高専で9年間の多読授業:TOEICを伸ばしたのは「やさしい本」を長く大量に読むこと
Nishizawa, H., Yoshioka, T., Ito, K., Nagaoka, M., Hiroyama, S., & Asai, H. (2011). Critical Factors in a Successful Extensive Reading Program of English(英語多読が効果を上げるしくみと多読授業の成否要因に関する一考察). 工学教育(Journal of JSEE), 59(4), 66–71 doi:10.4307/jsee.59.4_66
ひとことで言うと:英語が苦手な高専生でも、とてもやさしい本を何年も大量に読むとTOEICが伸びた。難しい本を読んだ人は伸びなかった。
対象:豊田工業高等専門学校の学生(電気・電子系の5年継続プログラムの専攻科1年生20名、全学科共通の3年継続プログラムの3年生158名など)
なぜこの研究?
日本の工学系の学生は、企業が新入社員に期待するTOEICの点数に届かないことが多い。著者らは、英語に苦手意識を持つ学生が多い豊田高専で、やさしい英語を大量に読む多読授業を2002年度に導入し、9年間続けてきた。多読によって英語力が大きく伸びた一方で、本をそろえて授業で読書時間を確保するだけでは成果が上がらないこともわかってきた。この論文は、自分たちの実践データをもとに、多読授業の成否を分ける要因を考察したものである。
どうやって調べた?
2種類の多読授業のデータを分析した。①電気・電子システム工学科のプログラム:本科2年から専攻科まで、通常の英語の授業に加えて週45分×30週の多読授業を最長6年間行う。②全学科共通のプログラム:本科1〜3年で、従来の英語の授業時間を圧縮して週45分×30週分の多読時間を確保する。学生の累積読書語数と読んだ冊数を記録し、TOEIC(IPテストなど)の得点と比べた。読んだ本のやさしさは、YL(読みやすさレベル)という指標で表した。
何がわかった?
①のプログラムでは、留学経験者を除く専攻科1年生20名が5年間で中央値87万語を読み、TOEICの平均は572点、最低点も470点だった。これは2〜3年の受講で中央値39万語を読んだ以前の学生より平均102点高く、企業が新入社員に期待する547点も上回った。②のプログラムの3年生158名では、読んだ量が多いほどTOEICが高い傾向があり、100万〜220万語を読んだ7名は全員400点以上(平均449点)だった。一方、自分の力より難しい本を中心に読んだ11名は、中央値42万語を読んでも平均270点にとどまった。著者らは、成否を分ける要因として、①十分なインプット量(クラス全体で効果が見えるのに約30万語、個人では約100万語)、②日本語に訳さず英語のまま意味をとること、③そのための極めてやさしい本、④4〜5年以上の長期継続、⑤教員自身の多読経験、を挙げている。
- 5年間で中央値87万語を読んだ学生は、TOEIC平均572点に達した
- 読書量が多いほどTOEICが高い傾向があり、100万語以上読んだ学生は全員400点以上だった
- 自分のレベルより難しい本を読んだ学生は、量を読んでもTOEICが低いままだった
- 多読の成功には、大量のやさしい英文・訳さない読み方・長期継続・教員の多読経験が重要だと結論した
主な数字
- 5年継続の専攻科1年生20名:読書量中央値87万語、TOEIC平均572点(最低470点)、2〜3年受講の学生より平均102点高い
- 3年生158名のうち最多読書群(100万〜220万語)7名:全員400点以上、平均449点
- 難しすぎる本を読んだ11名:中央値42万語・182冊でTOEIC平均270点
- 効果が見えるのに必要なインプット量の見積もり:約30万語(クラス平均)〜100万語(個人)
読むときの注意(研究の限界)
1つの学校の実践報告で、統制群(多読をしない比較グループ)を置いた実験ではない。TOEICの点数の違いには、読書量以外の要因(もともとの英語力や意欲)も関係している可能性がある。また、事前のTOEICの点数との比較がないデータも含まれており、どれだけ「伸びた」かを厳密に示すものではない。
多読をする人・教える人へ
日本の学習者が多読で成果を出すには、「とてもやさしい本」から始めて、日本語に訳さずに読める状態で、何年も大量に読み続けることが大切だ。難しい本で語数を稼いでも効果は出にくい。100万語という目標はよく知られているが、それを支えるのは、やさしさと継続である。教える側は、長期のカリキュラムを組み、自分でも多読を経験しておくとよい。
今日からできること
- 「少しやさしすぎる」と感じるレベルの本から始め、訳さずにスラスラ読めるかを基準に本を選ぶ
- 授業では短期間で大量に読ませるより、数年にわたって毎週の多読時間を確保する計画を立てる
確認方法:Crossref(書誌)+J-STAGEの抄録+本文(オープンアクセス、日本語)で確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
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Nishizawa, H., Yoshioka, T., & Itoh, K.(西澤一・吉岡貴芳・伊藤和晃) (2010)
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書籍2002日本に「100万語多読」を広めた本:辞書なし・とばし読み・合わない本はやめる
酒井邦秀 (2002)
刊行:2002年6月10日、文庫判320頁
実験2019文法の授業を多読に置きかえた1年間、高専1年生の文法・語彙と読解がともに上昇
Aka, N. (2019)
参加者:405名(統制群205名・多読群200名)、置きかえた授業:年間60時間
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Beglar, D., & Hunt, A. (2014)
最も伸びた14名:年間平均208,607標準語、読む速さは97.27→130.26語/分(+32.99語/分)