犬は自分の体が「じゃま」だと分かるらしい。おもちゃを渡すため32匹中27匹がマットを降りた
乗っているマットにつながったおもちゃを渡すよう頼まれると、犬の多くはマットを降りた。自分の体がじゃまになっていると分かっているらしい。

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- マットにつながったおもちゃを頼むと、32匹中27匹がマットを降りた
- おもちゃが地面に固定されたときは、降りたのは14匹だった
- 犬は鏡のテストに受からないが、体の感覚はあるらしい
人に話すなら
犬が乗ってるマットにおもちゃをつないで「ちょうだい」って言うと、多くの犬はマットから降りてから渡そうとしたんだって。自分の体がじゃましてるって分かってるらしいよ。
読む前に予想しよう
鏡のテストに受からない犬は、自分の体についての感覚もまったく持っていない
体がじゃまになる課題では、犬はマットを降りて解決しようとした。
動物が「自分」を分かっているかを調べる方法として、よく知られているのが鏡のテストです。体に印をつけて鏡を見せ、鏡に映った姿を見て、自分の体の印に気づくかを調べます。犬は、このテストに受かりません。では、犬には「自分」の感覚がないのでしょうか。
ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のチームは2021年、別の方法で犬を調べました。犬が乗っているマットにおもちゃをつなぎ、飼い主に渡すよう頼むのです。おもちゃを持ち上げるには、マットから降りるしかありません。1回目のテストで、32匹中27匹の犬がマットを降りました。おもちゃを地面に固定したときに降りたのは、14匹でした。
自分の体がじゃまになっていると気づくには、自分の体を、まわりの物と同じ「1つの物」としてとらえる必要があります。チームは、この結果を、鏡のテストに受からない動物で体の感覚を示した初めての確かな証拠だとしています。
01鏡のテストだけでは、動物の「自分」は分からない
鏡のテストは、動物が鏡に映った姿を自分だと分かるかを調べる方法です。長いあいだ、動物の「自分」の研究の中心でした。けれど、このテストには批判もあります。目で見ることにたよったテストなので、目よりも鼻をよく使う動物には向かないかもしれないのです。犬には、目で見るものより、においや音のほうが大事かもしれないと論文は書いています。
そこで注目されたのが、「体がじゃまになる」課題です。もとは、心理学者ピアジェの観察にもとづく、人の幼児のテストです。幼児に、自分が座っている毛布を取って渡してもらいます。毛布を渡すには、毛布から降りなければなりません。生後18〜24か月より小さな子は、毛布から降りず、やがてあきらめてしまいました。
人の子どもでは、この課題に成功するようになる時期と、鏡のテストに受かる時期が重なります。どちらも、自分の体と周りとの関係を、頭の中で表す力にもとづくと考えられています。
02ゾウの実験に足りなかった「もう1つの条件」
2017年、この課題は初めて人以外の動物で試されました。アジアゾウです。犬の研究チームによると、それまで人以外で試されたのは、この1度だけでした。ゾウは、マットにつながった棒を拾い、前にいる人に渡すよう求められました。ゾウは、マットから降りる必要がある条件で、ほかの条件よりもよくマットを降りました。
ただし、このゾウの実験には足りない条件がありました。物を地面に固定する条件です。ゾウは力が強すぎて、動かせない重い物を用意できなかったのです。
この条件がないと、別の説明が残ります。「体がじゃまだから降りた」のではなく、「何かに引っかかって持ち上がらないから、とりあえず動いた」だけかもしれません。この2つを見分けるには、体ではなく地面に固定された物と比べる必要があります。
0354匹の犬に、4つの条件でおもちゃを渡してもらった
第一著者のリタ・レンケイ(Rita Lenkei)さんたちは、大人の飼い犬54匹を調べました。1〜11歳で、平均5.6歳です。どの犬も、知らない物を拾って飼い主の手に渡すことができる犬です。SNSで呼びかけたり、服従訓練の競技会で声をかけたりして集めました。飼い主には、実験の目的をテストのあとで伝えました。飼い主が犬にうっかり合図を送らないようにするためです。
テストは屋外の芝生で行いました。犬は、70×95センチのマットの真ん中に座ります。飼い主は、マットの前に立ちます。そして、いつものやり方で、物を渡すように犬に言います。条件は次の4つです。
- つないでいない:ふつうに置いた物を渡す。物を渡せるかの確認
- 足もとがゆれる:物はなし。実験者がロープでマットを6回引っぱる
- 地面に固定:ロープの玉を、マットの外の地面のフックにつなぐ
- マットに固定(本番):ロープのおもちゃを、マットのはしにつなぐ
3と4は、見た目では、おもちゃがマットにつながっているのか地面につながっているのか分からないようにしました。それぞれ4回ずつ行い、1回は最長30秒です。
2の条件には大事な意味がありました。本番では、犬がおもちゃを引くと、マットのはしがめくれ、足の下でマットが動きます。犬がその感じにおどろいて降りただけかもしれません。2の条件で、その可能性を確かめたのです。
途中で外れた犬もいました。物を渡せなかった犬が5匹、マットが動くとすぐ降りてしまう犬が5匹いました。さらに、地面に固定したおもちゃを、力ずくで地面から引き抜いてしまった犬が6匹いました。ほかの理由も合わせて、最後まで調べられたのは32匹でした。

04マットにつながったおもちゃなら、犬はマットを降りた
1と2の条件では、マットを降りた犬は、どちらも49匹中5匹だけでした。物を渡すだけなら、犬はマットの上で用を済ませます。マットを引っぱられても、ほとんどの犬は降りませんでした。
本番と「地面に固定」を比べると、違いがはっきり出ました。1回目のテストで、本番では32匹中27匹がマットを降りました。地面に固定したときは、32匹中14匹でした。どの犬も、すべての回で、少なくとも1度はおもちゃを持ち上げようとしていました。
本番では、犬はより早くマットを降りました。そして、おもちゃをくわえたまま降りることが多くありました。降りたあとは、多くの場合、マットごとおもちゃを飼い主に渡そうとしました。113回中77回です。
一方、地面に固定したときは、おもちゃをくわえたまま降りることが、本番よりずっと少なくなりました。チームは、この犬たちは課題をあきらめてマットを離れたのだと考えています。
05犬の「体の感覚」と「自分」の関係は、まだはっきりしない
この結果は、犬が「自分」を分かっているという意味でしょうか。そこまでは言えません。
まず、この実験で分かるのは、犬が自分の体を「じゃまな物」としてとらえられることです。鏡のテストで調べる「見た目の自分」が分かるかどうかとは、別の問題です。論文自身も、2つの関係を明らかにするにはさらに研究が必要だと書いています。
次に、類人猿の研究があります。2025年、オーストリアのウィーン大学などのチームが、チンパンジーとゴリラで、鏡のテストと「体がじゃまになる」課題の両方を行いました。鏡のテストで自分を見分けたのは、一部のチンパンジーだけでした。一方、体の課題では、チンパンジーもゴリラも同じくらいよくできました。そして、1頭ずつ見ると、2つの課題の成績にはつながりがありませんでした。2つの課題は、別々の力を調べているのかもしれません。
また、犬の実験には限界もあります。調べたのは、物を拾って渡す訓練ができている犬だけです。マットが動くと降りてしまう犬は外しました。こうした選び方は、別の説明をへらすための工夫です。ただ、すべての犬に同じことが言えるかは分かりません。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
自分の体を知る力は、なぜ進化したのか
論文は、体の感覚は、自分の体の大きさが問題になる場面で役に立つと書いています。せまいすき間を通れるか。自分の体が、何かのじゃまになっていないか。体を動かして暮らす動物にとって、日々出会う問題です。
犬はもともと群れで暮らす肉食の動物で、今は人の暮らしの中で生きています。チームは、こうした犬の暮らし方から、犬には自分を表すさまざまな力があるはずだと考えました。においで自分を見分ける研究や、自分の体の大きさを分かっているという研究も、すでにありました。
続きの研究:体の大きさで、通る道を選ぶ
2023年、同じ大学のチームは、飼い犬68匹で別の実験をしました。透明なフェンスの向こうにおやつを置きます。犬は、フェンスを回りこむ7メートルの道か、フェンスのドアを通る2メートルの近道を選べます。
ドアが小さいと、犬はドアの大きさを見て、回り道を選びました。ドアが大きいと、ためらわず近道を通りました。犬は、長い時間をかけて試して失敗しながら覚えたのではありません。自分の体の大きさをもとに、道を選んでいたと考えられています。
研究の歴史:幼児、ゾウ、犬、そして鳥へ
「体がじゃまになる」課題は、人の幼児のテストとして始まりました。2017年にアジアゾウで、2021年に犬で試されました。そして2026年には、オーストリアのウィーン大学などのチームが、オウムの仲間のシロビタイムジオウム15羽で試しました。
鳥たちは、マットにつながった物を人に渡す課題で、ほぼ毎回マットを降りました。本番でマットを降りた割合は97.8%です。物をつないでいないときに降りたのは0.7%、地面に固定したときは39.1%でした。鳥でも、犬と同じ形の結果が出たのです。
方法の工夫と限界
この研究の一番の工夫は、「地面に固定」の条件を入れたことです。おもちゃが持ち上がらないという点は、本番と同じです。違うのは、じゃまをしているのが自分の体かどうかだけです。
ただし、地面に固定したおもちゃは、引っぱると5センチほど動きました。マットにつないだおもちゃとは、動く幅が違います。この違いが結果に影響した可能性もあります。チームは、おもちゃの動きに関係しない「後ろ足だけを降ろすまでの時間」も調べ、本番のほうが早いことを確かめました。ただ、1回目のテストだけで比べると、後ろ足の時間には差が見られませんでした。
06まとめ
乗っているマットにつながったおもちゃを飼い主に渡すよう頼むと、1回目のテストで犬32匹中27匹がマットを降りました。地面に固定したおもちゃのときに降りたのは14匹でした。犬は、自分の体がじゃまになっていると分かっているらしいのです。
ただし、この体の感覚と、鏡のテストで調べる「自分」の感覚との関係は、まだ分かっていません。
本番でマットを降りたあと、113回中77回、犬はマットがついたままのおもちゃを飼い主に渡そうとしていました。
研究カルテ
ハンガリー(エトヴェシュ・ロラーンド大学)
- 研究チーム
- ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学のチーム(第一著者リタ・レンケイ)
- 調べた場所
- ハンガリーの屋外の芝生の上
- 調べた動物
- 物を渡すことができる大人の飼い犬54匹(最後まで調べたのは32匹)
- 調べ方
- 乗っているマットか地面につないだおもちゃを、飼い主に渡すよう頼んだ
- 分かったこと
- 1回目、マットにつないだときは32匹中27匹、地面のときは14匹がマットを降りた
- まだ分からないこと
- 鏡のテストで調べる「自分」と、この体の感覚がどうつながっているか
- 論文
- Scientific Reports(2021年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
Dogs do not pass the mirror test. So do dogs have any sense of their own body?
Scientists in Hungary tried a new test with pet dogs. A dog sat on a small mat. The owner asked the dog for a toy. But the toy was tied to the mat. To lift the toy, the dog had to get off the mat.
In the first try, 27 of 32 dogs got off the mat. When the toy was tied to the ground, only 14 dogs got off. After that, the dogs often tried to give the toy and the mat to the owner.
The scientists think dogs understand that their body is in the way. Elephants and a kind of parrot also passed this kind of test. We still do not know how this test is linked to the mirror test.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where was the toy tied in the main test?本番のテストで、おもちゃはどこにつながれていましたか。
おもちゃは、犬が乗っているマットにつながれていました。
Q2. How many dogs got off the mat in the first main test?1回目の本番のテストで、マットから降りた犬は何匹でしたか。
1回目の本番では、32匹中27匹がマットから降りました。地面につないだときは14匹でした。
Q3. Which test do dogs NOT pass?犬が受からないテストはどれですか。
犬は鏡のテストには受かりませんが、マットのテストでは体がじゃまだと分かっているような行動をしました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Lenkei, R. et al. (2021) Dogs (Canis familiaris) recognize their own body as a physical obstacle. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-021-82309-x
- 2Dale, R. & Plotnik, J. M. (2017) Elephants know when their bodies are obstacles to success in a novel transfer task. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/srep46309
- 3Pongrácz, P. et al. (2023) Body size awareness matters when dogs decide whether to detour an obstacle or opt for a shortcut. Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-023-45241-w
- 4Vanhooland, L.-C. et al. (2025) Comparing the Performances of Chimpanzees (Pan troglodytes) and Gorillas (Gorilla gorilla gorilla) in Two Self-Awareness Tasks. American Journal of Primatology 論文確認済みdoi:10.1002/ajp.70010
- 5Hundegger, P. et al. (2026) Body awareness in Goffin's cockatoos (Cacatua goffiniana). Scientific Reports 論文確認済みdoi:10.1038/s41598-026-57500-7
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





