チンパンジーが薬がわりに食べるらしい木の皮やシダ。試験管では抽出液の88%が細菌を抑えた

チンパンジーが薬に使うらしい植物を調べると、試験管で抽出液の88%が細菌の増殖を抑えた。炎症を強く抑えるものもあった。

No.087 8分で読めるえっ度 論文 2024年
熱帯の森で、片手をかばうように胸に寄せたオスのチンパンジーが、地面のシダの葉をつまんで口に運んでいる。

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  1. チンパンジーが薬に使うらしい植物13種を集めて調べた
  2. 抽出液の88%が、試験管で細菌の増殖を抑えた
  3. 手をけがした1頭が食べたシダは、炎症を強く抑えた

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ウガンダの森で、手をけがしたチンパンジーが、群れでただ1頭シダを食べてたんだって。そのシダを調べたら、炎症を抑える力がすごく強かったらしいよ。

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チンパンジーが食べた植物の抽出液は、試験管でほとんど効き目がなかった

2021年8月、ウガンダの森で、手にひどいけがをしたオスのチンパンジーが群れから少し離れました。向かった先はシダのしげみです。チンパンジーはそこで約3分間、シダの葉を食べました。大きな群れの中で、シダを食べたのはこの1頭だけでした。

イギリスのオックスフォード大学などのチームは、チンパンジーが薬に使っているかもしれない植物を集めました。そして、薬としての働きを試験管で調べました。13種の植物から成分を溶かし出した液(抽出液)のうち、88%が細菌の増殖を抑えました。けがをしたチンパンジーが食べたシダには、炎症を強く抑える働きがありました。

動物が自分で薬になる植物を選んで食べているのか。それとも、たまたま食べた物に薬の成分が入っていただけなのか。この区別は、長い間の大きな問題でした。今回のチームは、チンパンジーの体調の記録と、植物の試験の結果を組み合わせて、この問題に迫ろうとしました。

01チンパンジーの「薬草」は、30年以上前から研究されてきた

チンパンジーが薬になりそうな植物を食べることは、前から知られていました。よく知られた行動は2つあります。1つは、表面にざらざらした毛のある葉を、かまずに丸ごと飲みこむ行動です。この葉は消化されずに腸を通り、腸の動きを強めて、寄生虫を体の外へ出すと考えられています。

もう1つは、苦い植物の茎の皮をはぎ、中のやわらかい芯をかんで、苦い汁だけを飲む行動です。かすは吐き出します。この2つの行動は、合わせて少なくとも16か所の調査地のチンパンジーで報告されています。マイケル・ハフマン(Michael Huffman)さんは、京都大学などでチンパンジーを研究してきた研究者です。ハフマンさんたちは1989年、タンザニアのマハレ山塊国立公園での観察を報告しました。具合の悪い野生のチンパンジーが、ベルノニア・アミグダリナという苦い植物の芯をかんでいたという記録です。

一方で、チンパンジーがふだん食べる木の皮や枯れ木は、どんな働きをしているのかがよく分かっていませんでした。木の皮は繊維が多くて消化しにくく、栄養も少ない食べ物です。それでもチンパンジーは、ときどき木の皮をはいで食べます。

022つの群れの51頭を追い、フンと尿で体調を調べた

この研究は、2024年に科学誌「プロスワン」に出ました。中心になったのは、オックスフォード大学のエロディ・フレイマン(Elodie Freymann)さんです。植物の試験は、ドイツのノイブランデンブルク応用科学大学のファビアン・シュルツ(Fabien Schultz)さんたちが担当しました。ハフマンさんも著者に入っています。

舞台は、ウガンダのブドンゴ森林保護区です。ここには、人に慣れたチンパンジーの群れが2つあります。約68頭のソンソの群れは1992年から研究が続いています。少なくとも105頭いるワイビラの群れは、2011年から記録が続いています。チームは2021年にソンソを、2022年にワイビラを、合わせて約8か月観察しました。追いかけたのは、2つの群れの合わせて51頭です。

チームは、けがをしている個体や、寄生虫の多い個体を優先して1日じゅう追いかけました。体調は、フンと尿で調べました。フンを顕微鏡で見て、寄生虫の卵の数を数えます。尿には試験紙をひたし、体の不調のしるしになる白血球や血が出ていないかを見ました。観察する人は、植物の試験の結果を知らされないまま記録を続けました。

0313種の植物を3種類の液で溶かし出し、細菌と炎症で試した

チームが集めた植物は、木が9種、草が4種の合わせて13種です。木の皮、枯れ木、草の芯、葉、シダなど、17の試料になりました。選んだのは、具合の悪い個体が食べた植物や、木の皮・枯れ木・草の芯を食べる行動でこの森のチンパンジーが使ってきた植物です。

それぞれの試料から、性質の違う3種類の液で成分を溶かし出し、抽出液を作りました。抽出液は2つの試験にかけました。1つは、人に病気を起こす細菌などを育てて、その増え方を抑えるかを見る試験です。試した細菌には、薬が効きにくいことで知られる種類も入っていました。もう1つは、炎症を起こす物質を作る「COX-2」という酵素を、どれだけ抑えるかを見る試験です。

結果、抽出液の88%が、試験した細菌のどれかの増殖を抑えました。特に強かったのは、アルストニアという木の枯れ木と、カヤ・アントテカというマホガニーの仲間の木の皮と樹脂です。どの植物からも、大腸菌の増え方を弱める抽出液が見つかりました。一方で、肺炎などを起こす細菌の一種は、どの抽出液でも抑えられませんでした。

炎症の試験では、51の抽出液のうち17が、ごく少ない量でもCOX-2の働きを半分以上抑えました。一番強かったのはカヤ・アントテカの木の皮と樹脂で、次が、けがをしたオスが食べたシダでした。

04けがをしたオスはシダを、寄生虫の多い子どもは木の皮を食べていた

森の中で、チンパンジーが木の幹から樹皮をはいで口に入れている。足元には、はがれた樹皮のかけらが落ちている。

チームは、試験の結果を体調の記録と照らし合わせました。

冒頭のオスは、手にひどいけがをしていて、動きにも影響が出ていました。ただし、開いた傷は見られませんでした。研究チームによると、ブドンゴで30年以上続く観察の中で、シダを食べた記録はこれが2回目でした。このシダには、炎症を抑える強い働きがありました。研究チームは、シダが手の痛みやはれをやわらげた可能性はあると書いています。ただ、オスがそれを求めてシダを選んだのかは分からない、としています。

2021年8月には、子どものオスが兄と一緒に、群れから遠く離れました。そして、なわばりの外れで低木の皮をはいで食べました。スクティア・ミルティナという、つる状に広がる木です。この子は一日じゅう、弱々しい声で鳴き続けていました。その日のフンからは、6種類の寄生虫の卵が見つかりました。

カヤ・アントテカの木の皮と樹脂は、もっと多くの個体が食べていました。けがをした個体、尿に白血球が出ていたメス、せきが続く子どもなどです。年をとったメスが、寄生虫を出すとされる「葉の丸飲み」をする数時間前に、この木の皮を食べた例もありました。

05試験管の結果だけでは、「チンパンジーの薬」とまでは言えない

この研究には、はっきりした限界があります。まず、試験はすべて試験管の中のものです。チンパンジーの体の中で同じように効くかは分かりません。寄生虫を殺す働きの試験は、費用などの理由で行われていません。

次に、比べる相手がいません。チンパンジーが食べない植物も同じ試験にかければ、薬の働きがある植物がどれほど特別かが分かります。しかし今回は、費用の問題でそれができませんでした。多くの植物は、もともと身を守るための成分を持っています。そのため、チンパンジーが食べない植物を調べても同じくらい見つかるのかどうかは、今の結果からは分かりません。

さらに、チンパンジーが病気を治すつもりで食べたのかどうかも、まだ分かりません。カヤ・アントテカのように多くの個体がよく食べる植物は、病気の予防にふだんから役立つ食べ物なのかもしれません。研究チームも、予防の食べ物なのか、具合の悪いときの治療なのかは、これから調べる必要があると書いています。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

薬になる植物を食べると、どんな得があるのか

植物の多くは、虫や病原体から身を守るための成分を持っています。こうした成分は、量が多いと毒にもなりますが、食べた動物の健康を助けることもあります。研究チームによると、霊長類などの食べ物の15〜25%は、薬の働きを持つ食べ物だという研究があります。ふだんの食事で少しずつ取りこむだけでも、寄生虫や病原体の害を減らせるかもしれません。研究チームのフレイマンさんは、オックスフォード大学の発表で、野生のチンパンジーの「自分で治す」行動を調べるには、いくつもの分野の証拠を集めて組み立てる必要があると話しています。

「たまたま」か「選んで」かを分ける難しさ

ハフマンさんは、本当の意味での自分で治す行動を、次のように定義しています。具合の悪い個体が、栄養の少ない薬の植物を、わざわざ取り出して食べることです。この定義に当てはまるかを確かめるには、①その個体が具合が悪いこと、②栄養をとるための食べ物ではないこと、③薬の働きがあること、を示す必要があります。今回の研究は、①をフンと尿の記録で、③を試験管の試験で調べました。それでも、チンパンジーがその植物を選んだ理由までは確かめられていません。

痛み止めと同じしくみで働く成分があるかもしれない

COX-2は、痛みや熱、傷の炎症にかかわる物質を作る酵素です。人がよく使う解熱鎮痛薬の多くも、この酵素の働きを抑えることで効きます。今回、ごく少ない量でCOX-2を抑えた抽出液が17ありました。ただし、どの成分が効いているのかは、まだ特定されていません。研究チームは、効いている成分を詳しく分析することが次の課題だとしています。オックスフォード大学の発表は、薬の効きにくい細菌が増えている今、森の植物が新しい薬の手がかりになるかもしれないと紹介しています。

枯れ木を食べるのは、塩をとるためという考えもある

チンパンジーが枯れ木を食べる理由については、別の考えもあります。これまでの研究の多くは、枯れ木を塩分(ナトリウム)の補給と考えてきました。塩分の少ない森では、くさった木が大事な塩の出どころになるという報告があります。今回の研究は、枯れ木に細菌を抑える働きもあることを示しました。研究チームは、枯れ木を食べる行動には、塩をとることと体を守ることの両方の役目があるかもしれないと考えています。栄養や塩分の量も合わせて調べることが、これからの課題として挙げられています。

06まとめ

ウガンダのブドンゴの森で、研究チームは51頭のチンパンジーを約8か月追いました。具合の悪い個体が食べた13種の植物を調べると、抽出液の88%が試験管で細菌の増殖を抑えました。炎症を強く抑える木の皮やシダもありました。

ただし、試験は試験管の中だけで、チンパンジーが食べない植物とも比べていません。チンパンジーが治すつもりで選んでいるのかも、まだ分かりません。ブドンゴでチンパンジーがシダを食べた記録は、30年以上の観察でまだ2回しかありません。その1回が、手をけがしたオスでした。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ウガンダ

研究チーム
イギリスのオックスフォード大学とドイツのノイブランデンブルク応用科学大学などのチーム(第一著者エロディ・フレイマン)
調べた場所
ウガンダのブドンゴ森林保護区
調べた動物
野生のチンパンジー(学名 Pan troglodytes)の2つの群れの51頭
調べ方
具合の悪い個体などを追って食べた植物を集め、抽出液を細菌と炎症の試験にかけた
分かったこと
抽出液の88%が細菌の増殖を抑えた。炎症を強く抑える木の皮やシダもあった
まだ分からないこと
チンパンジーが病気を治すつもりで選んでいるのか。体の中でも効くのか
論文
PLOS ONE(2024年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Do Chimpanzees Eat Plants as Medicine?

In a forest in Uganda, a male chimpanzee had a bad hand injury. He moved a little away from his group and ate fern leaves. No other chimpanzee in the group ate it.

Scientists from Oxford watched 51 chimpanzees for about eight months. They checked the animals' health with their poop and urine. They also collected plants that the chimpanzees ate.

The team made extracts from 13 kinds of plants. In the lab, 88 percent of the extracts slowed the growth of bacteria. The fern from the injured male worked strongly against inflammation.

But these tests were only done in test tubes. The team did not test plants that chimpanzees do not eat. We still do not know if chimpanzees choose these plants to get better.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. What did the injured male chimpanzee eat?けがをしたオスのチンパンジーは何を食べましたか。

Q2. How many chimpanzees did the scientists watch?研究者たちは何頭のチンパンジーを観察しましたか。

Q3. Where were the plant tests done?植物の試験はどこで行われましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Freymann, E. et al. (2024) Pharmacological and behavioral investigation of putative self-medicative plants in Budongo chimpanzee diets. PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0305219
  2. 2同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11189245/
  3. 3University of Oxford, School of Anthropology「Study reveals chimpanzees seek out medicinal plants to treat illness and injuries」anthro.ox.ac.uk/article/doctoral-study-reveals-chimpanzees-s
  4. 4Huffman, M. A. & Seifu, M. (1989) Observations on the illness and consumption of a possibly medicinal plant Vernonia amygdalina (Del.), by a wild chimpanzee in the Mahale Mountains National Park, Tanzania. Primates 論文確認済みdoi:10.1007/BF02381210

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい