ネコの舌のトゲは先がくぼんでいて、だ液を毛の根元まで運んでいた。ライオンなど6種で同じ

ネコの舌のトゲの先にはU字のくぼみがあり、だ液をためて毛の根元の皮ふまで運んでいた。イエネコからライオンまで6種で同じつくりだった。

No.100 9分で読めるえっ度 論文 2018年
しま模様のイエネコが座って、前足の毛をなめて毛づくろいしている。ピンク色の舌の表面には、のどの方を向いた小さなトゲがびっしり並んでいる。

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  1. ネコの舌のトゲの先には、U字のくぼみがあった
  2. くぼみにためただ液を、毛の根元の皮ふまで運んでいた
  3. 体重が30倍以上違っても、トゲの高さはあまり変わらなかった

人に話すなら

ネコの舌のザラザラって、一本一本のトゲの先がくぼんでるんだって。そこにだ液をためて、毛の根元まで届けてるらしいよ。ライオンの舌も同じつくりなんだって。

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読む前に予想しよう

ネコの舌のトゲは、中までぎっしりつまった円すいの形をしている

ネコになめられると、舌がザラザラしていて少し痛いくらいです。あのザラザラの正体は、舌の表面に何百本も並んだ小さなトゲです。トゲはどれも、のどの方を向いています。

アメリカの研究チームが、6種のネコの舌からトゲを1本ずつ取り出し、CTで調べました。すると、トゲの先にはU字形のくぼみがありました。ネコはそこにだ液をため、毛の根元の皮ふまで運んでいたのです。イエネコからライオンまで、6種のネコで同じつくりでした。

このトゲは、40年以上前の研究で「中までつまった円すい形」と考えられていました。その見方は、その後の研究でも疑われずに引きつがれました。

01飼いネコは、起きている時間の最大24%を毛づくろいにつかうことがある

ネコはとてもよく毛づくろいをします。研究チームが引用した資料では、飼いネコは起きている時間の最大24%を毛づくろいにあてることがあります。毛づくろいをすると、ノミや抜けた毛を取りのぞけます。体の熱を逃がすことにも役立ちます。

ネコの毛は、2つの層でできています。外側は、太くて丈夫な毛です。内側には、細くてやわらかい毛がびっしり生えています。内側の毛の本数は、外側の毛の24倍にもなることがあります。この内側の毛が、体を温かく保っています。

毛づくろいがむずかしいのは、この内側の層です。外から見えないうえに、毛がとても混み合っています。手入れをしないと、ごみがからまって毛玉になります。毛玉が皮ふを引っぱって痛み、ばい菌が入ることもあります。

では、ネコはどうやって内側の毛まで手入れしているのでしょうか。この問いに取り組んだのは、機械工学の研究室でした。

026種のネコの舌をCTで調べると、トゲの先にU字のくぼみがあった

研究したのは、アメリカのジョージア工科大学のアレクシス・ノエル(Alexis Noel)さんとデビッド・フー(David Hu)さんです。2人とも機械工学の学部に所属しています。フーさんは、生物学の学部にも所属しています。

まず、毛づくろいの様子を1秒に500コマのカメラで撮りました。撮影したのは、毛の短い飼いネコ3匹です。ネコは舌を出すとき、舌を横に広げてかたくします。すると、トゲが回転して立ち上がり、舌の面と直角になります。トゲは立った状態で毛の中をなでていきました。

次に、ネコ6種の舌を集めました。イエネコ、ボブキャット、ピューマ、ユキヒョウ、トラ、ライオンです。どの舌も、死んだあとに提供されたものです。

2人はトゲを1本ずつ取り出し、「マイクロCT」で調べました。マイクロCTは、小さな物の中まで立体的に写せるX線の装置です。すると、トゲには2つの空洞がありました。1つは根元にあり、舌にくっつくための穴でした。もう1つはトゲの先にある、U字形のくぼみでした。

トゲの高さにも、はっきりした特徴がありました。6種は体重が30倍以上も違います。それなのに、トゲの高さは平均約2.3mmで、ほとんど変わりませんでした。いちばん長いライオンでも2.7mmです。トゲのかたさは、人のつめとほぼ同じでした。

くぼみが本当にだ液をためるのかを、2人は色水で試しました。イエネコとトラのトゲの先を、食紅の水にそっとふれさせたのです。すると、水は0.1秒もたたずにくぼみへ吸いこまれました。細いすき間を水がのぼっていく「毛細管現象」です。いったん入った水は、トゲを逆さにしてもこぼれませんでした。ところが、毛にふれると水は毛の方へ移りました。

ネコの舌の表面を真横から大きく見た断面。のどの方を向いた小さなトゲが並び、トゲの先のくぼみに水色のだ液がたまっている。トゲの先が毛の間に入り、毛の根元の皮ふにふれている。

03トゲがなければ、だ液は毛の表面しかぬらせない

1本のトゲにたまるだ液は、ごくわずかです。イエネコでは1本あたり0.014μLでした。290本を合わせても、舌の上の水分の5%ほどにしかなりません。それなら、トゲのくぼみに大した意味はないのでしょうか。

2人はこれを確かめるため、「毛づくろい機械」を作りました。切り取ったネコの舌に色水をふくませ、その舌を機械で引っぱって、同じネコの毛皮の上を通します。速さは毎秒2cmから30cmまで変えました。なめる長さは、本物のネコと同じ6.3cmにしました。1回通すごとに舌の重さを量れば、毛に移った水の量が分かります。

本物のネコの速さで動かすと、舌は1回で、ふくんでいた水分の半分近くを毛に移しました。けれども、舌の表面の水がしみこむのは、毛の表面から0.54mmの深さまででした。つまり舌の面だけでは、毛の表面しかぬらせないのです。

トゲは違いました。毛を舌で押さえつけると、毛の層はうすくなります。2人の計算では、毛の短いアメリカンショートヘアの毛は、37mmから1.2mmまで縮みます。トゲの高さは約2.3mmです。トゲの先は毛の層をつきぬけ、皮ふまで届きます。1回なめるごとに、290本のトゲが、毛の根元にだ液の線を引いていくことになります。

だ液は、体を冷やすことにも役立ちます。ネコは、汗を出すしくみが足の裏にしかありません。2人がサーモグラフィーで見ると、だ液のついた毛では、皮ふと外側の毛のあいだで温度の差が最大17℃になりました。だ液が蒸発するときに、熱をうばうからです。

04舌をまねたブラシは、ふつうのブラシの半分以下の力で毛をとかせた

2人は、ネコの舌をまねたブラシも作りました。イエネコのトゲの立体データをもとに、4倍の大きさのトゲを3Dプリンターで作ります。それを、やわらかいシリコンの台に植えました。台がやわらかいので、本物の舌と同じように、曲がった面にもそってくれます。

このブラシと人用のヘアブラシで、人工の毛皮をくり返しとかしました。どちらも最初の3回は、毛のからまりに引っかかって、強い力がかかりました。4回くり返したあとは、ネコの舌ブラシは0.2N(ニュートン)の力でとかせるようになりました。人用のブラシの半分以下の力です。

ネコの舌ブラシには、もう一つ利点がありました。たまった毛を取るのが楽なのです。人用のブラシは、ピンセットなどの道具で毛を取る必要がありました。ネコの舌ブラシは、トゲの向きに沿ってひとなでするだけで、毛がひとかたまりで取れました。

2人は、このブラシの技術について特許の出願をしています。ネコの皮ふに薬や洗浄液を直接ぬる道具になるかもしれない、と論文に書いています。

05くぼみのほかの役目や、体を冷やす効果の大きさは、まだ確かではない

ここで、この研究で言えることと言えないことを分けておきます。

トゲの先にくぼみがあることは、6種の舌で確かめられました。ただし、調べた舌は1種につき1つです。高速カメラで撮った飼いネコも3匹だけでした。

だ液を毛に移す実験は、切り取った舌を機械で動かしたものです。生きたネコの舌は、もっとやわらかく動きます。本物の毛づくろいでどれだけのだ液が根元まで届くかは、まだ測られていません。

体を冷やす効果も、計算で出した値です。2人は、ネコが1日に約2.4時間毛づくろいをすると考えました。そして、トゲのくぼみが毎回だ液で満たされるとすると、体が逃がすべき熱の最大で約25%をまかなえる、と見積もりました。これは条件がそろったときの上限で、実際に測った値ではありません。

トゲの役目が、だ液を運ぶことだけとはかぎりません。論文でも、ほかの役目がありうると書いています。たとえば、食べ物をつかむことや、とがった先を肉に食いこませることです。毛づくろいのとき、皮ふを刺激している可能性もあります。

ライオンのトゲは、調べた中でいちばん長い2.7mmでした。ただ、この舌はメスのものでした。2人は、オスのライオンもトゲが長く、たてがみの手入れに役立っているかもしれない、と書いています。けれども、オスの舌はまだ調べられていません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:トゲは「中までつまった円すい」と思われていた

ネコの舌のトゲは、昔から顕微鏡で調べられてきました。ノエルさんたちによると、1982年の研究は、トゲを「中までつまった円すい形」だと結論づけました。この見方は、1990年代の研究でもそのまま引きつがれました。

ノエルさんたちは、トゲをまるごと取り出し、マイクロCTで立体的に写しました。そこに、くぼみに水を当てて動きを見るという、機械工学らしい実験を組み合わせました。形を見るだけでなく、その形が何をしているかを確かめたのです。

汗をかけない動物は、だ液で体を冷やす

ネコの汗を出すしくみは、足の裏にしかありません。そのため、毛づくろいが体温の調節に役立つのではないかと、昔から考えられてきました。論文で引用された資料では、ネコの体から蒸発する水分の最大3分の1が、毛についただ液によるものと見積もられています。

体をなめて冷やす動物は、ほかにもいます。ネズミは体をなめて体温を下げます。カンガルーのひじには皮ふのうすい部分があり、そこをなめて体を冷やします。乳牛の牧場では、牛に水をかけて暑さをやわらげ、牛乳の量を増やす方法が使われています。ネコの舌のトゲは、だ液を毛の根元の皮ふの近くまで届けます。皮ふの近くでだ液が蒸発すると、皮ふを直接冷やせる、と2人は書いています。

ほかの動物の舌と比べると

ノエルさんとフーさんは同じ2018年に、いろいろな動物の舌をくらべた論文も書いています。カエルの舌は人の舌の10倍やわらかく、勢いよく飛び出して、元の長さの130%まで届きます。カエルのだ液は人のだ液より175倍ねばり、毛や羽のある獲物にもくっつきます。マカロニペンギンの舌には、人のつめほどの大きさのトゲがあり、魚を飲みこむのを助けています。

この論文で紹介された舌の多くは、食べ物をとらえるための舌でした。ネコのトゲは、それに加えて、だ液を運ぶという別の仕事もしていました。一つの形が、いくつもの役目を受け持っていることになります。

この研究方法の強みと限界

この研究の強みは、6種の舌をそろえて同じ方法で比べたことです。体の大きさが30倍以上違うのに、トゲの高さはほぼ同じでした。2人はこれを、トゲが毛づくろいで大事な役目を持つしるしだと考えています。

限界もあります。毛の太さや長さは9種で自分たちで測りましたが、ほかの種のデータは文献から集めました。2人は、品種もふくめて20種類のネコで、毛の層の厚さとトゲの高さを比べました。そのうち14種類はトゲの実物がなく、6種の平均の2.3mmで計算しています。その計算では、ペルシャネコの2品種だけが、トゲが皮ふまで届かない側に入りました。ペルシャネコの飼い主は毎日ブラシをかけるよう勧められている、と論文は動物病院の案内を引用しています。ただし、測ったのは背中の毛です。顔や足の毛は短いので、もっと手入れしやすいと考えられます。

06まとめ

ネコの舌のザラザラは、何百本ものトゲでできています。トゲの先にはU字のくぼみがあり、だ液をためて毛の根元の皮ふまで運んでいました。イエネコからライオンまで6種で同じつくりで、トゲの高さはどれも約2.3mmでした。

このしくみは、汚れを落とすことと、体を冷やすことの両方に役立つと考えられています。ただし、体を冷やす効果の大きさは計算で出した値で、生きたネコではまだ測られていません。

次にネコになめられたら、ザラザラの一本一本の先に、小さなくぼみがあることを思い出してください。そのくぼみ1つにたまるだ液は、0.014μLです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

アメリカ・アトランタ(ジョージア工科大学)

研究チーム
アメリカのジョージア工科大学のチーム(アレクシス・ノエル、デビッド・フー)
調べた場所
アメリカ・アトランタの大学の実験室
調べた動物
イエネコ(学名 Felis catus)、ボブキャット、ピューマ、ユキヒョウ、トラ、ライオンの舌
調べ方
死後に提供された舌をCTで調べ、トゲに色水を当てた。切り取った舌を機械で毛に通し、毛に移る水の量を測った
分かったこと
トゲの先にU字のくぼみがあり、だ液をためて毛の根元まで運ぶ。トゲの高さは6種の平均で約2.3mmで、体の大きさによらずほぼ一定
まだ分からないこと
体を冷やす効果は計算で出した値。オスのライオンのたてがみの手入れに役立つかは未確認
論文
米国科学アカデミー紀要 PNAS(2018年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

A Cat's Tongue Carries Water to the Skin

A cat's tongue feels rough. It has hundreds of tiny spines on it. Two scientists in the United States studied these spines.

They looked at the tongues of six kinds of cats, from house cats to lions. The spines have small U-shaped holes at their tips. When they touched a spine to colored water, the water went into the hole very quickly.

Cats use these holes to carry spit deep into their fur. In most cats, the spines are long enough to reach the skin. The spit cleans the fur and helps the cat stay cool.

The scientists also made a brush with spines like a cat's tongue. It needed less than half the force of a normal hairbrush. It was also easy to clean. Next time a cat licks you, think about the tiny holes on its tongue.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many kinds of cats did the scientists study?研究者は何種のネコを調べましたか。

Q2. What is at the tip of each spine?それぞれのトゲの先には何がありますか。

Q3. What was good about the new brush?新しいブラシのよい点は何でしたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Noel, A. C. & Hu, D. L. (2018) Cats use hollow papillae to wick saliva into fur. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.1809544115
  2. 2PMC:上の論文の全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6298077/
  3. 3Noel, A. C. & Hu, D. L. (2018) The tongue as a gripper. Journal of Experimental Biology 論文確認済みdoi:10.1242/jeb.176289
  4. 4Reis, P. M. et al. (2010) How cats lap: water uptake by Felis catus. Science 論文確認済みdoi:10.1126/science.1195421

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい