猟犬は来た道と違う道で飼い主の所へ帰るとき、まず南北の向きに約18m走っていた

森で獲物を追った猟犬は、新しい道で帰るとき、まず南北の向きに約18m走った。そうした犬は、むだの少ない道で飼い主の所へ戻れた。

No.088 7分で読めるえっ度 論文 2020年
秋の森の中で、首輪にアンテナをつけたフォックス・テリアのような小型の猟犬が、地面のにおいをかぎながら走っている。木々の間から光が差しこんでいる。

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  1. 猟犬27匹に、GPSの首輪とカメラをつけて森で調べた
  2. 新しい道で帰る犬は、まず南北の向きに約18m走った
  3. 南北に走った犬は、むだの少ない道で帰れた

人に話すなら

猟犬って、獲物を追ったあと新しい道で帰るとき、まず南か北に18mくらい走るんだって。どっちに飼い主がいても南北なの。地球の磁気を使ってるのかもしれないらしいよ。

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新しい道で帰る猟犬は、最初に飼い主のいる方へまっすぐ走り出す

猟犬を森で放すと、獲物のにおいを追って何百mも先まで走っていくことがあります。それでも多くの犬は、しばらくすると飼い主の所へ戻ってきます。来た道をにおいでたどる犬もいれば、まったく別の道を通って戻ってくる犬もいます。見通しの悪い森の中で、どうやって方向が分かるのでしょうか。

チェコの研究チームは、猟犬27匹にGPSの首輪をつけ、森で622回の探索を記録しました。すると、新しい道で帰る犬は、まず南北の向きに平均18mほど走っていました。飼い主がどちらにいても、です。研究チームはこれを「コンパスラン」と名づけました。

南北に走ってから帰った犬は、東西に走った犬よりも、むだの少ない道すじで飼い主の所に戻れました。研究チームは、犬が地球の磁気を使って、頭の中の地図の向きを合わせているのではないかと考えています。

01迷子にならない犬のふしぎは、昔から知られていた

犬の帰ってくる力は、昔から話題になってきました。第一次世界大戦では、伝令犬が戦場で大事な知らせを運びました。100年近く前には、犬を知らない場所へ連れていっても帰ってくるかを確かめる研究も行われました。のちの研究では、外が見えない状態で26匹の犬を連れていっても、犬は帰ってきました。近道や新しい道を使うことも多かったそうです。

ただ、森のような見通しの悪い場所で、犬が何を手がかりに帰るのかは分かっていませんでした。獲物のにおいの跡をたどる猟犬は、獲物を追って何百mも走り、狩りを始めた場所へ戻るように育てられてきました。研究チームはここに目をつけました。

0227匹の猟犬にGPSとカメラをつけて、森に放した

研究の舞台はチェコです。中心になったのは、チェコ生命科学大学プラハのカテジナ・ベネディクトヴァー(Kateřina Benediktová)さんと、ヒネク・ブルダ(Hynek Burda)さんたちです。論文は2020年に、生物学の専門誌「イーライフ」に出ました。

調べたのは、10の犬種の猟犬27匹です。オスが10匹、メスが17匹でした。2014年9月から2017年12月まで、チェコの森の猟場62か所で、合わせて622回の実験をしました。

犬にはGPSの首輪をつけ、2.5秒か5秒ごとに位置を記録しました。実験の約3割では、体に固定したカメラで犬の頭と前の景色も撮りました。カメラを入れるケースは、磁気をおびないステンレスで作りました。

実験の手順はこうです。飼い主は犬を放して、指示を出さずに森を歩きます。犬が100m以上離れたら、飼い主はその場で止まり、10m以内の木や茂みの陰にかくれます。犬が戻ってくるまで、そこで待ちます。200mより短い探索は、分析から外しました。

03新しい道で帰る犬だけが、まず南北に走った

犬の帰り方は、大きく2つに分かれました。来た道をたどって帰る「追跡」が399回、来た道から30m以上離れた新しい道で帰る「探索」が223回です。研究チームは、探索で帰る場面に注目しました。

犬が飼い主の所へ引き返し始めた場所は、犬がいちばんゆっくり動いた所として決めました。そこから、走る向きが20度以上変わる所までを、帰り道の最初の一走りとしました。この一走りの向きを、磁石の北を基準に測りました。

森の中の小道で、胴にカメラを固定するベルトをつけた小型の猟犬が、立ち止まって顔を上げ、あたりを見回している。

結果、来た道をたどる犬では、最初の一走りの向きはばらばらでした。ところが新しい道で帰る犬では、最初の一走りがおよそ南北の向きにそろっていました。長さは平均18.1mでした。研究チームは、これを「コンパスラン」と呼びました。

研究チームは、飼い主がいる方角ごとにデータを4つに分けて確かめました。飼い主が犬から見て北・南・東・西のどこにいても、コンパスランは南北の向きでした。つまり犬は、飼い主の方へ走り出したのではありませんでした。

04南北に走った犬ほど、むだの少ない道で帰れた

次に、帰り道のむだの少なさを比べました。実際に走った帰り道の長さを、帰り始めた場所から飼い主までのまっすぐな距離で割った値です。この値が小さいほど、むだの少ない道すじです。

最初の一走りが南北だった犬は、東西だった犬より、この値がはっきり小さくなりました。南北に走ると、そのあと新しい道で帰ることも多くなりました。オスとメスの違いや、その森に来たことがあるかどうかでは、差はありませんでした。

研究チームは、ほかの手がかりも調べました。太陽の位置は、コンパスランの向きと関係がありませんでした。森は木が茂っていて、遠くまで見通せません。背の高い犬ほど遠くが見えるはずですが、背の高さは南北に走るかどうかに関係しませんでした。風が飼い主から犬の方へ吹いていたのは、探索で帰った場面のうち24回だけで、1割に足りませんでした。においだけで飼い主の方向が分かったとは考えにくいのです。

05磁気を使っているのかは、まだ確かめられていない

研究チームの考えはこうです。犬は地球の磁気で南北を確かめ、頭の中の地図の向きを合わせているのではないか。ただし、この研究は観察だけの研究です。磁場を変えて、犬の行動が変わるかを確かめる実験はしていません。

論文の審査をした研究者たちは、観察研究としてはよく行われていると評価しました。そのうえで、2つの点を問題にしました。1つは、コンパスランで頭の中の地図の向きを合わせる、という考えです。審査した研究者たちは、その証拠がないと指摘しました。研究チームはこれを認め、考察の段落の一部を削りました。ただ、論文の要旨には、この考えが提案として残っています。

もう1つは、帰り始める場所やコンパスランの決め方です。速さや曲がる角度の区切りを変えると結果がどう変わるか、分析してほしいと求められました。研究チームは説明を書き直しましたが、この分析は「この方法では意味のある結果にならない」として行いませんでした。来た道から30m、向きの変化20度という区切りも、研究チームが決めたものです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

犬と磁気の研究は、トイレの向きから始まった

同じブルダさんたちのチームは、2013年に犬と磁気についての論文を出しています。37犬種70匹の犬を2年間観察し、排せつのときの体の向きを7,000回以上記録しました。すると、地球の磁場が落ち着いているときには、犬は体を南北に向けて排せつすることが多いと分かりました。磁場が乱れているときは、この傾向が消えました。研究チームによると、昼間に磁場が落ち着いている時間は2割ほどしかありません。磁気の実験で結果がそろいにくいのは、そのためかもしれないと書いています。

なぜ南北なのか

研究チームは、においや目や太陽の手がかりを使うのなら、わざわざ南北に走る得は説明しにくいと書いています。一方、地球の磁場は、天気や時間、季節に関係なく、いつでもどこでも使える手がかりです。体を南北にそろえる行動は、犬だけでなく、さまざまな脊椎動物で野外でも実験室でも報告されています。地下にすみ、目が退化したネズミの仲間では、地球と同じ強さの磁場が巣に帰る行動に直接かかわることも分かっています。研究チームは、コンパスランも磁気に支えられており、見知らぬ場所で正確に帰るための助けになっているのだろうと考えています。

