シュリーマンの勉強法は「訳さずに大量に音読し、書いた英文を毎日先生に直してもらい、直った文を暗記して次の日に言う」。今なら、音声つきの英文・英語日記・添削サービスやAI・暗唱の録音で、そのまま再現できます。
ただし、1冊まるごとの暗記や睡眠を削る勉強はまねしなくて大丈夫です。研究で効き目が確かめられているのは、毎日少しずつ・書いて直して思い出す、という部分。このページの「超絶まとめ」から、自分の段階に合うメニューを選んでください。
知ってた? 目から鱗の3連発
シュリーマンは、最初から記憶力がよかった?
本人は自伝で、子どものころから記憶を鍛えてこなかったので「記憶力は悪かった」と書いています。毎日の暗唱を続けるうちに、3か月ほどで、3回読んだ20ページを先生の前で言えるようになったそうです。
英語の発音は、どこで磨いた?
日曜日に英語の教会の礼拝へ2回通い、牧師の説教を聞きながら、1語ずつ小声でくり返したと書いています。今でいうシャドーイングに近い練習です。
シュリーマンは日本に来たことがある?
あります。1865年、トロイア発掘より前の世界旅行の途中に、横浜と江戸を訪れました。そのときの旅行記はフランス語で書かれ、日本語訳は『シュリーマン旅行記 清国・日本』(石井和子訳、講談社)として出ています。
01シュリーマンとは? トロイアを掘りあてた「語学の達人」

ハインリヒ・シュリーマン(Heinrich Schliemann、1822〜1890)は、ドイツ北部の牧師の家に生まれた実業家・考古学者です。商人として財産を築いたあと、ホメロスの叙事詩に出てくるトロイアを探し、トルコのヒサルルクの丘を発掘しました(試掘は1870年、本格的な発掘は1871年から)。
日本では、自伝の日本語訳『古代への情熱』で知られ、そこに書かれた語学の学び方が「シュリーマンの勉強法」「シュリーマン式」として長く紹介されてきました。もとになっているのは、1880年の著書『Ilios(イリオス)』の第1章に本人が書いた自伝です。
- 1822年
北ドイツのメクレンブルクの小さな町ノイブコウに生まれる。
- 1841年12月
南米へ向かう船がオランダ沖で難破し、アムステルダムにたどり着く。
- 1842年
アムステルダムの商会で、手形を届けたり郵便局へ手紙を運んだりする使い走りとして働き始める。給料の半分を勉強に回す。
- 1842〜43年ごろ
英語を約半年、フランス語をさらに約半年で身につけたと書いている。続いてオランダ語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語。
- 1844年3月
大きな商会(B. H. シュレーダー商会)に通信係・帳簿係として移り、仕事の合間にロシア語を独学する。
- 1846年1月
商会の代理人としてロシアのサンクトペテルブルクへ。のちにスウェーデン語・ポーランド語(1854年)、現代ギリシャ語・古代ギリシャ語(1856年〜)、ラテン語、アラビア語にも取り組む。
- 1865年
世界旅行の途中で、幕末の横浜と江戸を訪れる。
- 1870〜71年
トロイアを探してヒサルルクの丘を試掘し、1871年10月から本格的に発掘する。1880年の『Ilios』の第1章に自伝を書く。
- 1890年
イタリアのナポリで亡くなる。
02シュリーマンの勉強法 7つのルール(自伝に書いてあること)

自伝には、英語を学んだ方法がひとまとまりの文で書かれています。そこに書かれた手順と、まわりの記述を7つに分けると次のとおりです(英文は短い引用、出典は『Ilios』第1章)。
- 01
とにかく大量に、声に出して読む
“reading a great deal aloud”Ilios 第1章
黙読ではなく音読。しかも量が多いことがポイントです。英語では、ゴールドスミスやスコットの小説を声に出して読みこみ、まるごと覚えました。
今なら意味がわかる英文を、モデル音声を聞いてから声に出して読みます。1日15分からで十分です。シャドーイング道場
- 02
訳さない
“without making a translation”Ilios 第1章
母語のドイツ語に訳しながら読むのではなく、英語のまま読みました。訳文を作る作業に時間を使わず、そのぶん英語にふれる量を増やしています。
今なら意味の確認に日本語訳を見るのはかまいません。音読のときは訳さず、英語の語順のまま意味を思いうかべます。
- 03
毎日1回、先生のレッスンを受ける
“taking a lesson every day”Ilios 第1章
独学だけではなく、毎日先生についています。暗唱を聞いてもらい、作文を直してもらう相手です。
今なら毎日ではなくても、週に数回「人に聞いてもらう」時間を作ります。オンライン英会話、学校の先生やALT、録音を聞いてもらうのでもかまいません。
- 04
興味のあることを英語で書く
“writing essays upon subjects of an interesting nature”Ilios 第1章
自分が興味をもてる題材で、作文を書き続けました。言いたいことがあるから、言えない表現に気づけます。
今なら英語日記を3〜5行。その日に考えたこと、好きなことについて書きます。英語日記
- 05
書いた英文を先生に直してもらう
“correcting these under the supervision of a teacher”Ilios 第1章
自分で書いた文の誤りを、先生の目で直してもらいます。直された箇所こそ、自分が知らなかった英語です。
今なら先生・オンライン英会話の講師・添削サービス・AIに直してもらいます。AIには「直した文だけでなく、どこをなぜ直したか」を聞きます。
- 06
直った英文を暗記する
“learning them by heart”Ilios 第1章
直してもらった作文を、そのまま覚えます。自分の言いたいことを、正しい英語で言える文が1つずつ増えていきます。
今なら直った文を自分専用の例文集にして、声に出して覚えます。単語SRSやセンテンスマイニングに入れると忘れにくくなります。
- 07
次のレッスンで、前日に直された文を言う
“repeating in the next lesson what was corrected”Ilios 第1章
覚えたかどうかを、次の日に先生の前で確かめます。見ないで言えるかどうかを毎日テストしていたわけです。
今なら次の日、見ないで言えるかを録音で確かめます。言えなかった文だけをもう一度。
03使い走りの仕事をしながら:すき間時間・教会・夜の復習

7つのルールを、シュリーマンは仕事の合間に回していました。自伝には、こんな工夫も書かれています。
すき間時間を全部使う
仕事は手形を届けたり、郵便局へ手紙を出しに行ったりする使い走りでした。雨の日でも本を手に持ち、歩きながら何かを暗記し、郵便局で待つ間も読んでいたそうです。
日曜は教会で「頭の中シャドーイング」
発音を早く身につけるため、日曜日は英語の教会の礼拝に2回出て、説教を1語ずつ小声でくり返しました。聞いた英語をすぐ口の中でなぞる点は、今のシャドーイングとよく似ています。
2冊の本をまるごと暗記
ゴールドスミスの小説『ウェイクフィールドの牧師』と、ウォルター・スコットの『アイヴァンホー』を丸ごと覚えたと書いています。3か月ほどたつと、3回注意深く読んだ20ページを、レッスンで1語ずつ言えるようになったそうです。
夜、眠れない時間に思い出す
あまり眠らず、眠れない夜の時間に、前の晩に読んだものを頭の中でくり返したとも書いています。夜のほうが記憶が集中する、というのが本人の考えでした。ここは、まねしないほうがよい部分です(あとで説明します)。
給料の半分を勉強に
年800フランの給料の半分を勉強に使い、残りで暮らしたそうです。暖房のない屋根裏部屋に住み、朝はライ麦のおかゆ、夕食も切りつめていました。
旅の日記も外国語で
シュリーマンが残した18冊の日記には、フランス語・英語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語・ギリシャ語・アラビア語・ロシア語・オランダ語・トルコ語の文章が入っています。旅先の言語で日記を書くことが、そのまま作文の練習になっていたと考えられます。
04英語のあとは? フランス語・ロシア語……言語が増えるほど速くなった
英語のあと、シュリーマンは同じ方法でフランス語に取り組み、こちらも約半年で身につけたと書いています。フランス語では、フェヌロンの『テレマックの冒険』とベルナルダン・ド・サン=ピエールの『ポールとヴィルジニー』を暗記しました。
そのあとのオランダ語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語は、それぞれ6週間ほどで、書いたり話したりできるようになったそうです。本人は、1年間の暗唱で記憶力が鍛えられたからだと説明しています。
ロシア語は、近くに先生が見つからず、古い文法書と辞書、『テレマックの冒険』のロシア語訳だけで始めました。そこで、自分で短い話を書いて暗記し、『テレマックの冒険』の訳も覚えました。暗唱を聞いてもらうために、ロシア語のまったくわからない人を雇って毎晩2時間来てもらい、大声の暗唱に近所から苦情が来て、2度引っ越したそうです。6週間ほどで最初のロシア語の手紙を書いたと書いています。「聞き手がいると、声に出す練習を続けやすい」という工夫です。
| 言語 | かかった期間(本人の記述) | 暗記した本など |
|---|---|---|
| 英語 | 約半年 | 『ウェイクフィールドの牧師』『アイヴァンホー』 |
| フランス語 | 約半年 | 『テレマックの冒険』『ポールとヴィルジニー』 |
| オランダ語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語 | それぞれ約6週間 | 同じ方法 |
| ロシア語 | 約6週間で最初の手紙 | 自作の短い話、『テレマックの冒険』のロシア語訳 |
後の言語ほど速いのは、才能だけではありません。オランダ語はシュリーマンの母語のドイツ語に近く、スペイン語・イタリア語・ポルトガル語はフランス語と同じラテン語の子孫です。知っている言語に近い言語は、日本人が英語を学ぶよりずっと短い時間で身につきます。
05研究で確かめると、どこが正しい?
