イルカが並んで体をこするサンゴとカイメンに、菌をおさえる成分などが17種類入っていた

紅海のイルカが列を作って体をこするサンゴ2種とカイメン1種を調べると、菌をおさえる働きなどを持つ成分が17種類見つかった。

No.123 7分で読めるえっ度 論文 2023年
明るい紅海のサンゴ礁で、ミナミハンドウイルカが枝分かれしたやわらかいサンゴの間に体を差し入れ、おなかをこすりつけている。後ろでは別のイルカが順番を待っている。

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  1. 紅海のイルカは、決まったサンゴ2種とカイメン1種に体をこする
  2. こするときは、列を作って順番を待つこともある
  3. その3種には、菌をおさえる成分などが17種類含まれていた

人に話すなら

エジプトの紅海のイルカって、決まったサンゴに順番待ちして体をこすりつけるんだって。そのサンゴを調べたら、菌をおさえる成分とかが17種類も入ってたらしいよ。肌の手入れかもしれないんだって。

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読む前に予想しよう

紅海のイルカは、どんなサンゴにでも体をこすりつける

エジプトの紅海のサンゴ礁で、イルカたちが一列に並んでいました。先頭のイルカが、枝分かれしたやわらかいサンゴの間に体をすべりこませ、こすりつけます。終わると、次のイルカが同じサンゴに向かいます。

イルカがこすっていたのは、決まった3種類の生き物でした。2種類のサンゴと、1種類のカイメンです。ドイツやスイスなどの研究チームが、この3種類を少しだけ切り取って調べました。すると、菌をおさえる働きなどを持つ成分が、全部で17種類見つかったのです。

クジラやイルカのなかまが、体を物にこすりつけることは知られていました。でも、それが何のためなのかは分かっていませんでした。研究チームは、イルカが肌の病気を防ぐために、薬になる成分を持つ生き物を選んでいるのではないかと考えています。

01紅海のイルカを、2009年から潜って見てきた研究者がいた

紅海北部でこの行動に最初に気づいたのは、スイスのチューリッヒ大学の野生動物学者、アンジェラ・ツィルテナー(Angela Ziltener)さんです。ツィルテナーさんは2009年から、紅海北部のハルガダとエル・グーナの沖で、ミナミハンドウイルカを調べてきました。

イルカの研究は、ふつう船の上から行います。でも船からでは、水の中で何をしているのかはよく見えません。ツィルテナーさんのチームは、船からの観察に加えて、スキューバダイビングで潜ってイルカのそばで観察しました。この海には、約360頭のイルカがすみついています。

ツィルテナーさんは、イルカがどの生き物にでも体をこするわけではないことに気づきました。こするのは、ゴルゴニアンと呼ばれる枝分かれしたやわらかいサンゴと、ウミキノコの仲間の肉厚のサンゴ、そしてカイメンの3種類でした。

02サンゴには体をすべりこませ、カイメンには頭を押しつけた

イルカのこすり方は、相手によって違っていました。やわらかい枝のサンゴには、枝の間に体ごとすべりこみます。何度もくり返すので、体のいろいろな場所がこすれます。こすられたサンゴは、表面のポリプ(サンゴの体をつくる小さな粒)を閉じ、ねばねばした粘液を出します。この粘液がイルカの肌につくと、研究チームは考えています。

肉厚のサンゴやカイメンは、枝のサンゴよりかたいので、体の一部を強く押しつけます。おなか、わき腹、背中などです。カイメンには、頭を強く押しつけて、ひねるように回すこともありました。

イルカが群れでいるときは、列を作って順番を待つ姿がよく見られました。この順番待ちは、やわらかい枝のサンゴとカイメンで見られました。ウミキノコの仲間のサンゴでは見られませんでした。

ときには、もっと強く関わることもありました。イルカがウミキノコの仲間のサンゴを海底から引き抜き、数分間口にくわえて泳いだのです。サンゴをふり回すと、成分が水にもれ出て、頭やくちばしのまわりに広がりました。そこが黄色や緑っぽく色づくこともありました。

