怖い目にあった相方が戻ると、ハタネズミは1分以内に毛づくろいでなぐさめ始めた
相方が見えない所で怖い目にあって戻ると、ハタネズミはすぐ毛づくろいを増やした。脳のオキシトシンを止めると、しなくなった。

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- 怖い目にあった相方が戻ると、すぐ毛づくろいを増やした
- 一緒に暮らす相手にだけして、知らない相手にはしなかった
- 脳の一部でオキシトシンを止めると、毛づくろいは増えなくなった
人に話すなら
プレーリーハタネズミって、相方が怖い目にあって戻ってくると、すぐ毛づくろいしてあげるんだって。知らないネズミにはしないし、脳のオキシトシンを止めるとやらなくなるらしいよ。
読む前に予想しよう
プレーリーハタネズミは、怖い目にあった知らない相手もなぐさめる
毛づくろいが増えたのは、一緒に暮らす相手だけ。知らない相手には増えなかった。
ケンカに負けた仲間のそばに行き、抱きしめたり、毛づくろいをしたりする。こうした「なぐさめ」は、人やチンパンジーなど、頭がよいとされる動物の行動だと考えられてきました。ところが、小さなネズミの仲間にも、同じような行動が見つかりました。
アメリカのエモリー大学のチームは、プレーリーハタネズミというネズミの仲間を調べました。一緒に暮らす2匹のうち1匹だけを、見えない所で怖い目にあわせます。2匹を元に戻すと、もう1匹は1分以内に相方の毛づくろいを始め、少なくとも10分は続けました。
この研究は、なぐさめには高い知能がいる、という考えをゆさぶりました。さらに研究チームは、脳のどこで何が働いているのかまで調べました。オキシトシンというホルモンの働きを、脳の一部だけで止めたのです。すると、なぐさめの毛づくろいは増えなくなりました。
01なぐさめは、頭のよい動物だけのものと思われてきた
人の子どもは、1歳から2歳のあいだに、困っている人をなぐさめるようになります。動物のなぐさめが初めて報告されたのは、1979年のチンパンジーの研究でした。オランダの研究者フランス・ドゥ・ヴァール(Frans de Waal)さんたちが、動物園のチンパンジーで記録したものです。
その後、イヌやオオカミの仲間、カラスの仲間、ゾウでも、なぐさめに似た行動が報告されました。ただ、どれも群れの中で自然に起きたケンカのあとを観察したものでした。そのため、なぐさめには相手の立場を考えるような高い知能が必要だ、と考えられてきたのです。
もしネズミの仲間でなぐさめが見つかれば、話は変わります。なぐさめは、もっと古くからある、もっと単純なしくみで起きているのかもしれません。しかも実験室で毎回同じ条件で調べられれば、脳のしくみにまで迫れます。
02研究の舞台は、オスとメスがつがいで暮らし、一緒に子育てするネズミだった
研究したのは、エモリー大学のジェームズ・バーケット(James Burkett)さん、ラリー・ヤング(Larry Young)さん、ドゥ・ヴァールさんたちです。論文は2016年に科学誌「サイエンス」に出ました。
主役のプレーリーハタネズミは、オスとメスがつがいになって暮らし、子育てをオスとメスの両方がします。大きくなった子が生まれた巣に残り、次に生まれた子の世話を手伝うこともあります。比べる相手には、近い仲間のアメリカハタネズミを選びました。こちらは決まった相手を持たず、子育ては母親だけで、短い期間で終わります。
研究チームは、つきあい方の濃いプレーリーハタネズミだけがなぐさめを見せるだろう、と予想しました。
03相方が見えない所で怖い目にあうと、もう1匹は毛づくろいを増やした
実験の手順はこうです。一緒に暮らす2匹を引き離します。そして片方だけを、2つの条件のどちらかにおきます。1つは、何もされずに1匹で過ごす条件です。もう1つは、音を5回鳴らし、そのたびに足に弱い電気ショックを与える条件です。これを24分かけて行います。ここでは、引き離されて条件におかれる側を「相方」、もう1匹を「待っていた側」と呼びます。待っていた側は、怖い目に自分であってもいないし、その場面を見てもいません。
そのあと2匹を元に戻し、待っていた側が相方をなめたり毛づくろいしたりする時間を測りました。
結果ははっきりしていました。相方が怖い目にあったあとは、待っていた側の毛づくろいが長くなり、始めるまでの時間も短くなりました。相方が何もされずに1匹で過ごしただけのときは、毛づくろいは増えませんでした。この反応は、オスでもメスでも見られました。
毛づくろいには、相方を落ち着かせる効果もありそうです。怖い目にあったあと5分間1匹で休んだ相方は、不安が強いときの行動を多く見せました。ところが同じ5分間を待っていた側と過ごした相方は、何もされていない相方と変わらない様子に戻っていました。
一方、アメリカハタネズミでは、相方が怖い目にあっても毛づくろいは増えませんでした。
04知らない相手にはせず、自分のストレスとも区別していた

研究チームは、なぐさめの相手を変えてみました。つがい、同じ性のきょうだい、一緒に暮らしてきた血のつながらない同居ネズミ、そして知らない相手です。毛づくろいが増えたのは、よく知っている相手のときだけでした。知らない相手が怖い目にあっても、増えませんでした。
待っていた側は、相方と同じ行動をとることもありました。再会後、相方が自分の体をしきりに毛づくろいすると、待っていた側も自分の毛づくろいを増やしました。相方が怖い音を聞いて固まると、待っていた側も一緒に固まりました。
血液のストレスホルモンも調べました。透明で小さな穴のあいたしきりごしに相方と再会した待っていた側は、ストレスホルモンが上がりました。その量は、相方の量とよく合っていました。ところが、しきりなしで相方にさわれた待っていた側では、ストレスホルモンは上がりませんでした。研究チームは、なぐさめの行動をすることで、待っていた側のストレスもやわらぐのかもしれないと考えています。
もう1つ確かめたことがあります。怖い目にあった相方のほうは、待っていた側への毛づくろいを増やしませんでした。つまり毛づくろいの増加は、ストレスを感じたネズミなら誰でもする行動ではありませんでした。相手のストレスに向けた行動だったのです。
05脳の一部でオキシトシンを止めると、なぐさめは消えた
オキシトシンは、人では共感や、表情から気持ちを読み取る力と関係するとされるホルモンです。研究チームは、オキシトシンを受け取る部分をふさぐ薬を、待っていた側の脳の中に入れました。すると、ふだんの毛づくろいは変わらないのに、相方が怖い目にあったときの増加だけが消えました。
次に、脳のどこが働いているかを調べました。人の共感とかかわるとされる「前帯状皮質」という部分が、怖い目にあった相方と会ったときに強く働いていました。前帯状皮質は、脳の前の方の内側にある部分です。
そこで、同じ薬を前帯状皮質だけに入れました。すると、なぐさめの毛づくろいは増えなくなりました。すぐ隣の別の部分に入れたときは、変化はありませんでした。研究チームは、人とハタネズミで、なぐさめを支える脳のしくみが共通しているのではないかと述べています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
なぜなぐさめる行動が生まれたのか
研究チームは、なぐさめのもとになったのは、母親が子を世話するしくみではないかと考えています。哺乳類の母親は、子が困っていると近づいて世話をします。その脳のしくみが、大人どうしのつながりにも使われるようになった、という考えです。研究チームは、つがいのきずなも同じ流れで生まれたと書いています。ただし、近い仲間のアメリカハタネズミや、多くのマカクザルでは、なぐさめは見つかっていません。研究チームは、なぐさめは特定の暮らし方をする種でだけ現れるのだろう、と書いています。
研究の歴史:チンパンジーからネズミへ
ドゥ・ヴァールさんは、オランダのユトレヒト大学とアメリカのエモリー大学で研究してきた動物行動学者です。1979年にチンパンジーのなぐさめを報告して以来、共感は人だけのものではないと主張してきました。ユトレヒト大学の発表によると、なぐさめが共感から来るのか、学んだ社会のふるまいなのかは、長く議論されてきました。今回の研究は、ネズミの仲間でなぐさめを示した初めての研究と紹介されています。
反対の研究:ストレスを抱えたネズミは、なぐさめなくなった
中国の陝西師範大学などのチームは2019年、別の種類のハタネズミで、なぐさめる側にストレスがあるとどうなるかを調べました。14日間、強いネズミとケンカをさせて負けさせたハタネズミは、負けて戻った相方への毛づくろいが減りました。その脳では、前帯状皮質でオキシトシンを受け取る部分が減っていました。一方、相方が負ける場面を見ていただけのネズミでは、毛づくろいは減りませんでした。なぐさめは、いつでも出る行動ではなく、なぐさめる側の状態にも左右されるようです。
「なぐさめ」と呼んでよいのか
動物の共感の研究には、慎重な意見もあります。オーストリアのウィーン大学などの研究者は2020年、動物の共感研究を見直す論文を出しました。毛づくろいのような行動だけでは、その動物が何を感じているかは分かりにくい、という指摘です。そのうえで、意味のとり方がいく通りもある行動より、共感の土台にある感情そのものに注目するべきだと提案しています。今回の研究は、ストレスホルモンや脳の働きも測っています。それでも、ハタネズミが相手の気持ちを「分かって」毛づくろいしているのかまでは言えません。研究チーム自身も、このテストは高い知能を前提にしていないと書いています。
06まとめ
プレーリーハタネズミは、相方が見えない所で怖い目にあって戻ると、1分以内に毛づくろいを始めました。相手は、よく知っている仲間だけでした。毛づくろいを受けた相方は、不安な様子がおさまりました。脳の前帯状皮質でオキシトシンの働きを止めると、この行動は消えました。
ただし、なぐさめる側にストレスがたまっていると、毛づくろいが減るという研究もあります。ネズミが相手の気持ちをどこまで感じているのかも、まだ分かりません。人がつらい友だちの背中をさするときも、似たしくみが脳の中で働いているのかもしれません。
研究カルテ
アメリカ・アトランタ
- 研究チーム
- アメリカのエモリー大学のチーム(第一著者ジェームズ・バーケット、フランス・ドゥ・ヴァール、ラリー・ヤングら)
- 調べた場所
- アメリカのエモリー大学(ジョージア州アトランタ)の研究室
- 調べた動物
- プレーリーハタネズミ(学名 Microtus ochrogaster)。比べる相手にアメリカハタネズミ(M. pennsylvanicus)
- 調べ方
- 2匹を引き離し、片方だけに音と弱い電気ショックを与えて、戻したあとの毛づくろいを測った
- 分かったこと
- 相方が怖い目にあうと、もう1匹は毛づくろいを増やした。脳のオキシトシンが必要だった
- まだ分からないこと
- ネズミが相手の気持ちをどこまで感じているのか。野生でも同じことをするのか
- 論文
- Science(2016年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Prairie voles are small animals, like mice. A male and a female often stay together as a pair. Scientists wanted to know if these animals comfort each other.
Scientists in the United States separated two voles that lived together. One vole heard sounds and got small electric shocks. The other vole did not see this. When the two voles met again, the second vole began to groom its partner. It started within one minute.
The voles did this only for animals they knew. They did not do it for strangers. After the grooming, the scared partner looked calmer.
Next, the scientists blocked a hormone called oxytocin in one part of the brain. Then the voles stopped comforting their partners. Other studies show that stressed voles may comfort less. We still do not know what the voles really feel.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. When did the second vole start grooming its partner?もう1匹は、いつ相方の毛づくろいを始めましたか。
再会してから1分以内に毛づくろいを始めました。
Q2. Who did the voles comfort?ハタネズミは、だれをなぐさめましたか。
毛づくろいが増えたのは、知っている相手のときだけでした。
Q3. What happened when oxytocin was blocked in the brain?脳でオキシトシンの働きを止めると、どうなりましたか。
前帯状皮質でオキシトシンの働きを止めると、なぐさめの毛づくろいが増えなくなりました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Burkett, J. P. et al. (2016) Oxytocin-dependent consolation behavior in rodents. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.aac4785
- 2同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4737486/
- 3Utrecht University(2016)Animals also express empathy through comfortinguu.nl/en/news/animals-also-express-empathy-through-comfortin
- 4Li, L.-F. et al. (2019) Reduced Consolation Behaviors in Physically Stressed Mandarin Voles: Involvement of Oxytocin, Dopamine D2, and Serotonin 1A Receptors Within the Anterior Cingulate Cortex. International Journal of Neuropsychopharmacology 論文確認済みdoi:10.1093/ijnp/pyz060
- 5Adriaense, J. E. C. et al. (2020) Challenges in the comparative study of empathy and related phenomena in animals. Neuroscience & Biobehavioral Reviews 論文確認済みdoi:10.1016/j.neubiorev.2020.01.021
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