シュリーマンの方法は、150年以上前の個人の体験です。けれど、その部品の多くは、いまの第二言語習得や記憶の研究で効き目が確かめられています。
21の研究をまとめた分析で、書いた英文への訂正は文法の正確さを高めることがわかっています。268人の実験でも、訂正を受けた学習者は、新しい作文でも誤りが減りました。[5][6]
学習者は英語を書いたり話したりする途中で「言えない」に気づき、それが表現を作り直すきっかけになる、と報告されています。興味のある話題で書くシュリーマンの作文は、この気づきを毎日生みます。[7]
読み返すより、思い出すテストをしたほうが1週間後によく覚えていました。外国語の単語でも、一度言えた語を思い出す練習を続けると1週間後の成績が大きく上がりました。[8][9]
184本の論文をまとめた分析で、一度にまとめて学ぶより、間をあけて何度も学ぶほうが記憶に残りました。毎日のレッスンは、この「分散学習」になっています。[10]
同じ英文をくり返し読むと、その文章を読む速さや流暢さは上がります。ただし、意味をとらずに口だけ動かす読み方では効果が下がるので、「わかる英文を」「訳さずに意味を思いうかべて」が条件です。[11][12]
英語の賞を受けた中国の大学生3人への聞き取りでは、3人とも教科書などの文章の暗記とまねを最も効果があった方法に挙げました。ただし3人の振り返りなので、暗記が力を伸ばしたとまでは言えません。1冊まるごとより、1〜2分の文章で十分です。[13]
寝る前に思い出すのは良いのですが、睡眠そのものを削るのは逆効果です。外国語の単語を覚えたあと、数時間以内に眠った高校生のほうが忘れる量が少なく、徹夜は成績を下げました。[14]
近い言語をすでに知っていた人の、本人の申告です。英語と日本語は語順も音も大きく違うので、日本人が同じ期間で同じ所まで届くと考える必要はありません。[1]
06【超絶まとめ】今の私たちの勉強法に当てはめると?

シュリーマンが使えたのは、紙の本と、毎日来てくれる先生だけでした。今は音声つきの英文も、添削してくれる人やAIも、スマホ1台で手に入ります。シュリーマンの1つ1つの行動を、今の道具に置きかえると次のようになります。
モデル音声を聞いてから、1文ずつ声に出して読みます。シュリーマンには無かった「お手本の音」があるのが今の強みです。
シャドーイング道場ELLLOBBC Learning English
目安:1日15〜30分
先に日本語訳で意味を確かめたら、音読中はもう訳しません。頭から順に意味をとる練習は、速読やリスニングにもつながります。
目安:音読のたびに
オンライン英会話、学校の先生やALT、ラジオ講座の毎日の放送など、「決まった時刻に英語を使う場」を作ります。
目安:15〜25分×週3回〜
AIに頼むときは「書き直した文だけ出して」ではなく「誤りの場所と理由を教えて」と頼み、直すのは自分でやります。
Write & ImproveLangCorrectAI添削の頼み方
目安:書いた日のうちに
直された文をカードにして、声に出して覚えます。自分の言いたいことの正しい言い方なので、会話でそのまま使えます。
目安:1日5〜10分
1冊まるごとは要りません。教科書の本文や、音声つきの短い文章を1つ選び、「本を見る→顔を上げて言う」をくり返します。シュリーマンが覚えた本そのものも、無料で読んで聞けます。
Project GutenbergLibriVoxリード・アンド・ルックアップ
目安:1週間に1本
ポッドキャストやTEDなど、内容に興味のある英語を聞きながら、聞こえた音をすぐ小声でなぞります。電車の中なら、口の中だけで。
目安:週1回、20分
通学・通勤・待ち時間に、今週覚える文を見て、顔を上げて言います。シュリーマンの「郵便局の待ち時間」は、今ならレジの列や電車です。
目安:すき間時間に
07シュリーマン式の1日サイクル(現代版)
ルールをつなげると、毎日まわす5つのステップになります。1回まわすと、自分の言いたいことが正しい英語で1〜3文ずつ増えていきます。
- 1聞いて音読
わかる英文をモデル音声のあとに音読。訳さずに意味を思いうかべる。15分。
- 2書く
その日の話題か、読んだ英文の話題で3〜5行。辞書は使ってよい。10分。
- 3直してもらう
人・添削サービス・AIに誤りの場所と理由を聞き、自分で直す。
- 4覚える
直った文を声に出して覚える。カードに入れる。5〜10分。
- 5次の日に言う
日本語を見て英文を言い、録音で確かめる。言えなかった文だけもう一度。5分。
08やってみよう:シュリーマン式を1分で体験
シュリーマンの話を、やさしい英語6文にしました(自作の英文です)。3つの段階を順に押して、「音読 → 顔を上げて言う → 隠して暗唱」を体験してください。「聞く」を押すと英文を読み上げます。
段階1:「聞く」で音声を聞いてから、1文ずつ声に出して読みます。訳さず、英語の順のまま意味を思いうかべてください。
- Heinrich Schliemann worked as an office boy in Amsterdam. ハインリヒ・シュリーマンは、アムステルダムで使い走りとして働いていた。
- He had very little money and very little free time. 彼にはお金も自由な時間もほとんどなかった。
- So he read English aloud every day, even on his way to the post office. だから彼は毎日、郵便局へ行く途中でさえ、英語を音読した。
- He wrote short essays, and his teacher corrected them. 彼は短い作文を書き、先生がそれを直した。
- Then he learned the corrected essays by heart. それから、直された作文を暗記した。
- After about six months, he said, he knew English well. 約半年後、英語をよく身につけたと彼は書いている。
09段階別:あなたならこうする(教材つき)
同じシュリーマン式でも、使う英文と添削の相手は段階で変わります。自分に近いものを開いてください。
中学生教科書の本文を「音読→暗唱」
- 音読する英文:教科書の本文。音声を聞いてから音読し、1ページを「見て言う→顔を上げて言う」まで。
- 書く:その課の話題で英語日記を3行(英語日記)。
- 直してもらう:学校の英語の先生やALTに見てもらいます。添削サービスやAIは年齢の条件があるので、使うときは保護者と一緒に規約を確かめます。
- 覚えて言う:直った3行を次の授業の前に言えるようにします。
- 段階別のくわしい道すじは中学生の英語ロードマップへ。
高校生・受験生解き終わった長文と自由英作文で回す
- 音読する英文:解き終わった長文問題の本文。答え合わせのあと、音声つきなら音声のあとに5回、なければ意味を確かめてから音読します。
- 書く:自由英作文の過去問や、3レベル英語リーディングで読んだ話題について80〜120語。
- 直してもらう:学校の先生に出すのがいちばんです。Write & Improveも使えますが、登録するときは保護者と相談します。
- 覚えて言う:直った英作文から「使い回せる文」を3つ選んで暗記。入試の英作文で、そのまま組み立ての部品になります。
大学生興味のある分野の英語で、量を増やす
- 音読する英文:BBC Learning Englishの6 Minute English や TED-Ed など、スクリプトつきの音声。
- 書く:授業や研究の話題で、毎日5行の英語日記。
- 直してもらう:Write & Improveで一度直してから、オンライン英会話の講師に読んでもらいます。
- 覚えて言う:直った文をカードに入れ、オンライン英会話の最初の5分で使ってみます。
社会人仕事で使う英語を、そのまま暗唱する
- 音読する英文:通勤で聞くポッドキャストのスクリプト、または仕事の分野のニュース。
- 書く:実際に送る予定のメールや、会議で言いたいことを英語で書きます。
- 直してもらう:オンライン英会話の講師や添削サービス、AIに「誤りと理由」を聞きます。
- 覚えて言う:直った文を声に出して覚え、次の会議やレッスンで使います。シュリーマンも、商会の仕事で使う外国語を、仕事の合間に身につけていました。
大人のやり直し・初心者1日1文から、シュリーマンの順番で
- 音読する英文:中学1年レベルのやさしい英文。News in Levelsのレベル1や、音声つきの教材。
- 書く:英語日記は1行から。「今日は何をしたか」を1文。
- 直してもらう:書いた1文を、オンライン英会話の講師やAIに見てもらいます。
- 覚えて言う:直った1文を、寝る前と次の朝に言います。1日1文でも、1年で365文の「自分の英語」がたまります。
101週間のシュリーマン式メニュー
毎日同じことをするのがつらい人向けに、1週間で1つの英文を仕上げる組み方です。1日20〜30分を目安にしています。
今週の英文(1〜2分の音声つき)を決める。意味を確かめ、音声のあとに5回音読。
音読5回のあと、1文ずつ「見る→顔を上げて言う」(リード・アンド・ルックアップ)。
英文の話題について、自分の考えを英語で3〜5行書く。
書いた英文を直してもらい、誤りの理由を確かめて自分で書き直す。
直った文と、今週の英文の好きな3文を声に出して覚える。録音する。
日本語だけを見て、覚えた文を言う。言えなかった文だけ覚え直す。先週の文も1回。
シュリーマンの日曜日:好きな英語を20分聞き、聞こえた音を小声でくり返す。
11まねしないほうがいいところ
シュリーマンの方法は強力ですが、そのまま全部まねすると、かえって続きません。
シュリーマンは眠れない夜に復習したと書いていますが、睡眠は覚えたことを定着させる時間です。寝る前に5分思い出したら、しっかり眠ります(睡眠と記憶)。
最初から長い小説を覚えようとすると、まず挫折します。1〜2分の文章を1週間に1本で十分です。
意味のわからない英文を何度読んでも、口が動くだけになりがちです。辞書を引けば全部わかる英文を選びます(音読の教材の選び方)。
シュリーマンの後半の言語は、すでに知っている言語に近いものでした。日本人の英語は時間がかかって当たり前なので、他人の期間ではなく、昨日の自分と比べます。
シュリーマンの自伝や日記には、あとから話を作ったり整えたりした部分があると研究者が指摘しています(アメリカの市民権を得た時期や、子どものころからトロイアを夢見ていた話など)。作り話の一部は、外国語の作文練習として日記に書かれたのではないか、という見方まであります。語学の話も本人の記述で、どこまで話せたかを試験で確かめたものではありません。ただ、批判的な伝記の書き手も、外国語をすらすら使いこなす力そのものは認めています。方法の筋の良さは研究で確かめつつ、期間の数字は話半分に受けとるのがちょうどよい読み方です。
動画でもっと知る・練習する
使い方:まずこの5分で、シュリーマンの方法の全体をつかみます。見終わったら、4つのうち自分に足りないものを1つ選び、このページの「超絶まとめ」の同じ項目を読みます。
使い方:音読を中心にしたい人向け。シュリーマン式と國弘メソッドの違いを聞きながら、自分は「暗唱まで行くか」「音読の回数を重ねるか」を決めます。
使い方:社会人向けの長めの解説。動画で紹介される方法を、このページの「段階別:社会人」と見比べ、通勤時間に当てはめる1つを決めます。
使い方:小説の1章を暗記した記者の挑戦です。長い文章を覚えるときの工夫を見て、自分が1週間で暗唱する1〜2分の文章を決めます。
使い方:リピーティング・オーバーラッピング・シャドーイングの違いを確かめ、シュリーマン式の「音読」をどの形でやるか選びます。
使い方:英語日記の続け方を見て、シュリーマン式の「興味のあることを書く」を今日から3行で始めます。
シュリーマン式に使えるサイト・アプリ
今日やること
よくある質問
シュリーマンの勉強法を簡単に言うと?
訳さずに大量に音読し、興味のある話題で作文を書いて先生に直してもらい、直った文を暗記して次のレッスンで言う、という方法です。今なら、音声つきの英文・英語日記・添削サービスやAI・録音で再現できます。
シュリーマンは本当に半年で英語を身につけたの?
自伝にはそう書かれていますが、本人の記述で、試験などで確かめたものではありません。また、ドイツ語を母語とする人にとって英語は近い言語です。日本人が同じ期間を目標にする必要はありません。
シュリーマンは何か国語を話せたの?
自伝(『Ilios』)には、母語のドイツ語のほか、英語・フランス語・オランダ語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語・ロシア語・スウェーデン語・ポーランド語・現代ギリシャ語・古代ギリシャ語・ラテン語・アラビア語の13の言語を学んだことが書かれています。日本では「18か国語」「15か国語」などと紹介されますが、本人の自伝に合計の数は書かれておらず、数え方は紹介する人によって違います。
「訳さない」なら、日本語訳を見てはいけないの?
意味を確かめるために訳を見るのはかまいません。シュリーマンが避けたのは、自分で訳文を作る作業に時間を使うことです。意味がわかったら、音読のときは訳さずに英語の順のまま意味を思いうかべます。
添削してくれる先生がいないときは?
学校の先生やALT、オンライン英会話の講師、Write & Improveのような添削サービス、AIが使えます。AIには「書き直した文」だけでなく「誤りの場所と理由」を聞き、直すのは自分でやると力が残ります。中高生は年齢の条件を保護者と確かめてから使います。
本を1冊まるごと暗記しないとダメ?
いりません。研究で効き目が確かめられているのは、思い出す練習を間をあけてくり返すことです。1〜2分の文章を1週間に1本、見ないで言えるようにするだけで、シュリーマン式の効果の多くは得られます。
國弘正雄さんの「只管朗読」とはどう違う?
どちらも音読を中心に置きますが、シュリーマンは作文と添削、直した文の暗唱まで毎日のレッスンに組みこんでいました。この2つを比べた動画をこのページで紹介しています。
シュリーマンの自伝はどこで読める?
日本語訳は『古代への情熱 シュリーマン自伝』の題で、岩波文庫(村田数之亮訳)、新潮文庫(関楠生訳)、角川ソフィア文庫(池内紀訳)から出ています。英語の原文は、1880年の著書『Ilios』の序章の自伝で、インターネット・アーカイブで読めます。
出典・参考にした資料
[1] シュリーマン自身による自伝(『Ilios』序章、9〜10ページ)。英語を学んだ方法(大量の音読・訳さない・毎日のレッスン・作文と添削・暗記・次のレッスンでの暗唱)、記憶力、すき間時間、日曜の教会、暗記した本、フランス語・ロシア語の学び方が書かれている。
Schliemann, H. (1880). Ilios: The city and country of the Trojans. New York: Harper & Brothers. Introduction: Autobiography of the author, I. Early and commercial life, 1822 to 1866.出典を開く ↗[2] シュリーマンの伝記はほぼ本人の自伝・日記・手紙に頼っていると指摘し、独立した資料と照らし合わせて、アメリカの市民権を得た時期などに事実でない記述があることを示した。
Calder, W. M., III (1972). Schliemann on Schliemann: A study in the use of sources. Greek, Roman and Byzantine Studies, 13(3), 335–353.出典を開く ↗[3] 自伝の日本語訳。岩波文庫版は1954年刊。ドイツ語の『自伝』(1892年、妻ゾフィーの編)は『Ilios』の自伝をもとに亡くなるまでを補ったもの。
シュリーマン(著)村田数之亮(訳)『古代への情熱 シュリーマン自伝』岩波文庫(岩波書店の書誌)出典を開く ↗[4] 1865年の清国・日本の旅をフランス語で書いた最初の著書。横浜・江戸を訪れている。日本語訳は石井和子訳『シュリーマン旅行記 清国・日本』(講談社、1998年)。
Schliemann, H. (1867). La Chine et le Japon au temps présent. Paris: Librairie Centrale.出典を開く ↗[5] 21研究のメタ分析。書いた英語への訂正フィードバックは第二言語の作文の文法的な正確さを高める。効果は学習者の熟達度などで変わる。
Kang, E., & Han, Z. (2015). The efficacy of written corrective feedback in improving L2 written accuracy: A meta-analysis. The Modern Language Journal, 99(1), 1–18.出典を開く ↗[6] 268人の実験。直接・間接の包括的な訂正を受けた学習者は、書き直しだけでなく新しい作文でも誤りが減った。
Van Beuningen, C. G., De Jong, N. H., & Kuiken, F. (2012). Evidence on the effectiveness of comprehensive error correction in second language writing. Language Learning, 62(1), 1–41.出典を開く ↗[7] 学習者は第二言語を産出する途中で言語上の問題に気づき、それが表現を作り直すきっかけになる。
Swain, M., & Lapkin, S. (1995). Problems in output and the cognitive processes they generate: A step towards second language learning. Applied Linguistics, 16(3), 371–391.出典を開く ↗[8] 文章を4回読む条件は5分後のテストで強かったが、1週間後は1回読んで3回思い出す条件のほうがよく覚えていた。
Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249–255.出典を開く ↗[9] 外国語の単語学習で、一度言えた語も思い出す練習を続けると1週間後の成績が大きく上がった。読み直しを足しても効果はなかった。
Karpicke, J. D., & Roediger, H. L. (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966–968.出典を開く ↗[10] 184本の論文・317の実験をまとめた分析。間をあけて学ぶ分散学習は、まとめて学ぶより記憶に残った。
Cepeda, N. J., Pashler, H., Vul, E., Wixted, J. T., & Rohrer, D. (2006). Distributed practice in verbal recall tasks: A review and quantitative synthesis. Psychological Bulletin, 132(3), 354–380.出典を開く ↗[11] ベトナムの大学生で、11週間くり返し読む練習をした群は読む流暢さが伸びた。
Gorsuch, G., & Taguchi, E. (2008). Repeated reading for developing reading fluency and reading comprehension: The case of EFL learners in Vietnam. System, 36(2), 253–278.出典を開く ↗[12] 日本人学習者の音読モデル。意味をとらないオウム読みは、文法の力が足りないときや英文が難しすぎるときに起きやすい。
Miyasako, N. (2005). A model of oral reading for Japanese EFL learners. 外国語教育メディア学会機関誌, 42, 147–167.出典を開く ↗[13] 英語の賞を受けた中国の英語専攻の大学生3人への聞き取り。3人とも、文章の暗記とまねを最も効果があった方法に挙げ、連語や決まった言い回しを覚えて使い回す・発音・細部への注意に役立ったと述べた。
Ding, Y. (2007). Text memorization and imitation: The practices of successful Chinese learners of English. System, 35(2), 271–280.出典を開く ↗[14] 高校生の外国語の単語の記憶は、学習後数時間以内に眠ると忘れる量が少なかった。学習後の徹夜は、回復の睡眠のあとも成績を下げた。
Gais, S., Lucas, B., & Born, J. (2006). Sleep after learning aids memory recall. Learning & Memory, 13(3), 259–262.出典を開く ↗[15] シュリーマンの18冊の日記(1846〜1890年)には、フランス語・英語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語・ギリシャ語・アラビア語・ロシア語・オランダ語・トルコ語の文章が含まれる。
American School of Classical Studies at Athens, Gennadius Library. Heinrich Schliemann finding aid(文書目録)出典を開く ↗[16] Traill の批判的な伝記の書評。日記や手紙には矛盾や他の資料からの借用、起こりえない出来事が多いとする一方、外国語をすらすら使いこなす才能は認めていると紹介している。
Kirkus Reviews. Review of D. A. Traill, Schliemann of Troy: Treasure and Deceit (1995/1996).出典を開く ↗英語大全でくわしく

意味がわからないまま声に出すと『オウム読み』に。効く音読は5段階
効く音読のやり方5ステップ
顔を上げて言うまでの『記憶のすき間』が学習の半分。60年前の英語教師の指摘
リード・アンド・ルックアップと音読筆写
「赤ペン添削は無駄」論争から30年。研究がたどり着いた添削の受け方
添削の受け方:人とAI
話す・書くの本当の効き目は「慣れ」ではなく「自分の穴に気づく」こと
アウトプット仮説:話して書いて気づく
4回読むより、1回読んで3回思い出す。1週間後の差は40%対61%
想起練習:読み返すより『思い出す』
