Graded Readersを読むと多くの学生が「没頭(フロー)」を体験したが、読書時間とは結びつかなかった
Kirchhoff, C. (2013). L2 extensive reading and flow: Clarifying the relationship. Reading in a Foreign Language, 25(2), 192–212 doi:10.64152/10125/66867
ひとことで言うと:多読中に時間を忘れて没頭する「フロー」を体験した学生は多かったが、フローが多い人ほど長く読むわけではなかった。
対象:日本の短期大学の多読クラスの学生(2年度にわたる2グループ)、15週間
なぜこの研究?
多読を長く続けるには、学習者のやる気を保つことが大きな課題になる。心理学の「フロー」とは、ちょうどよい難しさの活動に夢中になり、時間を忘れて没頭する状態のことで、読書への意欲や集中を高めると考えられている。外国語の多読でもフローは起こるのか、何がフローを生むのか、フローを多く体験する人ほどたくさん読むのかを調べた。
どうやって調べた?
日本の短期大学の英語専攻の選択科目である多読クラス(週1回90分・15週間、毎回30分の黙読時間あり)で調査した。1年目のグループAは、14週間にわたって毎週、フローのような体験があったか、あったならどんな条件だったかを回想して答えるアンケートに記入し、読書量や読む速さも記録した。2年目のグループBは、フローの具体的な要素についての別のアンケートに答えた。2つの方法でフローを調べたのは、自己申告の振り返りだけではあいまいになりやすい点を補うためである。
何がわかった?
グループAでは毎週43〜72%の学生が、グループBでは56〜74%の学生が、フローのような体験をしたと答えた。グループAの80%の学生は、14週間のうち6週以上でフローを体験していた。フローを生んだ条件として最も多く挙げられたのは「本の内容がおもしろい」(回答の40%)で、次いで「静かで集中できる読む場所」(27%)、「本のレベルがちょうどよい」(12%)だった。一方、フローを体験した週の数と、読書に使った時間の間には関係が見られなかった(相関はほぼゼロ)。つまり、Graded Readersの多読ではフローがよく起こるが、それだけで読書量が増えるとは限らない。
- 多読中にフローのような没頭体験をした学生は多かった
- フローの条件は、おもしろい内容・静かな場所・ちょうどよいレベルの本
- フローを多く体験した学生ほど長く読む、という関係はなかった
- 教員は、本の選び方と静かな環境づくりでフローを後押しできる
主な数字
- 毎週フローを報告した割合:グループA 43〜72%、グループB 56〜74%
- グループAで6週以上フローを体験した学生:80%
- フローの条件(回答の割合):本の内容40%、読む場所27%、本のレベル12%
- フローの頻度と読書時間の相関:r = −0.03(37名、関係なし)
読むときの注意(研究の限界)
フローは学生自身の振り返りによる自己申告で、本当にフロー状態だったかを客観的に測ってはいない。対象は1つの短期大学の英語専攻の学生で、多読に関心の高い学生が多かった可能性がある。読書時間も自己申告による推定である。
多読をする人・教える人へ
多読で「夢中になって読む」体験をするには、おもしろい本、静かな場所、自分にちょうどよいレベルの3つがポイントになる。ただし、没頭体験があっても読書量が自動的に増えるわけではないので、読む時間を確保する習慣づくりや目標設定もあわせて必要になる。生徒が「夢中になれた本」を紹介し合う活動も、次の没頭体験につながる。
今日からできること
- スマホを離れた静かな場所で、自分が「おもしろそう」と思える易しめの本を読む
- 授業では、本の紹介や試し読みで興味の持てる本に出会わせ、静かな黙読の時間を毎回確保する
確認方法:Crossref(書誌)+OpenAlexの抄録+本文(オープンアクセス)で確認。数字は論文の抄録・本文で確認できたものだけを載せています。
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