チンパンジーが身ぶりに身ぶりで返すまで、中央値0.12秒。人の会話に近い速さだった
野生のチンパンジーの身ぶりを調べると、身ぶりに身ぶりで返すまでの時間は中央値0.12秒。人の会話で話し手が交代するすき間と近かった。

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- チンパンジーは、身ぶりに身ぶりで返すことがあった
- 返すまでの時間は、人の会話の交代と近い速さだった
- 群れによって、返すまでの時間に少し違いがあった
人に話すなら
チンパンジーってさ、身ぶりで頼みごとをされると、身ぶりで返すことがあるんだって。返すまでの時間は真ん中の値で0.12秒。人の会話で話し手が交代するのに近い速さらしいよ。
読む前に予想しよう
野生のチンパンジーは、仲間の身ぶりに1秒以上たってからしか身ぶりで返さない
返すまでの時間は中央値0.12秒。人の会話の交代と近い速さだった。
人どうしの会話では、相手が話し終わると、ほとんど待たずに次の人が話し始めます。話し手が入れかわるときのすき間は、平均すると0.2秒ほどです。このすばやい順番交代は、言葉の違う世界のあちこちで見られます。
イギリスのセント・アンドルーズ大学などのチームは、野生のチンパンジーでも、似た順番交代が起きているかを調べました。東アフリカの5つの群れで撮った動画から、身ぶり8559回を細かく調べたのです。すると、仲間の身ぶりに身ぶりで返すまでの時間は、中央値で0.12秒でした。人の会話のすき間と近い速さです。
チンパンジーが、手や体の動きで仲間に何かを頼むことは、前から知られていました。これまでの研究では、身ぶりと、それに応じた相手の行動の間の時間が、人の会話の順番交代と比べられてきました。けれども人の会話では、両方が言葉を出し合います。そこでチームは、身ぶりに身ぶりで返す場面に注目し、その速さを5つの群れで比べました。
01人の会話には、世界共通の「すき間の短さ」がある
まず、人の会話のほうを見ておきます。2009年、オランダのマックス・プランク心理言語学研究所などのチームが、10の言語の会話を比べました。日本語や英語、デンマーク語のほか、少数の人が話す言語もふくまれています。
チームは、ふだんの会話の録音から「質問」と「答え」の組を集めました。そして、質問が終わってから答えが始まるまでの時間を測りました。すると、どの言語でも、答えは質問のすぐあとに始まっていました。もっとも多かったのは、すき間が0秒の答えでした。全部の平均は0.208秒です。
言語によって、平均には少し差がありました。日本語は0.007秒と特に短く、デンマーク語は0.469秒と長めでした。それでも、どの言語も「重ならないように、でも黙りすぎないように」話していました。チームは、この順番交代のしかたは人に共通の性質だと考えました。
025つの群れの動画から、8559回の身ぶりを数えた
今回の研究の第一著者は、ガル・バディヒ(Gal Badihi)さんです。チームは、ウガンダの4つの群れと、タンザニアの1つの群れの動画を使いました。どれも野生のチンパンジーです。撮影の時期は群れごとに違い、いちばん古いものは2007年、新しいものは2022年でした。
動画に出てくるチンパンジーは252頭、身ぶりは8559回です。研究者は、身ぶり1回ごとに、始まりと終わりの時刻を記録しました。さらに、その身ぶりを「ほかの身ぶりと区別できる、いちばん短い部分」が終わる時刻も記録しました。
なぜ、そこまで細かく分けたのでしょう。チンパンジーは、身ぶりをくり返したり、長く続けたりします。ですが、相手は最初の部分を見ただけで、何の身ぶりか分かるかもしれません。そこでチームは、この「いちばん短い部分」の終わりから、相手が返し始めるまでを、返事にかかった時間としました。
返事には、2種類あります。1つは、相手が身ぶりで返す場合です。もう1つは、頼まれたとおりに相手が動く場合です。たとえば「毛づくろいして」と頼まれて、毛づくろいを始めるような返事です。チームは、この2つの時間を比べました。

03身ぶりに身ぶりで返すまでは、動いて返すよりずっと速かった
身ぶりのやりとり4223件のうち、身ぶりを返し合う場面がふくまれていたのは592件、全体の14%でした。その83%は、2頭がそれぞれ1回ずつ身ぶりをして終わるやりとりでした。長いものでは、身ぶりの番が7回まで続きました。
身ぶりに身ぶりで返すまでの時間は、中央値で0.12秒でした。中央値とは、短い順に並べたときにちょうど真ん中にくる値です。一方、頼まれた行動を始めるまでの時間は、中央値で1.2秒でした。身ぶりで返すほうが、ずっと速かったのです。統計で比べても、この差ははっきりしていました。
身ぶりの返事の中には、時間がマイナスになるものもありました。相手の身ぶりが終わる前に、返事の身ぶりが始まっていたのです。人の会話でも、相手の言葉を最後まで聞かずに話し始めることがあります。チームは、チンパンジーも身ぶり全体を見終わる前に返し始めている可能性があると書いています。
少なくとも1頭が大人であるやりとりだけにしぼっても、結果は同じでした。子どもどうしのやりとりが、結果を左右したわけではなかったのです。
04群れによって少し違い、人の会話とも違う点がある
5つの群れの結果は、大きく重なっていました。ただし、ウガンダのブドンゴの森にすむソンソという群れは、カニャワラとワイビラという2つの群れより返事が遅めでした。残りの組み合わせでは、差は見られませんでした。チームは、言語によって会話のすき間が少し違う人の場合と似ている、と書いています。
一方で、人の会話とはっきり違う点もあります。返すまでの時間の幅が、チンパンジーのほうがずっと広かったのです。外れ値を除いても、マイナス1.6秒から8.64秒まで散らばっていました。人の会話では、マイナス0.5秒から1.5秒ほどの範囲だと報告されています。平均でみると、チンパンジーは0.663秒で、人の0.208秒の3倍ほどでした。
チームは、この違いの理由として、調べた場面の広さをあげています。チームによると、比べた人の会話のデータは、もっと条件をそろえた研究から得たものです。一方、今回のデータは、森のさまざまな場面から集めたものでした。
身ぶりを返し合う場面が14%と少なかったことにも、理由が考えられています。チンパンジーの身ぶりの多くは、「こっちへ来て」「やめて」のような頼みごとです。頼みごとは、相手が動けばそこで終わります。チームは、人の会話はもっと広い意味を扱うので、やりとりが長く続きやすいのだろうと考えています。
また、遊びの場面は分析から外しています。ソンソの群れだけ、遊びの場面がほかの群れよりずっと多かったからです。データの集め方も、群れごとに違いました。こうした点は、結果を読むときに気をつけたいところです。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
チンパンジーの身ぶりの研究の歩み
チンパンジーが身ぶりで仲間とやりとりすることは、早くから知られていました。2014年、同じセント・アンドルーズ大学のキャサリン・ホベイター(Catherine Hobaiter)さんたちは、野生のチンパンジーの身ぶりの「意味」を体系的に調べました。その結果、それぞれの身ぶりには、使うチンパンジーが違っても共通する意味があると分かりました。ホベイターさんは、今回の論文の著者の一人でもあります。
2016年には、ドイツのマックス・プランク鳥類学研究所などのチームが、野生のボノボとチンパンジーの母子を比べました。一緒に移動を始める場面で、母と子のやりとりを、人の会話を分析する方法で調べたのです。どちらの種のやりとりも、人の会話の順番交代に似ていました。ボノボは、相手の身ぶりに重なるように返事をすることがありました。チンパンジーは、相手の返事を待ったり、身ぶりを続けたりして、長く交渉していました。
同じ祖先から受けついだのか、別々に生まれたのか
今回の結果について、チームは2つの見方を示しています。1つは、共通の祖先がすでに、すばやい順番交代のしくみを持っていたという見方です。もう1つは、人とチンパンジーが別々に、似たしくみを身につけたという見方です。
どちらが正しいかは、まだ分かりません。チームは、近い距離でやりとりするほかの動物も調べるべきだと書いています。例として、クジラやイルカの仲間、コウモリ、ハイエナをあげています。
順番交代は、相手によって変わる
2025年、ドイツのオスナブリュック大学のチームは、ウガンダのキバレ国立公園のンゴゴという群れで、オス42頭の毛づくろいを調べました。2021年9月から2022年6月まで、311回の毛づくろいの場面を記録しました。その結果、順番が入れかわりやすいかどうかは、年齢や群れの中の順位と関係していました。年上のオスが始めたときや、相手が順位の低いオスや若いオスのときに、入れかわりが起きやすかったのです。仲のよさや血のつながりとの関係は見られませんでした。
研究方法の工夫と限界
今回の工夫は、「身ぶりと分かる最小の部分」の終わりから時間を測ったことです。身ぶり全体の終わりから測ると、くり返しの分だけ時間がずれてしまいます。一方で、野生の動画を使っているため、撮影の方法や時期は群れごとにそろっていません。また、チンパンジーの身ぶりの多くは頼みごとなので、人の会話と同じ種類のやりとりとは言えません。似ているのは、「返すまでの速さ」という一つの面です。
05まとめ
野生のチンパンジー252頭の身ぶり8559回を調べると、身ぶりに身ぶりで返す場面が、やりとりの14%にありました。返すまでの時間は中央値0.12秒で、頼まれた行動を始めるまでの1.2秒よりずっと速く、人の会話のすき間と近い速さでした。
ただし、チンパンジーの返事の時間は人より大きくばらつき、群れによる違いもありました。このしくみが人と共通の祖先から来たのかは、まだ分かっていません。
10の言語の会話を比べた研究では、日本語の答えのすき間は平均0.007秒でした。友だちと話すとき、答えがどれくらいすぐ返ってくるか、少し気にしてみてください。
研究カルテ
ウガンダ(ブドンゴの森など)
- 研究チーム
- イギリスのセント・アンドルーズ大学などの国際チーム(第一著者ガル・バディヒ)
- 調べた場所
- ウガンダの4つの群れと、タンザニアの1つの群れ(すべて野生)
- 調べた動物
- 野生のヒガシチンパンジー(学名 Pan troglodytes schweinfurthii)252頭
- 調べ方
- 2007〜2022年に撮った動画で、身ぶりの始まりと終わりの時刻を記録し、相手が返すまでの時間を測った
- 分かったこと
- 身ぶりに身ぶりで返すまでの時間は中央値0.12秒。人の会話の交代のすき間に近かった
- まだ分からないこと
- 人とチンパンジーが、同じしくみを共通の祖先から受けついだのかどうか
- 論文
- Current Biology(2024年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
When people talk, they take turns. The gap between two speakers is usually very short. Do our closest animal relatives do something similar?
Scientists studied videos of wild chimpanzees in Uganda and Tanzania. They looked at 8,559 gestures from 252 chimpanzees. Chimpanzees use their hands and bodies to ask for things. Sometimes the other chimpanzee answers with a gesture too.
The scientists measured the time before each answer. The middle value was only 0.12 seconds. When a chimpanzee answered by doing what was asked, the middle value was 1.2 seconds. This is close to the gap in human conversation. But the chimpanzee times changed a lot from answer to answer.
We still do not know where this skill came from. Maybe humans and chimpanzees got it from the same old ancestor. Or maybe each species found it on its own.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. How many chimpanzees were in the videos?動画には何頭のチンパンジーが出てきましたか。
252頭のチンパンジーの身ぶり8559回を調べました。8559は身ぶりの数です。
Q2. What was the middle value of the time before a gesture answer?身ぶりで返すまでの時間の真ん中の値はどれでしたか。
中央値は0.12秒で、人の会話のすき間と近い値でした。
Q3. What do scientists still not know?研究者たちがまだ分かっていないことは何ですか。
共通の祖先から受けついだのか、別々に身につけたのかは、まだ分かっていません。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Badihi, G. et al. (2024) Chimpanzee gestural exchanges share temporal structure with human language. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.06.009
- 2Stivers, T. et al. (2009) Universals and cultural variation in turn-taking in conversation. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.0903616106
- 3Fröhlich, M. et al. (2016) Unpeeling the layers of language: Bonobos and chimpanzees engage in cooperative turn-taking sequences. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep25887
- 4Hobaiter, C. & Byrne, R. W. (2014) The meanings of chimpanzee gestures. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2014.05.066
- 5Kolff, K. & Pika, S. (2025) Turn-taking in grooming interactions of chimpanzees (Pan troglodytes schweinfurthii) in the wild: the role of demographic and social factors. Animal Cognition 論文確認済みdoi:10.1007/s10071-025-01940-7
- 6Kolff, K. & Pika, S. (2026) When grooming stalls: Assessing communicative repair, negotiation, and progressivity in chimpanzees. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2026.117495
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





