大型のスズメバチが巣に来ると、ミツバチは悲鳴に似た新しい音を1分に約20回出していた

ベトナムのミツバチの巣にマイクを入れると、大型のスズメバチが来たとき、巣の中の合図が普段の7倍に増え、悲鳴に似た新しい音が鳴り続けた。

No.174 8分で読めるえっ度 論文 2021年
木の巣箱の小さな入り口の前に、頭がだいだい色で、黒っぽい体に黄色いしまのある大きなスズメバチが1匹とまっている。入り口のまわりでは、たくさんのミツバチがおしりを上に持ち上げ、羽を広げてふるわせている。

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  1. 大型スズメバチが来ると、巣の中の合図は普段の7倍に増えた
  2. 働きバチは、悲鳴に似た新しい音を出していた
  3. この音が仲間に何を伝えているかは、まだ確かめられていない

人に話すなら

ミツバチの巣の中にマイクを入れたら、大きいスズメバチが来たとたん、巣の中が音だらけになったんだって。しかも、サルや鳥の悲鳴とよく似た、今まで知られてなかった音を出してたらしいよ。

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読む前に予想しよう

ミツバチの巣の中は、敵がいないときはまったく音がしない

ミツバチの巣の中に、マイクを差しこんでみます。何もないときでも、巣の中ではいろいろな音の合図が飛びかっています。ところが、大きなスズメバチが巣の前に現れると、音は一気に増えます。そして、それまで聞こえなかった種類の音が鳴り始めます。

アメリカのウェルズリー大学などのチームは、ベトナムでトウヨウミツバチの巣の音を録音しました。オオスズメバチにごく近い大型のスズメバチが襲ってきたとき、巣の中の合図は、何もないときの約7倍に増えました。そして働きバチは、これまで知られていなかった音を、1分に約20回のペースで出していました。その音の特徴は、サルや鳥の悲鳴とよく似ていました。

ミツバチの音の合図は、ヨーロッパ生まれのセイヨウミツバチで主に調べられてきました。アジアのミツバチが、大型のスズメバチにねらわれたとき巣の中で何をしているのかは、よく分かっていませんでした。日本にいるニホンミツバチも、トウヨウミツバチの仲間です。

01ベトナムの養蜂場で、巣箱の中にマイクを入れた

研究を率いたのは、アメリカのウェルズリー大学のヘザー・マティラ(Heather Mattila)です。カナダのゲルフ大学や、ベトナムの研究機関と一緒に調べました。

舞台は、ベトナムの首都ハノイ市のバーヴィ県にある3つの養蜂場です。養蜂家が飼うトウヨウミツバチの巣が、それぞれ136、55、22箱ありました。調査は2013年の8月の終わりから10月にかけて行いました。地元の養蜂家が、スズメバチにミツバチがよく襲われると話す時期です。

この研究では、2種類のスズメバチの襲撃を比べました。1つは、学名をベスパ・ソロル(Vespa soror)という大型のスズメバチです。日本のオオスズメバチにごく近い仲間で、群れで巣を襲います。仲間を呼び集め、守りに出たミツバチをたくさん殺し、巣を乗っ取って幼虫やさなぎを持ち去ります。もう1つはツマアカスズメバチです。こちらは小さめで、巣の前を1匹でホバリングしながら、飛んでいるミツバチをつかまえます。

チームは、スズメバチに襲われている巣箱を養蜂家に教えてもらい、前もってマイクを入れておきました。マイクは、巣板と巣板の間の、ハチが一番集まっている所に差しこみました。同時に、巣箱の入り口の前にビデオカメラを置き、スズメバチが来た時間と、ミツバチの動きを撮影しました。

02録音した約3万の合図を、1つずつ聞き分けた

録音は、合わせて1,307分になりました。チームは、音を目で見られる図(スペクトログラム)にして、ハチが出した合図を1つずつ拾い出しました。見つかった合図は2万9,985個です。そのうち345個は短すぎるなどして分類できず、残り2万9,640個を種類分けしました。

合図は大きく2種類に分かれました。1つは「シュー」という音です。たくさんの働きバチが一斉に体と羽をふるわせて出します。もう1つは「パイプ」と呼ばれる、音の高さがはっきりした音です。1匹の働きバチが胸をふるわせて出します。パイプの中には、仲間のダンスを止める「ストップ信号」という、よく知られた短い合図がありました。

そして、どれにもあてはまらないパイプが見つかりました。音の高さが、激しく、不規則に、とても速く上下するのです。チームはこれを「対捕食者パイプ」と名づけました。敵がいるときに出る音、という意味です。思いこみで数えないよう、3人がそれぞれ全部の録音の図を見直し、2人以上が同じ判断をした音だけを数えました。こうして数えた対捕食者パイプは、1,213回でした。

木の巣箱の中を横から見た断面。巣板と巣板の間に小さなマイクが差しこまれ、その周りにミツバチがびっしり集まっている。巣箱の外の入り口には、大きなスズメバチが近づいている。

03大型スズメバチが巣の前にいる間だけ、新しい音が鳴った

合図の数がもっとも多かったのは、ベスパ・ソロルに襲われた巣でした。何も襲ってこない巣と比べると、合図は約7倍に増えました。ツマアカスズメバチに襲われた巣では、その約半分でした。録音には、音が重なりすぎて数えきれない場面もありました。チームは、ベスパ・ソロルに襲われた巣の合図の数は、実際より少なく数えているだろうと書いています。

対捕食者パイプは、ベスパ・ソロルが巣の入り口の前にいる間に、とくにたくさん出ました。スズメバチが1匹のときは1分に平均18回、何匹もいるときは1分に平均20回でした。ベスパ・ソロルがいなくなると、この音は減りました。ツマアカスズメバチが巣の前にいても、この音はあまり出ませんでした。一方、シューという音やストップ信号は、スズメバチがいてもいなくても、出る数はあまり変わりませんでした。

この音を出す働きバチの姿も、ビデオに映っていました。ベスパ・ソロルが巣を見つけるときに使うにおいの成分を、紙にしみこませて入り口にとめたときのことです。働きバチたちは、おしりを持ち上げ、羽を大きくふるわせながら、入り口のまわりを走り回りました。紙に近づいては離れ、くり返し音を出していました。おしりの先では、仲間を集めるときに使うにおいを出す部分を、何度も出していました。

ある動画には、入り口で対捕食者パイプを出していた働きバチが、ベスパ・ソロルに殺される場面がありました。その直後、ほかの働きバチたちが、そのスズメバチを取り囲んで、かたまりにしようとしていました。

04巣の外では、敵によって守り方が変わった

入り口のビデオからは、ミツバチの守り方の違いも見えました。ベスパ・ソロルに襲われた巣では、巣箱の前に出てくるハチが1分に平均32匹にのぼりました。何もない巣では平均4匹です。そのうち半分ほどは、頭を下げて巣箱の表面で何かをしていました。動物のふんの点を、入り口のまわりにぬったり整えたりしていたと考えられます。1時間で、巣箱の前のふんの点は平均600個も増えました。

この「ふんぬり」は、同じチームが2020年に初めて報告した守り方です。大型のスズメバチは、巣の入り口にとまってかじり、巣を破ろうとします。ふんをたっぷりぬられた巣では、スズメバチが入り口に近づいてかじることが、大きく減りました。

ツマアカスズメバチに襲われた巣では、ふんぬりはほとんど起きませんでした。代わりに、たくさんのハチが一斉に体をゆする動きを、1分に平均22回も見せました。体をゆすって見せることで、スズメバチを近づかせないと考えられている動きです。相手が大きいか小さいかで、ミツバチは違う守り方を選んでいたのです。

05ただし、この音が仲間に何を伝えているかは、まだ分からない

チームは、この音が「巣の外に危ないスズメバチがいる」ことを、少なくとも仲間に知らせているのだろうと考えています。けれども、それは音が出るタイミングからの推測です。音を聞いた仲間がどう動くのかは、まだ調べられていません。録音した音を巣の中で流し、ハチたちの反応を見る実験が必要だ、と論文に書かれています。

この音が「大型のスズメバチだ」という敵の種類を伝えているのか、「とても危ない」という危険の度合いを伝えているのかも分かっていません。ベスパ・ソロルは巣の入り口に近づき、しつこくとどまります。ツマアカスズメバチは少し離れた所から狩りをします。新しい音がベスパ・ソロルのときだけ多かったのは、敵が近くまで来たからなのかもしれません。

調べた数にも限りがあります。ベスパ・ソロルの襲撃を巣の中で1時間録音できたのは、2回だけでした。この音がどうやって仲間に伝わるのか、空気をふるわせるのか、巣板をふるわせるのかも、まだはっきりしていません。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

研究の歴史:50年前の日本の記録とつながった

チームは、新しい音を出す働きバチの姿が、約50年前の日本の記録とよく合うことに気づきました。その記録には、トウヨウミツバチの働きバチが、おしりを上げて羽をふるわせながら、オオスズメバチに近づいていく様子が書かれていました。そのあとハチたちは、スズメバチを取り囲んでかたまりにしていました。トウヨウミツバチは、何百匹もでスズメバチを包みこみ、熱と息苦しさで殺すことが知られています。また、地中海の島キプロスのセイヨウミツバチが、別のスズメバチを取り囲もうとするときの音も、対捕食者パイプとよく似ていました。

ほかの動物との比較:悲鳴の音には共通点がある

サルや鳥やミーアキャットの悲鳴や警戒の声には、共通する特徴があります。音が急に始まること、いろいろな高さの音がまじって雑音のようであること、音の高さが激しく変わることです。対捕食者パイプにも、同じような特徴がありました。チームは、どれも聞く相手の注意を引きやすい形に進化したのだろうと考えています。さらに働きバチは、この音を何度も続けて出していました。1回ずつの音が集まって、長く続く警報のようになっていたのです。ミーアキャットが仲間を集める声や、多くの鳥が敵を追い払うために仲間を呼ぶ声と、似た働きをしているのかもしれません。

進化の理由:音とにおいを同時に使う意味

対捕食者パイプを出す働きバチは、同時に、仲間を集めるにおいを出す部分を見せていました。セイヨウミツバチでは、このにおいは仲間を引きよせ、行き先を示す働きをします。チームは、音で「敵が来た」と素早く知らせ、においで「ここに集まれ」と場所を示す、2つを組み合わせた合図ではないかと考えています。音やにおいを組み合わせると、騒がしい中でも伝わりやすく、より多くのことを伝えられると考えられています。ただし、これもまだ確かめられていない考えです。

研究方法の工夫と限界

この研究の強みは、研究者がスズメバチを用意したのではなく、本当に起きた襲撃を録音したことです。そのため、スズメバチがいつ来るかを決められず、録音できた襲撃の数は限られました。音が重なって数えきれない場面があったことも、数え方の限界になっています。

06まとめ

ベトナムでトウヨウミツバチの巣にマイクを入れると、大型のスズメバチに襲われたとき、巣の中の合図は約7倍に増えました。スズメバチが入り口の前にいる間、働きバチは1分に約20回、新しい音を出しました。その音は、サルや鳥の悲鳴と特徴がよく似ていました。

この音を聞いた仲間がどう動くのかは、まだ確かめられていません。日本のニホンミツバチもトウヨウミツバチの仲間です。日本の巣箱の中でも、同じような音が鳴っているのかもしれません。

RESEARCH FILE

研究カルテ

ベトナム・ハノイ市バーヴィ県

研究チーム
アメリカのウェルズリー大学のヘザー・マティラ(Heather Mattila)、カナダのゲルフ大学、ベトナムの研究機関のチーム
調べた場所
ベトナムのハノイ市バーヴィ県にある、養蜂家の3つの養蜂場
調べた動物
養蜂家が飼うトウヨウミツバチ(学名 Apis cerana)の巣。襲ってきたのは大型のスズメバチ Vespa soror など
調べ方
巣箱の中にマイクを入れて音を録音し、同時に巣の入り口をビデオで撮った
分かったこと
大型スズメバチが巣の前にいるとき、働きバチは新しい種類の音を1分に約20回出し、合図全体も約7倍になった
まだ分からないこと
この音を聞いた仲間がどう動くのか。音を流して確かめる実験はまだ
論文
Royal Society Open Science(2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Honeybees Make a New Sound When Giant Hornets Come

Scientists put small microphones inside honeybee hives in Vietnam. Even on quiet days, the bees made many sounds to each other.

Then a giant hornet came to the front of a hive. The number of sounds in the hive went up about seven times. The bees also made a new kind of sound. Its pitch jumped up and down very quickly. This sound is like the scream of a monkey or a bird.

When the hornet was there, the bees made this sound about 20 times a minute. Outside the hive, many bees put spots of animal poop around the door. This helps keep giant hornets away from the door.

But we still do not know what the new sound tells other bees. The scientists want to play the sound to bees and watch them.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. Where did the scientists put the microphones?研究者たちはマイクをどこに入れましたか。

Q2. What is the new sound like?新しい音は何に似ていますか。

Q3. What did the bees put around the door of the hive?ハチたちは巣箱の入り口のまわりに何をつけましたか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Mattila, H. R. et al. (2021) Giant hornet (Vespa soror) attacks trigger frenetic antipredator signalling in honeybee (Apis cerana) colonies. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.211215
  2. 2Mattila, H. R. et al. (2020) Honey bees (Apis cerana) use animal feces as a tool to defend colonies against group attack by giant hornets (Vespa soror). PLOS ONE 論文確認済みdoi:10.1371/journal.pone.0242668
  3. 3PMC(米国国立医学図書館)Mattila et al. 2021 全文pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8580428/

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい