野生のオウムに仲間の遊び声を5分間聞かせると、遊びが増えた。ほかの鳴き声では増えなかった
野生のミヤマオウムに仲間の遊び声を聞かせると、遊ぶ回数も時間も増えた。ほかの鳴き声や音では増えなかった。

30秒で読む
- 遊ぶときの鳴き声を流すと、野生のオウムの遊びが増えた
- ほかの鳴き声や電子音を流しても、遊びは増えなかった
- 遊びに加わるのではなく、別の相手や1羽で遊び出す鳥が多かった
人に話すなら
ニュージーランドのオウムに、仲間が遊ぶときの声をスピーカーで聞かせたら、急に遊び出したんだって。人の笑いがうつるのと似てるらしいよ。
読む前に予想しよう
オウムの遊び声を聞かせると、聞いたオウムも遊び出す
野生のミヤマオウムで、遊び声を流した5分間は遊びの回数も長さも増えた。
友だちが笑い出すと、つられてこちらも笑ってしまう。人なら誰でも覚えがあることです。では、鳥にも同じようなことは起きるのでしょうか。
ニュージーランドの山にすむオウム、ミヤマオウム(英語名ケア)で、研究者がスピーカーを使って確かめました。仲間が遊ぶときの鳴き声を5分間流すと、聞いた鳥たちの遊ぶ回数も遊ぶ時間も、はっきり増えました。ほかの鳴き声や電子音では、遊びは増えませんでした。
楽しい気持ちが、声で仲間に広がる。この考えは、これまでおもにネズミやサルで話し合われてきました。この研究は、それを野生の鳥の群れで、実験によって試しました。
01ミヤマオウムは、山の上で遊び回るオウムだった
ミヤマオウムは、ニュージーランドの南島にだけすむオウムです。山の上の草地や森でくらしています。ニュージーランド政府の自然保護局によると、数は1,000〜5,000羽ほどです。絶滅のおそれが高い鳥とされています。
この鳥は、とてもよく遊びます。地面で2羽が取っ組み合ったり、追いかけっこをしたりします。1羽で小石などを何度も空中に放り上げることもあります。風の強い斜面では、空中で宙返りをしたり、足でけり合ったりします。
遊ぶときには、決まった鳴き声を出します。高さが大きく上下する、さえずるような声です。研究チームは2012年に、ミヤマオウムの鳴き声2,884回を分析した論文を出しています。その論文でも、この声は遊びのときの声とされています。たいていの鳴き声には、いちばんよく使う呼びかけの声で返事が来ます。ところが遊び声には、遊び声で返事が来ることが多いと分かりました。
では、遊び声にはどんな役目があるのでしょう。1つめの考えは「これは遊びで、本気のけんかではないよ」と知らせる合図です。ただ、遊び声は1羽で遊ぶときにも出ます。そこで研究チームは、2つめの考えを試すことにしました。遊び声そのものが、聞いた鳥を遊びたい気持ちにさせるのではないか、という考えです。
025種類の音を流して、遊びの増え方を比べた
実験したのは、オーストリアのウィーン獣医科大学のラウル・シュウィング(Raoul Schwing)さんたちです。ニュージーランドのカンタベリー大学やオークランド大学の研究者も加わりました。
場所は、南島のアーサーズ・パス国立公園にある山の展望所です。ここは斜面が急で、いつも風が下から吹き上げています。ミヤマオウムは、この風に乗って空中で遊びます。多くの鳥の脚には色つきの輪がついていて、1羽ずつ見分けられました。実験は2012年の5月と2013年の4月に行いました。
1回の実験は15分です。最初の5分は何も流さずに様子を見ます。次の5分は、30秒ごとに1〜1.5秒の音を流します。最後の5分は、また何も流さずに見ます。ビデオで撮影し、2人の研究者が別々に、遊んだ回数と長さを数えました。2人の数え方は、ほとんど同じでした。
流した音は5種類です。
- 遊び声
- いちばんよく使う、かん高い呼びかけの声
- 親しい相手とのやりとりで出す、めったに聞かない口笛のような声
- この地域によくいる別の小鳥の、なわばりを知らせる声
- 一定の高さの電子音
ミヤマオウムの声は、実験の場にいない3羽から前もって録音したものです。その場にいる鳥の声ではないことを、脚の輪で確かめてあります。実験は観光客がいないときだけ行いました。人がいると、流した音が聞こえにくくなるからです。
03遊び声が流れた5分間だけ、遊びが増えた
結果は、遊び声のときだけが違いました。遊び声を流した5分間は、遊びの回数も、遊んでいた時間の長さも、はっきり増えました。流す前の5分や、流した後の5分より多くなりました。ほかの4種類の音を流したときの、どの5分と比べても多くなりました。
呼びかけの声や口笛のような声も、同じミヤマオウムの声です。それでも、遊びは増えませんでした。仲間の声なら何でもよかったわけではなさそうです。効いていたのは、遊び声という特定の声でした。
もう1つ大事な結果があります。遊び声を止めた後の5分間の遊びは、流す前の5分間と変わりませんでした。遊びが増えたのは声が流れている間だけで、声が止まると元の多さに戻ったことになります。
論文には、実験のようすを撮った動画もついています。最初の遊び声が流れた直後に、その場にいた大人のオスとメスの2羽が遊び始める場面です。

04遊びに誘われたのではなく、自分から遊び始めた
遊び声が「一緒に遊ぼう」という誘いなら、聞いた鳥は遊んでいる仲間のところへ行くはずです。ところが、多くの鳥はそうしませんでした。すでに遊んでいる鳥には加わりませんでした。かわりに、遊んでいなかった別の鳥と遊び始めました。1羽で物を放り上げたり、空中で宙返りをしたりする鳥もいました。
研究チームは、この点を数字でも確かめました。流す前の5分間に遊びがなかった実験だけを選びます。その場合、最初に始まった遊びは、誰かの遊びに加わったものではありえません。その最初の遊びに注目しても、遊び声のときは、ほかの音のときより遊びが増えていました。
このことから研究チームは、遊び声は誘いの合図ではないと考えました。聞いた鳥を短い間「遊びたい気持ち」にする声だという考えです。論文は、人の言葉で言えば「うつる笑い」の一種だと書いています。
大人のオスとメスが一緒に遊んでいたことも、論文は取り上げています。動物の大人のオスとメスが遊ぶことは、あまり多くありません。サルやイヌの仲間では見られますが、相手選びや狩りの前の結びつきなど、はっきりした目的とつながっていることが多いのです。ミヤマオウムでは、大人どうしの遊びが、子どもの遊びと同じ場面で起きていました。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
人の笑いは、遊ぶときの声から生まれたのかもしれない
人の笑いがどこから来たのかについて、1つの考えがあります。もとは「遊ぶときに出す声」だったという考えです。サルの仲間にも、遊ぶときに出す声があることが知られています。アメリカで研究した神経科学者ヤーク・パンクセップ(Jaak Panksepp)さんたちは、ネズミの声を調べました。ネズミは、遊ぶときや人にくすぐられたときに、人の耳には聞こえない高い声を出します。パンクセップさんたちは2003年の論文で、この声が人の笑いの原型と関係しているかもしれないと論じました。
ミヤマオウムの論文は、ネズミの別の実験も紹介しています。実験で耳を聞こえなくしたネズミは、ほかのネズミより遊ばなくなりました。目を見えなくしたネズミでは、そうした差は出ませんでした。遊びが広がるには、声が大事なのかもしれません。ミヤマオウムの研究は、この考えを鳥にまで広げました。鳥とけものは、大昔に分かれた別々の仲間です。それでも、遊びと声の結びつきは両方に見られることになります。
「気分」と「感情」をどう見分けたのか
研究者は、長く続く気持ちを「気分」、短く強い反応を「感情」と分けて考えます。遊び声が鳥の「気分」を変えたなら、声を止めた後もしばらく遊びが多いはずです。ところが、声を止めた後の5分間の遊びは、流す前と変わりませんでした。研究チームはこのことから、遊び声が起こしたのは短い「感情」の反応だと考えました。
この実験の弱いところ
空中の遊びはとても速く、どの鳥が遊んでいたかを1羽ずつ追い切れませんでした。脚に輪のない鳥は、同じ鳥が何度来たのかも分かりません。そのため、実験に加わった輪のない鳥の数は、少なく見積もると13羽、多く見積もると46羽と、幅がありました。調べた場所も1か所だけです。
その場にいつもいる鳥は、1年に4〜5羽ほどでした。2012年と2013年では鳥がほぼ入れかわっていて、両方の年に見られたのは1羽だけでした。つまり、同じ数羽の鳥が、何回もの実験に顔を出していたことになります。研究チームは、鳥の顔ぶれや天気、時間帯の違いを計算に入れて結果を分析しました。それでも、もっと多くの場所や群れで同じ結果が出るかは、これから確かめる必要があります。
そして何より、鳥の心の中で本当に「楽しさ」がうつったのかは、直接は確かめられません。分かっているのは、遊び声を聞くと遊びが増えるという行動の事実です。「楽しい気持ちがうつった」というのは、その事実から考えた説明です。
05まとめ
ミヤマオウムは、遊ぶときに決まった鳴き声を出します。その声を野生の群れに5分間聞かせると、遊ぶ回数も時間も増えました。同じミヤマオウムのほかの声や、別の鳥の声、電子音では増えませんでした。聞いた鳥の多くは、遊んでいる仲間に加わるのではなく、別の相手や1羽で遊び始めました。
研究チームは、遊び声が聞いた鳥を「遊びたい気持ち」にすると考えています。人の笑いがうつるのと似たことが、遠く離れた鳥の仲間でも起きていたのかもしれません。今度だれかが笑い出したら、自分がつられるまでの時間をこっそり数えてみてください。
研究カルテ
ニュージーランド
- 研究チーム
- オーストリアのウィーン獣医科大学とニュージーランドの大学のチーム(第一著者ラウル・シュウィング)
- 調べた場所
- ニュージーランド南島、アーサーズ・パス国立公園の山の展望所
- 調べた動物
- 野生のミヤマオウム(英語名ケア、学名 Nestor notabilis)
- 調べ方
- 5種類の音をスピーカーで流し、流す前・最中・後の各5分の遊びをビデオで数えた
- 分かったこと
- 遊び声を流した5分間だけ、遊びの回数も長さもはっきり増えた。ほかの音では増えなかった
- まだ分からないこと
- 鳥の心の中で本当に「楽しさ」がうつったのかは、行動から考えた推測にとどまる
- 論文
- Current Biology(2017年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
The kea is a parrot that lives in the mountains of New Zealand. Kea play a lot. When they play, they often make a special sound. Scientists call it the play call.
A team of scientists took a speaker to a mountain lookout. They played five kinds of sounds to wild kea. One was the play call. The others were two other kea calls, a call of another bird, and a simple tone. They did the test 60 times and recorded the birds on video.
Only the play call made the birds play more. Many birds did not join other birds that were already playing. They started new games with other birds or played alone.
The scientists think the call makes birds want to play for a short time. It may be like laughter in people. When a friend laughs, we often start to laugh too.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. Where do kea live?ケアはどこにすんでいますか。
ケアはニュージーランドの山にすむオウムです。
Q2. How many kinds of sounds did the scientists play?研究者は何種類の音を流しましたか。
遊び声を含む5種類の音を流しました。60は実験の回数です。
Q3. What did many birds do after they heard the play call?遊び声を聞いた後、多くの鳥はどうしましたか。
多くの鳥は遊んでいる仲間に加わらず、別の相手や1羽で遊び始めました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Schwing, R. et al. (2017) Positive emotional contagion in a New Zealand parrot. Current Biology 論文確認済みdoi:10.1016/j.cub.2017.02.020
- 2Schwing, R. et al. (2012) Vocal repertoire of the New Zealand kea parrot Nestor notabilis. Current Zoology 論文確認済みdoi:10.1093/czoolo/58.5.727
- 3Panksepp, J. & Burgdorf, J. (2003) Laughing rats and the evolutionary antecedents of human joy? Physiology & Behavior 論文確認済みdoi:10.1016/S0031-9384(03)00159-8
- 4New Zealand Department of Conservation「Kea」doc.govt.nz/nature/native-animals/birds/birds-a-z/kea/
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





