メキシコシティの小鳥の巣の86%に吸い殻。巣にダニを入れると、母鳥は吸い殻を足した
メキシコシティの小鳥は、タバコの吸い殻の繊維を巣に敷く。吸い殻が多い巣ほどダニが少ない。ただし、ヒナの血には害の跡も出ていた。

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- メキシコシティの小鳥の巣の8割以上に、吸い殻の繊維が入っていた
- 吸い殻が多い巣ほどダニが少なく、ダニを入れると母鳥は吸い殻を足した
- ただし吸い殻が多い巣ほど、ヒナの血の細胞に傷の跡が多かった
人に話すなら
メキシコシティの小鳥って、道に落ちたタバコの吸い殻をほぐして巣に敷くんだって。巣に生きたダニを入れると、お母さん鳥がもっと吸い殻を運んできたらしいよ。
読む前に予想しよう
都会の小鳥には、タバコの吸い殻を巣に運びこむものがいる
メキシコシティのメキシコマシコなどの巣の8割以上に、吸い殻の繊維が入っていた。
道ばたに落ちたタバコの吸い殻は、ただのゴミです。ところがメキシコシティでは、小鳥がこの吸い殻から繊維を引き出し、巣の内側に敷いていました。
メキシコの研究チームが巣を調べると、メキシコマシコという小鳥の巣の86%に、吸い殻の繊維が入っていました。そして、繊維が多い巣ほど、巣にすみつくダニが少なかったのです。巣に生きたダニを入れる実験をすると、母鳥は吸い殻の繊維をさらに運びこみました。
鳥が香りの強い葉を巣に入れて、虫を防いでいるという考えは前からありました。都会の鳥は、その材料に人間のゴミを使っているのかもしれません。ただし、話はそれで終わりません。吸い殻には、鳥の体に害のある物質も入っていたのです。
01都会の小鳥の巣を開けると、吸い殻の繊維が出てきた
舞台は、メキシコシティにあるメキシコ国立自治大学のキャンパスです。ここでは2種類の小鳥が子育てをしています。1つはメキシコマシコ、もう1つはイエスズメです。
どちらの鳥も、巣に吸い殻を持ちこむことが前から報告されていました。タバコのフィルターは、細い繊維でできています。鳥はフィルターから繊維を引き出し、巣のいちばん内側に敷いていました。
モンセラット・スアレス=ロドリゲス(Monserrat Suárez-Rodríguez)たちは、2011年の子育ての季節に巣を調べました。ヒナが巣立った直後に、イエスズメの巣28個とメキシコマシコの巣29個を集めました。そして巣の重さをはかり、吸い殻の繊維がどれだけ入っているかを調べました。
結果は、イエスズメの巣の89%、メキシコマシコの巣の86%に吸い殻の繊維が入っていました。1つの巣に入っていた吸い殻は、平均でイエスズメが8本分、メキシコマシコが10本分でした。多い巣では、メキシコマシコで48本分もありました。
02吸い殻が多い巣ほど、巣のダニが少なかった
次に、チームは巣にすむダニを数えました。ダニは、クモに近い小さな生き物です。鳥の体につく寄生虫には、血を吸うものがいます。寄生虫が多いと、鳥は体が弱ったり、子育てに失敗しやすくなったりします。
集めた巣は、電球で照らしたじょうごの上に24時間置きました。電球の熱と光をさけて下へ移ったダニを集める方法です。集めたダニは、顕微鏡で数えました。
その結果、2種類の鳥のどちらでも、吸い殻の繊維が重い巣ほど、ダニの数が少なくなっていました。ダニの数は、イエスズメとメキシコマシコの巣で差はありませんでした。
03ダニをおびき寄せるわなに、吸い殻と新品のフィルターをつけて比べた
ただ、これだけでは「吸い殻がダニを減らした」とは言い切れません。たまたまダニが少ない場所の鳥が、吸い殻を多く運んだだけかもしれないからです。そこでチームは、巣の中で実験をしました。
チームは、熱でダニをおびき寄せるわなを作りました。電池で37℃に温めた小さな部品を2つ、巣の両側に置いたのです。部品のまわりにはねばねばするテープを巻き、近づいたダニがくっつくようにしました。
部品には、吸ったあとのタバコのフィルターの繊維か、吸っていない新品のフィルターの繊維をつけました。吸ったあとの吸い殻は、同じ種類のたばこを機械で吸わせて用意しました。このわなを、イエスズメの巣27個とメキシコマシコの巣28個に20分ずつ置きました。

すると、吸ったあとの吸い殻をつけたわなには、新品をつけたわなよりダニがはっきり少なく集まりました。吸ったあとの吸い殻には、ニコチンが多く残っています。ニコチンは、タバコの葉が虫から身を守るための物質です。畑の害虫よけや、ニワトリにつく虫の駆除にも使われてきました。チームは、ダニを遠ざけたのはニコチンらしいと考えています。
04巣に生きたダニを入れると、母鳥は吸い殻を足した
まだ大きな疑問が残っていました。鳥はダニを防ぐために、わざわざ吸い殻を選んでいるのでしょうか。吸い殻の白い繊維が、巣に敷く羽毛に似ているだけかもしれません。
2017年、チームはこの疑問をメキシコマシコで確かめました。吸い殻の繊維は、巣のいちばん内側の敷き物に集まっています。巣にすむダニも、この敷き物に集まっています。そこでヒナがかえって間もない巣から、内側の敷き物を取り除きました。こうすると、吸い殻もダニもほとんど巣からなくなります。
そのうえで、巣を3つのグループに分けました。生きたダニを入れる巣、死んだダニを入れる巣、ダニを入れるふりだけをする巣です。どの巣をどのグループにするかは、偏りが出ないように無作為に決めました。
その結果、生きたダニを入れた巣では、母鳥が吸い殻の繊維を多く運びこみました。死んだダニを入れた巣や、ふりだけの巣よりも多かったのです。もとの敷き物に吸い殻が多かった巣ほど、あとで足した量も多くなっていました。論文は、吸い殻を運ぶのは、少なくとも一部は、今いるダニへの反応だろうとまとめています。
05吸い殻はダニを減らすが、ヒナの血には害の跡が出ていた
ここで、話はもう一度ひっくり返ります。吸い殻には、ニコチンのほかにも何百もの物質が残っています。2014年、チームはその害をメキシコマシコの巣で調べました。
巣のうち吸い殻が占める割合が大きいほど、卵がかえる割合と、ヒナが巣立つ割合は高くなっていました。ヒナの免疫の反応も強くなっていました。ところが、吸い殻の割合が大きい巣ほど、血の細胞に遺伝子が傷ついた跡も多く見つかりました。チームは、吸い殻の得を打ち消すほどの害があるかもしれないと述べています。2017年の論文には、この害がヒナにも親鳥にも出ていたと書かれています。
もっと深く
なぜそうなったのか。研究の歴史と、まだ決着していない議論まで。
鳥は昔から、香りの強い葉で巣を守ってきた
巣に植物を入れる鳥は、前から知られていました。ヨーロッパのホシムクドリは、香りの強い生の葉を巣に運びこみます。こうした葉には、虫をおさえる働きのある物質が入っています。鳥は葉で巣の虫を防いでいる、という考えがあります。
この考えを確かめた実験もあります。ある研究では、ふだん葉を巣に入れないミドリツバメの巣23個に、香りの強いセイヨウノコギリソウを入れました。巣立ったあとに巣に残ったノミは、何もしない巣44個では平均773匹、ノコギリソウを入れた巣では平均419匹でした。ただし、ヒナの体重や巣立つ割合には差がありませんでした。
2013年の論文の題名には「古いレシピの新しい材料」という言葉が入っています。チームは、都会の鳥が、葉を使う昔からの行動の材料として吸い殻を使っているのかもしれないと考えました。
「動物のお医者さん」と呼ぶには、まだ条件が足りない
動物が自分の体や子を守るために、ほかの生き物が作った物質を使うことがあります。研究者はこれを「自分で薬を使う行動」と呼び、3つの条件をあげています。その物質が寄生虫に害を与えること。動物がその効き目のためにわざわざ集めていること。そして、そのおかげで生き残りや子孫を残す力が上がることです。
2013年の研究で確かめられたのは、1つめの条件だけでした。2017年の実験は、2つめの条件に近づくものでした。3つめの条件は、まだ確かめられていません。
吸い殻の得と害、どちらが大きいのか
2018年に出た、鳥の寄生虫よけの行動をまとめた論文も、この研究を取り上げています。そして、吸い殻を巣に入れることが鳥にとって差し引きで得か損かは、まだはっきりしないと書いています。2014年の研究でも、遺伝子の傷がヒナの巣立ったあとの生き残りや子育てにどう響くかは、調べられていませんでした。
別の説明も残っています。吸い殻の繊維には、巣を温かく保つ働きがあるかもしれません。2013年の論文は、新品のフィルターと吸い殻を鳥に選ばせる実験をすれば、どちらの働きが主なのかを見分けられると提案しています。
06まとめ
メキシコシティのメキシコマシコの巣の86%には、タバコの吸い殻の繊維が敷かれていました。吸い殻が多い巣ほどダニが少なく、ダニをおびき寄せるわなでも、吸ったあとの吸い殻をつけると集まるダニが減りました。巣に生きたダニを入れると、母鳥は吸い殻の繊維を多く足しました。
ただし、吸い殻の多い巣のヒナの血には、遺伝子の傷の跡も多く出ていました。差し引きで鳥の得になっているのかは、まだ分かっていません。道に落ちた吸い殻は、都会の小鳥の巣の中までとどいています。
研究カルテ
メキシコ・メキシコシティ
- 研究チーム
- メキシコ国立自治大学のチーム(第一著者モンセラット・スアレス=ロドリゲス)
- 調べた場所
- メキシコシティにあるメキシコ国立自治大学のキャンパス
- 調べた動物
- メキシコマシコ(学名 Carpodacus mexicanus)とイエスズメ
- 調べ方
- 巣の吸い殻の量とダニの数を比べた。のちに巣へ生きたダニを入れ、親が吸い殻を足すかを見た
- 分かったこと
- 吸い殻が多い巣ほどダニが少なく、生きたダニを入れた巣では母鳥が吸い殻の繊維を多く足した
- まだ分からないこと
- 吸い殻の害と得の差し引きで、ヒナが生き残り子を残す力が上がるのか
- 論文
- Biology Letters(2013年)、Journal of Avian Biology(2017年)
英語で読んでみよう
この記事の内容を、やさしい英語(中学〜高1レベル)で。文をタップすると日本語が出ます。
House finches are small birds that live in Mexico City. Scientists looked inside their nests. They found fibers from cigarette butts in 86 percent of the nests.
Tiny mites live in bird nests. Nests with more cigarette fibers had fewer mites. Smoked butts still have nicotine in them. The scientists think the nicotine keeps the mites away.
Next, the scientists took the soft lining out of some nests. Then they put live mites into some of these nests. The mother birds brought more cigarette fibers to those nests.
But cigarette butts also have harmful chemicals. The blood of the chicks showed more damage in nests with many butts. So we still do not know if the butts help the birds in the end.
覚えたい単語
英語でクイズ
Q1. What did the scientists find in 86 percent of the nests?研究者たちは巣の86%で何を見つけましたか。
They found fibers from cigarette butts in 86 percent of the nests とあります。
Q2. What did the mother birds do after live mites were put in the nests?生きたダニを巣に入れたあと、母鳥は何をしましたか。
The mother birds brought more cigarette fibers to those nests とあります。
Q3. What was found in the chicks' blood in nests with many butts?吸い殻の多い巣では、ヒナの血に何が見つかりましたか。
The blood of the chicks showed more damage とあります。吸い殻には害もありました。
出典(ウラ取りに使った資料)
- 1Suárez-Rodríguez, M., López-Rull, I. & Macías Garcia, C. (2013) Incorporation of cigarette butts into nests reduces nest ectoparasite load in urban birds: new ingredients for an old recipe? Biology Letters 論文確認済みdoi:10.1098/rsbl.2012.0931
- 2Suárez-Rodríguez, M. & Garcia, C. M. (2014) There is no such a thing as a free cigarette; lining nests with discarded butts brings short-term benefits, but causes toxic damage. Journal of Evolutionary Biology 論文確認済みdoi:10.1111/jeb.12531
- 3Suárez-Rodríguez, M. & Garcia, C. M. (2017) An experimental demonstration that house finches add cigarette butts in response to ectoparasites. Journal of Avian Biology 論文確認済みdoi:10.1111/jav.01324
- 4Bush, S. E. & Clayton, D. H. (2018) Anti-parasite behaviour of birds. Philosophical Transactions of the Royal Society B 論文確認済みdoi:10.1098/rstb.2017.0196
- 5Shutler, D. & Campbell, A. A. (2007) Experimental addition of greenery reduces flea loads in nests of a non-greenery using species, the tree swallow Tachycineta bicolor. Journal of Avian Biology 論文確認済みdoi:10.1111/j.2007.0908-8857.04015.x
論文は Crossref(論文の公式データベース)で、実在すること・題名・発表年を確認しています。内容は論文や研究機関の発表で確かめています。ウラ取りの方法





