島から消えた大きなナナフシが、20km先の海の岩山で生きていた。DNAで同じ種と確認
ネズミのせいで島から消えた大きなナナフシが、20km先の岩山で見つかった。博物館の標本とDNAを比べると、違いは1%未満で、同じ種だと確かめられた。

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- ネズミが来たあと、ロードハウ島から大きなナナフシが消えた
- 2001年、20km離れた海の岩山の小さな岩棚で見つかった
- 博物館の標本とDNAを比べ、同じ種だと確かめられた
人に話すなら
オーストラリアの島で、ネズミのせいで絶滅したと思われてた大きなナナフシが、20km離れた海の岩山で生きてたんだって。博物館の古い標本とDNAを比べたら、ちゃんと同じ種だったらしいよ。
読む前に予想しよう
岩山で見つかったナナフシは、島にいたナナフシとは別の種だった
博物館の標本とDNAを比べると違いは1%未満。同じ種の中の違いと同じくらいだった。
オーストラリアの東の海に、ロードハウ島という小さな島があります。この島には昔、羽のない大きなナナフシがたくさんすんでいました。ところが、1918年に船からクマネズミが島に入りこむと、1920年代にはナナフシは島から姿を消しました。絶滅したと考えられてきました。
2001年、島から約20km離れた海の岩山で、このナナフシらしい虫が見つかりました。生き残りは、急な斜面にある小さな岩棚にいるだけでした。けれども、その姿は、博物館に残る島のナナフシと少し違っていました。
本当に同じ種なのか。2017年、研究チームは、絶滅する前に島でとられた博物館の標本からDNAを取り出し、岩山のナナフシと比べました。違いは1%未満で、同じ種の中の違いと同じくらいでした。ロードハウナナフシは、ぎりぎりのところで絶滅をまぬがれていたのです。
01ネズミが島に来て、ナナフシは消えた
ロードハウ島は、オーストラリア本土とニュージーランドのあいだの海にある島です。島の管理局によると、小さなハツカネズミは1860年代から島にいました。大きなクマネズミが初めて島に来たのは、1918年です。管理局は、クマネズミが、島だけにいた鳥5種と、島だけにいた無脊椎動物の少なくとも13種の絶滅に関わったとしています。
ロードハウナナフシも、その1つと考えられてきました。島のナナフシは、それから何十年も絶滅したと思われていました。2017年の論文は、このナナフシを、最近の歴史の中で絶滅に追いこまれた最大の虫だと書いています。
世界で最近絶滅したと記録された虫は、約60種しかありません。けれども論文によると、実際には何百種もが消え、さらに多くの種が数を大きく減らしています。
02海から突き出た岩山の、小さな岩棚で見つかった
ロードハウ島から約20km離れた海に、ボールズ・ピラミッドという岩山が突き出ています。オーストラリアの国の研究機関CSIROによると、高さ562m、幅は300mほどしかない岩山です。
1960年代、この岩山に登った人たちが、死んで間もないナナフシの体を見つけていました。生き残りがいるかもしれない。そう考えた調査チームが、2001年2月に岩山を調べました。
チームが見つけたのは、海面から65mの高さにある、けわしい岩棚でした。そこに生える、この島々だけにある低い木の上で、ナナフシが葉を食べていました。見つかったのは、大人2匹と子ども1匹で、すべてメスでした。
木の根元には、落ち葉や枯れ枝がたまっていました。しみ出す水でしめっていて、ナナフシが昼間かくれるのにちょうどよいすき間ができていました。2002年3月の調査では、合わせて24匹が見つかりました。そのうち12匹は、前の年と同じ1本の木にいました。
2003年には、2組のつがいが本土に運ばれました。メルボルン動物園では、そのうちの1組から繁殖が始まりました。岩山の野生のナナフシは、今も20〜30匹ほどしかいないと動物園は書いています。

03島のナナフシと、見た目が少し違っていた
ところが、問題がありました。岩山のナナフシは、博物館に残る島のナナフシと、見た目が少し違っていたのです。島の標本のほうが体ががっしりしていて、脚のとげが大きく、おしりの先の形も違っていました。色の違いは、標本が古くなったせいだと考えられています。
さらに、太くて羽のない、このナナフシのような体の形は、ナナフシの中で何度も別々に進化してきたことが分かっていました。そのため、岩山のナナフシは、似た姿の別の種かもしれなかったのです。同じ仲間の近い種は、ほかに生きていません。比べる相手もいませんでした。
もし別の種なら、ロードハウ島に放すことは「元いた場所に戻す」ことになりません。外から別の種を持ちこむことになってしまいます。
04博物館の古い標本のDNAで、同じ種だと確かめた
そこで、沖縄科学技術大学院大学のアレクサンダー・ミケエフ(Alexander Mikheyev)さんたちが、DNAで確かめることにしました。チームには、オーストラリアの国立昆虫コレクションや、メルボルン動物園のある組織の研究者も加わりました。
まず、メルボルン動物園で育ったナナフシから、DNAの全体を読みました。次に、国立昆虫コレクションにある、ロードハウ島でとられた標本2匹(オスとメス)を調べました。絶滅する前に島でとられたものですが、いつとられたのかは分かっていません。
調べたのは、細胞の中のミトコンドリアという部分が持つDNAです。長さは1万6604文字分ありました。島の標本2匹は、岩山のナナフシと比べて、それぞれ100か所と62か所が違っていました。割合にすると0.60%と0.37%です。
島の標本2匹どうしでも、92か所、0.55%の違いがありました。 島と岩山の違いは、島の中の違いと同じくらいだったのです。チームは、2つは同じ種で、ロードハウナナフシは絶滅をまぬがれていたと結論しました。岩山に移り住んだのも、比較的最近のことだろうと考えています。
05同じ種と分かったことが、島に戻す計画を後押しした
チームは、もし岩山のナナフシが別の種だったら、島に放すのはずっとむずかしくなったと書いています。外から持ちこまれた生き物は、思いがけない害をもたらすことがあるからです。同じ種だと分かったことで、島に戻すべきだという考えが強まりました。
ロードハウ島では、2019年5月から12月にかけて、ネズミを根絶するための大がかりな駆除が行われました。島の管理局は2025年、ネズミの根絶に成功したことを確かめたと発表しています。2022年には、80年以上絶滅したと思われていた島のゴキブリの仲間も再発見されました。
動物園は、ネズミが完全にいなくなれば、ナナフシを島に戻すとしています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜミトコンドリアのDNAを調べたのか
このナナフシのDNAの全体は、とても大きいことが分かりました。2017年の見積もりで、42億文字分ほどです。古い標本のDNAはこわれて短くなっているので、これほど大きいDNAを全部読み比べるのはむずかしい作業です。
一方、ミトコンドリアのDNAは短く、1つの細胞の中にたくさん入っています。そのため、古い標本からでも、同じ場所を少なくとも50回、多いものでは数百回読むことができました。何度も読めば、こわれたDNAによる読みまちがいを取りのぞけます。チームはこの方法で、島の標本と岩山のナナフシを、ぬけなく比べることができました。
動物園で育った4匹の標本は、岩山のDNAと1か所も違いませんでした。チームは、これは4匹が、岩山でとられた最初のメスの子孫であることと合っていると書いています。
染色体が6組ずつあるという予想とは、違う結果がのちに出た
2017年の論文は、このナナフシが染色体を6組ずつ持っている可能性が高い、とも書いていました。ただし、染色体を直接見て確かめる必要がある、とことわっていました。
2023年、ミケエフさんも加わった別のチームが、動物園の卵の中の胚から染色体を取り出し、顕微鏡で直接見ました。すると、染色体は34本で、2本ずつ組になる、ふつうの形でした。DNAの全体を読み直した結果も、17の大きなかたまりにまとまり、この34本と合っていました。2017年の予想とは違う結果が、直接の観察から出たのです。
動物園の集団には、近親交配の心配がある
2023年の論文によると、動物園の集団では、育て始めて間もなく、近親交配による弱りが見つかっていました。2017年の論文も、動物園の集団の遺伝の多様さを調べ、岩山から新しい個体を加えることをすすめています。動物園の集団は、岩山でとられたわずかな個体から始まっています。
この研究の弱点
比べた島の標本は2匹だけで、とられた年も分かりません。2つの集団がいつ分かれたのかを知るには、もっと多くの標本が必要だとチームは書いています。また、調べたミトコンドリアのDNAは、母親からだけ受けつがれます。父親から受けつぐ部分の違いは、今回は比べていません。
06まとめ
ロードハウナナフシは、1918年にクマネズミが島に来たあと、ロードハウ島から姿を消しました。2001年、20km離れた海の岩山ボールズ・ピラミッドの、小さな岩棚で生き残りが見つかりました。
2017年の研究で、博物館の古い標本とDNAを比べると、違いは1%未満でした。島の標本どうしの違いと同じくらいで、同じ種だと確かめられました。
この研究を率いたミケエフさんは、論文を書いた当時、沖縄科学技術大学院大学に所属していました。オーストラリアの海の岩山にすむ虫の運命を確かめた研究には、沖縄の研究者たちも加わっていたのです。
研究カルテ
オーストラリア・ロードハウ島
- 研究チーム
- 沖縄科学技術大学院大学やオーストラリアの研究機関などのチーム(第一著者アレクサンダー・ミケエフ)
- 調べた場所
- オーストラリアのロードハウ島と、そこから約20km離れた岩山ボールズ・ピラミッド
- 調べた動物
- ロードハウナナフシ(学名 Dryococelus australis)
- 調べ方
- 動物園で育てた岩山の子孫と、絶滅前に島でとられた博物館の標本2匹のミトコンドリアDNAを比べた
- 分かったこと
- 違いは0.37%と0.60%で、標本2匹どうしの違い(0.55%)と同じくらい。同じ種と考えられる
- まだ分からないこと
- 2つの集団がいつ分かれたのか。比べた古い標本は2匹だけ
- 論文
- Current Biology(2017年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Lord Howe Island is a small island off the coast of Australia. Big stick insects with no wings once lived there. In 1918, rats came to the island on a ship. By the 1920s, the insects were gone.
In 2001, people found a few of them on Ball's Pyramid. It is a tall rock in the sea, about 20 kilometers from the island. The insects lived on one small, steep part of the rock.
But they looked a little different from the old ones in a museum. So scientists compared their DNA with two museum insects. The difference was less than one percent. They were the same kind of insect.
Now there are no rats on Lord Howe Island. A zoo is raising the insects and plans to take them back to the island.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What came to Lord Howe Island in 1918?1918年にロードハウ島に来たものは何ですか。
1918年、ネズミが船に乗って島にやって来ました。
Q2. Where did people find the insects in 2001?2001年、ナナフシはどこで見つかりましたか。
島から約20km離れた岩山ボールズ・ピラミッドで見つかりました。
Q3. How big was the DNA difference?DNAの違いはどれくらいでしたか。
博物館の標本との違いは1%未満で、同じ種だと分かりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Mikheyev, A. S. et al. (2017) Museum Genomics Confirms that the Lord Howe Island Stick Insect Survived Extinction. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2017.08.058
- 2Priddel, D. et al. (2003) Rediscovery of the 'extinct' Lord Howe Island stick-insect (Dryococelus australis (Montrouzier)) (Phasmatodea) and recommendations for its conservation. Biodiversity & Conservation 論文確認済みdoi:10.1023/a:1023625710011
- 3Stuart, O. P. et al. (2023) Genome of the Lord Howe Island Stick Insect Reveals a Highly Conserved Phasmid X Chromosome. Genome Biology and Evolution 論文確認済みdoi:10.1093/gbe/evad104
- 4ロードハウ島管理局:ネズミ駆除計画lhib.nsw.gov.au/environment/rodent-eradication-project
- 5ズーズ・ビクトリア(メルボルン動物園など):ロードハウナナフシzoo.org.au/fighting-extinction/local-threatened-species/lord
- 6CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)Double Helixblog.doublehelix.csiro.au/stick-insect-comeback
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





