実験・2011年

知っている単語の割合と理解度はほぼ比例:急に読めるようになる「境目」はない

Schmitt, N., Jiang, X., & Grabe, W. (2011). The Percentage of Words Known in a Text and Reading Comprehension. The Modern Language Journal, 95(1), 26–43 doi:10.1111/j.1540-4781.2011.01146.x

語彙読解大学生

ひとことで言うと:知っている単語が多いほど、文章はそのぶんだけよくわかる。「何%から急にわかる」という境目はなかった。

対象:8か国の英語学習者661名

なぜこの研究?

文章を理解するのに必要な既知語の割合(カバー率)について、先行研究では95%(Laufer, 1989)や98%(Hu & Nation, 2000)という数字が示されてきた。しかし、これらは少人数の研究や限られた文章に基づいており、「ある割合を超えると急に理解できるようになる境目(閾値)があるのか」、それとも「知っている語が増えるほど少しずつ理解が上がるのか」ははっきりしていなかった。著者らは、多くの学習者のデータでこの関係を確かめようとした。

どうやって調べた?

8か国の661名の学習者を対象にした。まず、2つの文章から取り出した語を使った語彙テストを受け、それぞれの文章中の語を何%知っているかを推定した。その後、実際にその2つの文章を読み、文章ごとの読解テストに答えた。既知語の割合と読解テストの得点の関係を分析し、ある割合で得点が急に上がる「境目」があるかを調べた。なお、後の Kremmel et al. (2023) の紹介によると、語彙テストは学習者が知っている語にチェックをつける形式(Yes/Noテスト)で、分析できたのはカバー率90〜100%の範囲だった。

何がわかった?

既知語の割合と理解度の間には、比較的まっすぐな(直線的な)関係が見られた。知っている語の割合が上がるほど理解度も上がり、ある割合を超えたところで急に理解がよくなるような「境目」は見られなかった。つまり、「98%に届かなければ読めない」のではなく、1%でも多く知っていれば、そのぶん理解は上がるということである。著者らは、学術的な文章を読む人にとっては、98%が目標とするカバー率としてより妥当だと述べている。Kremmel et al. (2023) の紹介では、98%のカバー率で読解問題の約70%に正解できる程度とされ、既知語が100%でも正答率は平均75%ほどにとどまった。語彙は理解に欠かせないが、それだけで理解が決まるわけではないことも示している。

  • 既知語の割合と理解度は、ほぼ直線的な関係だった
  • ある割合を超えると急に理解が上がる「境目(閾値)」は見られなかった
  • 学術的な文章を読む目標としては、98%のカバー率が妥当とされた
  • Kremmel et al. (2023) の紹介では、既知語100%でも読解問題の正答率は平均75%ほどだった

主な数字

  • 参加者:8か国の661名、文章2つ
  • 既知語率と理解度はほぼ直線的な関係(明確な境目なし)
  • 学術的な文章の目標カバー率:98%(Kremmel et al., 2023 の紹介では、このとき読解問題の約70%に正解する程度)

読むときの注意(研究の限界)

本文はオープンアクセスでないため、ここでは抄録と、Kremmel et al. (2023) による紹介に基づいて説明している。同論文は、語彙の測り方が「知っている語にチェックをつける」自己申告型で、本当に意味を知っているかを確かめていない点や、分析できたのがカバー率90〜100%の範囲に限られる点を問題として挙げている。使った文章は2つだけで、物語ではなく学術的な文章が中心である。

多読をする人・教える人へ

知っている語の割合が1%でも上がれば、理解も少しずつ上がる。「98%に届かないと読めない」と考える必要はなく、やさしい本ほど理解しやすく楽しい、ということである。多読では、既知語率の高い本を選ぶほど快適に読める。一方で、すべての単語を知っていても理解が完璧になるわけではないので、文章の流れをつかむ力や背景知識を育てるためにも、たくさん読むことが役に立つ。

今日からできること

  • 自習:「少し難しいけど読める」より「ほぼ全部わかる」本を選ぶ。理解度は既知語の割合とともに上がる
  • 自習:単語を知っていても内容がつかめないときは、同じテーマのやさしい本で背景知識を増やす
  • 授業:説明文の読解では、事前に重要語を確認してカバー率を上げてから読ませる

確認方法:Crossref(書誌・抄録)で確認。テスト形式・正答率は Kremmel et al. (2023) 本文の紹介による(本論文の本文はオープンアクセスでないため未確認)。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。

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