書籍・2002年

日本に「100万語多読」を広めた本:辞書なし・とばし読み・合わない本はやめる

酒井邦秀 (2002). 快読100万語!ペーパーバックへの道――辞書なし、とばし読み英語講座. 筑摩書房(ちくま学芸文庫)、320頁、ISBN 978-4-480-08704-1 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480087041/

日本の研究動機づけGraded Readers長期

ひとことで言うと:辞書を引かず、わからない所は飛ばし、やさしい本をたくさん読もう。100万語読めば原書も楽しめる、という本。

対象:実験研究ではなく、著者の多読指導の経験に基づく英語習得法の本

なぜこの研究?

日本の英語学習は、辞書を引いて一語一語訳しながら読む「訳読」が中心で、何年勉強しても英語の本を楽しめるようにならない人が多かった。英米児童文学と英語教育を専門とする著者は、こうした「つらい勉強」としての英語に疑問を投げかけ、子どもから大人まで多くの人に多読を指導してきた。その経験をもとに、ごくやさしい本から大量に読むことで英語力を身につける方法を、一般の学習者に向けてまとめたのが本書である。

どうやって調べた?

研究論文ではなく、多読の実践と考え方を一般向けに解説した本である。第1部「実践編」では、多読の道のりを山登りにたとえ、レベルを色で分けながら、ごくやさしい本(ピンクレベル)から始めてGRへと進む段階ごとに、「辞書を捨てる」「和訳しない」「途中でやめる」「基本語の大切さ」などのポイントを説明している。第2部「理論編」では、「音」「単語」「語順」についての常識を捨てる(unlearn する)ことをテーマに、「語学は単語」という考え方への疑問や、どのくらい読めばよいのかといった問題を論じている。

何がわかった?

本書の中心にあるのは、「辞書をひかない」「わからない語はとばす」「むずかしかったらすぐ投げ出して次の本に移る」という読み方である。出版社の紹介によれば、やさしすぎるくらいやさしい本から始めて、無理なく読めるレベルの本をたくさん読んでいくうちに、読書量が100万語に届くころには、ペーパーバック(原書)や英語のウェブサイトを楽しめる力が身につくとしている。この3つの読み方は、のちに「多読三原則」として知られるようになり、日本の多読実践に大きな影響を与えた。例えば、豊田高専の多読授業(Nishizawa et al., 2010)も、この三原則に沿って行われ、やさしい本から長期間読み続けることで成果を上げたと報告している。「和訳しない」「かたまりで読む」など、日本人学習者が身につけてきた読み方を見直すことを強調している点も特徴である。

  • 読み方のポイント:辞書を引かない、わからない語は飛ばす、難しければやめて次の本へ
  • やさしすぎるくらいやさしい本から始め、無理なく読めるレベルの本を大量に読む
  • 読書量の目標は100万語。そのころには原書や英語のウェブサイトを楽しめる力がつくとする
  • 和訳せず、かたまりで意味をとる読み方への切り替えを重視する
  • この「三原則」は日本の多読実践(例:Nishizawa et al., 2010)に広く受け継がれた

主な数字

  • 刊行:2002年6月10日、文庫判320頁
  • 目標とする読書量:100万語

読むときの注意(研究の限界)

実験やデータで効果を検証した研究書ではなく、著者の指導経験に基づく一般向けの本である。「100万語で原書が楽しめる」という目安も、統制された研究で確かめられた数値ではない。また、辞書を使わない読み方は、辞書での確認を勧める Nation (2015) などの立場とは異なる。ここでの内容の説明は、出版社の内容紹介・目次と、本書の考え方を参照した他の論文の記述に基づいている。

多読をする人・教える人へ

「辞書を引かない」「わからないところはとばす」「合わない本はやめる」は、日本の多読学習者に広く受け継がれている考え方である。完璧に理解しようとせず、楽しく読み進めることを優先しよう。100万語は長い道のりだが、やさしい本から積み上げれば、少しずつ確実に近づける。訳しながら読むクセが抜けないときは、思い切ってもっとやさしい本に戻るのが近道である。

今日からできること

  • 自習:読書中は辞書を閉じておき、わからない語は飛ばして話の流れを追う
  • 自習:読み始めて「つまらない」「難しい」と感じたら、ためらわず別の本に替える
  • 自習:読んだ語数を記録し、10万語・30万語・100万語と節目を目標にする
  • 授業:多読を始める最初の授業で、三原則を紹介して「訳さずに読む」ことを練習する

確認方法:CiNii Books(書誌)+筑摩書房の商品ページ(刊行日・頁数・ISBN・内容紹介・目次)で確認。三原則の受け継がれ方は Nishizawa et al. (2010) 本文による。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。

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