辞書なしで物語を楽しむには、知っている単語が約98%必要
Hu, M. (Hsueh-chao), & Nation, P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. Reading in a Foreign Language, 13(1), 403–430 doi:10.64152/10125/66973
ひとことで言うと:知らない単語が5語に1語ある物語は誰も理解できなかった。楽に読むには「知っている語が約98%」が目安。
対象:ニュージーランドの大学進学準備英語コースで学ぶ成人66名(タイ・中国・日本・韓国など多様な母語)
なぜこの研究?
辞書を引かずに楽しく読む(多読のような読み方)には、文章中の単語をどのくらい知っていればよいのか。それまでの研究では「95%」という数字が言われていたが、はっきりした根拠は少なかった。知らない語の割合(密度)だけを変えた同じ文章を読ませれば、語彙と理解の関係を直接確かめられる。著者らは、物語文の理解に必要な「既知語の割合(カバー率)」を明らかにしようとした。
どうやって調べた?
電話の相手にだまされる人物を描いた673語の物語を用意し、頻度の低い語を意味のない造語に置き換えて、既知語100%・95%・90%・80%の4つの版を作った(80%版では5語に1語が造語)。造語以外の語はすべて最頻出2,000語以内に書き換えた。参加者は語彙レベルテストで一定以上の力がある成人66名で、4つの版のどれかに無作為に割り当てられた。読んだ後、文章を回収してから、14問の多肢選択テスト(14問中12問以上を「十分な理解」とした)と、問いに沿って内容を書き出す再生テスト(124点満点)を受けた。結果は回帰分析(カバー率から理解度を予測する計算)で分析した。
何がわかった?
既知語100%の版では17人中15人が十分に理解できたが、95%版では17人中6人、90%版では16人中4人にとどまり、80%版では一人も十分に理解できなかった。多肢選択テストの平均点は100%版12.24点、95%版10.18点、90%版9.5点、80%版6.06点で、カバー率が下がるほど理解は下がった。回帰分析では、カバー率が1%上がるごとに理解度が予測どおり上がる関係が見られ、ある一点で急に理解できるようになる「境目」というより、なだらかな関係だった。著者らは、95%では大半の人が十分に理解できないことから、辞書なしで物語を十分に理解するには約98%のカバー率が必要だと推定した。この「98%」はその後、多読の本選びや語彙研究で最もよく引用される数字の一つになった。
- 既知語80%(5語に1語が未知語)の版では、十分に理解できた人は一人もいなかった
- 95%版・90%版では一部の人は十分に理解できたが、大半はできなかった(95%版で17人中6人、90%版で16人中4人)
- カバー率が上がるほど理解度は予測どおりに上がり、急な「境目」より連続的な関係が見られた
- 物語を辞書なしで十分に理解するには、既知語が約98%必要だと推定された
- 読み手は自分の理解度をかなり正確に予測でき、3分の2が実際の得点との差2点以内だった
主な数字
- 参加者66名、文章は673語の物語、4つの版(100%・95%・90%・80%)
- 十分に理解できた人:100%版 17人中15人/95%版 17人中6人/90%版 16人中4人/80%版 0人
- 多肢選択テスト(14点満点)の平均:12.24/10.18/9.5/6.06
- 推定される必要カバー率:約98%(物語文の場合)
読むときの注意(研究の限界)
使ったのは673語の短い物語1つだけで、説明文や長い本にそのまま当てはまるとは限らない。未知語は造語に置き換えたもので、実際の本に出てくる「推測しやすい未知語」とは条件が違う。各版の人数は16〜17名と少なく、参加者は英語圏で学ぶ比較的上級の大人だった。後に Kremmel et al. (2023) がスリランカの学習者で同じ方法を試したところ、結果は完全には再現されなかった。
多読をする人・教える人へ
「知らない単語が50語に1語」程度までが、辞書なしでスラスラ楽しめる目安になる。知らない語が次々に出てきて、数行ごとに引っかかるような本は、多読には難しすぎる。背伸びせずにレベルを下げ、「ほぼ全部わかる本」を選ぶことが、たくさん読み続けるための近道である。また、読み手は自分の理解度をかなり正しく感じ取れるので、「わかった気がしない」本は無理に続けなくてよい。
今日からできること
- 自習:本を選ぶとき、最初の1ページで知らない語に印をつけてみる。数行ごとに引っかかるようなら1つ下のレベルにする
- 自習:「なんとなく話がわからない」という自分の感覚を信じて、合わない本はやめて別の本に移る
- 授業:レベル選びの目安として「知らない語は50語に1語くらいまで」と生徒に具体的に伝える
確認方法:Crossref(書誌)+RFL掲載の本文PDF(スキャン画像で方法・結果の表・考察を確認)。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
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