多読の効果はまず「読む力」に出て、文法・語彙などの言語知識には出るのが遅い
Yamashita, J. (2008). Extensive reading and development of different aspects of L2 proficiency. System, 36(4), 661–672 doi:10.1016/j.system.2008.04.003
ひとことで言うと:多読をすると、まず読む力が伸びる。単語や文法などの細かい知識が伸びるのには、もっと時間がかかるらしい。
対象:外国語・第二言語として英語を学ぶ成人学習者
なぜこの研究?
多読は効果的な読みの指導法として注目されているが、「短期間では効果が見えにくい」と言う研究者もいる。その理由の一つとして、多読の効果は言語能力のどの面に表れるかによって、現れる速さが違うのかもしれない。この研究は、多読が言語能力のさまざまな面に与える効果の違いを明らかにするため、全体的な読む力と、より基礎的な言語知識の伸びを分けて調べた。
どうやって調べた?
成人の学習者に一定期間の多読を行い、その前後で2種類の力を測って比べた。1つは文章を読んで理解する全体的な読む力(一般的な読解能力)、もう1つは語彙や文法などの「より下位の(基礎的な)言語能力」である。事前テストから事後テストへの伸びが、それぞれの力で統計的に有意かを分析した。読む力と言語知識を分けて測ることで、多読の効果が言語能力のどの面に早く現れるかを確かめようとした点に特徴がある。能力の面ごとに伸びる速さが違うかもしれない、という問題意識に基づく設計である。
何がわかった?
事前から事後への伸びは、全体的な読む力では有意だったが、基礎的な言語能力では有意ではなかった。著者は、少なくとも成人の第二言語学習者では、多読の効果は語彙・文法などの言語能力より、全体的な読む力のほうに早く現れるのではないかと考察している。なぜ言語能力の面によって伸びる速さが違うのか、その理由についても論じている。多読の効果を短期間で評価するとき、何を測るかによって結果が変わりうることを示した研究である。この結果は、文法や語彙のテストだけを使った短期の研究では、多読の効果が見えにくくなる可能性を示している。
- 多読の前後で、全体的な読む力は有意に伸びた
- 語彙・文法などの基礎的な言語能力の伸びは有意ではなかった
- 多読の効果は、言語知識より全体的な読む力に早く現れる可能性がある
読むときの注意(研究の限界)
抄録からは参加人数、期間、読んだ量、使ったテストを確認できず、対照群がない事前・事後の比較であれば、伸びが多読だけによるとは言い切れない。基礎的な言語能力が「伸びなかった」のは期間が短かったためかもしれず、長く続ければ伸びる可能性は残る。
多読をする人・教える人へ
多読を始めてすぐに文法問題や単語テストの点が上がらなくても、がっかりする必要はない。先に読む力そのもの(読み慣れ)が育ち、細かい知識はもっと後から伸びてくる可能性がある。多読の効果を確かめるなら、読解のテストや読む速さも見るとよい。授業評価でも、短期の文法テストだけで多読の効果を判断しないことが大切だ。
今日からできること
- 多読の成果は単語テストより「前より楽に読めるか」「1冊を何分で読めるか」で確かめる
- 授業では多読の評価に、読解テストや読書量・読む速さの記録を取り入れる
確認方法:Crossref(書誌)+ERICの抄録で確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
関連する研究
多読を続ける力は「役に立つ」より「読むのが心地よい」という気持ちから
Yamashita, J. (2004)
参加者:日本の大学生59名、期間13〜14週
実験2019文法の授業を多読に置きかえた1年間、高専1年生の文法・語彙と読解がともに上昇
Aka, N. (2019)
参加者:405名(統制群205名・多読群200名)、置きかえた授業:年間60時間
メタ分析2015多読の効果を34研究まとめたメタ分析:中程度の効果がはっきり出た
Nakanishi, T. (2015)
対象:34研究・43効果量・合計3,942名
実験2013授業外の多読を全学で必修に:京都の大学で約2,200名、前年の学年より読解の点が上昇
Robb, T., & Kano, M. (2013)
2009年度の対象:約2,200名(レベル別合計2,220名)、教員約70名