英語が苦手な高専生が5年間の多読授業で変わった:読書量が多いほどTOEICも高い
Nishizawa, H., Yoshioka, T., & Itoh, K.(西澤一・吉岡貴芳・伊藤和晃) (2010). Extensive Reading Program Which Changes Reluctant Engineering Students into Autonomous Learners of English(工学系学生の苦手意識を克服し自律学習へ導く英語多読授業). 工学教育(Journal of JSEE), 58(3), 12–17 doi:10.4307/jsee.58.3_12
ひとことで言うと:英語が苦手な高専生も、やさしい本を何年も読み続けたら、たくさん読んだ人ほどTOEICの点が高くなった。
対象:豊田工業高等専門学校 電気・電子システム工学科の学生(4年間多読授業を続けた本科5年生以上30名、5年間受講した専攻科生18名ほか)
なぜこの研究?
技術者に英語が必要になる一方で、工学系の学生の多くは英語に苦手意識を持ち、TOEICの平均点も伸び悩んでいた。著者らは、文法訳読もコミュニケーション重視の授業も、学生が「英語のまま意味を理解する(英語で考える)」力を育てられていないと考えた。そして、理解できる英語を大量に読む多読授業なら、英語が苦手な平均的な学生でも力を伸ばせるのではないかと考え、豊田高専での実践を報告した。
どうやって調べた?
豊田高専の電気・電子システム工学科で、従来の英語の授業はそのままに、各学年1単位の多読授業を専門科目として追加した(2004年度から本科2年〜専攻科2年に拡大)。授業は酒井邦秀の「辞書は引かない/わからないところは飛ばす/つまらなくなったらやめる」の三原則に沿い、図書館にYL(読みやすさレベル)0.0〜3.0中心のやさしい英語の本を集めた。効果は、読書量(累積語数)とTOEICの得点(年間の自己ベスト)で調べた。4年間多読を続けた30名を読書量で3群に分けて比べ、英語圏に10か月留学した学生の平均点とも比較した。成績は初見の英文の読解試験やTOEICを中心に評価し、読書量による評価は10%以下に抑えた。
何がわかった?
多読授業の導入後、学年を重ねるごとにTOEICの平均点は上がり、4年目以降は平均500点以上で安定した。4年間続けた学生を読書量で分けると、累積約31万語(中央値)の群の平均は435点、約66万語の群は498点、約181万語の群は604点と、読んだ量が多いほど得点が高く、最も多く読んだ群は英語圏へ10か月留学した学生の平均605点とほぼ同じだった。5年間受講した専攻科生18名は累積101万語(中央値)を読み、平均518点だった。学生の読書記録を見ると、前半の1〜3年目はYL 0.0〜2.5のごくやさしい本を中心に読み、累積50万語でYL 2.0、100万語でYL 3.0あたりの本を読んでいた。著者らは、授業時間内に読書時間を確保すること、ごくやさしい本から始めることが不可欠だとまとめている。
- 4年間多読を続けた学生では、読書量が多い群ほどTOEICの平均点が高かった(435点・498点・604点)
- 最も多く読んだ群(約181万語)の平均は、10か月の英語圏留学経験者(605点)とほぼ同じだった
- 5年間受講した専攻科生18名は累積101万語(中央値)を読み、TOEIC平均518点だった
- 学生は前半3年間はYL 0.0〜2.5のごくやさしい本を中心に、長期間読み続けていた
- 課外だけでは読み続ける学生は少なく、正規の授業として読書時間を確保することが不可欠だった
主な数字
- 読書量別のTOEIC平均:約31万語群 435点(9名)/約66万語群 498点(13名)/約181万語群 604点(8名)
- 比較:英語圏への10か月留学経験者69名の平均 605点
- 5年間受講した専攻科生18名:累積読書量の中央値101万語、TOEIC平均518点
- 授業時間:45分×30週×5年間=約113時間
- 所蔵図書:初年度600冊 → 2004年度約3,000冊 → 2009年約15,000冊
読むときの注意(研究の限界)
1つの高専の1学科での実践報告で、学生を無作為に群分けした実験ではない。読書量の多い学生は、もともと英語が得意だったり意欲が高かったりした可能性があり、「多く読んだから点が上がった」と断定はできない。留学経験者との比較も、著者ら自身が「体験の質が異なるので安易に比較できない」と断っている。TOEICは年間の自己ベストを使っている点にも注意が必要である。
多読をする人・教える人へ
日本の学校でも、正規の授業として長く続ければ、英語が苦手な学生でも多読で力をつけられることを示した実践である。「100万語」規模の読書量が一つの目安になり、そのためには数年単位で続ける仕組みが大切である。また、成功のカギは「ごくやさしい本から始める」ことで、YL 2.0程度から始めると訳すクセが抜けにくいと著者らは述べている。成績を読書量で評価すると難しい本を無理に読む学生が増えるため、評価の仕方にも工夫がいる。
今日からできること
- 自習:絵が多く文字の少ないYL 1.0以下の本から始め、「訳さずにわかる」感覚をつかむ
- 自習:累積語数を記録し、まずは30万語、次に100万語を目標にする
- 授業:課外の宿題にせず、毎週の授業内に読書時間を確保して数年続ける
- 授業:読書量を成績に大きく入れない(著者らは10%以下)。量のために難しい本を選ぶのを防ぐ
確認方法:Crossref(書誌)+J-STAGEの本文PDF(表・図の説明・実践のポイント)で確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
関連する研究
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多読群と統制群の比較:d = 0.57(95%信頼区間 0.46〜0.68)、事前→事後:d = 0.79