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痛いときの「クソッ」は効く? 氷水の実験で、「くそ」と言い続けた日本人学生は、「カップ」と言い続けた学生の約2倍がまんできた

痛いときの「クソッ」は効く? 氷水の実験で、「くそ」と言い続けた日本人学生は、「カップ」と言い続けた学生の約2倍がまんできた

読む前に予想してみよう!

イギリスの実験では、「悪態を言うと痛みに強くなる」効果は、ふだん悪態をあまりつかない日本人には出なかった

研究カード(どんな研究?)
対象
イギリスの大学生・大学周辺の大人(日本人留学生を含む)
規模
67人・71人・95人・92人の4実験
研究の種類
実験(氷水に手を入れる時間を測定)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

氷水に手を入れて悪態をくり返すと、ふつうの言葉より長くがまんできた。日本人留学生でも、「くそ」と言い続けた学生は「カップ」と言い続けた学生の平均約2倍。ただし作った悪態では効かず、ふだん使いすぎる人ほど効き目は小さかった。

ひとことで言うと痛いときに「クソッ」と言うと、少し長くがまんできるらしい。でも、言いすぎると効かなくなるんだって。

もくじ
  1. 悪態で痛みは本当に変わる? 始まりは2009年の氷水実験
  2. 日本人も「くそ」で長くがまんできた
  3. 作った「悪態」では効かなかった
  4. 使いすぎると効き目が落ちる
  5. どんでん返し:「痛くなくなる」わけではない
  6. まとめ

タンスの角に小指をぶつけた瞬間、思わず「クソッ」。

あの一言、ただの八つ当たりだと思っていませんか。イギリスの心理学者たちは、悪態(ののしり言葉)を口にすると、痛みに少し長く耐えられることを、氷水を使った実験でくり返し確かめてきました。

しかも、痛いときに悪態をつく習慣があまりないとされる日本人で試しても、「くそ」はちゃんと効いていました。

01悪態で痛みは本当に変わる? 始まりは2009年の氷水実験

研究を始めたのは、イギリスのキール大学のリチャード・スティーブンスさんたちです。2009年の論文では、参加者に冷たい水に手を入れてもらい、悪態をくり返す回と、ふつうの言葉をくり返す回で、どれだけ長くがまんできるかを比べました。

結果は、悪態をくり返したほうが長く手を入れていられ、心拍数が上がり、痛みも弱く感じたというものでした。2011年の論文によると、2009年の実験では悪態のほうが平均で約40秒長くがまんできた一方、67人のうち9人には効果が見られませんでした。

2011年には、71人の大学生で同じ実験をくり返しました。

02日本人も「くそ」で長くがまんできた

ここで研究者たちは、ある疑問を持ちます。英語を話す人は、痛いときに悪態をつくのが「お決まりの行動」になっている。だから効くのではないか。もしそうなら、痛いときに悪態をつく習慣があまりない人には効かないはずです。

そこで選ばれたのが日本人でした。論文は、体験談などから、日本人は痛いときに悪態をつくことはほとんどなく、代わりに「ズキズキ」のような擬態語で痛みを表すと紹介しています。

2017年の実験には、イングランド北西部の大学で、英語を母語とするイギリスの学生56人と、日本語を母語とする学生39人が参加しました。日本人学生は交換留学でイギリスに来て5か月以内の人たちです。今回は、くり返す言葉を最初から決めておきました。

  • イギリス人:悪態は英語の代表的な悪態の一つ、f で始まる4文字の語(いわゆる F-word)。ふつうの語は cup(どちらも1音節で、強く響く子音を含む)
  • 日本人:悪態は「くそ」。ふつうの語は「カップ」(音節で数えるとどちらも2つで、出だしの音も似ている。カップは拍で数えると3拍)

参加者は無作為にどちらかの組に分けられ、1〜3℃の氷水に、利き手と反対の手を入れました(上限180秒)。

氷水に手を入れていられた時間の平均は、次のとおりです。

  • イギリス人:悪態を言った組 約79秒、cup と言った組 約48秒
  • 日本人:「くそ」と言った組 約56秒、「カップ」と言った組 約25秒

日本人でも、「くそ」と言った組は、「カップ」と言った組の約2倍がまんできました。 悪態の効き方に日英の差は見られず、研究者たちは「お決まりの行動だから効く」という説は支持されなかった、と結論づけています。

日英どちらの学生でも、悪態の組のほうが長く氷水に手を入れていられた(Robertson ら 2017)
日英どちらの学生でも、悪態の組のほうが長く氷水に手を入れていられた(Robertson ら 2017)

03作った「悪態」では効かなかった

では、悪態ならどんな言葉でもいいのでしょうか。2020年の実験で、スティーブンスさんたちは「新しい悪態」を作って試しました。

使われたのは fouch と twizpipe。どちらも英語にはない作り言葉です。広告会社が考えた60の候補から、研究者・科学ライター・俗語辞典の編者などが話し合って選びました。fouch は「感情をゆさぶる」語、twizpipe は「笑えて気がそれる」語というねらいです。キール大学周辺の大人92人が、4つの言葉で氷水の実験をしました。

  • 本物の悪態(F-word):テーブルを表すふつうの語(solid など)とくらべて、痛いと感じ始めるまでの時間が32%、がまんできた時間が33%のびた
  • fouch と twizpipe:ふつうの語より「感情が動く」「おもしろい」と評価されたのに、痛みのがまんには効果がなかった

つまり、変わった音や笑える響きだけでは足りないようです。長い間「言ってはいけない」とされてきた本物の悪態であることが、効き目に関わっているのかもしれません。

04使いすぎると効き目が落ちる

2011年の実験では、もう一つ大事なことが分かりました。参加者に「1日に何回くらい悪態をつくか」も聞いておいたところ、ふだん悪態をつく回数が多い人ほど、悪態による「がまん時間ののび」が小さかったのです。

研究者たちは、悪態に慣れてしまうと心が強く動かなくなり、そのぶん痛みへの効き目も弱まると考えています。いざというときの一言は、ふだんは取っておいたほうがいい、というわけです。

05どんでん返し:「痛くなくなる」わけではない

ここまで読むと「悪態は痛み止め」と思いたくなります。でも、話はそう単純ではありません。

まず、変わったのは「がまんできた時間」で、痛みの強さの感じ方はあまり変わらなかった実験が多いのです。2009年は痛みも弱く感じたと報告されましたが、2011年・2017年・2020年の実験では、手を出した後に答えた痛みの強さに、はっきりした差は出ませんでした。2017年の論文は、どの人も「もう限界」というところで手を出したので、そのときの痛みは同じくらい強かったのだろう、と説明しています。

次に、声を出すこと自体にも効果があるかもしれません。シンガポールの研究者による2015年の実験では、悪態ではなく "ow"(痛っ)と言うだけでも、何もせずにじっとしているときより長く冷水に手を入れていられました。ボタンを押すだけでも同じような効果がありました。

さらに、これらはすべて、健康な人が実験室で冷たい水に短い時間手を入れる実験です。けがや病気の長く続く痛みに効くかどうかは、まだ確かめられていません。日英の実験も各組20〜30人ほどと小さく、別々の人の組をくらべたものです。日本人の「くそ」と言った組は人によるばらつきも大きく、「約2倍」はあくまで平均どうしの比べです。

06まとめ

痛いときの「クソッ」は、少なくとも氷水の実験では、がまんできる時間をのばしていました。それは英語の悪態だけでなく、日本語の「くそ」でも同じでした。

ただし、効いたのは「本物の」悪態で、ふだん言いすぎている人ほど効き目は小さめ。英語で人前なら "Ouch!" で十分です。声を出すだけでも、少しは痛みに耐えやすくなるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerRichard Stephens, a psychologist at Keele University in England, and his colleagues have spent years… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Richard Stephens, a psychologist at Keele University in England, and his colleagues have spent years testing a common habit. Many people swear when something hurts, and the team wanted to know if it actually helps.

In their experiments, people hold one hand in very cold water for as long as they can while repeating a word. With a swear word, most people last longer than with a neutral word. In a 2017 study, Japanese exchange students in England said either "kuso" or "kappu."

The "kuso" group lasted about 56 seconds on average, and the "kappu" group about 25 seconds. British students showed a similar pattern. There is a catch for heavy swearers. People who swore many times a day got a smaller boost.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

イングランドのキール大学の心理学者リチャード・スティーブンスさんと仲間たちは、よくある習慣を何年もかけて調べてきた。多くの人は何かが痛いと悪態をつくが、チームはそれが本当に役立つのかを知りたかった。

実験では、参加者は言葉をくり返しながら、できるだけ長くとても冷たい水に片手を入れておく。悪態のときは、たいていの人がふつうの言葉のときより長くもつ。2017年の研究では、イングランドに留学中の日本人学生が「くそ」か「カップ」のどちらかを言った。

「くそ」の組は平均約56秒、「カップ」の組は約25秒もった。イギリス人の学生も似たパターンを示した。悪態をよくつく人には落とし穴がある。1日に何度も悪態をつく人は、得られる効果が小さかったのだ。

4択リーディングクイズ

Q1. What did people do in the experiments?

Q2. Who took part in the 2017 study?

Q3. What does the writer suggest about people who swear a lot?

重要単語

  • swearB1
    動詞悪態をつく;誓うHe swore when he dropped the hot pan. 活用は swear-swore-sworn。I swear! は「本当だってば!」の意味にもなる。
  • swear wordB1
    名詞悪態の言葉、ののしり言葉Please don't use swear words in class. curse word とも言う。学校や仕事の場では使わないのが基本。
  • toleranceB2
    名詞耐性、がまんできる限度;寛容Swearing seemed to raise pain tolerance. 動詞は tolerate「がまんする」。pain tolerance「痛みへの耐性」は医学・心理学でよく出る。
  • neutralB2
    形容詞中立の、感情のこもらない"Cup" was used as a neutral word. 実験で比べる「ふつうの条件」によく使う語。neutral color「落ち着いた色」の意味もある。
  • tabooC1
    形容詞・名詞口にしてはいけない(もの)、タブーSome words are taboo on TV. taboo words は「禁句・悪態」のこと。a taboo subject「触れてはいけない話題」。
  • bearB2
    動詞耐える、がまんするI can't bear this cold any longer. can't bear ~ の否定形でよく使う。動物の「クマ」と同じつづり。
  • ouchA2
    間投詞痛っ!Ouch! I hit my toe on the table. ow も同じ意味。どこで言っても失礼にならない、英語の「いてっ」。

動画でもっと知る

4コマでわかる

痛いときの「クソッ」は効く? 氷水の実験で、「くそ」と言い続けた日本人学生は、「カップ」と言い続けた学生の約2倍がまんできたの4コマ漫画
氷水に手を入れて「くそ」とくり返した日本人留学生は平均約56秒、「カップ」とくり返した学生は約25秒。イギリスの実験で、悪態は日本人にも効いた。ただし新しく作った“悪態”では効果なし。ふだん悪態をつく回数が多い人ほど効き目も小さかった。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Stephens, R., Atkins, J., & Kingston, A. (2009) Swearing as a response to pain, NeuroReport 20(12)doi.org
  2. Stephens, R., & Umland, C. (2011) Swearing as a Response to Pain—Effect of Daily Swearing Frequency, The Journal of Pain 12(12)doi.org
  3. Robertson, O., Robinson, S. J., & Stephens, R. (2017) Swearing as a response to pain: A cross-cultural comparison of British and Japanese participants, Scandinavian Journal of Pain 17doi.org
  4. Stephens, R., & Robertson, O. (2020) Swearing as a Response to Pain: Assessing Hypoalgesic Effects of Novel "Swear" Words, Frontiers in Psychology 11doi.org
  5. Swee, G., & Schirmer, A. (2015) On the importance of being vocal: saying "ow" improves pain tolerance, The Journal of Pain 16(4)doi.org

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