ヨーロッパのニワトリは最初、食べ物ではなかった。イギリスでよく食べられるまで700年以上
ニワトリが家畜になったのは約3500年前の東南アジアだった。ヨーロッパに来たころのニワトリは食べたあとがなく、1羽ずつ埋められた例が多かった。

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- ニワトリが家畜になったのは、約3500年前の東南アジアだった
- イネやアワの畑に野生のセキショクヤケイが集まったのが始まりらしい
- ヨーロッパの初期のニワトリは、食べたあとがなく1羽ずつ埋められた例が多い
人に話すなら
ヨーロッパに来たころのニワトリって、食べるために飼われてたわけじゃないらしいよ。イギリスでは、最初のころのニワトリは食べたあとがなくて、1羽まるごと埋められてることが多かったんだって。ふつうに食べるようになるまで700年以上かかったんだよ。
読む前に予想しよう
ヨーロッパに来たニワトリは、はじめから肉をとるために飼われた
イギリスでは、ニワトリが来てからふつうの食べ物になるまで700〜800年かかった。
ニワトリは、世界で一番数の多い家畜です。地球には700億羽をこえるニワトリがいます。その多くは肉をとるために、短い一生で育てられています。だから、ニワトリはもともと食べるために飼われたのだろうと、つい考えてしまいます。
ところが、イギリスなどの研究チームが古い骨を調べ直すと、違う姿が見えてきました。ヨーロッパに来たころのニワトリの骨には、食べられたあとがありません。1羽まるごと埋められた例が多かったのです。イギリスでは、ニワトリがふつうの食べ物になるまでに、700〜800年かかったと考えられています。
ニワトリがいつ、どこで家畜になったのかも、調べ直されました。同じ研究者たちをふくむチームが、89か国の600か所あまりの遺跡の記録を見直したのです。確かに家畜といえる最古のニワトリの骨は、タイの紀元前1650〜1250年ごろのものでした。これまで言われてきた年代より、ずっと新しい時代です。
01ニワトリの骨は、見まちがえやすく、地層の中を動きやすい
ニワトリの始まりがはっきりしなかったのには、理由があります。まず、ニワトリの骨は小さいので、細かいふるいで土をこさないと見つかりにくいのです。見つかっても、キジなどの近い仲間の鳥と見分けるのがむずかしいという問題もあります。
実際に、中国北部で1万1000〜8000年前のニワトリとされた骨がありました。調べ直すと、これはキジの骨でした。この骨は、ニワトリが中国北部で家畜になったという説の大きな根拠でした。ニワトリはそこから北の道を通ってヨーロッパへ広がった、とも考えられていたのです。
もう1つの問題は、骨が地層の中を動くことです。動物が土を掘り返したり、人が建物を建てたり畑を耕したりします。すると、新しい骨が古い地層にまぎれこみます。そのため、出てきた地層の年代だけで骨の年代を決めると、まちがえることがあります。
0289か国、600か所あまりの遺跡の「ニワトリ」を調べ直した
チームの第一著者は、ドイツのミュンヘン大学のヨーリス・ペータース(Joris Peters)さんです。イギリスのオックスフォード大学のグレガー・ラーソン(Greger Larson)さんたちも加わりました。チームは、これまでに「ニワトリ」として報告された骨を、1つずつ確かめていきました。
確かめ方は1つではありません。骨の実物や写真があれば、形を見て大きさを測りました。骨が出た地層に、あとから動いてきた可能性がないかも調べました。その土地に野生のヤケイがいたか、ニワトリの絵や文字の記録があるかも合わせて考えました。
確かに家畜といえる最古の骨は、タイのバンノンワット遺跡のものでした。年代は紀元前1650〜1250年ごろです。この遺跡では、鳥の骨の95%以上がヤケイ・ニワトリの仲間でした。若い鳥の骨がとても多いのも特徴です。少しあとの時代には、ブタやイヌ、ウシと一緒に人の墓に入れられていました。
ほかの地域の「古いニワトリ」は、次々に見直されました。インダス文明の遺跡の骨は、ほかの鳥とのまちがいか、昔のニワトリにしては大きすぎる骨でした。チームは、ニワトリはインダス川の流域で家畜になったのではないと結論しています。中国の中央部や南アジア、メソポタミアにニワトリが現れるのは、紀元前1000年より少し前です。日本に来たのは、弥生時代の中ごろの紀元前100年から紀元100年ごろとされています。
03ニワトリを人里に呼び寄せたのは、イネとアワの畑だった
では、野生のセキショクヤケイは、なぜ人と暮らすようになったのでしょうか。チームが注目したのは、イネとアワの栽培が広がった時期と場所です。
ゲノムの研究によると、ニワトリの祖先はセキショクヤケイの中の1つのグループです。このグループは、中国南西部やタイ北部、ミャンマーにすんでいます。この地域に、紀元前2000年ごろ、雨水にたよってイネやアワを育てる農業が届きました。ちょうどその後に、最古のニワトリの骨が現れます。
雨水にたよる畑は、広い土地を使い、休ませる畑も必要でした。森を切りひらいた跡には、背の低いしげみが広がります。そこは、ヤケイにとってすみやすい場所です。セキショクヤケイはイネの粒も食べます。畑の穀物や人の食べ残しが、木の上で暮らしていた野鳥を人の近くへ引き寄せたと、チームは考えています。
ニワトリの家畜化は、穀物に引き寄せられた野鳥が人里に近づくことから始まった、という見方です。長江の流域では、紀元前4000〜3000年ごろから水田の稲作がありました。けれども、そこにニワトリが現れるのは紀元前1000年ごろです。チームは、小さな水田より、畑と休ませた土地がまざる景色のほうが、ヤケイに合っていたと見ています。
0423本の骨の年代を直接はかると、18本が思ったより新しかった
ヨーロッパについては、2022年に考古学の雑誌に別の論文が出ました。ペータースさんやラーソンさんもふくむ、ジュリア・ベスト(Julia Best)さんたちのチームです。ベストさんは、イギリスのボーンマス大学の研究者です。チームは、ヨーロッパと北西アフリカの16か所の遺跡から、「古いニワトリ」とされてきた骨23本を選びました。そして、放射性炭素年代測定で骨そのものの年代をはかりました。
23本のうち、言われていた年代と合ったのは5本だけでした。残りの18本は、どれも思われていたより新しかったのです。新石器時代や青銅器時代とされたブルガリアやギリシャの骨の中には、1950年代より後の骨までありました。ブルガリアの別の遺跡の骨は、約5000年も新しく、11〜12世紀のものでした。
この結果から、ニワトリがヨーロッパに来たのは、紀元前1000年より後だと考えられます。イタリアには、紀元前8世紀ごろまでに来ていました。ギリシャやエトルリア、フェニキアの人々の海の交易で、地中海に広がったと考えられています。イギリスやフランスには、紀元前6〜5世紀ごろまでに届きました。

05イギリスの最初のころのニワトリは、食べられずに1羽ずつ埋められていた
年代を確かめられた初期のニワトリには、共通点がありました。骨がばらばらではなく、1羽分そろって見つかることが多かったのです。イギリスの鉄器時代の遺跡では、ニワトリは人の墓ではなく、1羽だけで埋められていました。
これらの骨には、肉を切り取った刃物のあとがありませんでした。そして、年をとった鳥が多かったのです。ホートン・ダウン遺跡のオスは、脚のけづめが長く、2歳をこえていたと考えられています。ウェストン・ダウン遺跡のメスは大人の鳥で、折れた脚の骨がきれいに治っていました。チームは、人に世話をされていた可能性があると書いています。
当時のイギリスでは、ニワトリはまだ数が少ない、遠くから来た珍しい鳥でした。チームは、食べ物というより特別な鳥として扱われていたと考えています。古代ローマのカエサルも、こう書き残しています。ブリタニア(今のイギリス)の人々は、ウサギやニワトリ、ガチョウを食べることを、神のおきてに反すると考えている、と。
紀元前50年ごろから紀元100年ごろになると、イギリスではニワトリの骨が増えました。そして、人と一緒に埋葬されるようになりました。男性はオスと、女性はメスと一緒に葬られることが多かったといいます。チームは、ニワトリが死んだ人のたましいをあの世へ導く役だった可能性を挙げています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
ローマとともに広がった「食べ物としてのニワトリ」
ニワトリを食べる習慣を広げたのは、ローマ帝国でした。ローマ風の暮らしをしていたイギリス南部のフィッシュボーン宮殿では、紀元1世紀にはすでにたくさんのニワトリが食べられていました。見つかった動物の骨の8%がニワトリで、イギリスのほかの遺跡よりずっと多い割合です。イギリスのほかの場所でニワトリがふつうに食べられるようになるのは、3世紀になってからでした。
同じような時間の差は、ほかの地域にもあります。イタリアでは、ニワトリが来てから数百年は、墓や祭りの場所にときどき現れるだけでした。中東のレバント地方でも、紀元前9〜8世紀にはニワトリがいましたが、よく食べられるようになったのは紀元前4〜3世紀でした。
反対意見:中国南西部に、もっと古いニワトリがいたのでは
タイを最古とする結論には、反論も出ています。中国科学院昆明動物研究所などの研究者たちが、2022年にPNASに意見を寄せました。ペータースさんたちが調べていない遺跡が、中国南西部の雲南省などにあるという指摘です。
雲南省の新石器時代の遺跡からは、ニワトリの骨が出たと報告されています。紀元前2475〜2205年や、紀元前2194〜1170年とされる遺跡です。雲南省は、ニワトリの祖先のヤケイがすむ地域でもあります。反論した研究者たちは、ニワトリが家畜になったのはタイの遺跡より前だろうと述べています。ただ、これらの骨は、ペータースさんたちの方法で調べ直されてはいません。どちらが正しいかは、骨そのものを調べ直す研究で確かめる必要があります。
研究の限界:お墓ばかり掘られてきた可能性
初期のニワトリが、墓や1羽だけの埋葬で見つかることには、別の説明もあります。考古学では、お墓が優先して掘られやすいのです。また、骨がそろった1羽分は、年代測定の対象に選ばれやすいという事情もあります。ベストさんたちも、この見え方が調べ方のかたよりから来ている可能性を認めています。ほかの種類の遺跡から、もっと古いニワトリが見つかるかもしれません。
06まとめ
ニワトリが確かに家畜になっていたといえる最古の証拠は、タイの紀元前1650〜1250年ごろのものです。イネやアワの畑や穀物の残りが、野生のセキショクヤケイを人里へ引き寄せたと考えられています。
ヨーロッパに来たころのニワトリの骨は、食べられたあとがなく、1羽ずつ埋められた例が多くありました。年をとるまで生きた鳥も多くいました。イギリスでは、ふつうの食べ物になるまで700〜800年かかりました。
今、肉用に育てられるニワトリは、平均42日ほどで食肉にされます。一方、今から約2000年前、ローマのカエサルはこう書き残しています。ブリタニアの人々は、ニワトリを食べることを神のおきてに反すると考えている、と。日本にニワトリが来たのも、ちょうどこのころの弥生時代の中ごろです。
研究カルテ
タイ・バンノンワット遺跡
- 研究チーム
- ドイツのミュンヘン大学やイギリスのオックスフォード大学などのチーム(第一著者ヨーリス・ペータース)
- 調べた場所
- ユーラシア・アフリカ・オセアニアなど89か国の、600か所あまりの遺跡の記録
- 調べた動物
- ニワトリ(学名 Gallus gallus domesticus)と、祖先の野鳥セキショクヤケイ
- 調べ方
- 遺跡で「ニワトリ」とされた骨を、形・大きさ・出た地層・絵や文字の記録などから1つずつ調べ直した
- 分かったこと
- 確かな最古のニワトリはタイの紀元前1650〜1250年ごろ。イネやアワの畑が野鳥を人里に引き寄せたと考えられる
- まだ分からないこと
- 中国南西部などに、もっと古いニワトリがいたのか。調べられていない遺跡が多い
- 論文
- PNAS(2022年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Today, there are more than 70 billion chickens in the world. Most of them are raised for meat. So many people think chickens were always kept for food. But the first chickens in Europe were probably not kept as food.
Scientists checked chicken bones from about 600 old sites. Some bones that people called chicken bones were really from other birds. The oldest sure chicken bones came from Thailand. They were about 3,500 years old. Wild birds probably came to farms to eat rice and other grains.
In Britain, the first chickens were often buried alone. Their bones had no cut marks, and many were old birds. One old hen had a broken leg that healed well. Maybe people took care of her. People probably saw them as special birds.
Later, the Romans helped make chicken a common food. In one Roman palace in Britain, people ate a lot of chickens. In Britain, this change took 700 to 800 years.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where did the oldest sure chicken bones come from?確かにニワトリといえる最古の骨は、どこで見つかりましたか。
タイのバンノンワット遺跡の、紀元前1650〜1250年ごろの骨です。
Q2. What did the first chicken bones in Britain NOT have?イギリスの最初のニワトリの骨に、なかったものは何ですか。
骨には肉を切り取った刃物のあとがなく、食べられていなかったと考えられています。
Q3. How long did it take for chicken to become a common food in Britain?イギリスでニワトリがふつうの食べ物になるまで、どれくらいかかりましたか。
イギリスでは、ニワトリが来てからふつうの食べ物になるまで700〜800年かかりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Peters, J. et al. (2022) The biocultural origins and dispersal of domestic chickens. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2121978119
- 2Best, J. et al. (2022) Redefining the timing and circumstances of the chicken's introduction to Europe and north-west Africa. Antiquity 論文確認済みdoi:10.15184/aqy.2021.90
- 3Peng, M.-S., Han, J.-L. & Zhang, Y.-P. (2022) Missing puzzle piece for the origins of domestic chickens. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2210996119
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