マンドリルは寄生虫の多い仲間の毛づくろいを避けていた。うんちのにおいで見分けているらしい
寄生虫の多いマンドリルは、仲間から毛づくろいされにくかった。寄生虫の薬を使うと、多くは毛づくろいがもどった。うんちのにおいも、寄生虫の数で変わっていた。

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- 寄生虫の多いマンドリルは、仲間から毛づくろいされる時間が短かった
- 寄生虫の薬を使うと、毛づくろいされる時間が増えることが多かった
- 寄生虫の多い仲間のうんちのにおいからは、離れている時間が長かった
人に話すなら
マンドリルっていうサルは、おなかに寄生虫が多い仲間の毛づくろいを避けるんだって。うんちのにおいで見分けているらしくて、寄生虫の薬を使うと、また毛づくろいしてもらえることが多かったんだよ。
読む前に予想しよう
マンドリルは、寄生虫の多い仲間のお尻のまわりの毛づくろいを避けている
寄生虫の種類が多い個体ほど、お尻のまわりの毛づくろいを受ける回数が少なかった。
サルの仲間は、毛づくろいで仲よくなります。相手の毛をかき分けて、ごみや虫を取ってあげます。体と体がふれあう、大切な時間です。けれども、相手が病気を持っていたらどうでしょう。毛づくろいは、病気をうつされる危ない時間にもなります。
フランスなどの研究チームは、アフリカのガボンでマンドリルというサルを調べました。おなかの寄生虫が多いマンドリルは、仲間から毛づくろいされる時間が短くなっていました。寄生虫の薬を使うと、16例のうち12例で、毛づくろいされる時間が増えました。
群れでくらす動物は、病気がうつりやすいという弱みをかかえています。体の中の免疫のほかに、行動で病気を防ぐ方法はあるのか。この研究は、そのしくみの1つを、野生に近い群れで実験によって確かめました。
01マンドリルの毛づくろいは、寄生虫がうつる道にもなる
マンドリルは、アフリカ中部の、しめった深い森にすむサルです。ガボン南部のレケディ公園には、人に慣れた群れが1つあります。2017年の別の論文は、これを人に慣れた放し飼いのマンドリルの群れとして唯一のもの、と紹介しています。
この群れの始まりは、2002年です。飼育されていた36頭が、公園の森に放されました。その後、野生のオスが群れに加わり、子どもが生まれていきました。えさを与えるのは2012年4月に完全にやめています。研究が始まった2012年には、群れの8割以上が野生で生まれた個体になっていました。数は120〜130頭ほどです。
研究チームが注目したのは、おなかの中にすむ「原虫」です。
この群れでは、7種類の原虫が知られています。中には、人や他のサルに、命にかかわる下痢を起こすことのある種類もふくまれています。研究チームはまず、麻酔をかけた36頭の体の表面を、ガーゼでぬぐって調べました。寄生虫を持つ個体の毛には、うつる力を持つ形の原虫が、持たない個体より多くついている傾向がありました。お尻のまわりは、体のほかの場所よりさらに多くついていました。つまり、寄生虫の多い仲間を毛づくろいすると、自分にうつる危険が高まるのです。
02寄生虫の多い仲間は、毛づくろいされにくかった
研究チームは、2012年10月から2015年4月までの2年半、25頭のマンドリルを観察しました。1頭を5分ずつ見て、毛づくろいをした時間とされた時間を記録しました。観察する人は、どの個体に寄生虫が多いのかを知らされていませんでした。同じ時期にうんちを集め、中にいる原虫の種類の数を月ごとに調べました。1頭につき月に3個以上のうんちが集まった月だけを、分析に使いました。
結果、原虫の種類が多い個体ほど、仲間から毛づくろいされる時間が短くなっていました。ところが、自分が仲間を毛づくろいする時間は、寄生虫の数と関係がありませんでした。13頭には、近くにいる相手を記録する首輪を1年間つけました。こちらも、寄生虫が多い個体が群れの中で避けられている様子はありませんでした。病気の個体が自分から離れたわけでも、群れから追い出されたわけでもなさそうです。仲間が「毛づくろいする相手」を選んでいたのです。
マンドリルは、毛づくろいの時間のうち平均9.2%を、相手のお尻のまわりに使います。寄生虫の種類が多い個体ほど、このお尻のまわりの毛づくろいを受ける回数が少なくなっていました。
03寄生虫の薬を使うと、毛づくろいがもどってきた
観察だけでは、たまたま関係があるように見えただけかもしれません。そこで研究チームは、寄生虫の薬を使う実験をしました。2014年1月から2015年8月に、大人15頭に、合わせて16回、原虫に効く薬を与えました。3回はバナナに薬を入れて食べさせ、13回はつかまえたときに点滴で入れました。
そして、薬を使う前の3週間と、使った後の3週間を比べました。16例のうち12例で、毛づくろいされる頻度が増えていました。一方、自分が毛づくろいする頻度は、はっきりとは変わりませんでした。比べる相手として、つかまえたけれど薬は使わなかった9頭も調べました。この9頭では、毛づくろいされる頻度も、する頻度も、はっきりした変化はありませんでした。
04寄生虫が多いと、うんちのにおいが変わっていた
では、マンドリルはどうやって仲間の寄生虫に気づくのでしょうか。マンドリルは、においを手がかりに行動することが多いサルです。仲間のお尻のまわりのにおいを、近くでかぐこともよくあります。研究チームは、うんちのにおいに答えがあると考えました。
まず、30頭から集めた59個のうんちから出る、においの成分を分析しました。見つかった成分は150種類をこえました。原虫の種類の数が近いうんちどうしは、においの成分も似ていました。特に3種類の原虫は、それぞれ、においの成分の組み合わせを変えていました。
05においの実験では、寄生虫の多いうんちから離れていた
最後に、においを選ばせる実験をしました。場所は、ガボンのフランスビルにある医学研究所です。ここでは約200頭のマンドリルが、森をまるごと囲った広い場所でくらしています。2014年9月、このうちの16頭で、合わせて30回の実験をしました。
囲いの金網ぞいに、長さ30センチの竹を3本、2メートルずつ間をあけて立てます。両はしの竹には、同じ1頭のマンドリルからとったうんちを1つずつぬります。片方は原虫が3種類以上いたうんち、もう片方は0〜2種類のうんちです。真ん中の竹には、比べるために草をこすりつけました。マンドリルを1頭ずつ入れて、10分間ようすを見ます。記録する人は、どちらのうんちに寄生虫が多いのかを知らされていませんでした。

30回のうち19回で、マンドリルは寄生虫の少ないうんちのそばに長くいました。寄生虫の多いうんちのそばに長くいたのは9回、同じだったのが2回です。マンドリルは、うんちのにおいで寄生虫の多さをかぎ分けていると考えられます。研究チームは、においは毛づくろいの相手選びにかかわる「考えられるしくみの1つ」だと書いています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
毛づくろいを避けるのは、得なのか損なのか
毛づくろいには、仲間とのきずなを強め、群れの中の争いをやわらげる働きがあります。する側にも、される側にも得があります。だから、病気の仲間を避けることには損もあります。論文は、この「やめる損」より「うつる損」が大きいときにだけ、避ける行動が進化すると考えています。この群れで見つかった原虫には、人やサルにとって命にかかわる病気を起こしうるものがふくまれます。マンドリルではっきりした症状は出ていなくても、少しずつ体の力をうばう可能性があります。
病気の仲間を避ける動物は、ほかにもいる
論文によると、病気の仲間を避ける行動は、それまでに2つの例しか報告されていませんでした。1つは、命にかかわるウイルスに感染した仲間と巣穴を共有しない、群れでくらすイセエビの仲間です。もう1つは、寄生虫を持つ仲間と一緒に泳がないウシガエルのオタマジャクシです。体の中の免疫に対して、行動で病気を防ぐことは「行動免疫」とも呼ばれます。マンドリルは、長生きする動物でこの行動が確かめられた例になりました。
同じ群れの次の研究:母から娘へ受けつがれる「きれい好き」
同じチームは2023年、6年分の記録で、メスの毛づくろいをくわしく調べました。群れ全体で原虫の種類が多い時期ほど、お尻のまわりを毛づくろいする割合が下がっていました。原虫が少ないときは約28%、多いときは約14%です。
ただし、すべてのメスが同じではありませんでした。毎年お尻のまわりを避けるメスもいれば、避けないメスもいました。避けるメスほど、自分の寄生虫は少なくなっていました。そして、母と娘はよく似た傾向を示しました。父親だけが同じ姉妹や、血のつながらないメスどうしでは似ていませんでした。研究チームはこのことから、この行動が、母親のそばで育つうちに学ぶ形で伝わっている可能性がある、と考えています。
この研究の弱いところ
いちばん大きな弱点は、薬の後に寄生虫が本当に減ったかを測れていないことです。研究チームは、薬の後にうんちを決まって集めることができませんでした。使った薬は原虫をなくすために広く使われるものなので、寄生虫は減ったと考えた、と論文は書いています。また、においの実験をしたのは、毛づくろいを観察した群れとは別の、森の囲いでくらす群れでした。「においで見分けて、毛づくろいを避ける」という流れを、同じ個体で通して確かめたわけではありません。
06まとめ
ガボンのマンドリルでは、おなかの寄生虫が多い個体ほど、仲間から毛づくろいされにくくなっていました。特に、寄生虫がつきやすいお尻のまわりの毛づくろいが減っていました。寄生虫の薬を使うと、16例のうち12例で毛づくろいされる頻度が増えました。
寄生虫が多いと、うんちのにおいの成分が変わっていました。においの実験では、30回のうち19回で、寄生虫の少ないうんちのそばに長くいました。においで仲間の「おなかの具合」をかぎ分け、うつる危険を下げているのかもしれません。動物園でマンドリルを見かけたら、仲間のどこを毛づくろいしているか、じっくり見てみてください。
研究カルテ
ガボン南部
- 研究チーム
- フランス国立科学研究センター(CNRS)などのチーム(第一著者クレマンス・ポワロット)
- 調べた場所
- ガボン南部のレケディ公園と、フランスビルの医学研究所の森の囲い
- 調べた動物
- 放し飼いの群れのマンドリル(学名 Mandrillus sphinx)。行動を見たのは25頭
- 調べ方
- 2年半の行動観察、寄生虫の薬を使う実験、うんちのにおいの分析、においを選ばせる実験
- 分かったこと
- 寄生虫の多い個体は毛づくろいされにくく、薬を使うとされることが増えた。うんちのにおいも変わっていた
- まだ分からないこと
- 薬で寄生虫が本当に減ったかは測れていない。においが毛づくろいを決めているかも直接は未確認
- 論文
- Science Advances(2017年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Mandrills are monkeys that live in the forests of central Africa. Like many monkeys, they clean each other's fur. But touching a friend with parasites can be dangerous.
Scientists watched a group of mandrills in Gabon for two and a half years. Some mandrills had many kinds of small parasites inside their bodies. Other mandrills did not clean them very much. After these mandrills got medicine, most of them got more cleaning.
The scientists also tested smell. They put poop from one mandrill on two sticks. One poop had many kinds of parasites, and the other had few. In 19 of 30 tests, the mandrills stayed longer near the poop with few parasites.
The scientists think that parasites change the smell of poop. Mandrills may use their noses to stay away from parasites. But we still do not know if smell is the only reason.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where do mandrills live?マンドリルはどこにすんでいますか。
マンドリルはアフリカ中部の森にすむサルです。
Q2. What happened after the mandrills with parasites got medicine?寄生虫を持つマンドリルが薬をもらった後、どうなりましたか。
薬を使った16例のうち12例で、毛づくろいされる頻度が増えました。
Q3. In how many tests did mandrills stay longer near the poop with few parasites?マンドリルが寄生虫の少ないうんちのそばに長くいたのは、何回の実験でしたか。
30回のうち19回でした。寄生虫の多いうんちのそばに長くいたのは9回でした。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Poirotte, C. et al. (2017) Mandrills use olfaction to socially avoid parasitized conspecifics. Science Advances 論文確認済みdoi:10.1126/sciadv.1601721
- 2Poirotte, C. & Charpentier, M. J. E. (2023) Mother-to-daughter transmission of hygienic anti-parasite behaviour in mandrills. Proceedings of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rspb.2022.2349
- 3Nsi Akoué, G. et al. (2017) Seasonal and individual predictors of diet in a free-ranging population of mandrills. Ethology 論文確認済みdoi:10.1111/eth.12633
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