頭の中の地図と、歩いた道のり

動物は、自分がどの向きにどれだけ進んだかを積み重ねて、今いる場所を見積もることがあります。けれども森の中を獲物を追って走り回ると、その見積もりにずれがたまっていきます。研究チームは、コンパスランでいったん南北をはっきりさせることで、ずれを直しているのかもしれないと考えています。ただし審査では、頭の中の地図や道のりの積み重ねで説明する部分は、証拠がないと指摘されました。今の段階では、確かめられていない仮説の1つです。

この研究のよい点と限界

帰り方の分類や帰り始める場所を決める人と、走った向きを測る人を分け、おたがいの情報を知らせない方法をとりました。思いこみで結果がゆがむのを防ぐためです。飼い主が茂みにかくれたのも、最後に犬が飼い主の姿を見て帰るのを防ぐためです。犬が戻ってこなかった探索も16回(全体の2.4%)あり、GPSで犬を見つけたうえで分析から外しました。一方で、犬が磁気をどこで感じているのかは、この研究では調べていません。磁場を人工的に変えたときに、コンパスランの向きも変わるか。それが確かめられれば、磁気を使っているという考えはずっと強くなります。

06まとめ

チェコの森で、猟犬27匹の622回の探索を調べると、来た道と違う道で帰る犬は、まず南北の向きに平均18.1m走っていました。飼い主がどの方角にいても、向きは南北でした。南北に走った犬は、むだの少ない道すじで帰れました。

研究チームは、犬が地球の磁気で向きを合わせているのではないかと考えています。ただ、磁場を変える実験はまだしていません。散歩中に犬がふと立ち止まり、少し走ってから向きを決めることがあったら、その向きをスマートフォンの方位磁石で確かめてみてください。南北かどうかが分かります。

RESEARCH FILE

研究カルテ

チェコ

研究チーム
チェコのチェコ生命科学大学プラハなどのチーム(第一著者カテジナ・ベネディクトヴァー)
調べた場所
チェコの森の猟場62か所
調べた動物
10の犬種の猟犬27匹(オス10匹、メス17匹)
調べ方
GPSの首輪と頭を写すカメラをつけて森で自由に走らせ、622回の探索の帰り方を調べた
分かったこと
新しい道で帰る犬は、まず南北に約18m走った。そうするとむだの少ない道で帰れた
まだ分からないこと
犬が本当に地球の磁気を感じているのか。南北に走ると何がリセットされるのか
論文
eLife(2020年)
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英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Hunting Dogs Run North or South Before Going Home

Hunting dogs often run far into the forest after animals. But most of them come back to their owners. How do they find the way?

Scientists in the Czech Republic put GPS collars on 27 hunting dogs. They recorded 622 trips in the forest. Some dogs came back on the same path. Other dogs came back on a new path.

The dogs on a new path did something strange. First, they ran about 18 meters to the north or south. They did this even when the owner was in the east or west. Dogs that ran north or south found shorter ways home than dogs that ran east or west.

The scientists think the dogs may use the Earth's magnetic field. But they did not change the magnetic field in this study. So we still need more tests.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many dogs had GPS collars?何匹の犬がGPSの首輪をつけましたか。

Q2. Which way did the dogs run first on a new path?新しい道で戻る犬は、最初にどの向きに走りましたか。

Q3. What did the scientists not do in this study?この研究で、研究者たちがしなかったことは何ですか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Benediktová, K. et al. (2020) Magnetic alignment enhances homing efficiency of hunting dogs. eLife 論文確認済みdoi:10.7554/eLife.55080
  2. 2同論文の全文(PMC)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7297537/
  3. 3Hart, V. et al. (2013) Dogs are sensitive to small variations of the Earth's magnetic field. Frontiers in Zoology 論文確認済みdoi:10.1186/1742-9994-10-80

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい