2つの言語を切り替える50分の練習で、気が散りにくくなった? 実験の中身と“落とし穴”

読む前に予想してみよう!
2つの言語を切り替えるとき、外国語から母語に戻るほうが時間がかかることがある
得意な母語を強くおさえこんでいる分、戻るときにブレーキの解除に時間がかかると考えられている。今回の研究でも母語への切り替えで遅れが大きかった。
- 対象
- 英語が母語のバイリンガル大学生(第二言語は17種類)
- 規模
- 55人
- 研究の種類
- 練習前後の比較(比較グループなし)
- 確かさ
- ★★☆☆☆
数字を2つの言語で切り替えて言う50分の練習のあと、「気をそらされない力」のテスト成績が上がった。ただし比較グループがなく、テストへの慣れの影響も否定できない。
ひとことで言うと言葉を切り替える練習で集中力アップ? でも「テストに慣れただけ」かもしれない!
英語で話している途中に、急に日本語で何か言おうとしたら、言葉がすっと出てこなかった。そんな経験はありませんか?
2つの言語を使う人の頭の中では、使わないほうの言語にブレーキをかけ続けていると考えられています。このブレーキの力は、言葉以外の場面でも「気をそらされない力(抑制機能)」として働くのではないか——。
2026年10月、カナダのウィルフリッド・ローリエ大学のチームが、たった50分の言語切り替え練習の直後に、この力のテスト成績が上がったという実験を発表しました。
01数字を2つの言語で言うだけの練習
フランカー課題は、たとえば「← ← → ← ←」の真ん中の矢印の向きだけを答えるテストです。まわりの矢印が逆を向いていると、つい反応が遅れます。この遅れが小さいほど、余計な情報に振り回されにくい、と考えます。
言葉の練習をしただけなのに、言葉と関係ない矢印のテストで成績が上がった。ここがこの研究の「マジか!?」なポイントです。
02外国語→母語に戻るほうが遅い、という謎
切り替え課題の中でも、おもしろい結果が出ています。言語を切り替えるときは、同じ言語を続けるときより遅く、まちがいも増えました(切り替えコスト)。
しかもその遅れは、第二言語から母語の英語に戻るときのほうが大きかったのです。得意な言語に戻るほうが楽そうなのに、逆。
これは1999年にミューター(Meuter)さんとオールポート(Allport)さんが報告した有名な現象と同じパターンです。弱い外国語を話すとき、脳は強い母語に強めのブレーキをかける。そのブレーキを外すのに時間がかかる、という説明が有力です。英語を話した直後に日本語が出てこないのも、ふしぎではないのかもしれません。

03どんでん返し:それ、「テストに慣れた」だけでは?
ここからが大事なところです。
同じテストを2回受けると、2回目は慣れだけで成績が上がることがよくあります(練習効果)。今回の研究では、参加者全員が「テスト→切り替え練習→テスト」の同じ手順を受けていて、言語の切り替えをしない比較グループはいませんでした。そのため、矢印のテストに慣れただけ、という説明を完全には消せません。著者ら自身も、速さの改善は短期的な適応や、その課題に特有の効率アップかもしれず、関係は「頑健ではない」と認めています。
「第二言語だけを使う練習」の比較グループを置いた2019年の研究(Liu ほか)では、言語切り替えの練習で、「作業がまざった状況を見張る力(モニタリング)」の指標は、比較グループより大きく改善しました。ところが、抑制の指標の改善は、比較グループのほうが大きかったのです。
さらに、いわゆる「脳トレ」の研究をまとめた大規模レビュー(Simons ほか, 2016)では、練習した課題そのものは上達しても、違う種類の課題まで効果が広がる証拠は弱いと結論づけています。2023年のレビュー(Lehtonen ほか)も、言語の切り替えは「脳全体の制御力」を鍛えるのか、それとも言語を切り替えるという特定の技能が上達するだけなのか、まだ決着していないと整理しています。
当サイトの「バイリンガルは頭がいい」大論争の記事とあわせて読むと、この分野の慎重さがよくわかります。
04まとめ
2つの言語を切り替える50分の練習のあと、気をそらされにくくなった——。言葉の練習が言葉以外の力にすぐ波及した可能性を示す、おもしろい実験です。
ただし、比較グループの不在や「慣れ」の影響を考えると、判定はビミョー。「英語の勉強で集中力も上がる」と期待するより、「英語→日本語で詰まるのは、脳が母語のブレーキを外している最中かもしれない」と知っておくほうが、明日からの英会話の役に立ちそうです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers at Wilfrid Laurier University in Canada tested 55 bilingual students whose strongest language…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Can a short language game help your brain? Scientists in Canada tried one with 55 people who speak two languages. For 50 minutes, they said numbers in their two languages and switched between them. Before and after the game, they took an arrow test.
In the test, you must ignore the arrows around the middle one. After the game, people were less confused by the other arrows. But they took the same test twice, so practice may also help.
79 words ・ CEFR A2
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短い言葉のゲームで脳の働きがよくなることはあるでしょうか。カナダの科学者たちは、2つの言語を話す55人とそれを試しました。50分間、彼らは2つの言語で数字を言い、言語を切り替えました。ゲームの前と後に、彼らは矢印のテストを受けました。
このテストでは、真ん中の矢印のまわりにある矢印を無視しなければなりません。ゲームのあと、人々はまわりの矢印にまどわされにくくなりました。でも、同じテストを2回受けたので、慣れも助けになったのかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
2つの言語で数字を言うゲームの前後に矢印のテストをした研究の話なので A。
Q2. How long did the language game last?
For 50 minutes, they said numbers ... とあるので C。55 は参加者の人数。
Q3. In this passage, "ignore" means ...
ignore the arrows around the middle one は「真ん中のまわりの矢印を無視する」。ignore は「気にしない、無視する」なので B。
Researchers at Wilfrid Laurier University in Canada tested 55 bilingual students whose strongest language was English. Their second languages were very different, with 17 languages in total. First, everyone did a flanker task. In this test you look at a row of arrows and answer only about the one in the middle.
Then they spent 50 minutes naming numbers while switching between their two languages. After that, they did the flanker task again, and the side arrows slowed them down less.
There was no group that skipped the switching task, so getting used to the test could explain part of the gain. During the switching task itself, changing languages made people slower. Switching back into English, their strongest language, took even longer.
122 words ・ CEFR B1
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カナダのウィルフリッド・ローリエ大学の研究者たちは、いちばん得意な言語が英語であるバイリンガルの大学生55人を調べました。彼らの第二言語はさまざまで、合計17言語にのぼりました。まず、全員がフランカー課題を行いました。このテストでは、横一列に並んだ矢印を見て、真ん中の矢印についてだけ答えます。
次に、2つの言語を切り替えながら数字を言う作業に50分間取り組みました。そのあともう一度フランカー課題を行うと、横の矢印によって遅くなる度合いが小さくなっていました。
切り替え作業をしなかったグループはいなかったため、テストに慣れたことが向上の一部を説明している可能性があります。切り替え作業そのものの中では、言語を切り替えると人々は遅くなりました。いちばん得意な言語である英語に戻る切り替えは、さらに時間がかかりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What was the main purpose of the study?
切り替え作業の前後でフランカー課題(まわりの矢印に引っぱられない力のテスト)を比べているので A。
Q2. Which switch took the longest for the participants?
Switching back into English, their strongest language, took even longer. とあるので B。
Q3. Why might the result need to be checked again?
比較グループがなく getting used to the test could explain part of the gain とあるので C。
Bilingual speakers who switch from a second language back into their first often stall for a split second, and a 2026 study in Bilingualism: Language and Cognition caught that delay again. A team at Wilfrid Laurier University asked 55 English-dominant bilinguals, whose second languages covered 17 tongues, to name numerals in both languages for 50 minutes, switching back and forth.
Switch trials were slower and less accurate than repeat trials, and the cost was larger when moving into English. That pattern fits the view that speakers hold back their dominant language while using a weaker one, so releasing it takes extra time. The bigger surprise came from a flanker task given before and after. After practice, participants were less disturbed by conflicting arrows, on a test unrelated to language.
Whether this is real transfer is another matter. The study had no comparison group, so familiarity with the test may account for some of the change. A 2019 study that did include one found that switching practice improved monitoring more than plain second-language practice did, but improved inhibition less. Counting in Japanese and English before speaking English costs nothing and works as a warm-up, whatever it does for focus.
198 words ・ CEFR B2
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第二言語から第一言語に戻る切り替えをするとき、バイリンガルの話し手はほんの一瞬止まってしまうことが多く、Bilingualism: Language and Cognition に掲載された2026年の研究も、その遅れを再びとらえました。ウィルフリッド・ローリエ大学のチームは、第二言語が17の異なる言語にわたる、英語が優位なバイリンガル55人に、50分間、2つの言語を行き来しながら数字を言ってもらいました。
切り替えの試行は、同じ言語を続ける試行より遅く、正確さも低く、そのコストは英語に移るときのほうが大きくなりました。このパターンは、弱いほうの言語を使う間、話し手は優位な言語をおさえていて、それを解放するのに余分な時間がかかるという考え方に合っています。もっと大きな驚きは、作業の前後に行ったフランカー課題から得られました。練習のあと、参加者は、言語とはまったく関係のないテストで、逆向きの矢印にまどわされにくくなっていたのです。
これが本当の転移なのかどうかは別の問題です。この研究には比較グループがないため、テストへの慣れが変化の一部を説明しているかもしれません。比較グループを置いた2019年の研究では、切り替え練習は、ふつうの第二言語の練習に比べてモニタリング(状況を見張る力)をより大きく伸ばしたものの、抑制の改善は小さいという結果でした。英語を話す前に日本語と英語で数を数えることはお金もかからず、集中力への効果はどうあれ、ウォームアップとして役立ちます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
50分の切り替え練習のあとでまわりの矢印にまどわされにくくなった結果と、比較グループがないなどの疑問点を述べているので A。
Q2. According to the passage, when was the switching cost larger?
the cost was larger when moving into English とあるので B。英語は参加者の優位な言語。
Q3. What does the 2019 study mentioned in the passage suggest?
switching practice improved monitoring more ... but improved inhibition less とあり、抑制では普通の第二言語練習を上回らなかったので B。
重要単語
- switchB1動詞・名詞切り替える、切り替えShe can switch between English and Japanese easily.
switch from A to B(A から B に切り替える)の形が基本。code-switching は「会話中に言語を切り替えること」。 - bilingualB2形容詞・名詞2言語を使う(人)Many bilinguals mix languages with their friends.
bi-(2つ)+lingual(言語の)。monolingual(1言語)、multilingual(多言語)とセットで。 - inhibitionC1名詞抑制、おさえることInhibition helps you ignore things that do not matter.
動詞は inhibit(抑制する)。inhibitory control は「抑制機能」で心理学の長文に出る。 - distractB2動詞(注意を)そらすLoud music can distract you from studying.
distract A from B(A の注意を B からそらす)。名詞 distraction は「気を散らすもの」。 - dominantB2形容詞優位な、支配的なEnglish is his dominant language.
dominate(支配する)の形容詞形。dominant hand は「利き手」。 - transferB1名詞・動詞転移(学んだことがほかの場面に広がること)、移すBrain training often shows little transfer to daily life.
教育心理学では「学習の転移」の意味。名詞はアクセントが前(TRANS-fer)、動詞は後ろにも置ける。 - accurateB1形容詞正確なHer answers were fast and accurate.
名詞は accuracy(正確さ)。speed and accuracy(速さと正確さ)はセットで出やすい。
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2つの言語を切り替えながら数字を言う練習を50分やったら、直後に「気をそらされない力」のテスト成績が上がったらしい。しかも、切り替えは外国語→母語に戻るときのほうが遅かった。ただし“落とし穴”もある研究。
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- Rachwal, Del Vecchio & Schwieter (2026) A brief training session in language switching offers immediate benefits for inhibitory control among English-dominant bilinguals, Bilingualism: Language and Cognitiondoi.org
- Meuter & Allport (1999) Bilingual Language Switching in Naming: Asymmetrical Costs of Language Selection, Journal of Memory and Languagedoi.org
- Liu et al. (2019) Training in Language Switching Facilitates Bilinguals' Monitoring and Inhibitory Control, Frontiers in Psychologydoi.org
- Lehtonen et al. (2023) The relationship between bilingual language use and executive functions, Nature Reviews Psychologydoi.org
- Simons et al. (2016) Do "Brain-Training" Programs Work?, Psychological Science in the Public Interestdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。