生まれて1年たたない子イルカは、群れのこする行動に加わりませんでした。そばで大人のする様子を見ていました。少し大きくなると、体の一部で、そっと短くサンゴにふれ始めました。研究チームは、この行動は生まれつきではなく、まわりから学ぶものだと考えています。

サンゴ礁の上で、3頭のイルカが一列に並び、先頭のイルカが茶色い枝のようなサンゴにわき腹をこすっている。少しはなれて、小さな子イルカがその様子を見ている。

033種類から、働きのある成分が17種類見つかった

2019年7月30日から8月1日にかけて、チームは2つのサンゴ礁に潜りました。イルカがこすっていた生き物だけを選び、3〜5センチほどの小さなかけらを切り取りました。取る量は、できるだけ少なくしました。

成分を調べたのは、ドイツのギーセン大学のゲルトルート・モルロック(Gertrud Morlock)さんのチームです。かけらから成分を取り出した液は、全部で48本できました。1本の量は0.2〜1.5ミリリットルしかありません。

モルロックさんたちは、この少ない液をうすい板の上で流し、成分を1つずつ分けました。そこに、細菌や酵母、酵素をかけて、どの成分がどんな働きをするかを10通りの方法で調べました。たとえば、光る細菌をかけると、細菌を弱らせる成分のところだけ、光が弱くなります。

その結果、3種類のどれからも、働きのある成分が見つかりました。合わせて17種類です。2種類の細菌の両方をおさえる成分がありました。体を傷める活性酸素などを消す働きを持つ成分もありました。性ホルモンに似た働きや、反対にそれをじゃまする働きを持つ成分もありました。

一部の成分は、すでに知られている物質と考えられました。カイメンからは、細菌をおさえることで知られる物質の候補が見つかりました。ウミキノコの仲間のサンゴからも、菌をおさえると報告されている物質の候補が見つかりました。ただし、どれも分子の重さなどから「おそらくこれ」と見当をつけた段階です。

04「薬として使っている」とは、まだ言い切れない

研究チームは、論文の題名で「自己治療の証拠」という言葉を使っています。ただ、論文や大学の発表をよく読むと、言い方は慎重です。成分がイルカの肌を健康に保つのに「役立つかもしれない」という書き方です。

まず、こすることで肌の病気が本当に防げるのかは、確かめていません。こすったイルカと、こすらなかったイルカの肌を比べたわけではないのです。

次に、この研究は、イルカがこすった3種類だけを調べました。イルカがこすらないサンゴやカイメンにも、同じような成分があるかは比べていません。研究チーム自身も、こうした成分は、動けないサンゴやカイメンが自分の身を守るために作っているものとも考えられる、と書いています。論文の最初では、似たサンゴの仲間がこうした成分を作ることも紹介しています。

そして、見つかった成分がよいものばかりではありません。17種類の中には、弱いながら遺伝子を傷つける働きを示した成分もありました。また、まだ正体が分かっていない成分もあります。正体を調べるには、もっとたくさんのサンゴを取る必要があります。

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もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

動物の「自己治療」という考え

動物が、病気を防いだり治したりするために、薬になる物を自分で使う行動を「自己治療」と呼びます。陸の動物では、チンパンジーなどのサルのなかまで研究が進んでいます。研究チームによると、クジラやイルカのなかまで自己治療が報告されたことは、これまでありませんでした。

その理由の1つは、海の中の行動を見るのが難しいことです。クジラやイルカの研究の多くは、船の上からの観察です。水の中で何をしているかを長く見続けられることは、めったにありません。紅海のイルカの研究は、潜って近くで見続けたからこそ、こする相手の違いに気づけました。

なぜ、こすることが得になるのか

イルカは、ウイルスや細菌による肌の病気にかかることがあります。研究チームは、サンゴの粘液やカイメンの成分が、肌の状態を保ったり、細菌による病気を防いだりするのに役立つのかもしれないと考えています。こすって肌が少しすれると、成分がしみこみやすくなる可能性もあると書いています。

もしこの考えが正しければ、決まった生き物を選ぶことには意味があります。また、子イルカが大人を見て覚えるとすれば、どのサンゴがよいかという知識が、群れの中で受けつがれていることになります。ただし、どちらもまだ仮説の段階です。

ほかのクジラのなかまも、体をこする

体をこする行動は、ほかのクジラのなかまにも見られます。シャチやシロイルカでも、海底の小石などに体をこすりつける行動が報告されています。

2023年には、オーストラリアのグリフィス大学などのチームが、ザトウクジラの例を報告しました。3頭のザトウクジラに、カメラつきの記録装置を吸盤でつけたのです。すると、クジラが砂の海底で体を長い時間ころがしていることが分かりました。そのとき、魚がクジラの肌をつついて食べていました。チームは、肌についた寄生虫などを落としている可能性を考えています。こすることが肌の手入れになっているという考えは、イルカだけのものではありません。

サンゴ礁を守ることが、イルカを守ることになる

イルカがこすっていたサンゴ礁は、イルカが休んだり、仲間と過ごしたりする大事な場所でもあります。この海の一部は「海の哺乳類にとって大事な海域」に選ばれました。一方でツィルテナーさんは、イルカと泳ぎたい観光客の船が、イルカのじゃまをすることを心配しています。

05まとめ

エジプトの紅海のイルカは、決まったサンゴ2種とカイメン1種に、列を作って体をこすりつけます。その3種を調べると、菌をおさえる働きなどを持つ成分が17種類見つかりました。研究チームは、イルカが肌の手入れや病気の予防のために、この3種を選んでいるのかもしれないと考えています。

ただし、こすることで本当に肌の病気が防げるのかは、まだ確かめられていません。生まれて1年たたない子イルカは、こすらずに、まず大人のする様子をそばで見ているそうです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

エジプト・紅海

研究チーム
ドイツのギーセン大学、スイスのチューリッヒ大学などのチーム(第一著者ゲルトルート・モルロック)
調べた場所
エジプトの紅海北部、ハルガダとエル・グーナの沖のサンゴ礁
調べた動物
野生のミナミハンドウイルカ(学名 Tursiops aduncus)
調べ方
潜ってこする行動を記録し、イルカがこすった3種の生き物を少し切り取って、成分の働きを10通りの方法で調べた
分かったこと
3種から、菌をおさえる、ホルモンに似た働きをするなどの成分が17種類見つかった
まだ分からないこと
こすることで本当に肌の病気が防げるのかは、確かめていない
論文
iScience(2022年)
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英語で読んでみよう

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Dolphins Wait in Line to Rub on Coral

In the Red Sea near Egypt, dolphins do something strange. They rub their bodies on corals and sponges. Sometimes they even wait in line for their turn.

A scientist watched these dolphins under the water for many years. She found that they use only three kinds of sea animals. These are two kinds of coral and one kind of sponge. Young calves first watch the adults before they try it.

Scientists took small pieces of the three and tested them. They found 17 active substances. Some of them can stop bacteria. In tests, others acted like hormones. Some may even harm genes.

The scientists think the dolphins may use them to keep their skin healthy. But this study did not check if rubbing really stops skin problems. We still need more studies under the sea.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where do these dolphins live?このイルカたちはどこにすんでいますか。

Q2. How many active substances did the scientists find?研究者は働きのある成分をいくつ見つけましたか。

Q3. What do young calves do first?小さな子イルカは、まず何をしますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Morlock, G. E., Ziltener, A. et al. (2022) Evidence that Indo-Pacific bottlenose dolphins self-medicate with invertebrates in coral reefs. iScience 論文確認済みdoi:10.1016/j.isci.2022.104271
  2. 2University of Zurich(2022)Dolphins Self-Medicate Skin Ailments at Coral "Clinics"news.uzh.ch/en/articles/media/2022/Dolphins-Coral.html
  3. 3Justus-Liebig-Universität Gießen(2022)Delfine nutzen Korallen zur Selbstbehandlung von Hautproblemenuni-giessen.de/ueber-uns/pressestelle/pm/pm74-22DelfineundKo
  4. 4Meynecke, J.-O., Gustafon, J. & Cade, D. E. (2023) Exfoliating Whales–Sandy Bottom Contact Behaviour of Humpback Whales. Journal of Marine Science and Engineering 論文確認済みdoi:10.3390/jmse11030600

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい