道具を使うラッコほど、歯の傷みが少なかった。発信機をつけた196頭で分かった

発信機をつけたラッコ196頭を調べると、道具を使うラッコは硬いえものを食べられ、歯の傷みが少なかった。特にメスで、その差がはっきりしていた。

No.166 8分で読めるえっ度 論文 2024年
波の静かな海面で、ラッコが1頭あおむけに浮かび、おなかの上に平たい石をのせている。前足で持った巻き貝を、その石に打ちつけている。

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  1. 道具を使うラッコは、硬くて大きいえものを食べていた
  2. 道具を使うラッコは、歯の傷みが少なかった
  3. 好物が減った海では、道具が生きのびる助けになるらしい

人に話すなら

ラッコって石で貝を割るでしょ。あれ、歯を守るのにも役立ってるらしいよ。道具を使うラッコは硬い貝やカニを食べられて、しかも歯の傷みが少なかったんだって。

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石などの道具をよく使うラッコほど、歯の傷みがひどくなる

ラッコは、海の上であおむけに浮かび、おなかにのせた石に貝を打ちつけて割ります。動物の道具使いとして、とても有名な姿です。けれども、道具を使うと、ラッコにとって本当にどれだけ得なのでしょうか。これを数字で確かめるのは、実はとても難しいことでした。

アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校などのチームは、発信機をつけたラッコ196頭の記録を使って、この問いに取り組みました。その結果、道具を使うラッコ、特にメスは、硬くて大きなえものを食べていました。そして、歯の傷みが少なかったのです。

ラッコにとって、歯は命にかかわります。大学の発表は、歯がすり減ったり傷ついたりしすぎると、ラッコは飢え死にするおそれがあると説明しています。道具使いには、歯を守る役目もあると考えられます。

01道具をどれくらい使うかは、ラッコ1頭ごとに大きく違う

ラッコが道具を使うといっても、みんなが同じように使うわけではありません。2015年の研究では、カリフォルニア南部からアラスカのアリューシャン列島まで、8つの地域のラッコを比べました。17年分の観察記録です。

えものをとった潜水のうち、道具を使った割合は、アラスカのアムチトカ島では1%未満でした。カリフォルニアのモントレーでは、約16%でした。道具を使うラッコがいる割合も、地域によって10%から93%まで違いました。巻き貝や殻の厚い二枚貝を食べるときに、道具はよく使われていました。

2017年の研究では、カリフォルニアの5つの場所で、発信機をつけたラッコ211頭を調べました。えさの多い場所では、どのラッコも似た好物を食べ、道具を使う割合は4〜38%でした。えさの少ない場所では、ラッコごとに食べるものが分かれ、道具を使う割合は0〜98%まで広がっていました。

02発信機をつけたラッコを、1頭ずつ300回以上の潜水で観察した

今回の研究の第一著者は、クリス・ロー(Chris Law)さんです。研究は、サンタクルーズ校の大学院生だったころに行いました。論文の発表当時は、テキサス大学オースティン校の研究員でした。

チームが使ったのは、2000年から2014年に集めた記録です。場所は、カリフォルニア州の海岸の5か所でした。どこもラッコが多く、食べ物が足りない状態にあると考えられています。

研究者たちは、ラッコをつかまえて、後ろ足にしるしのタグをつけ、おなかの中に電波の発信機を入れました。こうすると、海のどこにいるかを電波で探し、タグで1頭ずつ見分けられます。196頭のうち、メスは154頭、オスは42頭でした。赤ちゃんや幼いラッコは入っていません。

食事中のラッコを見つけると、観察する人は、続けて20回以上の潜水を記録しました。潜っていた時間、えものをとれたかどうか、えものの種類を書きとめます。えものの大きさは、ラッコの前足の幅(約5cm)と比べて、1.5cmきざみで見積もりました。1頭ごとに、1〜3年かけて300回以上の潜水を記録しています。

道具を使ったと数えたのは、海面でほかの物を使ってえものを食べた場合です。道具には、石や空の貝がら、ほかのえもの、びんやプラスチックなどのごみがありました。海面に出た岩や、港のボートの船体を台にして、えものを打ちつけることもありました。

03機械で殻を押しつぶして、えものの硬さを測った

次にチームは、えものの硬さを測りました。カニ、二枚貝、イガイ、巻き貝、ウニを、いろいろな大きさで集めます。それを、材料の強さを調べる機械にはさみます。一定の速さで押しつぶして、割れるのに必要な最小の力を測りました。ラッコが野外で割るときと同じ向きに割れるよう、置き方も工夫しました。

