日本の大学・短大での3つの実験:多読クラスは3回とも通常授業を上回った
Mason, B., & Krashen, S. (1997). Extensive reading in English as a foreign language. System, 25(1), 91–102 doi:10.1016/S0346-251X(96)00063-2
ひとことで言うと:英語が苦手な学生も、本を選んで読むクラスに変えたら、通常の授業のクラスに追いつき、追い越した。
対象:日本の大学・短大の学生(実験1:女子大学の2クラスから各20名、実験2:4クラス128名、実験3:3クラス)
なぜこの研究?
多読を支持する研究は増えていたが、その多くは英語が日常的に使われる環境(ESL)で行われていた。日本のような外国語環境でも、通常の授業と同じくらい成果が出るのか。また、「多読は意欲が高く成績の良い学生にしか効かず、文法や語彙の足りない苦手な学生には無理だ」という意見もあった。さらに、読んだ後に英語で書く活動を加えると効果が上がるのかもわかっていなかった。著者らは、これらの疑問に3つの実験で答えようとした。
どうやって調べた?
実験1:大阪の女子大学で、英語の単位を落とした再履修クラスが後期の1学期間、GR(600〜1,600語レベル、約100冊)を授業内外で読み、日本語で短い要約と日記を書いた。前期と同じ通常授業を続けたクラスと、100問のクローズテスト(文章の空所を埋めるテスト)で比べた。実験2:難関4年制大学と短大の計4クラス(128名)で、1年間の多読クラスと、短く難しい文章を辞書を引いて精読する通常クラスを比べた。実験3:1年間の多読で、要約を英語で書くクラス、日本語で書くクラス、クローズ練習を週3〜4時間行うクラスを比べ、クローズテスト・読解テスト・作文・読む速さを測った。
何がわかった?
実験1では、再履修クラスは最初のテストで通常クラスに大きく遅れていたが、学期末にはほぼ追いつき、伸びは通常クラスより有意に大きかった。学生は平均約30冊を読み、日記からは英語への態度が大きく前向きに変わったことがうかがえた。実験2では、大学でも短大でも多読クラスの伸びが通常クラスを有意に上回り、要約の作文も「良い」と評価されるものが増えた。実験3では、英語で要約を書いた多読クラスがクローズテストで有意に大きく伸び、両方の多読クラスが読解テストで比較クラスを上回った。日本語で要約を書いたクラスは、作文と読む速さの伸びが最も大きかった。3つの実験の効果量(差の大きさ)はすべてプラスで、調整後の平均は d = 0.73 だった。
- 英語が苦手な再履修クラスでも、1学期の多読で通常クラスにほぼ追いつき、態度も前向きに変わった
- 難関大学でも短大でも、1年間の多読クラスがクローズテストで通常クラスを有意に上回った
- クローズ練習を重ねたクラスより、多読クラスのほうが読解テストで上回った
- 要約を日本語で書いた多読クラスは、作文と読む速さの伸びが最も大きかった
- 3つの実験のすべての比較で多読が有利で、効果量の調整後平均は d = 0.73
主な数字
- 実験1:再履修クラスは1学期で平均約30冊(目標50冊)を読んだ
- 実験1のクローズテスト(100問):多読クラス 22.55→31.40点、通常クラス 29.70→33.05点
- 実験2のクローズテストの伸び:大学 多読18.85点 vs 通常10.59点/短大 多読17.06点 vs 通常7.50点
- 効果量:実験1 d = 0.70、実験2 d = 1.11(大学)・1.47(短大)、全体の調整後平均 d = 0.73
読むときの注意(研究の限界)
どの実験も既存のクラスを使っており、学生を無作為に振り分けたわけではない。実験1は2クラスだけで、測ったのも1種類のテストのみ、同じ教員が両方のクラスを教えていた(著者自身が限界として挙げている)。実験間で効果量にばらつきがあり、その理由は十分に説明されていない。読む速さは学生自身の申告に基づいている。
多読をする人・教える人へ
英語が苦手・やる気が出ないという学生にこそ、自分で選んだやさしい本を読む多読が効く可能性がある。問題練習を重ねるより、読む量を増やすほうがテストの力にもつながりうる。また、多読の記録は英語で書かせなくても、日本語で感想を書くだけで十分な効果が見られた。書く負担を軽くして読む量を確保することが、多読を続ける工夫になる。
今日からできること
- 自習:英語が苦手でも、GRのいちばんやさしいレベルから始めて冊数を積み重ねる
- 自習:読書記録は日本語で一言感想を書くだけでよい。書く負担より読む量を優先する
- 授業:問題演習の一部を多読に置き換え、要約や感想は日本語でもよいことにする
確認方法:Crossref(書誌)+著者(Mason)のウェブサイトに公開された本文で確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
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