コーパス研究・2006年

原書を辞書なしで読むには8,000〜9,000語、聞くには6,000〜7,000語

Nation, I. S. P. (2006). How Large a Vocabulary is Needed For Reading and Listening?. The Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82 doi:10.3138/cmlr.63.1.59

語彙読解リスニングGraded Readers

ひとことで言うと:ふつうの英語の本を辞書なしで読むには約8,000〜9,000語、会話や映画なら約6,000〜7,000語が必要。

対象:学習者ではなく、英国の大規模コーパス(British National Corpus)から作った語彙リストと、さまざまな書き言葉・話し言葉の文章を分析

なぜこの研究?

「英語の本を辞書なしで読むには、いくつ単語を知っていればいいのか」は、学習者にも先生にも切実な問いである。理解に必要な既知語の割合(カバー率)は98%程度とする研究(Hu & Nation, 2000)があったが、それを「何語知っていればよいか」という語彙サイズに置き換えるには、英語の語を使用頻度の順に並べた信頼できる語彙リストが必要だった。そこで著者は、大規模なコーパス(大量の英文を集めたデータベース)から語彙リストを作り、必要な語彙サイズを推定した。

どうやって調べた?

英国の大規模コーパス(British National Corpus)をもとに、よく使われる順に1,000語族ずつまとめた語彙リストを14本(計14,000語族分)作った。語族とは、use, used, useful のように同じ語から変化・派生した語をひとまとまりに数える単位である。まず、このリストを試験的に使い、並び順が適切か、重要な語が抜けていないかを確かめた。次に、小説や新聞などの書き言葉と、会話や映画などの話し言葉の文章をこのリストで分析し、「最頻出の何千語族を知っていれば文章の何%をカバーできるか」を計算した。

何がわかった?

試験的な検証の結果、作成した14本のリストは適切な順序で並んでおり、目立った抜けもないことが確認された。このリストを使って計算すると、理解に既知語98%が必要だとした場合、書かれた文章を辞書なしで理解するには8,000〜9,000語族、話し言葉を理解するには6,000〜7,000語族が必要になると推定された。話し言葉のほうが、必要な語彙はやや少なくて済むという結果である。これらの数字は、一般的な英語学習者がふだん身につけている語彙よりかなり大きい。この研究はその後の語彙研究で広く引用され、「原書を読むにはどれだけの語彙が必要か」を考えるときの基本的なデータになっている。

  • BNCから作った1,000語族ごとのリスト14本は、適切な順序で、目立った漏れもなかった
  • カバー率98%を前提とすると、書き言葉の理解には8,000〜9,000語族が必要
  • 話し言葉の理解には6,000〜7,000語族が必要
  • 話し言葉は書き言葉より少ない語彙でカバーできる

主な数字

  • 作成した語彙リスト:1,000語族×14本
  • 書き言葉の理解:8,000〜9,000語族(カバー率98%を前提)
  • 話し言葉の理解:6,000〜7,000語族

読むときの注意(研究の限界)

推定は「98%のカバー率が必要」という前提に基づいており、その前提自体にも、後の研究(Schmitt et al., 2011; Kremmel et al., 2023)で「はっきりした境目はない」「文章や問題形式で変わる」といった疑問が出されている。語族単位で数えているため、派生語をすべて理解できる学習者を想定している点にも注意がいる。本文はオープンアクセスでないため、ここでは抄録に基づいて説明しており、分析した文章の種類ごとの細かい数値は載せていない。

多読をする人・教える人へ

原書を辞書なしで楽しむには、相当な語彙が必要である。だからこそ、語彙をコントロールしたGRやレベル別の本で、今の語彙で98%わかる本を読みながら少しずつ語彙を広げていくのが現実的な道筋になる。リスニングは読むより少ない語彙で済むので、聞き読みやドラマなどの音声も、語彙を増やしながら楽しめる。長い道のりだが、多読と語彙学習を組み合わせて続けることで、一歩ずつ近づける。

今日からできること

  • 自習:今は原書が難しく感じても当然。まずGRで「98%わかる本」を大量に読む
  • 自習:語彙サイズテストで自分の語彙数を知り、1,000語ずつ増やす目標を立てる
  • 授業:「原書には8,000語以上が必要」という数字を示し、GRで段階的に進む意味を伝える

確認方法:Crossref(書誌・抄録)で確認(本文はオープンアクセスでないため未確認)。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。

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