歯の傷みは、2つの方法で調べました。1つは、つかまえたときに歯を見て、傷みを5段階で記録する方法です。1は傷みなし、5はとてもひどい傷みです。

もう1つは、研究の途中で死んで見つかった35頭の頭の骨を使う方法です。かみ合わせの面を写真にとります。そして奥の3本の歯で、表面のエナメル質がすり減って内側が出ている面積の割合を測りました。奥の歯は、硬い殻をかみ割るのに使う歯です。歯を調べるときは、そのラッコが道具をどれくらい使うかを知らない状態で調べました。

岩場の近くの浅い海で、ラッコが海の底からカニと石を1つずつ前足でかかえて、海面へ浮かび上がろうとしている。

04道具を使うラッコは、硬く大きなえものを食べ、歯の傷みが少なかった

結果、道具を使うラッコ、特にメスは、より硬いえものや、より大きなえものを食べていました。大学の発表によると、道具を使うメスは、道具を使うオスと比べて、最大35%硬いえものを食べていました。

そして、道具を使うラッコは、えものを割って食べるときの歯の傷みが少なくなっていました。メスはオスより、歯の傷みが少なくなっていました。メスの中でも、道具をよく使うメスは、あまり使わないメスより傷みが少なかったのです。

チームは、どのえものを食べられるか、歯の状態、とれるエネルギーの3つの関係も調べました。この3つの間には、どれかを得ると別のどれかが損をする関係があります。たとえば、硬い殻のえものを歯で割って食べれば、エネルギーはとれますが、歯が傷みます。道具を使うと、この損得の関係がゆるやかになっていました。ただし、その程度は、その海にどのえものがどれだけいるかによって変わりました。

05好物が減った海では、道具がほかのえものを食べる助けになる

ラッコの好物は、大きなアワビやウニです。これらは、一度とってしまえば、割ったり食べたりするのは難しくありません。けれども、ラッコに食べられることで、こうした好物は時間とともに減ったり、いなくなったりします。

好物が減ると、ラッコはカニや二枚貝、イガイ、小さな巻き貝などをよく食べるようになります。これらは殻が硬く、歯でこじ開けると、歯を傷めることがあります。道具を使えば、歯だけではかみ割れないえものも食べられます。論文は、好物が減った場所では、道具使いが一部のラッコにとって生きのびるために欠かせないと考えられる、と述べています。

ただし、この研究には限界もあります。ラッコは海の底でも、えものをはがすのに道具を使います。けれども、水中の道具使いは毎回確かめられなかったので、数えていません。チームは、道具を使う割合は少なめに出ている可能性があると書いています。また、骨で歯を調べられたのは35頭だけで、残りの161頭は生きていたか、骨が見つかりませんでした。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ラッコの道具使いの研究の歩み

ラッコの道具使いは、古くから研究されてきました。1964年には、カリフォルニアのラッコの道具使いを記録した論文が、アメリカの哺乳類学の学術誌に出ています。2019年の論文は、ラッコを、えさをとるときにふだんから石を使う、ただ一つの海の哺乳類と紹介しています。

その後の研究で、道具の使い方は、すむ場所の食べ物によって変わることが分かってきました。2015年の8地域の比較では、えものの形と、そのえものが食事にどれだけ入っているかで、地域ごとの違いの約64%を説明できました。今回の研究は、さらに一歩進んで、道具を使うとラッコの体にどんな得があるのかを、歯の傷みという形で示しました。

なぜメスのほうがよく道具を使うのか

大学の発表によると、メスはオスより道具をよく使います。ローさんは、メスは体が小さく、かむ力も弱いので、それを道具でおぎなっているのだろうと話しています。子育てには多くのエネルギーが必要で、メスはむだなくえさをとる必要があるからです。

道具をよく使うのがメスのほうだという例は、ほかの動物にもあります。発表では、イルカやチンパンジー、ボノボでも、メスのほうがオスより道具をよく使うと紹介しています。

えさが少ない海では、ラッコは食べるものの「得意分野」に分かれる

今回の研究では、ラッコ1頭1頭を、よく食べるえものによって7つのタイプに分けました。アワビ、二枚貝、カニ、イガイ、巻き貝、ウニ、その他です。ラッコが何を中心に食べるかは、1頭ごとに長い間あまり変わらないことが、前の研究で知られています。チームはこの性質を使い、歯を調べたあとの食事の記録も、それ以前の食事を表すものとして扱いました。

2017年の研究も、えさの少ない場所では、ラッコごとに食べるものが分かれることを示しています。そして、食べにくいえものが食事に多いラッコほど、道具をよく使っていました。そうしたラッコは、食べにくくないえものにも、道具を使いやすくなっていました。

研究方法の工夫と限界

この研究の強みは、同じラッコを長く追い続けた記録を使ったことです。1頭ごとに何を食べ、どれくらい道具を使うかが分かっているので、歯の状態と結びつけられました。さらに、えものの硬さを機械で測ったことで、「硬いものを食べている」を数字で表せました。

一方で、これは観察にもとづく研究です。道具を使うラッコと使わないラッコは、食べるえものも違います。チームは、えものの種類や体の大きさ、年齢なども一緒に分析に入れていますが、すべての違いを取り除けるわけではありません。また、メス154頭に対してオスは42頭で、オスの数は少なめでした。

06まとめ

発信機をつけたラッコ196頭を調べると、石などの道具を使うラッコ、特にメスは、硬くて大きいえものを食べていました。そして、道具を使うラッコは歯の傷みが少なくなっていました。

好物のアワビやウニが減った海では、ラッコは硬い殻のえものを多く食べるようになります。そうした海で、道具は歯を守りながらエネルギーをとる助けになっていると考えられています。

ラッコが使う道具は、石だけではありません。空の貝がらや、海に捨てられたびんやプラスチックのごみも、ラッコの道具になっていました。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・カリフォルニア州(モントレー湾)

研究チーム
アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校などのチーム(第一著者クリス・ロー)
調べた場所
アメリカ・カリフォルニア州の海岸の5か所(モントレー、ビッグサーなど)
調べた動物
野生のミナミラッコ(学名 Enhydra lutris nereis)196頭(メス154頭、オス42頭)
調べ方
2000〜2014年、発信機で1頭ずつ探して食事を観察。えものの硬さを機械で測り、歯の傷みと比べた
分かったこと
道具を使うラッコ、特にメスは、硬く大きいえものを食べ、歯の傷みが少なかった
まだ分からないこと
水中での道具使いの回数。歯の傷みの差が、寿命や子育てにどれだけ響くか
論文
Science(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

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Tools Help Sea Otters Save Their Teeth

Sea otters float on their backs in the sea. Some of them break shells with a stone on their belly. But how does this tool help them?

Scientists studied 196 wild sea otters in California. Each otter had a small radio inside its body. The scientists watched each otter during at least 300 feeding dives. They also checked the otters' teeth. A machine pressed on shells to measure how hard they were.

Otters that used tools could eat harder and bigger animals. Their teeth were in better condition, too. Females used tools more than males. Females are smaller and need a lot of energy for their babies.

Otters love sea urchins and abalone. When these foods become rare, otters eat more crabs and snails. Their shells are hard, so tools help a lot. Otters do not use only stones. They also use empty shells, bottles, and even boats.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many sea otters did the scientists study?研究者たちは何頭のラッコを調べましたか。

Q2. Which otters used tools more?道具をよく使ったのはどのラッコですか。

Q3. What do otters eat when sea urchins become rare?ウニが少なくなると、ラッコは何を食べますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Law, C. J. et al. (2024) Tool use increases mechanical foraging success and tooth health in southern sea otters (Enhydra lutris nereis). Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.adj6608
  2. 2U.S. Geological Survey(2024)上の論文のデータ公開の説明書(方法の全文)data.usgs.gov/datacatalog/metadata/USGS.3e51948b-450d-4ee6-9
  3. 3カリフォルニア大学サンタクルーズ校(2024)ニュースリリースnews.ucsc.edu/2024/05/sea-otters-tools/
  4. 4Fujii, J. A. et al. (2015) Ecological drivers of variation in tool-use frequency across sea otter populations. Behavioral Ecology 論文確認済みdoi:10.1093/beheco/aru220
  5. 5Fujii, J. A. et al. (2017) Food abundance, prey morphology, and diet specialization influence individual sea otter tool use. Behavioral Ecology 論文確認済みdoi:10.1093/beheco/arx011
  6. 6Haslam, M. et al. (2019) Wild sea otter mussel pounding leaves archaeological traces. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-019-39902-y

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい