マルハナバチは、エサの出ない木の玉を何度も転がした。いちばん多いハチは18日で117回
エサにつながらない木の玉を、マルハナバチは何度も転がした。玉があった部屋の色を好むようになり、若いハチほどよく転がした。

30秒で読む
- マルハナバチは、エサが出ない木の玉を何度も転がした
- 玉を転がした部屋の色を、あとで好んで選んだ
- 若いハチほどよく転がし、オスはメスより1回が長かった
人に話すなら
マルハナバチってさ、何ももらえないのに小さな木の玉をコロコロ転がすんだって。いちばん多いハチは18日で117回。玉があった部屋の色まで好きになるから、研究者は「遊び」だと考えてるらしいよ。
読む前に予想しよう
マルハナバチは、エサがもらえなくても木の玉を転がす
45匹の実験で、エサにつながらない玉を全部で910回転がした。最多は1匹で117回。
実験室の箱の中に、エサ場へ続くまっすぐな道があります。道の横には、直径1.5センチの木の玉が転がっています。玉にさわっても、エサは出てきません。それなのにマルハナバチは、わざわざ道をそれて玉の上に乗り、脚で玉を転がしました。
イギリスのロンドン大学クイーン・メアリー校などのチームは、45匹のハチの行動をビデオで記録しました。ハチたちは18日間で、合わせて910回も玉を転がしました。いちばん多いハチは、1匹で117回転がしました。
動物の「遊び」のはっきりした例は、これまでほとんどが、脳の大きなほ乳類と鳥のものでした。虫が物で遊ぶかどうかは、きちんと調べられたことがありませんでした。チームは、遊びを見分けるための5つの条件を使って、ハチの玉転がしを1つずつ確かめました。
01きっかけは、ごほうびのための玉運びの実験だった
この研究の前に、同じ研究室では別の実験をしていました。2017年、マルハナバチに玉をゴールまで運ばせ、できたら砂糖水をあげるという実験です。ハチは、ほかのハチがやって見せると、この作業を早く覚えました。
その実験の合間、研究者たちは、巣とエサ場をつなぐ通路に玉を置いていました。通路には玉をよけて通る広さがありました。それでもハチたちは、エサ場への行き帰りに、わざわざ玉の上を歩いて転がしていました。ごほうびは何もありません。この様子が、今回の研究のきっかけになりました。
02エサ場への道の横に、動く玉と動かない玉を並べた
最初の実験では、1つの巣の45匹を使いました。ハチがさなぎから出てきて24時間以内に、体に番号の札をつけました。こうすると、1匹ずつの年齢が分かります。45匹のうち28匹がメス、17匹がオスでした。
巣から出た通路は、まっすぐエサ場につながっています。エサ場には、砂糖水と花粉がいつでも置いてあります。通路の左右には、玉を置いた場所を作りました。
片側には、床に貼りつけて動かないようにした玉を9個置きました。反対側には、自由に動く玉を9個置きました。玉の色は黄色・紫・木の色の3種類です。ハチは、道をそれずにまっすぐエサ場へ行くこともできました。
実験は1日3時間、18日間続けました。1回の玉転がしは、ハチが玉に乗ったまま玉を回し、0.4秒以上続いたときだけ数えました。たまたまぶつかっただけの動きを、数に入れないためです。

03ハチは何度も戻ってきて、動く玉のほうを選んだ
45匹は、合わせて910回玉を転がしました。1匹が1日に転がした回数は1〜44回、実験の全期間では1〜117回でした。45匹のうち37匹は、エサ場でエサを食べるようになってからも、さらに1日以上、玉転がしを続けました。
初めて玉を転がす前は、ハチは動かない玉の場所と動く玉の場所に、同じくらい入っていました。入った回数は、それぞれ99回と118回です。ところが、1回でも玉を転がしたあとは、動く玉の場所へ1467回、動かない玉の場所へ952回入りました。動く玉のほうを、はっきり好むようになったのです。
1回の玉転がしは、短いもので0.4秒、長いもので31秒でした。転がした距離は、2ミリから601ミリまでばらばらでした。くり返しても、転がす速さが上がることはありませんでした。何かの作業がうまくなっていく、という変化は見られなかったことになります。
04玉のあった部屋の色を、ハチはあとで好んで選んだ
研究チームは、玉転がしがハチにとってそれ自体「うれしいこと」なのかも確かめました。ネズミの遊びを調べるときに使われてきた方法を、ハチ向けに作り直したのです。
4つの巣から、メスのハチ42匹を使いました。巣とエサ場の間に、黄色か青の小さな部屋を1つはさみます。2つの色の部屋は、20分ごとに入れかえます。片方の色の部屋にだけ、動く玉が置いてあります。半分のハチは黄色の部屋で、残りの半分は青の部屋で玉に出会うようにしました。
これを2日続けて行い、2日目の訓練のあとでテストをしました。黄色と青の部屋を同時に並べ、ハチがどちらに入るかを見ます。このとき、どちらの部屋にも玉は置いていません。入り口には仕切りがあり、外から中が見えないようにしてありました。
結果、ハチの選び方は、玉を転がしていた色の部屋のほうへかたよりました。全体としては黄色を選びやすい傾向もありましたが、それを差し引いても、玉と結びついた色が選ばれました。研究チームは、玉転がしそのものがハチにとってごほうびになっていると考えています。
05若いハチほどよく転がし、オスは1回の時間が長かった
玉転がしは、さなぎから出て3〜7日目の若いハチに多く見られました。一方、エサ集めの回数は、メスでは年齢とともに増えていきました。玉転がしとエサ集めは、違う時期に多くなっていたのです。
ただ、これだけでは「年齢」のせいなのか、「玉が目新しかったから」なのかが区別できません。そこで2つめの実験では、46匹を2つのグループに分けて、同時に玉に出会わせました。
さなぎから出て3日以内の若いハチ13匹のうち、11匹が玉を転がしました。10日をこえたハチ33匹では、転がしたのは14匹でした。1匹あたりの平均は、若いハチが11回、年上のハチが4回です。若いハチのほうが、よく転がしたことになります。
オスとメスにも違いがありました。オスの1回の玉転がしは平均4.8秒、メスは平均1.7秒でした。転がした距離も、オスが平均106ミリ、メスが平均40ミリでした。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
「遊び」かどうかを決める5つの条件
動物の遊びを研究するときによく使われるのは、研究者のバーガート(Burghardt)が2005年の本にまとめた5つの条件です。①すぐに役立つ目的(エサ・交尾・すみか)がない。②自分から進んでやり、それ自体がごほうびになる。③ふだんの役に立つ行動とは形が違う。④くり返すが、毎回まったく同じ動きではない。⑤ストレスのない、落ち着いたときに始まる。
チームは、ハチがこの5つをすべて満たすと判断しました。玉にさわってもエサは出ず、ハチが、蜜を吸うときの口をのばしたり、玉をかんだりする様子もありませんでした。オスが玉と交尾しようとする様子もありませんでした。最初の実験で見られた交尾のしぐさは16回で、すべて本物のメスに対してでした。
なぜ若いときに遊ぶのか
ほ乳類の多くでは、遊びは子どもの時期にいったん増え、そのあと減ります。マルハナバチの玉転がしも、同じように増えてから減りました。
ほ乳類では、遊びが多い時期は、脳が変わりやすい時期と重なるという考えがあります。マルハナバチの脳でも、記憶にかかわる部分が、さなぎから出て最初の7日ほどの間に特に変わりやすいことが知られています。論文は、この重なりに注目しています。ただし、2つに本当に原因と結果の関係があるかは、これから調べる課題だとしています。
ハチに「気持ち」はあるのか
同じ研究室は2016年、マルハナバチに思いがけず砂糖水をあげると、そのあと前向きにふるまうことを報告しています。この変化は、ドーパミンという脳の物質の働きを止める薬で消えました。今回の論文は、玉転がしも、ハチに喜びに似た状態があることを支える証拠の一つだとしています。
研究方法の工夫と限界
この研究の工夫は、エサへのまっすぐな道を用意し、玉に近づく必要がまったくない状況を作ったことです。動かない玉を置いた場所と比べることで、「玉の形や色が気になるだけ」という説明も退けました。最初の実験のビデオは、2人目の研究者がすべて見直しました。2つめの実験では、どのハチがどの年齢のグループかを知らされていない人が、ビデオの2割を数え直しました。
一方で、限界もあります。実験は実験室の中で行われました。研究チームは、自然の環境に比べて刺激が足りないことが、玉転がしを引き起こした可能性を否定できないと書いています。オスの玉転がしが長かったのも、実験室には交尾の相手になる女王バチがいなかったせいかもしれません。野生のハチが同じように遊ぶのかは、まだ分かっていません。
06まとめ
マルハナバチは、エサにつながらない木の玉を、エサ場への道をそれてまで何度も転がしました。玉を転がした部屋の色を好むようになり、若いハチほどよく転がしました。研究チームは、動物の遊びの5つの条件をすべて満たすと判断しました。
ただし、実験室の刺激の少なさが関係した可能性や、野生でも同じことをするのかは、まだ分かっていません。
この研究のきっかけは、別の実験の合間の観察でした。通路に置きっぱなしにした玉を、ハチたちがわざわざ転がしていたのです。
研究カルテ
イギリス(ロンドン)
- 研究チーム
- イギリスのロンドン大学クイーン・メアリー校などのチーム(第一著者ヒルニ・サマディ・ガルパヤゲ・ドナ)
- 調べた場所
- ロンドン大学クイーン・メアリー校の実験室
- 調べた動物
- セイヨウオオマルハナバチ(学名 Bombus terrestris)。3つの実験で計133匹
- 調べ方
- エサへの道の横に動く玉と動かない玉を置き、ビデオで記録。色の部屋を使った好みのテストもした
- 分かったこと
- エサが出ないのに玉を何度も転がし、玉のあった部屋の色を好んだ。若いハチほどよく転がした
- まだ分からないこと
- 野生でも玉転がしのような遊びをするのか。遊ぶことでどんな得があるのか
- 論文
- Animal Behaviour(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Scientists in London built a test box for bumblebees. A straight path went from the nest to the food. Next to the path, there were small wooden balls. The balls gave the bees no food.
But the bees left the path and rolled the balls again and again. Forty-five bees rolled balls 910 times in 18 days. One bee rolled balls 117 times.
In another test, the bees went through a yellow room or a blue room. Only one of the rooms had balls. Later, the bees chose the color of the room with balls more often. The scientists think rolling balls feels good to bees.
Young bees rolled balls more than older bees. In many mammals, young animals also play more than adults. But the study was in a lab. We still do not know if wild bees play like this.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the bees get from the balls?ハチは玉から何を得ましたか。
玉からはエサは出ませんでした。それでもハチは何度も玉を転がしました。
Q2. How many times did one bee roll balls?1匹のハチは何回玉を転がしましたか。
いちばん多いハチは117回転がしました。910回は45匹の合計です。
Q3. Which bees rolled balls more?どのハチのほうが多く玉を転がしましたか。
さなぎから出て間もない若いハチのほうが、よく玉を転がしました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Galpayage Dona, H. S. et al. (2022) Do bumble bees play? Animal Behaviour 論文確認済みdoi:10.1016/j.anbehav.2022.08.013
- 2University of Oulu(2022)First-ever study shows bumble bees 'play'oulu.fi/en/news/first-ever-study-shows-bumble-bees-play
- 3Loukola, O. J. et al. (2017) Bumblebees show cognitive flexibility by improving on an observed complex behavior. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aag2360
- 4Solvi, C. et al. (2016) Unexpected rewards induce dopamine-dependent positive emotion-like state changes in bumblebees. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aaf4454
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





