ネイティブの子ども向けの本は意外に難しい:多読にはGRのほうが向いている
Webb, S., & Macalister, J. (2013). Is Text Written for Children Useful for L2 Extensive Reading?. TESOL Quarterly, 47(2), 300–322 doi:10.1002/tesq.70
ひとことで言うと:ネイティブの子ども向けの本も、大人の本と同じくらい単語が難しい。英語学習者にはGRが読みやすい。
対象:688の文章(子ども向け・英語学習者向け・大人向け)をコーパス分析
なぜこの研究?
「ネイティブの子ども向けの本なら簡単だから、多読に使える」と考える人は多い。しかし、英語を母語とする子どもは、本を読み始める時点ですでに何千語も知っている。子ども向けの本が、外国語として英語を学ぶ人にとって本当にやさしいのかは、語彙の面から確かめられていなかった。著者らは、子ども向け・学習者向け・大人向けの文章を比べ、多読の教材としてどれが適しているかを調べた。
どうやって調べた?
子ども向けに書かれた文章、英語学習者向けの文章(GRなど)、大人向けの文章の計688テキストを集め、コーパス(大量の文章のデータ)として分析した。Nation (2006) の頻度順の語彙リストを使い、それぞれの文章の98%を知っている語でカバーするには、最頻出の何語まで知っている必要があるかを計算した。また、3,000語レベル以上(3番目〜14番目の1,000語リスト)の語が各種類の文章でどれだけ繰り返し出てくるかを調べ、読みながら語彙を自然に学べる可能性も比べた。
何がわかった?
98%の語を知っている状態に達するには、子ども向けの文章でも大人向けの文章でも、約1万語(+固有名詞などの語)の語彙が必要だった。つまり、子ども向けの本の語彙の難しさは、大人向けの本とほとんど変わらなかった。これに対し、学習者向けの文章では、約3,000語族(+固有名詞など)で98%に達した。また、3,000語レベル以上の語が繰り返し出てくる度合いは、学習者向けの文章が最も高く、次いで子ども向け、大人向けの順だった。繰り返し出会うほど語は覚えやすいので、学習者向けの本は語彙を学ぶうえでも有利である。著者らは、子ども向けの本も大人向けの本も、GRほど外国語学習者の多読には適していないと結論づけた。
- 子ども向けの文章で98%カバーに必要な語彙は、大人向けと同じく約1万語だった
- 学習者向けの文章(GRなど)では、約3,000語族で98%に達した
- 3,000語レベル以上の語の繰り返しは、学習者向け>子ども向け>大人向けの順に多かった
- 子ども向けの本も大人向けの本も、GRほど外国語学習者の多読に適していない
主な数字
- 分析した文章:688
- 98%カバーに必要な語彙:子ども向け・大人向け=約10,000語(+固有名詞等)
- 学習者向けの文章=約3,000語族(+固有名詞等)
読むときの注意(研究の限界)
語彙の面だけからの分析で、絵の助け、話の単純さ、文の短さなど、子ども向けの本の読みやすさに関わる他の要素は考慮していない。実際の学習者に読ませて理解度を測ったわけではない。本文はオープンアクセス版にアクセスできなかったため、ここでは抄録に基づいて説明しており、分析した本の種類や年齢層ごとの細かい数値は載せていない。
多読をする人・教える人へ
「ネイティブの子ども向けだから簡単」とは限らない。児童書は絵が多く話も単純に見えるが、使われている語彙は意外に難しい。多読の入口や中心には、GRなど学習者向けにレベル分けされた本を使うのが効率的である。絵本や児童書を読むなら、語彙の難しさを意識して、実際に読んでみてわかるかを確かめたい。GRは同じ語が繰り返し出てくるように作られているので、語彙を増やす面でも有利である。
今日からできること
- 自習:多読の中心はGRやレベル別の本にする。児童書は「やさしいはず」と思い込まず、試し読みしてから選ぶ
- 自習:GRで同じレベルを何冊も読み、繰り返し出てくる語を自然に覚える
- 授業:学級文庫をそろえるときは、ネイティブ向け児童書よりも、まず学習者向けのレベル別図書を優先する
確認方法:Crossref(書誌・抄録)で確認(本文は未確認)。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
関連する研究
原書を辞書なしで読むには8,000〜9,000語、聞くには6,000〜7,000語
Nation, I. S. P. (2006)
作成した語彙リスト:1,000語族×14本
実験2000辞書なしで物語を楽しむには、知っている単語が約98%必要
Hu, M. (Hsueh-chao), & Nation, P. (2000)
参加者66名、文章は673語の物語、4つの版(100%・95%・90%・80%)
実験2014GRの最上級から原書の小説へ:語彙カバー率は下がっても楽しんで読めた
Uden, J., Schmitt, D., & Schmitt, N. (2014)
参加者4名、レベル5・6のGR計20冊(週1冊)+原書2冊、約29週間
レビュー2015多読で語彙を伸ばす原則:何より「量」、最低でも2週間にGR1冊
Nation, P. (2015)
最低読書量の目安:2週間にGR 1冊(Nation & Wang, 1999 に基づく)