鳥のカケスは「渡したふり」の手品にだまされなかった。人は同じ技に4回に3回だまされた

カケス6羽に手品を見せると、人がだまされる2種類の技にはだまされなかった。ところが、手をすばやく動かす技には人と同じようにだまされた。

No.175 8分で読めるえっ度 論文 2024年
窓ごしに、ピンクがかった茶色の体で、つばさに青と黒のしま模様があるカケスが止まり木から身を乗り出し、人の握った2つのこぶしをじっと見比べている。人の顔は見えず、両手だけが見えている。

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  1. カケスは、人がだまされる「渡したふり」の手品にだまされなかった
  2. 手をすばやく動かす手品には、カケスも人もだまされた
  3. 人の手の動きから先を読むクセが、カケスにはないらしい

人に話すなら

カケスって鳥に手品を見せた実験があるんだって。人がひっかかる「渡したふり」の技は見破るのに、手をすばやく動かす技にはだまされたらしいよ。

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読む前に予想しよう

カケスは、人がだまされる「渡したふり」の手品にもだまされる

手品師がコインを右手から左手へ渡します。左手を開くと、からっぽです。コインは最初から、右手に残っていました。見ている人は「渡した」と思いこんでいたのです。手品は、人の目と注意のすきをつく技です。

では、同じ手品を鳥に見せたらどうなるでしょうか。イギリスのケンブリッジ大学のチームが、カラスの仲間の鳥、カケスで確かめました。6羽のカケスに3種類の手品を見せると、人がだまされる2つの技にはだまされませんでした。ところが残りの1つ、手をすばやく動かす技には、人と同じようにだまされました。

手品が効くかどうかは、見る側が「次に何が起きるか」をどう予想するかで決まります。そのため、だまされ方を比べれば、鳥と人の見え方や予想のしかたの違いが分かります。動物の得意なことではなく、苦手なことから心を調べる方法です。

01カケスは、虫が入った手をつつく練習から始めた

実験の舞台は、ケンブリッジ大学の動物行動学の研究施設です。イギリスのマディングリーという村にあります。参加したのは、人の手で育てられたカケス6羽でした。オス3羽、メス3羽で、どれも5歳です。

カケスは鳥小屋の中にいて、実験者は窓ごしに鳥と向き合いました。参加は鳥しだいです。カケスが窓の前の止まり木に来たら、実験を始めました。やる気を出してもらうため、ふだんのえさは実験の1時間前に下げておきました。

まずカケスは、握ったこぶしの親指をつつくと、中のえさがもらえることを覚えました。次に、実験者がえさの虫を片方の手からもう片方へ見える形で移し、両手を閉じます。カケスは、虫が入っていそうな手を選んでつつきます。10回のうち8回当てることが2セット続いたら、本番の手品に進みました。

023種類の手品は、どれも「虫が反対の手に移ったか」を当てさせた

使った手品は3つです。1つ目は「パーム」と呼ばれる技です。物を手のひらにかくしたまま、反対の手へ渡したように見せます。2つ目の「フレンチドロップ」は、親指と指先でつまんだ物を、反対の手でつかむふりをする技です。つかんだように見せながら、物は元の手のひらに落とします。

3つ目の「ファストパス」は、手の動きがちがいます。物を本当に反対の手へ移しますが、見ている人が気づかないほど速く移すのです。

それぞれの手品には、比べるための見せ方も用意しました。たとえばファストパスでは、同じ動きで虫を移さない回と、虫をゆっくり移す回も混ぜました。実験は手品ごとに10回ずつ9回分で、1つの手品につき1羽あたり90回です。どの回にどの見せ方が来るかは、決まった順番にならないようにしました。

人とも比べました。16〜60歳の80人に、カケスの実験を撮った動画をインターネットで見てもらいました。動画は、カケスが手を選ぶ場面を切ってあります。見た人は、虫が入っている手を選びました。

03手の動きから先を読ませる技には、カケスはだまされなかった

フレンチドロップの結果から見ていきます。論文が公開しているデータで数えると、カケスは70%の回で、虫が残った手を正しく選びました。人は25%しか当てられませんでした。人は4回に3回、虫が反対の手に移ったと思いこんだのです。

パームでも、カケスは虫が残った手を選ぶほうが多くなりました。正しく選んだのは60%です。一方、人が当てたのは28%でした。

なぜ人はだまされるのでしょうか。人は、手の動きを見て結果を先読みします。「つかむ動きをしたのだから、つかんだはずだ」と考えてしまいます。チームは、カケスにはこの先読みがないのだろうと考えました。カケスは「予想」ではなく、「見えたもの」で選んでいたようです。

このカケスたちは、人が手を使う実験に何度も参加してきた鳥でした。それでも、手の動きからの先読みは身についていないようでした。論文は、見ているだけではこの先読みは身につかないのかもしれないと述べています。

この考えを支える結果があります。パームと同じ速さと動きで、虫を本当に移す回もありました。この回のカケスは、43%しか当てられませんでした。当てずっぽうに選んだときの50%と、はっきりした差はありません。虫が移る様子がはっきり見えないと、カケスは迷ってしまったようです。

04手をすばやく動かす技には、カケスも人もだまされた

ファストパスでは、結果が逆になりました。虫が本当に反対の手へ移っても、カケスが正しい手を当てたのは23%だけでした。多くの回で、虫がもういない元の手をつついたのです。人の正解は13%で、やはりだまされました。

同じ動きでも、ゆっくり移せばカケスは74%、虫を移さなければ86%当てました。動きの速さが、見落としを生んでいたと考えられます。

止まり木のカケスの前で、人の両手が左右にすばやく動いている。片手の指先から小さな虫が反対の手へ飛び移る途中で、カケスは頭を横に向けて片目で見ている。人の顔は見えない。

チームは、鳥の目のつき方に注目しました。ほとんどの鳥は、目が頭の両側についています。両目で同時に見える範囲はせまく、片目だけで見る範囲が広いのです。カケスも、手品を片目で見ていた可能性が高いと論文は述べています。左右に速く動く物を、頭を動かして追うひまがなかったのかもしれません。

注意の向け方も関係していそうです。北アメリカにすむカケスの仲間、アオカケスの研究があります。むずかしいえさ探しに集中すると、視野の端にある目標に気づきにくくなりました。手品の虫は、カケスが見つめる手から、視野の外側へ飛んでいきます。

05サルで試すと、つまむ動きができないマーモセットはだまされなかった

カケスがフレンチドロップにだまされなかったのは、手を持たないからかもしれません。自分でつまむ動きをしたことがなければ、その動きから先は読めないはずです。

2023年、同じチームはこの考えを中南米にすむ3種類のサルで試しました。手の器用さが違うサルたちです。オマキザルの仲間は、親指と指先で物をつまめます。コモンマーモセットは、つまむことができません。

フレンチドロップを見せると、オマキザルは81%の回で間違った手を探しました。マーモセットがだまされたのは6%だけでした。次に、手全体でにぎって取るふりをする形に変えました。どのサルもできる動きです。すると、マーモセットも94%の回でだまされました。

ただし、予想が外れたサルもいました。リスザルの仲間は、オマキザルのようにつまむ動きをふだんしません。それでも、オマキザルと同じようにだまされたのです。自分ができる動きと見え方の関係は、単純ではなさそうです。

DEEP DIVE

もっと深く

なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。

カラスの仲間は、えさをかくす「手品師」でもある

カケスをふくむカラスの仲間は、えさを地面などにかくして、あとで食べます。仲間に盗まれないよう、さまざまな工夫をします。本物のかくし場所にまぎれて、えさを入れないふりの動きを何度もします。のどの袋にえさを入れて運んだり、くちばしの中でえさを動かしたりもします。チームは、こうした行動が手品師の技と似ていると考えました。そこで、カラスの仲間の見え方のすきを、手品で調べようとしたのです。

論文の最後には、問いが1つ残されています。カケスは速い動きを見落としました。では、カケス自身が仲間のえさを盗むときや守るときに、この見落としを利用しているのでしょうか。答えはまだ出ていません。

鳥の目は、人の目と仕組みが違う

人の目は顔の正面に並び、両目で同じものを見ます。多くの鳥は、左右の目が別々の方向を向いています。そのうえ、鳥では右目と左目から入った情報を、脳の左右が別々の役割で処理します。論文は、新しいものへの注意は脳の右側、覚えた分類への注意は左側が受け持つと紹介しています。どちらの目で手品を見たかで、だまされ方が変わるかもしれません。これは今後の研究の課題です。

研究の弱点は、手品を生で演じたこと

人を対象にした手品の研究では、ふつう録画した手品を使います。毎回まったく同じ動きにできるからです。カケスには、生で演じるしかありませんでした。手品を演じたのも1人だけでした。そのため、その人のくせが結果に混ざった可能性があります。

ただ、人の80人が見たのは、カケスが見たのと同じ回の録画です。チームは、別の165人にも、録画したコインの手品を見せました。こちらでも、人は同じようにだまされました。また、手品のうまい人が演じれば、カケスの反応が変わる可能性もあると論文は認めています。

手品で動物の心を調べる研究は、まだ始まったばかり

チームは2021年、カケスにコップと玉の手品を使った研究も発表しました。好きなえさをコップにかくし、手品の技で別のえさにすり替えます。すると、カケスはコップをのぞき直すことが多くなりました。好きなえさが2番目に好きなえさに変わったときは、食べるまでに時間がかかり、食べないこともありました。カケスは、コップの中身を覚えて予想していたと考えられます。

06まとめ

ケンブリッジ大学のチームは、カケス6羽に3種類の手品を見せました。人が手の動きから先を読んでだまされる2つの技に、カケスはだまされませんでした。フレンチドロップでは、カケスが70%の回で正しい手を当て、人は25%でした。一方、手をすばやく動かすファストパスには、カケスも人もだまされました。

その後のサルの実験では、親指でつまめるオマキザルはフレンチドロップにだまされ、つまめないマーモセットはほとんどだまされませんでした。手品が効くかどうかは、見る側の体と、ふだんの見方で決まるようです。カケスをだますなら、ゆっくり渡すふりをするより、すばやく本当に渡すほうが効くのです。

RESEARCH FILE

研究カルテ

イギリス・ケンブリッジ大学(マディングリー)

研究チーム
イギリスのケンブリッジ大学のチーム(第一著者エリアス・ガルシア=ペレグリン)
調べた場所
ケンブリッジ大学の動物行動学の研究施設(イギリスのマディングリー)
調べた動物
人の手で育てられたカケス(学名 Garrulus glandarius)6羽。比べるために人80人
調べ方
手の中の虫を反対の手に移す・移さない手品を見せ、虫が入っていそうな手をつつかせた
分かったこと
手の動きから先を読ませる技にはだまされず、すばやく動かす技にはだまされた
まだ分からないこと
手品をする人が1人だけで、生で演じたため、演じ方のくせが影響した可能性も残る
論文
PNAS(米国科学アカデミー紀要、2021年)
ENGLISH BITE

英語で読んでみよう

この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。

Can Birds Be Fooled by Magic?

Scientists in England showed magic tricks to six Eurasian jays. Jays are birds in the crow family. In each trick, a person held a worm and moved both hands. Then the bird chose the hand with the worm.

In one trick, the person only pretended to pass the worm. Most people who watched a video of it were fooled. But the jays chose the right hand 70 percent of the time. They did not seem to guess from the hand movement.

In another trick, the person passed the worm very fast. This time, both the jays and the people were fooled. Most birds have eyes on the sides of their heads. So a fast move to the side may be hard to follow.

Magic tricks can show how other animals see the world. The same trick can fool one animal but not another.

覚えたい単語

英語でクイズ

Q1. How many jays saw the magic tricks?何羽のカケスが手品を見ましたか。

Q2. Which trick fooled both the jays and the people?カケスも人もだまされたのは、どの手品ですか。

Q3. Where are the eyes of most birds?ほとんどの鳥の目は、どこにありますか。

出典(ウラ取りに使った資料)

  1. 1Garcia-Pelegrin, E. et al. (2021) Exploring the perceptual inabilities of Eurasian jays (Garrulus glandarius) using magic effects. PNAS 論文確認済みdoi:10.1073/pnas.2026106118
  2. 2Garcia-Pelegrin, E. et al. (2023) Manual action expectation and biomechanical ability in three species of New World monkey. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.03.023
  3. 3Longo, M. R. (2023) Comparative cognition: Capuchin monkeys believe in magic. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2023.03.063
  4. 4Schnell, A. K. et al. (2021) Jays are sensitive to cognitive illusions. Royal Society Open Science 論文確認済みdoi:10.1098/rsos.202358
  5. 5Garcia-Pelegrin, E. et al. (2024) Beyond the Tricks: The Science and Comparative Cognition of Magic. Annual Review of Psychology 論文確認済みdoi:10.1146/annurev-psych-012723-100945

論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法

こっちも、こっそりすごい