった砂の中にありました。砂の量は、1か所あたり最大15ミリリットル、大さじ1杯ほどでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

南アフリカ(ポート・ノロス)

研究チーム
南アフリカのステレンボッシュ大学、プレトリア大学、自然保護団体のチーム(第一著者サマンサ・マインハート)
調べた場所
南アフリカの西海岸。ランバーツ湾から北のポート・ノロスの先まで
調べた動物
デウィントンキンモグラ(学名 Cryptochloris wintoni)と、同じ海岸にすむキンモグラ3種
調べ方
においで探す犬の助けも借りてトンネルを探し、内側の砂49か所分からDNAを取り出して種を調べた
分かったこと
デウィントンキンモグラのDNAが6つの地域すべてで見つかり、思ったより広くすむ可能性が出てきた
まだ分からないこと
何匹いるのか。ごく近い別種と本当に別の種なのか
論文
Biodiversity and Conservation(2023年オンライン公開)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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A Lost Mole Found in the Sand

Golden moles are small animals in Africa. They spend almost their whole lives under the ground. One kind lives on the west coast of South Africa. Nobody recorded it after 1937.

In 2021, a team of scientists went to look for it. A dog named Jessie helped them find tunnels in the sand. The team took small amounts of sand from 49 places.

Animals leave tiny pieces of DNA in the sand. The scientists studied the DNA in the lab. They found DNA from the lost mole in all six areas. They also caught one of these moles in a trap.

But the scientists still do not know how many moles there are. Mining is changing the sand along this coast. The team says we must protect their home soon.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. When was the mole last recorded before this study?この研究の前に、そのモグラが最後に記録されたのはいつですか。

Q2. What did the team take from 49 places?チームは49か所から何を集めましたか。

Q3. What do the scientists still not know?研究者たちがまだ知らないことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Mynhardt, S. et al. (2024) Environmental DNA from soil reveals the presence of a "lost" Afrotherian species. Biodiversity and Conservation 論文確認済みdoi:10.1007/s10531-023-02728-2
  2. 2Asher, R. J. et al. (2010) A phylogenetic estimate for golden moles (Mammalia, Afrotheria, Chrysochloridae). BMC Evolutionary Biology 論文確認済みdoi:10.1186/1471-2148-10-69
  3. 3Andersen, K. et al. (2012) Meta-barcoding of 'dirt' DNA from soil reflects vertebrate biodiversity. Molecular Ecology 論文確認済みdoi:10.1111/j.1365-294X.2011.05261.x
  4. 4Endangered Wildlife Trust(2024)A quest for goldewt.org/a-quest-for-gold/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい