ボノボは2つの鳴き声をつなげて意味を変えるらしい。735回の声の研究と、その反論

野生のボノボの声を、ことばの研究の方法で分析すると、2つの声をつなげて新しい意味を作っているように見えた。ただし2026年に、分析方法への反論も出ている。

No.096 8分で読めるえっ度 論文 2026年
熱帯の森の木の上で、若いボノボが口をすぼめて遠くの仲間に向かって声を出している。下の枝では別のボノボが顔を上げて聞いている。

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  1. ボノボの声と、その場で起きたことを300以上の項目で記録した
  2. 2つの声をつなげると、意味が足し算以上に変わる例が見つかった
  3. その分析は偶然と区別できない、という反論も出ている

人に話すなら

ボノボって、2つの鳴き声をつなげて別の意味にしてるかもしれないんだって。人の言葉と同じしくみかも、って話題になったけど、分析が甘いっていう反論も出てるらしい。

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チンパンジーはヘビを見つけると、2種類の声をつなげて仲間を呼ぶことがある

「小さなゾウ」と「小さなアリ」。同じ「小さな」でも、思いうかべる大きさはまったく違います。小さなゾウは、大きなアリよりずっと大きいからです。人の言葉では、ある言葉の意味が、となりの言葉によって変わります。この力は、人の言葉だけが持つ特別なしくみだと考えられてきました。

2025年、スイスとアメリカの研究チームが、野生のボノボにも似たしくみがあると発表しました。コンゴ民主共和国の森で、ボノボの声と、そのとき起きたことを記録したのです。分析すると、2つの声をつなげたとき、片方がもう片方の意味を変えている例が3つ見つかりました。

ところが2026年、スウェーデンの研究者が反論の論文を出しました。同じ分析の手順を使うと、意味のないでたらめなデータからも「意味がある」という結果が出やすい、というのです。ボノボは本当に声を組み立てているのか。研究の中身と反論を、順番に見ていきます。

01人の言葉には「足し算」と「足し算ではない」組み合わせがある

言葉の研究では、言葉をつなげて意味を作る力を「合成性」と呼びます。合成性には2つの種類があります。1つは、意味がただの足し算になる組み合わせです。「赤いリンゴ」は、赤くて、しかもリンゴであるものを指します。

もう1つは、片方がもう片方の意味を変える組み合わせです。最初の「小さなゾウ」がその例です。「小さな」の意味は、ゾウを基準にして決まります。研究者は、この足し算ではない組み合わせこそ、人の言葉の大きな特徴だと考えてきました。

動物の声にも、足し算の組み合わせはいくつか報告されていました。しかし、足し算ではない組み合わせは動物にはない、とする見方がありました。ここが人と動物の大きな違いとされてきたのです。

02コンゴの森で、声と「その場で起きたこと」を記録した

研究したのは、スイスのチューリッヒ大学のメリッサ・ベルテ(Mélissa Berthet)たちです。アメリカのハーバード大学のマルティン・スルベック(Martin Surbeck)も加わりました。舞台は、コンゴ民主共和国のココロポリという森にすむ野生のボノボです。

チームは、ボノボが声を出すたびに、そのときの様子を細かく記録しました。声を出したボノボが何をしていたか、その後どう動いたか。周りで何が起きていたか。聞いていた仲間がその後どうしたか。群れの顔ぶれが変わったか、などです。

あとから出た検証論文によると、記録はボノボ30頭分で、声の記録は735回でした。1回ごとに、336の項目について「あった」「なかった」を書きこんでいます。そのうち170回は、2つの声が2秒以内に続いた組み合わせでした。

03声の「意味」を、ことばの研究の方法で数にした

チームが使ったのは、人の言葉の研究で使われてきた考え方です。言葉の意味は、その言葉がどんな場面で使われるかで分かる、というものです。似た場面で使われる言葉は、似た意味を持つと考えます。

ボノボの声も同じように扱いました。1回1回の声を、記録した項目をもとに図の上の点として並べます。似た場面で出た声は、図の上で近くに集まります。こうして声の種類ごとの「意味の位置」を決め、どの声がどんな意味かをまとめた一覧表を作りました。ベルテは大学の発表で、動物の声の全種類について意味を決めたのは初めてだと話しています。

次に、2つの声をつなげた組み合わせが、図のどこに来るかを調べました。その位置を、もとの2つの声の位置と比べます。もとの声の意味だけでは説明できない場所に来れば、片方がもう片方の意味を変えていると考えました。

04どの声も組み合わせに使われ、3つは足し算ではないと報告された

結果、チームは「どの種類の声も、意味を組み立てる組み合わせに少なくとも1回は使われていた」と報告しました。そのうち3つの組み合わせでは、片方の声がもう片方の意味を変えていたといいます。人の言葉の「小さなゾウ」と同じ種類の組み合わせです。

検証論文が紹介しているチームの読み取りの例を1つあげます。高い「フート」という声は「こっちに注意して」、低い「フート」は「興奮している」という意味とされました。この2つをつなげると、「注意して、困っている」という意味になる、というのです。

スルベックは、人とボノボが共通の祖先から分かれたのは約700万〜1300万年前だと説明しています。チームは、声を組み立てる力が、少なくとも700万年前の祖先にもあったのではないかと考えています。

ウガンダの森で、チンパンジーが落ち葉の上のヘビに気づき、口を丸めて声を上げている。少し離れた木の陰から、別のチンパンジーが近づいてくる。

05チンパンジーは「ヘビだ、来て」を声の組み合わせで伝える

ボノボに近いチンパンジーでは、実験で確かめた研究があります。チューリッヒ大学のマエル・ルルー(Maël Leroux)たちが、ウガンダのブドンゴの森で調べました。チンパンジーは驚いたときに「アラーム・フー」、仲間を呼び集めるときに「ワー・バーク」という声を出します。

チームは、本物のニシキヘビの皮で作ったヘビの模型を、チンパンジーの通り道に隠しました。模型に気づいた21回の実験のうち、9回で2つの声がつながりました。仲間がかけつけた10回のうち、9回は組み合わせの声が出ていました。

次に、研究者はスピーカーをリュックの中に隠し、1頭だけでいるチンパンジー6頭に声を聞かせました。チンパンジーは、組み合わせの声を聞いたときに、どちらか1つの声だけを聞いたときより長くスピーカーの方を見ました。組み合わせを聞いた6回のうち3回は、スピーカーに近づきました。そのうち2回は、木に登って下をのぞきこむ、ヘビを見たときの動きをしています。

062026年、「その分析は偶然と区別できない」という反論が出た

2026年、スウェーデンのストックホルム大学のアンドレアス・ヴァルテル(Andreas Wartel)たちが、ボノボの論文を検証しました。チームが公開したデータと手順を、そのまま使い直したのです。

まず、声と場面の結びつきが一切ない、でたらめなデータを1万回作りました。それに同じ分析をすると、34.5%で「意味のある差がある」という結果が出ました。本来なら5%ほどにとどまるはずです。記録の抜けがある場所を元のデータと同じにすると、この割合は84.3%まで上がりました。

検証チームは、よく記録された声の種類ほど図の形に強く影響することも指摘しました。その点を考えに入れた方法でやり直すと、声の種類どうしの違いは偶然の範囲におさまりました。19種類の組み合わせは、どれも記録が5〜18回しかなく、声を出したボノボも3〜12頭でした。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:鳥やサルでも見つかってきた「声のつなげ方」

動物の声の組み合わせは、これまで鳥やサルでいくつも報告されてきました。日本のシジュウカラは、警戒の声と仲間を集める声をつなげます。この組み合わせを聞くと、仲間が集まって敵を追い払おうとすると報告されています。チンパンジーの「アラーム・フー+ワー・バーク」も、これに似たタイプです。

ただ、これらの多くは足し算の組み合わせだとする見方が有力でした。「危ない」と「来て」を両方伝えれば、「危ないから来て」になるからです。ボノボの研究が注目されたのは、足し算ではない組み合わせを、しかも声の全種類で調べたと主張したからでした。

サルでは、意味を変える例の候補もあります。アフリカのキャンベルモンキーは、警戒の声の後ろに「オー」という音をつけます。すると、差し迫った危険を知らせる声が、もっとゆるい「何かあった」という意味に変わると報告されています。

反対意見:何が問題とされているのか

ヴァルテルたちの批判の中心は、意味を決める図の作り方です。この図は、データそのものの形から作られます。記録が多い声、記録が抜けている場所、同じ個体のくり返しの声。こうした「意味とは関係ない事情」も、図の形を変えてしまいます。

その図の上で距離を測り、さらに統計の検定をすると、同じデータを二重に使うことになります。検証チームは、これが偶然の差を「意味の差」に見せてしまうと考えました。彼らの結論は、ボノボの論文は合成性の統計的な証拠を示していない、というものです。

一方、イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者ネイサン・クラインディンスト(Nathan Klinedinst)は、別の点を指摘しました。ボノボの研究で「意味を組み立てている」とされた4つの組み合わせ(うち3つが足し算ではないもの)には、部分と全体の意味をつなぐ共通のルールが見当たらないのです。人の言葉なら、「小さな」はどの名詞につけても同じように働きます。

研究方法の工夫と限界

野生の動物の声の意味は、本人に聞くことができません。そのため研究者は、声が出た場面と、聞いた仲間の反応から意味を推しはかります。ボノボの研究は場面を大量に記録し、チンパンジーの研究はスピーカーで声を聞かせて反応を見ました。

前者は声の全種類を一度に扱えますが、分析の仮定に結果が左右されやすくなります。後者は1つの組み合わせについて強い証拠になりますが、調べられる数が限られます。チンパンジーの研究チーム自身も、「ヘビだ、来て」が「危ない」を強める組み合わせなのか、2つの意味を並べただけなのかは、まだ区別できないと書いています。両方のやり方を組み合わせることが、次の課題になりそうです。

07まとめ

ボノボの研究チームは、野生のボノボの声735回を、その場の様子336項目とあわせて分析しました。その結果、2つの声をつなげて意味を組み立てている例が見つかったと報告しました。足し算ではない組み合わせも3つあったといいます。

ただし2026年には、その分析方法では、でたらめなデータからも同じような結果が出やすいという反論が出ました。チンパンジーの「ヘビだ、来て」のように実験で確かめた例はありますが、ボノボの「声の文法」については、まだ答えが出ていません。

「小さなゾウ」は、大きなアリよりずっと大きい。この当たり前の理解が人以外の動物にもあるのかどうか、研究者たちは今も森で耳をすませています。

RESEARCH FILE

研究カルテ

コンゴ民主共和国

研究チーム
スイスのチューリッヒ大学とアメリカのハーバード大学のチーム(第一著者メリッサ・ベルテ)
調べた場所
コンゴ民主共和国のココロポリの森
調べた動物
野生のボノボ(学名 Pan paniscus)
調べ方
声が出るたびに、その場の様子を300以上の項目で記録し、ことばの研究の方法で意味を数にした
分かったこと
どの声も、意味を組み立てる組み合わせに入っていた。そのうち3つは、片方がもう片方の意味を変えていた
まだ分からないこと
2026年の検証論文が、この分析は偶然でも同じ結果が出やすいと反論している
論文
Science(2025年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Do Bonobos Put Calls Together?

In our language, one word can change the meaning of another word. A small elephant is still much bigger than a big ant.

Scientists studied wild bonobos in a forest in Congo. Every time a bonobo made a call, they wrote down what was happening. They said that bonobos join two calls to make a new meaning.

Chimpanzees also join two calls when they find a snake. One call means surprise, and the other call brings friends. When other chimps heard both calls together, they looked toward the sound longer.

But in 2026, another team checked the bonobo study. They used random data with no meaning at all. The same method often found a meaning in this random data. So we do not know the answer yet.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the scientists study wild bonobos?研究者たちはどこで野生のボノボを調べましたか。

Q2. When do chimpanzees join two calls?チンパンジーはどんなときに2つの声をつなげますか。

Q3. What did the team in 2026 find?2026年のチームは何を見つけましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Berthet, M., Surbeck, M. & Townsend, S. W. (2025) Extensive compositionality in the vocal system of bonobos. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adv1170
  2. 2University of Zurich(2025)プレスリリースnews.uzh.ch/en/articles/media/2025/Bonobos-combine-calls.htm
  3. 3Leroux, M. et al. (2023) Call combinations and compositional processing in wild chimpanzees. Nature Communications 論文確認済みdoi:10.1038/s41467-023-37816-y
  4. 4Wartel, A. et al. (2026) Structure without semantics: no evidence for bonobo compositionality in Berthet et al. (2025). PeerJ 論文確認済みdoi:10.7717/peerj.21651
  5. 5Klinedinst, N. (2025) Compositionality in human and animal communication. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-025-02010-8

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい