多読で語彙を伸ばす原則:何より「量」、最低でも2週間にGR1冊
Nation, P. (2015). Principles guiding vocabulary learning through extensive reading. Reading in a Foreign Language, 27(1), 136–145 doi:10.64152/10125/66705
ひとことで言うと:多読で単語を増やすいちばんのコツは、とにかくたくさん読むこと。辞書や単語カードを組み合わせるとさらに効く。
対象:実験ではなく、先行研究と理論をもとに原則を整理した論文
なぜこの研究?
語学の授業にはさまざまな活動があり、どれを入れ、どう行うかは、研究に支えられた原則で決めるのが理想である。多読は語彙を伸ばすと言われてきたが、「なぜ授業に入れるべきか」「どうやれば語彙がいちばん伸びるか」を研究に基づいて整理したものは少なかった。語彙研究の第一人者であるネーションが、多読と語彙学習に焦点をしぼって、その原則をまとめた。
どうやって調べた?
新しいデータを集めた実験ではなく、これまでの語彙研究・多読研究を根拠に原則を整理した論文である。前半では、多読を授業に入れる理由を3つの原則(語彙学習が起こる条件、授業の「4本柱」、時間に見合う効果があるか)から説明する。後半では、多読の進め方の原則を重要な順に、①理解できる文章を読む、②量を確保する、③いろいろな学習の機会を作る、④学習の条件を最大限に生かす、の4つにまとめ、最後に先生向けの具体的な指針を8つ示している。読書量と時間の目安は、自著(Nation, 2014)の試算表を引用している。
何がわかった?
語彙は「同じ語に何回出会うか」と「出会ったときの注意の質」で身につく。多読では同じ語にさまざまな文脈で出会えるので、知識が強まり、豊かになる。授業時間の配分としては、多読を全体の約16分の3にあてるのが目安とされる。初級〜中級の学習者には、語彙を制限して書かれたGRが欠かせない。知らない語が約2%以内の本が適切で、原書は語彙サイズ5,000語の学習者でも1冊に2,000語以上の未知語が出てくるからである。語彙を増やすうえで最も大切なのは量で、最低でも「2週間にGR1冊」を読むべきだとする。さらに、ごくやさしい本を速く読む「流暢さの練習」、推測した語を辞書で確認すること、単語カードでの意図的な学習、同じ本の読み返し、読んだ内容を話したり書いたりする活動を組み合わせると効果が高まると述べている。
- 語彙学習は、出会う回数と、出会ったときの注意の質(推測・確認・さまざまな文脈)で決まる
- 初級〜中級の学習者にはGRが必須。知らない語は全体の約2%以内が目安
- 語彙を増やす最大のカギは量。最低でも「2週間にGR1冊」
- 高いレベルの語彙ほど必要な読書量が急に増える(試算表)
- 辞書での確認・単語カード・読み返し・速読練習・読んだ内容を話す/書く活動を組み合わせると効果が高まる
主な数字
- 最低読書量の目安:2週間にGR 1冊(Nation & Wang, 1999 に基づく)
- 多読にあてる時間の目安:授業全体の約16分の3
- 試算(1年に約1,000語族を、各語12回ずつ出会って覚える想定):2,000語レベルまでは年30万語、5,000語レベルでは年100万語
- 年100万語は、毎分150語なら週4時間10分(1日約50分・週5日、年40週)
- 原書の小説:語彙5,000語の学習者でも、1冊に2,000語以上の未知語が含まれる
読むときの注意(研究の限界)
新しい実験データではなく、既存の研究と理論からの整理である。著者自身も、「多読の時間の3分の2は少し未知語のある本、3分の1はごくやさしい本」といった配分には直接の研究的根拠はないと断っている。辞書の使用を勧めている点は、「辞書を引かずに読む」ことを重視する多読の立場(Day & Bamford など)とは考え方が違う部分で、読み手の目的に応じて使い分けが必要である。
多読をする人・教える人へ
語彙を増やしたいなら、まず「量」を最優先にする。レベルが上がるほど必要な読書量は大きく増えるので、毎日少しずつでも読み続ける習慣が大切である。ただ読むだけでなく、気になった語を後で辞書で確かめたり、単語カードにしたりすると、多読で出会った語が定着しやすくなる。また、ときにはごくやさしい本を速く読む時間を作ると、読む速さが上がり、同じ時間でより多く読めるようになる。
今日からできること
- 自習:最低ラインは「2週間にGR1冊」。カレンダーに読了日を書き込んで守る
- 自習:読書中は止まらずに読み、読み終えた後で気になった語だけ辞書で確認して単語カードにする
- 自習:週に1回は、前に読んだ本やごくやさしい本を「速く読む」練習にあてる
- 授業:読んだ本の内容を2〜3文で話す・書く活動をつなげ、出会った語を使う機会を作る
確認方法:Crossref(書誌)+OpenAlexの抄録+RFL掲載の本文PDFで確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
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