動物園のゾウがホースでシャワーを浴びていた。隣の若いゾウは、ホースを折って水を止めた

動物園のゾウは、ホースを鼻で持って体を洗い、背中には振り回してかけた。隣の若いゾウは、ホースを折って水を止めた。

No.085 8分で読めるえっ度 論文 2024年
動物園のゾウ舎で、耳が小さめで年をとったメスのアジアゾウが鼻で黄色いホースを持ち、自分の横腹に水をかけている。水しぶきが光っている。

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  1. ゾウのメアリーは、ホースを鼻で持って自分の体を洗った
  2. 背中を洗うときだけ、ホースを長めに持って振り回した
  3. 隣の若いゾウは、ホースを折り曲げて水を止めた

人に話すなら

ベルリンの動物園のゾウ、ホースを鼻で持って自分でシャワー浴びるんだって。しかも隣の若いゾウが、そのホースを折り曲げて水を止めちゃうらしいよ。

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ゾウは、ホースの持ち方を体のどこを洗うかで変える

ゾウは鼻で水を吸い、自分の体にかけて水浴びをします。では、鼻の代わりに水道のホースを渡したら、どうなるでしょう。ドイツのベルリン動物園には、その答えを見せてくれるゾウがいました。

メアリーという年配のメスのアジアゾウは、ホースを鼻でつかみ、自分でシャワーを浴びます。ベルリン・フンボルト大学のチームが1年以上かけて撮影すると、メアリーは洗う場所によってホースの持ち方を変えていました。背中を洗うときは、ホースの先から平均61cmの所を持ち、振り回して水をかけたのです。

撮影では、もう1つ思いがけない場面も記録されました。隣にいた若いメスのアンチャリが、ホースを持ち上げて折り曲げ、水を止めたのです。研究チームは、これがメアリーへの「じゃま」だった可能性を考えています。ただし、論文はそれを「証明はしていない」とはっきり書いています。

01ベルリン動物園のメアリーは、ホースを自分で持ってシャワーを浴びる

研究したのは、ベルリン・フンボルト大学のレア・ウルバン(Lea Urban)さん、ミヒャエル・ブレヒト(Michael Brecht)さん、レナ・カウフマン(Lena Valentina Kaufmann)さんたちです。ベルリン動物園の職員も、論文の著者に入っています。論文は2024年に、生物学の専門誌「カレント・バイオロジー」に出ました。

主役は、ゾウ舎で暮らすメスのアジアゾウ3頭です。メアリーは1970年ごろにベトナムの野生で生まれたとみられ、イタリアの動物園を経て1987年にベルリンへ来ました。パンパは1987年、生後およそ6か月でタイから贈られたゾウです。アンチャリはパンパの娘で、2012年にこの動物園で生まれました。

ゾウたちは毎朝およそ1時間、ゾウ舎の中で掃除や健康チェックを受けます。このとき飼育員がホースで体を洗い、ゾウたちも水を飲んだり鼻で浴びたりできます。研究チームはこの時間にメアリーにホースを渡し、ゾウ舎の中から撮影しました。観察は2023年1月に始まり、1年以上続きました。

3頭のうち、ホースでシャワーを浴びたのはメアリーだけでした。メアリーはホースを渡されると約5秒で拾い上げ、平均で約7分間シャワーを浴びました。水を止めると使うのをやめ、ホースを落としました。飼育員によると、メアリーはベルリンに来たとき何も訓練されていませんでした。いつどうやってこの使い方を覚えたのかは分かっていません。

02背中を洗うときだけ、ホースの持ち方と振り方が変わった

研究チームは、メアリーが左の横腹・右の横腹・背中を洗う場面を分けて調べました。測ったのは、鼻でつかんだ位置からホースの先までの長さです。

横腹を洗うときのメアリーは、ホースの先の近くを持ちます。ホースの先をシャワーの口のように固定して、水を当てるのです。後ろ脚を上げたり、前に体を伸ばしたりして、水が届きやすい姿勢もとりました。

背中のときは動きがまるで違いました。ホースを先から遠い所で持ち、勢いよく振って背中へ投げかけたのです。ホースが曲がりやすいことと、振ると先が飛んでいく性質を使っています。背中にかけたあと、ホースをそのまま落とすこともよくありました。

左右のくせも見つかりました。鼻だけで水をかけるときのメアリーは、右の横腹を多く洗います。ところがホースを使うと、左の横腹を多く洗いました。ホースでのシャワーの時間のうち、左は12%、右は7%でした。なぜ道具によって左右が逆になるのかは、研究チームにもまだ分かっていません。

03細いホースと太いホースを渡すと、メアリーは使い方を変えた

次に研究チームは、ホースを取りかえる実験をしました。ふだん使う黄色いホースは、内側の直径が24mmです。これに加えて、やわらかい13mmのホースと、かたい32mmのホースを買ってきて渡しました。

2頭のメスのアジアゾウが並んで立っている。右の若いゾウが鼻で黄色いホースを持ち上げて折り曲げ、左のゾウの持つホースの先からは水がほとんど出ていない。

ふだんの24mmのホースでは、時間の64%をホースでのシャワーに使いました。細い13mmでは39%、太い32mmでは36%に減りました。太いホースのときは、ホースを使わずに鼻だけで水をかける時間が40%に増えました。細いホースのときは、シャワーをしない時間が一番長くなりました。

研究チームは、太いホースと24mmのホースとで、シャワーを浴びた時間の合計はほぼ同じだったと書いています。違ったのは、そのやり方です。使いにくい道具を渡されると、別の方法に切りかえて同じ目的を果たしたことになります。研究チームは、細いホースはメアリーには扱いにくかったようだと見ています。

04若いゾウのアンチャリは、ホースを折り曲げて水を止めた

メアリーの隣には、若いアンチャリが立っていました。ある時からアンチャリは、メアリーが使っているホースを、鼻でいじるようになりました。

研究チームがビデオを細かく見ると、アンチャリの動きには決まった順番がありました。ホースの位置を整える、持ち上げる、折り曲げる、折れた所をつかみ直す、折れた所をぎゅっと押しつぶす、の5つです。最後の「押しつぶす」ときにだけ、メアリーのホースの水が弱まったり止まったりしました。ときには強く握りすぎて、ホースを取り落とすこともありました。

この動きが最初に見られた6日間を比べると、水が完全に止まった時間の長さは、最初の3日間より4〜6日目のほうが約2倍に増えていました。アンチャリは、ホースの上に鼻をついて体重をかけることもありました。これでも水が止まることがありました。ゾウたちはふだん、ホースを踏まないように訓練されています。

研究チームは、わざと止めたと考えられる理由を5つあげています。同じ複雑な手順を何度もくり返したこと。日がたつにつれ、うまく止められるようになったこと。強く折って握らないと水は止まらないこと。ホースの上に鼻をつく行動とセットで起きたこと。そして、メアリーがアンチャリを何度も攻撃しており、アンチャリにはじゃまをする理由がありえたことです。

05わざと止めたのかは、まだ分からない

研究チームは、この考えを確かめる実験もしました。アンチャリの前に2本のホースを置き、1本はメアリーのシャワーにつなぎ、もう1本はゾウ舎の奥へのばしたのです。もしメアリーのじゃまが目的なら、メアリーにつながる方を選ぶはずです。

ところがアンチャリは、どちらのホースも同じように扱いました。近い方のホースを手に取ることが多かったのです。研究チームは、この実験は動物園という場所の都合で回数も規模も小さく、結論を出しにくいと書いています。アンチャリが、どのホースがどこへつながっているかを目で追えていたかも分かりません。

メアリーがアンチャリを攻撃した時間と、アンチャリがホースをいじった時間は近い時間に集中していました。けれども研究チームは、どちらが原因でどちらが結果なのかは確かめられないとしています。論文の要約にある言い方は、「じゃまをする力があることを示唆するが、証明はしていない」です。

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なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

ゾウはもともと道具を使う動物だった

動物の道具使いといえば、ジェーン・グドール(Jane Goodall)さんが1964年の論文で報告した、野生のチンパンジーが小枝を道具に使う様子がよく知られています。その後、サルの仲間やイルカ、鳥でも道具使いが知られています。ニューカレドニアガラスは、針金を曲げたり伸ばしたりして、目的に合わせて形を変えることが分かっています。ゾウについても、飼われているゾウと野生のゾウの両方が、木の枝に手を加えて、ハエを追い払うのに使うことが報告されています。

鼻とホースは似ている、という見方

ゾウにとって、水や泥や砂を体にかけるのはいつもの行動です。体温を下げたり、皮ふを守ったりするのに役立ちます。研究チームは、メアリーがホースを上手に使えるのは、ホースが自分の鼻と似ているからかもしれないと考えています。鼻で水をかける動きを、ホースに置きかえればよいからです。ただし、これは研究チームの考えで、確かめられたことではありません。メアリーがベルリンに来る前に、ほかのゾウのやり方を見ていた可能性もあると書いています。

ゾウにも「利き鼻」がある

人に右利きと左利きがあるように、アジアゾウにもアフリカゾウにも、鼻を巻きつける向きに左右のくせがあることが知られています。メアリーは、鼻を左へ巻きつけるのが好きな「左利き」のゾウです。道具を使うときの左右のくせは、ニューカレドニアガラスやフサオマキザル、チンパンジーでも報告されています。研究チームによると、こうした動物の多くは、道具を使わないふだんの動きでは左右のくせをあまり見せません。そのため、道具を使うことが左右のくせを強めるのではないか、という見方があります。ところがメアリーは、鼻だけで水をかけるときは右側を多く洗いました。これは、鼻を左へ巻くくせと合いません。研究チームも、この食い違いは奇妙だと書いています。

ゾウの頭のよさを調べるのは難しい

ゾウは頭がよいと昔から言われてきました。けれども体が大きく危険もあるため、実験で確かめるのは簡単ではありません。アメリカのエモリー大学などのチームは2011年、2頭が同時にロープの両端を引かないとエサが取れない装置をゾウで試しました。ゾウは相手が来るまで最長45秒間、引くのをがまんして待ちました。相手がロープに届かないときは、引いてもむだだと分かっているような反応も見せました。今回の研究は実験ではなく、動物園の日課を変えずに撮った観察が中心です。そのぶん自然な行動が見られる一方、条件をそろえた比べ方は難しくなります。

06まとめ

ベルリン動物園のメアリーは、ホースを鼻で持って自分の体を洗いました。横腹にはホースの先の近くを持って水を当て、背中には先から遠い所を持って振り回してかけました。ホースの太さを変えると、鼻だけで水をかけるなど、やり方を切りかえました。

隣の若いアンチャリは、ホースを決まった順番で折り曲げ、水を止めました。止めた時間は日がたつにつれて長くなりました。ただ、メアリーをねらったのかどうかは、2本のホースの実験でははっきりしませんでした。この研究は、動物園の3頭を観察したものです。野生のゾウどうしで同じようなじゃまが起きるのかは、まだ調べられていません。動物園でゾウが水浴びをしていたら、体の右と左のどちらに多く水をかけているか、少し観察してみてください。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ドイツ・ベルリン

研究チーム
ドイツのベルリン・フンボルト大学とベルリン動物園のチーム(第一著者レア・ウルバン)
調べた場所
ドイツのベルリン動物園のゾウ舎
調べた動物
メスのアジアゾウ3頭(学名 Elephas maximus)。メアリー、パンパ、アンチャリ
調べ方
2023年1月から1年以上、朝の世話の時間にホースを渡し、ビデオで撮って動きを数えた
分かったこと
メアリーは洗う場所によってホースの持ち方を変えた。アンチャリはホースを折って水を止めた
まだ分からないこと
アンチャリがメアリーのシャワーをわざと止めたのか。野生のゾウも同じことをするのか
論文
Current Biology(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

An Elephant Takes a Shower with a Hose

Mary is an old Asian elephant at a zoo in Berlin, Germany. In the morning, she often picks up a water hose with her trunk. Then she gives herself a shower for about seven minutes.

Scientists filmed her for more than a year. When she washes her sides, she holds the hose near the end. When she washes her back, she holds it farther from the end. Then she swings it over her back.

A young elephant named Anchali stands next to Mary. One day, Anchali started to lift the hose and bend it. When she squeezed the bend, the water slowed down or stopped. Over six days, she got better at stopping the water.

Did Anchali want to stop Mary's shower? The scientists gave her two hoses to test this idea. She did not choose Mary's hose more often. So the answer is still not clear.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How long does Mary usually take a shower?メアリーはふだん、どのくらいの時間シャワーを浴びますか。

Q2. What does Mary do when she washes her back?メアリーは背中を洗うとき、何をしますか。

Q3. What did Anchali do to the hose?アンチャリはホースに何をしましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Urban, L. et al. (2024) Water-hose tool use and showering behavior by Asian elephants. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2024.10.017
  2. 2Humboldt-Universität zu Berlin edoc(論文の全文公開ページ)edoc.hu-berlin.de/18452/33602
  3. 3Plotnik, J. M. et al. (2011) Elephants know when they need a helping trunk in a cooperative task. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1101765108

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい